……なんかこう、昔の私はもうちょっとどうにかできなかったのか、と読み返して思ったりして
ます。まぁ、これを書いている頃に書きまくったからこそ、多少はまともな文が書けるように
なったわけですけど。
今回も、深夜テンションがたっぷり含まれております。同じように深夜テンションで読んで
いただけると笑えるかな……? と思います。
それでは第二十一話です、どうぞ!
「下準備……?」
大妖精が首を傾けながら問いかけてきた。
「そのままの通りだよ。
ところで、この霧の湖ってどのくらいの大きさかわかるか?」
今回の準備には、霧の湖の大きさを把握しなければならず、
ここにずっと住んでいるのであろう三人に聞いてみた、のだが、
「う~ん……とにかくひろい!」
「いつも意識してなかったから……ごめんなさい、お役に立てなくて……」
チルノは適当に、大要請は謝りながらそれぞれの意見を口にし、
ルーミアに至ってはわからない様子で首を傾けているだけだ。
「いや、別にいいんだ。 ちょっと能力使うから、少し待っててくれ」
仕方がないので、自力で何とかすることにした。
紅魔館全体の構造を把握した時と同じように、
霧の湖全体の面積がどのくらいなのかを能力で測る。
目を閉じ、同じ言葉のみを頭の中で繰り返し木霊させる。
全体……霧の湖……把握……
明確なイメージによる使用ではないためかなりの時間を要するのは覚悟していたのだが、
広いせいなのかあるいは集中力が足りないのか十秒ほどかかる。
そして終わった瞬間――驚愕をせざるを得なかった。
「ぶっ!? 広っ!? 東京ドーム何個入るんだよ!?」
軽い頭痛がしているはずなのだが、その痛みが吹っ飛んでしまうほど広かった。
日本最大級の湖に『琵琶湖』があるが、それがいくつも入ってしまいそうだ。
……はぁ、これは大変だな……
と思いながら次の作業に入るために目を閉じようとすると、後ろから大妖精が話しかけてくる。
「あの……『とうきょうどうむ』ってなんですか?」
「あ、あぁ、それは俺が元いた世界の国の、すごく大きな建物だよ」
「そうなんですか……あ、邪魔してすみません」
頭を下げて律儀に謝ってくる大妖精に微笑みながら、再度目を閉じて能力の使用に集中する。
先ほど測った面積と、同じ広さのとある物を創造するためだ。
広すぎたためか、十五秒くらいじっと動かずに集中。
創造できた感じがしたので目を開けると――何故か辺りが暗くなっていた。
「……あれ?」
と口に出た瞬間、
「拓人さん、上! 上見てください!」
大妖精が叫びだしたので、それに従って上へ首を九十度曲げる。
「……やべ」
視線の先にあったもの、それは――超巨大なブルーシートだった。
暗かったのは、湖全体を覆うために創造したブルーシートが空中で日差しを遮っていたためだ、
ということを推測するが、
いやいや、そんなこと考えてる暇ないって!
と高速で頭を振って思考を切り替える。
このままここにいれば、重さが何キロあるかもわからないシートに押しつぶされてしまう。
何か……何か方法は……!
その時、ある案を思いついた。
だが、出来るという確証がないために完璧とは言えず、
むしろ失敗してしまう可能性の方が高いだろう。
でも、やるしかない……!
走って逃げても遅い所までシートは落下しているため、腹をくくって実行に移す。
強く目を閉じ、自分たちが潰されない位置に立っている、という想像を具現化する。
目を閉じていても、シートが落下してくるのはなんとなくわかるために焦りが生じてくるが、
ここで集中を切らせればここにいる三人まとめてシートの下敷きになってしまうため、
出来るだけ意識から除外してイメージを固める。
そして、周りの空気が変わったと同時に、巨大な地響きと突風が起き、
周りの木に止まっていた小鳥が一斉に飛び立った。
バリバリバリ!という何かが破れるような音と、ドドーン!という重い音に気づき、
横になっていた霊夢は目を覚ました。
……何なのよ、一体……
上体を起こして何があったのか確認しようとするが、急な吐き気に襲われ慌てて口を押さえる。
調子に乗って……あんなに飲むんじゃなかったわ……
昨夜の自分の行いに後悔しつつ、吐き気が収まった霊夢は、今度こそ辺りを見渡す。
いつの間にか神社に移動していたらしく、見慣れた家の内装と
横になって寝ている魔理沙の姿が見える。
ここまでは大したことはなかったが、決定的に違う点を見つけた。
そう――空中に飛び散った白い紙片と、もはや使い物にならなくなった哀れな障子の姿を。
「わ……わ……」
声に出ているかどうかも怪しい声が口から漏れる。
目の前で大穴を開けている障子の紙は、つい数日前に変えたばかりで、
何より――村人からの報酬を使い、贅沢して買った値段の高い障子紙だったのだ。
「私の……私の障子がああぁぁぁぁ!!!」
吐き気も忘れて無我夢中で叫んだが、返ってきたのは「うるさいなぁ、霊夢ぅ……」という
寝ぼけた様子の魔理沙の声だけだった。
「おーい、そっち見つかったかー?」
拓人が、山のような巨大なビニールシートの向こうへと叫ぶ。
間一髪でシートの下敷きにならずに済んだ拓人たちは、
チルノたち全員に手伝ってもらってシートの四つの角を探しているところだ。
しかし、まさか能力で自分の瞬間移動も出来るとなると、
ますますチートっぽくなってしまっていけない気がする。
「ありましたー!」
「こっちもあったよー!」
「みつけたのだー」
大妖精、チルノ、ルーミアの順に返答し、見つけた旨を知らせてくる。
くそ……見つけてないの俺だけかよ……
昔から探し物が大の苦手だった拓人は、未だに残り一つの角を見つけていない。
「それじゃ、その場所に何か目印つけてこっちに来てくれ」
そう言うと、さして時間もかからず三人がこちらへ飛んでくる。
「拓人さんは見つけましたか?」
「い、いや……まだなんだ……」
恥ずかしさ二割、情けなさ八割といった感じで返答すると、
大妖精が「ぷっ」と小さく吹き出した。
「拓人さん……後ろにありますよ?」
「……え?」
大妖精に言われて後ろを振り返り、
地面を青一色で覆い尽くしているブルーシートを凝視する。
だが、いくら探しても角は見つからない。
「……ないけど」
「ここですよ、拓人さん」
大妖精が歩き、拓人の足元へしゃがんで指差す。
その先には、残り一つの角があった。
もう嫌だ……逃げたい……
情けなくて、その場に立ち尽くしてしまう。
「……だ、大丈夫ですよ! ほら、得意なことがあるように、え~っと……そう!
誰だって苦手なこともあるんですから!」
「言わないでくれ……もっと情けなくなる……」
大妖精が感づいて必死にフォローしてくれるが、
される側からすると『とてつもなく情けない』の一言に尽きてしまう。
「あ、えっと…………その……ごめんなさい……」
段々と声が小さくなり、最後はほとんど声になっておらず、
頭を垂れてしまう。
確かに、自分のフォローにはなっていなかったが、
手を差し伸べてくれたのは事実なので、お礼はしなければならないだろう。
「……ありがとう、大ちゃん。 おかげで元気が出たよ」
「そ、そうですか…………」
大妖精は、少しつまりながらも顔を上げる。
少しだけ顔が赤かったが、あまり気にしないことにした。
「よし。 それじゃ、次の作業に入っていこうか。
まず、さっき見つけた角を一つずつ持って」
と最後まで言い終わらないうちに、
「わかった! じゃあもってくるね!」
チルノが角に向かって飛び始めた。
「待てチルノ! 持ってくるな!」
「え? なんで?」
幸い、呼びかけが聞こえたようでチルノが止まってこちらに振り返る。
ここで角を一つでも持ってこられると、雪崩のようにシートに押しつぶされるのは、
想像するに難くない。
「今持ってこられると、俺もチルノも皆これの下敷きになるからだよ」
「…………あ、あたいわかってたもん!
ただ、拓人をためしてただけなんだもん!」
そんなチルノの苦し紛れの言い訳に、拓人と大妖精は苦笑いし、
ルーミアは「そーなのかー」と軽く流している。
「……まぁ、そういうことに事にしておくよ。
さっき見つけた角を一つずつ持って湖全体に被せて、それぞれ地面に固定する」
「ま、待ってください!」
再度説明しなおすと、大妖精が何かに気づいたような声を上げた。
「全体を被せるって、いつまで被せるんですか?」
「遅くなっても、明日の昼には全部片付けるよ」
「……なら大丈夫です。 他の妖精たちにも説明しておきます」
どうやら、他の妖精の迷惑を考えていたようだ。
優しいな、と大妖精に対して好印象を持ちながら、次の作業へと移る。
「そうか、ならよろしくな。
悪いけど、もう一回少しだけ待っててくれ」
そう言って、目を閉じて新たな物を創造する。
今回は、トランシーバーと呼ばれる送受信機である。
琵琶湖が二つ三つ入るほどの大きさを一人でシートを被せることは不可能、
その上ここにいる四人でするにしても意思疎通なしでは到底無理なので、
連絡手段として初の機械の創造を試してみる。
ただ、送受信機などという精密な機械の内部構造を把握しきれてないので、
正しくはトランシーバー『もどき』になってしまうが、この際は関係ない。
要するに、外見とその物が持つ効果を知っていれば創造できるので、
試してみる価値はあると踏んだ上での挑戦だ。
細かいところは全て想像によるイメージ補正をかける予定だ。
しばらくの間、無骨な機械の形を想像していると、
足元へガチャガチャといういかにもな音が聞こえてくるので目を開ける。
「……えっと……なんだこれ……?」
無意識に口から声が漏れてしまう。
確かにトランシーバーは創造できたのだが――ボタンが一つしかなく、
スピーカーもやけに小さい。
もうこれは『子供のおもちゃ』といっても差し支えない程の低クオリティ品だ。
「あの……なんですか、これ?」
「……一応……外の世界の、道具なんだけど……」
大妖精の質問に意気消沈した声で返答しながら、
試しに一つとって他に何か仕組みはないか確認してみる。
一応、側面に『送信レベル』と『受信レベル』のつまみがあるのだが、
どこをどう見ても『一昔前のラジオ』を彷彿とさせる様な有様だった。
とりあえず、使えるかどうかを確認するため、一つだけあるボタンを押してみる。
すると『ヴー』という音が二秒程続き、その後何も起こらないので、
試しに「あー」と声を入れてみる。
『『『あー』』』
足元の残り三つから、先ほどの声が聞こえてくる。
「すごい! なにこれおもしろーい!」
「こ、声が……」
「おもしろそうなのだー」
三人共に驚き、全員が一つずつ手に取って興味津々の様子で舐め回すように見始める。
見た目はあれだが、どうやら連絡手段としては使えるようだ。
「よし、手に持ってたら不便だから、肩に一つずつ取り付けるぞ」
「わかった! 拓人、はやくはやく!」
「はいはい、順番にするからちょっと待っててくれ」
右から、大妖精、チルノ、ルーミアの順に並んでいるので、
その順に創造した紐を脇に通して左肩に固定していき、最後は自分にもくくりつける。
「う~、動きづらいのだ~……」
「確かに……あまりいいものではありませんね……」
「拓人~、どうにかなんないの?」
普段から脇の刺激に慣れていないのか、ルーミア、大妖精、チルノの順に抗議してくる。
「ごめん、俺じゃどうにもできないよ。
運ぶ時に両手が使えないと難しいからさ、悪いけど我慢してくれ」
チルノは少し不満そうな顔をしたが、渋々といった様子で納得し、残りの二人もそれに続いた。
「それじゃ、細かい設定をするから、真ん中にあるやつを押してくれ」
それぞれが言うことに従ってボタンを押し、出てくる音が消えたのを確認して次へ進む。
「誰か、何か喋ってくれないか?」
「あたい! あたいがやる!」
音量を調整しようと呼びかけ、それにチルノが応じたのだが、
「うわああぁぁぁぁ、頭、頭がああぁぁぁぁ!!!」
頭が割れるほどの大音量が、左肩にくくりつけていたスピーカーから発せられた。
「どうしたの?」
またもや、チルノの大声が聞こえ、鼓膜を尋常ならざる力で震わせる。
「痛いぃぃ! チルノ、やめろおぉぉ!」
「もっと? しかたないなぁ」
すぅ~、とチルノは思いっきり息を吸い込み、
「わああぁぁぁぁ~~~!!!」
と大絶叫。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーー!!!!!
割れ、割れるううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
こちらも痛みを少しでも和らげるために叫びながら、チルノの肩から破壊兵器を取り上げ、
マイクと思われる箇所を押さえる。
「あー! なにするんだよ!」
「なにするんだはこっちのセリフだ! くそっ! 送信レベル最大じゃねぇか!」
チルノがつけていたものは、受信レベルはほぼ最低に近いのに、
送信レベルは限界まで上げられていた。
大方、拾った時につまみをいじってこうなってしまったのだろう。
大音量で三半規管を大いに刺激され、ふらふらとして足取りがおぼつかない。
ルーミアと大妖精はというと、頭を押さえながら地面に倒れて悶絶していた。
「い、いたいのだー……」
「あ、頭が……頭が……」
その様子を見たチルノが、驚愕の表情を浮かべて叫び始める。
「ひどい! だれがこんなことしたの!?」
「チルノ、お前だよ!」
自分がした事を全く自覚していない
送信レベルを低くしてチルノの肩へ再度くくりつける。
「痛ってえぇぇ…………二人共、大丈夫か?」
痛む頭を片手で押さえながら、地面へ転がっているルーミアと大妖精に呼びかけると、
足をふらつかせながらも立ち上がる。
「うぅ……何とか……」
「……ふらふらするのだー……」
未だふらついている二人に近づき、念のため送受信レベルを確認し、
極端な値に設定していないかを見てから離れる。
「……もう一回するから、誰か何か喋ってくれ」
「はーい! あたいがやる!」
「……大声は出すなよ?」
「わかった!」
本当に分かっているのだろうかと心配になるが、送信レベルを低くしたので多分大丈夫だろう。
しかし、そんなことは知らないルーミアと大妖精は、何かに怯えるように耳を押さえていた。
「もう大丈夫だよ。 音、小さくしたから」
「……本当、ですか……?」
涙目で聞いてくる大妖精に、大丈夫と念を込めて頭を縦に振る。
ルーミアも大妖精も、不安そうにしながらも耳から手を離した。
「チルノ、何でもいいからずっと声を出しててくれ」
そういうと、チルノは左肩に向かって「あ~」と声を出し始めた。
大きくも小さくもない音量へ受信レベルを調整し、そこまで時間はかからずに、
全員の受信レベルを自分に、送信レベルをチルノに合わせ終わった。
続いて、テントを張るときに使うような大きめの釘を十二本創造する。
「使うときになったら説明するから、三本ずつもっててくれ」
三本ずつを手渡していくと、全員服の中へと収めていく。
余った三本を、皆に習って服のポケットへとしまってから口を開く。
「調整も終わったことだし、さっき見つけた角の所に行って持ってくれ」
全員が宙へ浮き、それぞれ角があるであろう場所へと飛び始め、
二十秒くらい待ってからトランシーバーに話しかける。
「皆、持ったか?」
『ほんとうにこえがきこえる!』
すぐに、チルノから返事が聞こえた。
こういう機械特有のノイズは入るが、ちゃんと離れていても使えるようだ。
使えなければ、それこそただの子供のおもちゃになってしまう。
『ちゃんと返事しようよチルノちゃん……あ、私は持ちましたよ』
『もったのだー』
大妖精の言葉に苦笑しながらも、スピーカーの向こうではしゃいでいるチルノへ話しかける。
「チルノ、ちゃんと持ったか?」
『もったよー!』
「よし、持ったまま上へ飛んでくれ」
全員に指示すると同時に、自分も角を持って飛ぼうとするのだが、
お、重い……
飛べない、というほどではないが重かったのだ。
それもその筈、このシートは『琵琶湖』を二つ三つ覆うほどの大きさなのだ。
面積は考えたくもないほど広いのは、予想するまでもない。
この作業を甘く見ていた自分に鞭を打ちながら、気合いを入れ直して上へ飛ぶのだった。
「霊夢ぅ……まだなのかよ……」
「いっつもご飯あげてるでしょ。 少しは手伝いなさいよ」
畳に落ちている白い紙片を拾いながら、霊夢は魔理沙へ言い返した。
いつの間にか寝ていて、目が覚めたら何故か自分の家、
それに突如の吐き気と障子の犠牲というおまけ付き。
こんなことが立て続けに起き、気分は最低だ。
だとしても、このままこの惨状を放っておく訳にもいかないので、
現在は先ほど起きた魔理沙に手伝わせて一緒に部屋の掃除中だ。
「はぁ……高かったのに……」
障子紙の亡骸を拾いながら、独り言のようにため息をつきながら愚痴る。
少し厄介な妖怪を退治したお礼に貰ったお金で買ったのだが、
あんなにもらえるのは数年に一度がせいぜいの大金だった。
ちょうど古くなった障子紙を張り替えようと買ったのだが、この有様である。
こんなことなら、あの吸血鬼が起こした異変を、
里から依頼を受けてから解決して金を貰えば良かった、と考えたが、
そんなことできるわけないと頭を振って考え直す。
もしそんなことをすれば、幻想郷の創造者にして管理者――あのスキマ妖怪から、
様々な小言をこれでもかと言わんばかりに頂戴してしまう。
「霊夢ぅ~、もういいだろ~? 疲れたぜ……」
青ざめた顔をした魔理沙の情けない声に、考え事をしていた霊夢は現実へと引き戻される。
「疲れたってあんたねぇ……私だって、早く横になりた……」
「どうした、霊……」
魔理沙と同じく、不自然なところで会話を途切れさせ、
「「き、気持ちわるうぅぅ~…………」」
口に手を当て、その場へと倒れ込んだ。
「……はぁ、はぁ……う、うえぇぇ……」「う……う、うえぇぇっぷ……」
そして、異様な吐き気が収まるまで、博麗神社には二人の呻き声が響いた。
落ちそうになるシートを、段々と力が入らなくなってきている手で握り締める。
飛び始めて数十分、なんとかシートを上空で綺麗に張ることができた。
ちなみに、拓人は飛んでから少しも動いておらず、他の三箇所にはそれぞれ任せてある。
こちらから見て、右方向に大妖精、左方向にルーミア、
紅魔館に一番近くここからは一番遠い所にチルノがいるはずだ。
「皆、ちゃんと張れたか?」
『だ、大丈夫です……重い……』
『できたけどぉ、おもいよ~……』
問いかけに帰ってきた大妖精とチルノの声は、かなり疲れている様子だったが、
『できたのだー!』
ルーミアだけは元気だった。
やはりあの見た目でも、妖怪としての力は十分に持ち合わせているのだろう。
妖怪だとわかっていても、見た目が幼い少女に力で負けるというのは、
仕方ないことなのかもしれないが情けなく思ってしまう。
そんなことを考えながらも、少し疲れが混じった声で三人に指示を出す。
「それじゃ、形が崩れない様に下に降りてくれ」
両手に力を込めてシートを貼りつつゆっくりと下降し、
地面に足が触れて少し経った後で、さらに指示を出す。
「次に、さっき渡した釘で地面に固定してくれ」
ポケットから先ほどしまった釘を全部取り出し、シートを突き破りながら地面へ刺す。
釘の先端には怪我をしない程度ではあるが霊力の刃を取り付けているため、
シートも地面も簡単に刺し通すことができた。
「終わったか?」
『『おわった(のだー)!』』
チルノとルーミアが同時に答えて笑い始め、その声をBGMにして大妖精の返事が聞こえてくる。
『終わりました。 この後はどうすればいいですか?』
「これで全部終わったから、後はもう自由にしてくれていいよ」
そう言い終えた途端、チルノがスピーカー越しに声を上げ始める。
『拓人! なんかつめたいの!』
全く、がめつい氷精だなぁ……
と思いつつも、手伝ってもらう前に約束してしまったため、仕方なく呼ぶ事にする。
「わかったよ。 欲しかったら急いでこい」
『よ~し! あたいのほんきですぐにいってやる~!
いくよ、ルーミア!」
『わかったのだー』
ルーミアが返事をすると同時に、荒い風を切る音が聞こえてくる。
チルノとルーミアだけでは不公平なので、大妖精も誘う。
「大ちゃんも一緒にどうだ?」
『でも、迷惑になるでしょうし……』
「迷惑だったら、チルノなんか呼んでないよ」
『……そうですか。 では、お言葉に甘えさせていただきます』
先ほどと同じように、風を切る音が少し増える。
……そういや、大ちゃん疲れてたよな……
ふとそんな事を考え、大妖精だけ瞬間移動させてここに呼ぼうと目を閉じる。
能力を使い始めて一秒、二秒、三秒と時間が経つ。
約十秒くらい経って、そろそろいいかな、と目を開ける。
「わわっ!? どいてくださーい!」
と、目の前には大妖精の姿があった。
「のわあぁぁ!?」
驚いてその場を飛び退こうとしたのだが、間に合わずに激突してしまう。
後ろ向きに倒れつつも、大妖精が怪我をしないように左手で頭をかばいながら、
空いた右手で受け身を取る。
「グフッ!」
下が少し湿った土だったせいか、受身を成功したにもかかわらず呻き声をあげてしまう。
「痛ててて……大丈夫か?」
「す、すみません、私は大丈……夫、で……」
大妖精の言葉が失速すると同時に、段々と顔が赤く染まり始める。
理由はすぐにわかった。
大妖精の頭を、庇うためとはいえ自分の胸に押し当てていたからだ。
「あ、あぁ、ごめん! ちょっと無意識にやっちゃって……」
すぐに頭から手を離し、大妖精の体を持ち上げながら自分も立ち上がり、
地面にすとんと降ろしてすばやく両手を引く。
「ご、ごめん……嫌だった、よな……?」
「い、いえ! そんなわけでは……むしろ……」
そこで言葉に詰まり、大妖精がもじもじとしていると、
「拓人~!」
チルノが猛スピードで飛んできた。
幸い少し前に姿が見えたので、半身になって避けることに成功する。
チルノは後ろへと抜け、一度止まってUターンしてから戻ってきた。
「拓人! つめたいの!」
「はいはい、ルーミアが戻ってきたらな」
チルノの頭をポスポス適当に叩きながら、ルーミアが飛んでいった方へ視線を移すと、
意外と近くまで来ており、二十秒くらい待つと地面に降りてきた。
「ルーミアもきたよ!」
「わかったわかった、少し待っててくれ」
目を閉じて、ある物の姿を思い浮かべ、そのイメージを固める。
そして出てきたある物とは、
「ほいよ。 外の世界で『アイスキャンディー』って呼ばれてる、
冷たい食べ物だ」
嫌いな人はほとんどいないであろう、形もシンプルな『アイスキャンディー』だ。
四本ほど創造したので全員に一本ずつ配って余った一本を咥えると、
それを見た三人が同じように口へ咥える。
「ん~! つめた~い!」
チルノが声を上げながらガジガジと噛み、ルーミアと大妖精は驚いたような顔をしながら、
口から離して夢中で舐め始める。
その間にアイスを口で咥えながら能力を使い、全員のトランシーバーもどきを
光の粒に変えて消す。
アイスに夢中で、三人とも消えた事に気づいていないようだ。
「そうだ。 三人共さ、今日の夜空いてないか?」
口からアイスを離して問いかけると、大妖精が返事を返してくる。
「私たちは、基本的にいつも空いてますので大丈夫です」
「じゃあ、夜にまた来るよ。 俺はまだやる事があるから、これで失礼するよ」
足から霊力を吹かして空中に浮かんで神社の方に体の向きを変えると、
後ろの方から声が聞こえてくる。
「じゃ~ね~!」
再度体の向きを変えると、チルノとルーミアはいつの間にか食べ終わったアイスの棒を持ち、
大妖精は小さく手を振っていた。
それに片手を振りながら答える。
「おう! またな!」
もう一度体の向きを変えて今度こそ神社の方に飛びながら、右手に持っているアイスを咥える。
……ちょっと甘いな……
久しぶりのアイスの味に感想を抱きながら、拓人は神社まで飛び続けた。
本当はこの話は三人称視点で書きたかった……
私としてはそう思わされた二十一話でした。いかがだったでしょうか?
書き始めの懐かしいころは三人称よりの表現もありましたが、こうして書いていくことに慣れて
しまった今は、ほぼ完全に一人称の言葉の使いまわししかできなくなりました。
様々な表現ができて幅の広い三人称視点、便利そうなんですけどね。現在たまに三人称視点の
練習をしております。全く形になってない雑な文ですが。コツとかないのかな……
それでは今回はこの辺りで。次は15日に投稿予定です。書きためているのは次が最後なので、
二十三話からペースがすごく落ちます。
これらを考慮しながらも、楽しんでいただけたら幸いです。次回でまたお会いしましょう!