東方壊命録   作:鼠返し

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 ど、どうも……(多分)熱中症と酸欠で倒れかけた鼠返しです……

 体育で200m全力疾走したら強烈な吐き気に襲われ、頭がぐわんぐわんになってバランス感覚
を失いました。日ごろ運動しない人が本気で走るとこうなるんですね。運動していない方は
ゆっくりと動かすところから始めたほうがよさそうですね。

 さて、前書きといきましょうか。

 前回や前々回とはまた違った深夜テンションが含まれています。まあ、今回は少し狙ってそう
いう風に書いたところもあります。

 それと、流血表現は一切ございません。安心してお読みいただけると思います。

 では、第二十二話本編です。どうぞ。


第二十二話 下準備後半

 霊夢は青ざめた顔をしながら、畳をみずぼらしい箒で掃いていた。

 

 ざっざっ、と聴き慣れた音を出しながら問いかける。

 

「魔理沙、落ち込んでないで手伝いなさいよ……」

 

 そして問いかけに返ってきたのは、

 

「ほうき~、私のほうき~……」

 

 という、間抜けな声だった。

 

 二人して吐き気が収まったあと、『あんたの箒でここ掃除しなさい』と指示をした。

 

 魔理沙は嫌そうな顔をして箒を取ろうとしたのだが、紅魔館においてきたらしく、

『箒がない魔法使いなんて……魔法使いじゃないぜ……』と言って畳に倒れ込んでしまったのだ。

 

 しかも、部屋の真ん中で倒れて落ち込んでいるので、掃除の邪魔になって仕方がない。

 

「もう! 手伝わないなら縁側で転がってなさいよ!」

 

 軽い吐き気が襲って来るが、気合で押さえつけて叫ぶ。

 

「私の~、私のほうきが~」

 

 ぶつぶつとつぶやきながら、縁側の方まで転がっていき、

 

「おぅ……う、へえぇぇ~……」

 

 口に手を当てて悶え始めた。

 

 二日酔い中に横になって転がったら、誰だって吐き気ぐらいには襲われるだろう。

 

 そんな分かりきった事をして苦しんでいる魔理沙に、普段なら笑うところをため息で抑える。

 

 霊夢も二日酔いの最中で、笑う気分には一切なれないのだ。

 

  明日にでも買わないと……

 

 代わりの障子紙を人里のどの店で買おうかと考えているうちに、ある程度埃や散り散りになった

障子紙が集まったので、ぐったりとしている魔理沙の横を通って外へ出て全て掃き出す。

 

「ふぅ……疲れたわぁ……」

 

 独り言を呟き、何気なく雲の少ない青空を見上げる。

 

  そういえば、拓人はどうしてるのかしら……

 

 ふとそんな事を思いながら空を眺めていると、こちらになにか飛んできているのが見える。

 

 それは段々と近づいてきて、あろうことか庭へと降り立つ。

 

「霊夢か。 起きてたんだな」

 

「拓人じゃない。 どこ行ってたのよ」

 

「湖まで、ちょっとした事をしにな」

 

 拓人が返答してくるが、どこか元気のない様な声だった。

 

「あんた、ちょっと疲れてるんじゃないの?」

 

「まぁ、結構能力使ったしな……」

 

 淡々と質問に答える拓人の、霊力の内容量を感じ取ってみる。

 

『巫女』というほぼ名ばかりの妖怪退治屋をしていると、集中すればだが、

相手の霊力や妖力の量を感じ取れるようにいつの間にかなるのだ。

 

 拓人の霊力量を計るとほとんどごっそり無くなっており、

自分だったら立って歩くだけで精一杯なほどの量だった。

 

  外の世界で、一体何してたのかしら……

 

 普通の人間では耐えられないほど霊力を失っているのにもかかわらず、

こうして平然と立っている拓人に疑問を抱く。

 

 だが、辛そうなのは事実なので、袖の中から一枚の札を取り出して渡す。

 

「これ、使いなさい」

 

 拓人は札を手に取るとまじまじと見つめ、首を傾けながら問いかけてくる。

 

「え~っと、これって……?」

 

「体のどこでもいいから、適当に貼ってみなさい」

 

 答えになっていない返事に不満そうな顔をするが、渋々といった様子で左腕に貼る。

 

「……れ、霊力が……」

 

「そう、それは私が作った『霊力補充札』よ」

 

 拓人が、外来人としてここに来る前の事。

 

 例の厄介な妖怪との戦闘中、霊力があと少しで尽きそうなところまで追い込まれた霊夢は、

家に帰って障子を張り替えたあと対策を練った。

 

 あらかじめ霊力を札に込めておき、体のどこかに貼るだけで、

霊力をその場で簡単かつ早く補充する事ができる札を作り上げた。

 

 だが、この札は込めた分の半分以下しか補充できず、込めれる最大量も決まっている

という欠点がある。

 

「どう? 少しは楽になったでしょ?」

 

「あぁ、だいぶ良くなったよ。 ところで……あれはどうした?」

 

 拓人が霊夢の真後ろを指差すので振り返ると、魔理沙が微動だにせずに倒れている姿が見えた。

 

「魔理沙? 二日酔いで倒れてるのよ。

 私も二日酔いできついのに、お気楽で羨ましいものだわ」

 

 後半に、魔理沙に対する不満を混ぜながら拓人に説明する。

 

 拓人の方に振り返りながら話を続けようとすると、なぜか腕を組んで

考え事をしているようだった。

 

 邪魔するのも悪い、と思って少し待っていると、

 

「……あれ……気分が良くなって……」

 

 常に感じていた胸やけが嘘のように消え、吐き気も全く感じなくなった。

 

 もしかして、と思い魔理沙のほうを向くと、

 

「気分は良くなったぜ~……でもほうきが~……」

 

 未だ落ち込んでいるが、こちらと同様に気分は良くなったようだ。

 

「あんた、なにかしたの?」

 

「あぁ。 能力で二人共、酔いを吹っ飛ばしてやったよ」

 

「便利な能力よね、ほんと……」

 

「便利すぎて自分が怖いよ」

 

 頭の後ろで両手を組みながら拓人が呟き、縁側に倒れている魔理沙に近づく。

 

「魔理沙、どうしたんだ?」

 

 声に反応し、魔理沙はわずかに顔を上げながら答える。

 

「ほうき~、なくしたんだぜ~……」

 

「…………あ」

 

 少しの間考えていた拓人は、何かに気付いた様子で声を漏らした。

 

「え~っと……ここまで俺が魔理沙達を運んだけど、箒持ってくるの忘れてたんだ。

 ごめんな、魔理沙」

 

 片手で拓人が謝ると、なぜか魔理沙は、がばっ! と跳ね起きて驚く暇を与えずに問いかける。

 

「じゃ、じゃあ、私の箒は紅魔館にあるんだな!?」

 

「あ、あぁ、そうだけど……」

 

「私の箒は、なくなってないんだな!?」

 

「まぁ、そうなるけど……」

 

 拓人の返事を聞いた魔理沙は、腕を震わせながら思いっきり上空へと伸ばす。

 

「やったー! やったぜー!」

 

 そしてそのまま、魔理沙は――拓人に両腕でしがみつく。

 

「ありがとなんだぜ拓人~!」

 

「ま、魔理沙、ちょっとあぶ、危ないって!」

 

 少しぐらぐらとしていたが、魔理沙の勢いの負けたのか、拓人はしがみついている

魔理沙もろとも後方へと倒れこむ。

 

「うわっ!?」

 

 拓人が驚いた声を出した頃には庭に倒れこみ、子犬が親にじゃれるような感じになっていた。

 

 言わずもがな、子犬は魔理沙の方だ。

 

「拓人~、ありがとなんだぜ~!!!」

 

 倒れ込んでも魔理沙は拓人を抱きしめ続け、あろうことか胸を顔に押し付けている。

 

 その様子を見ていた霊夢は、胸中に様々な思いを抱いていた。

 

  ……な、何やって……

 

 胸が痛くなり、顔が熱くなる。

 

 次第に居てもたってもいられず、体が勝手に魔理沙の方へ動き出す。

 

 袖の中からお払い棒を取り出し、

 

「人ん家の庭で……」

 

 両手で持って音がなるほど勢いよく大きく振りかぶり、

 

「なにやってんのよ~~~!!!」

 

 思いっきり魔理沙の横っ腹へ叩き込んだ。

 

 しかも、お払い棒に霊力を込める、というおまけ付きで。

 

「ぐっふううぅぅぅぅ~~~!!!???」

 

 今まで聞いたことのない悲鳴を上げながら、魔理沙は遠くへ吹っ飛んでいく。

 

 そして、遠くで魔理沙が落下した振動が微かに伝わって来るまで、

霊夢はお払い棒を振り抜いたまま微動だにしなかった。

 

 

 

 

 急に、目の前の黒い物体――魔理沙が掻き消えた。

 

 拓人は、つい先程まで魔理沙に抱きつかれていた、のだが。

 

 大きくも小さくもない胸に顔を押し付けられ、なんとか逃げようとジタバタとしていると、

突然悲鳴を上げながら遠くへ吹っ飛んでいってしまった。

 

 訳も分からず左右をキョロキョロ見ていると、なぜか霊夢がお払い棒を片手に、

居合い切りでもした後のような姿勢で静止していた。

 

 理由を考えてみるのだが、結論に至る前に遠くでドッシーン! と微かに音が聞こえ、

その周辺にいたであろう小鳥達が一斉に飛び立つ。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 荒い息をしながらお払い棒を袖の中へ収めた霊夢は、

無言で魔理沙が吹っ飛んでいった方へ飛び始める。

 

「れ、霊夢! 待てよ!」

 

 呼びかけてみたが反応はなく、そのまま数秒としないうちに姿が見えなくなってしまった。

 

 追いかけるかどうか悩んだが、今日中にしなければならないことがあるため、

居間へ靴を脱いで縁側から上がる。

 

「とりあえず……」

 

 目を閉じ、能力の使用に集中する。

 

 そして、わずか二秒足らずで想像したのは、

 

「よし、ダンボール完成!」

 

 外の世界で重宝されている、様々な物の収容に便利なダンボール。

 

「……って、あれ?」

 

 のはずだったが、なぜか目を開けると真っ暗だった。

 

 少し慌てるが、下の方からわずかばかりの光が漏れている。

 

 その光に手を伸ばすと何かにぶつかるので、それを掴んで潜るように前へと進む。

 

「…………」

 

 目の前に広がったのは、壮大な花畑――ではなく、さっきまでいた居間だった。

 

 さりげなく右手で掴んだ物を見てみると、何の変哲もないダンボールだった。

 

 そして、それを被った、もう少しで大人の仲間入りを果たす少年。

 

「……スニーキングミッションとか、する気ないしなぁ……」

 

 自分の状態を客観的に認識して、無意識に口から出てきた第一声がこれだった。

 

 そんなことをつぶやきながらダンボールから這い出て、ひっくり返っているダンボールを

普通に畳の上に置く。

 

 一辺が約一メートル半ほどの立方体の形をしている、意外と大きめのダンボールだ。

 

 次に、ここから本命の作業へと入っていく。

 

 再び目を閉じ、あるもののイメージを固める。

 

 自分が、本当にそれを持っているかのように。

 

 自然に右手が伸び、何かを下から支える様な形を作り、更に集中する。

 

 そして、そのまま固まっていること約十秒。

 

「……ふぅ、やっとできた~……」

 

 手のひらに出てきたのは、直径が五センチほどの黒い球体だ。

 

 一応創造は出来たが拓人が思っていた物と比べて小さく、色も黒一色ではなく

紙らしきものを色々と貼り付けられていたはずだった。

 

  ……ま、いっか。

 

 今さら作り直すのも面倒くさくなったので、勝手に考えを固め、

ダンボールの中へ黒い球体を放り込む。

 

 あと何個つくろうか、と考えながら、次の一個を創造し始めた。

 

 

 

 

「うぅ~…………痛いぜ~……」

 

 うつ伏せに倒れたまま、魔理沙はつぶやいてみた。

 

 嬉しくなって無我夢中に拓人に抱きついていたら、いきなり横から殴られたような感覚がした。

 

 周りには霊夢しかいなかったので十中八九本人だと推測できるが、

こんなことをされるような覚えは全くない。

 

 色々と探っていても仕方がないので、両手を地面に着いて立ち上がる。

 

「あ~あ、服が汚れちまったぜ……」

 

 お気に入りの服についてしまった土を、両手でしばらく叩いて落としてみるものの、

やはり元の綺麗な服には戻らない。

 

 ため息をつきながら、どうしようかと悩んでいると、

顔から完璧に表情を削ぎ落とした霊夢がやってきた。

 

「れ、霊夢……?」

 

 なぜそのような表情をしているのかわからず、勝手に口が開いてしまう。

 

 そのまま唖然としていると、適度な距離をとって霊夢が着地する。

 

「霊夢、どうしたんだぜ……?」

 

「魔理沙……あんた、なにしたかわかってんの?」

 

「……ないんだぜ」

 

 本当に身に覚えがない。

 

 嬉しくなってつい抱き締めてしまったのは事実だが、

それ以外は霊夢が気にかけるような事はしていない、と断言できる。

 

「あんたはねぇ、拓人の頭を自分の胸に押し当ててたのよ!」

 

 霊夢が顔を赤くしながら叫ぶが、魔理沙はそれどころではない。

 

  私が、拓人に……胸……?

 

 顔に血が上るのを感じながら、両手で胸を押さえる。

 

 言われて初めて気づいたが、確かに何かがあったような感覚は残っている。

 

「わ、私が、拓、拓人に……?」

 

 呂律が回らず、噛み噛みの言葉が口から漏れる。

 

 霊夢はため息ひとつで落ち着き、呆れたような口調で話しかけてくる。

 

「まったく、自分がした事ぐらい覚えておきなさいよ……」

 

「…………」

 

 胸に手を当てて顔を赤くしたまま、頭の中で色々な考えがよぎる。

 

 自分自身の胸を、拓人の顔に押し付けていた。

 

 そう事実を認識するだけで、心臓は高鳴り、さらに顔が熱くなる。

 

 こんな行為はまるで――恋人みたいではないか。

 

  私は、どう思ってるんだ……?

 

 生まれて初めて感じる感情に、頭の整理が追いつかない。

 

 周りに異性は、確かに一人はいるが、恋人というより父親と言ったほうが近い存在だ。

 

 数日前、『外来人』というのに興味を惹かれ、拓人と行動を共にしてきた。

 

 ただ、『珍しいから』という理由だけだったのだ。

 

 初めて拓人と弾幕ごっこをした時、つい負けたくなくてマスタースパークを使ってしまい、

そんなつもりはなかったのに殺してしまったと感じた。

 

 その時、自分の短気な性格が怖くなって、霊夢に軽蔑されたくなくて、涙を流した。

 

 実際は生きていると分かり安心したが、もしかしたらこの男に嫌われるんじゃないか、

と感じてさらに泣いた。

 

 しかし、無自覚とは言え自分を殺そうとした相手を拓人は許し、頭を撫でてくれた。

 

 自分を許してくれる存在、自分を慰めてくれる存在に、人としても魔法使いとしても

まだ未熟な自分は別の感情を抱いた。

 

 一緒にいて、少し乱暴な時もあったが、根はとても優しい拓人に惹かれるのに

そんなに時間はかからなかった。

 

 一体、何なのだろうか。

 

 拓人のことを考えるたびに苦しく、だが温かい気持ちになるこの感情は。

 

「魔理沙……」

 

 霊夢に呼びかけられ、思慮の海に身を投じていた魔理沙は、無理矢理意識を現実へと引き戻し、

続く霊夢の返事を待つ。

 

「あんた、やっぱり拓人のこと……好きなの……?」

 

  私は、好きなのか……拓人のこと、が……?

 

 霊夢の言葉に、息を呑みながら考える。

 

 最近パチュリーが研究をしているという感情の中に、そういうものがあったと記憶している。

 

 その感情について伝えられた情報は――ほぼ自分の気持ちと一致している。

 

「多分…………好き、なんだぜ……」

 

 詰まりながらも、霊夢の質問に答える。

 

「はぁ……やっぱりね……」

 

 ため息混じりに霊夢が独り言をつぶやくと、すぐさま話し始める。

 

「……応援、してるわよ」

 

「……え?」

 

 霊夢の口から、意外な一言が飛び出してきた。

 

 なぜ、と思いつつ聞き返してみる。

 

「お、応援……?」

 

「……そうよ。 二回も言わせないで」

 

 平然と言い返してはきたが、顔には自分と同じであろう赤さが見て取れる。

 

 以前から、霊夢は拓人のことになると、よく見ないとわからないが

顔が少し赤くなっている時がある。

 

 自分が拓人を殺しかけた時、フランドールから守ってもらった時など、

霊夢はなんだかんだで常に拓人のことを気にかけていた。

 

 そう、まるで自分と同じように。

 

「霊夢は、拓人のこと好きじゃないのか……?」

 

 顔を上げず、霊夢に言葉を投げかける。

 

「…………えぇ、好きよ」

 

 少し長い沈黙の後に返ってきたのは、肯定の返事だった。

 

 すぐに次の質問をしようと口を開くが、それより早く霊夢が言葉を繋げる。

 

「でも、私は隣にいられるだけで十分。 博麗の巫女なんてやってると、

 こんなことにうつつなんか抜かしてられないわ。 それに……」

 

 少しだけ間を置いて、

 

「……親友の恋路くらい、応援したいじゃない?」

 

 自分の恋路を応援したい、そう言ってくれた。

 

 霊夢は、自分自身の気持ちを捨ててまで応援したい、と。

 

 その優しさに、自然と涙が零れる。

 

 霊夢と出会って何年も経つが、まさかここまで想ってくれているとは予想してなかったのだ。

 

「だけど、私も完全に諦めたわけじゃないわ」

 

 霊夢の先ほどとは逆の内容に、少し驚きながらも顔を上げる。

 

「いい? 私は、魔理沙の味方だけど敵でもあるの。

 私だって、何でもかんでも『はいそうですか』で渡せないものがあるのよ」

 

「つまり、(パワー)で勝て……ってことか?」

 

 泣いていて鼻声になってしまい霊夢が少し笑うが、一瞬で笑いをこらえて返答してくる。

 

「そうよ。 お互い、頑張らないとね」

 

 霊夢が、今まで見たことがないような、満面の笑顔を浮かべた。

 

 自然と、自分の頬も泣き顔のまま釣り上がる。

 

 両手でごしごしと涙を拭い、いつもの口調で話す。

 

「……あぁ! もちろんだぜ!」

 

 親指を立てて、こちらもできる限りの笑みを返す。

 

 しばらくそのまま霊夢と笑顔の交換をしていると、霊夢が踵を返して飛び始め、

くるりとこちらに向きなおして話しかけてくる。

 

「さぁ、そろそろ戻りましょ」

 

 霊夢に促され、いつものように右足を上げて箒を跨ぐようにするのだが、

スカートをめくられる感覚や右手の感覚も無い。

 

  あ~、箒なかったんだぜ~……

 

 箒の無い魔法使いなど、ただのひ弱な少女に過ぎない。

 

 仕方なく左手を腰に、右手で頭をかきながら悩んでいると、霊夢が口を開く。

 

「どうしたの? 早くしなさいよ」

 

 そうだ、とある案が思いつく。

 

「私は、箒がないと飛ばないことにしてるんだぜ。

 霊夢ぅ~、おんぶしてくれよぉ~」

 

「はぁ……あんた、さっきまで泣いてたとは思えないわね」

 

「過去は過去、今は今だぜ!」

 

 再び、今度は悪戯な笑みを浮かべて返答する。

 

 はぁ~、とため息をつきながらも、霊夢は目の前に降り立つと背中を向けてしゃがむ。

 

「ほら、早くしなさい」

 

「それじゃ、頼むぜ」

 

 霊夢の背中に、自分の体を預ける。

 

 落ちないように両足を掴まれると、ゆっくりと立ち上がる。

 

「魔理沙、あんた重いわよ」

 

「むっ? 重いだなんて、失礼なやつだな」

 

「あんたに言われたくないわよ」

 

 そんな軽口を叩き合っていると、霊夢が飛び始める。

 

 飛び方が自分と違うためか、全くなれない感覚が全身を襲う。

 

「うぅ~、変な感じだぜ~……」

 

「やっぱりこのやり方のほうがいいわよ。 飛び方変えてみたら?」

 

「いや、私は足だ!」

 

 初めて飛んだときから、ずっとこの飛び方で今まで生きてきたのだ。

 

 今さら不便だと思っても、変えれないし変えるつもりもない。

 

「それじゃ、いくわよ」

 

「よろしく頼むぜ」

 

 そして、霊夢はこちらを気遣うようにゆっくりと、博麗神社を目指して移動し始めた。

 

 

 

 

  はぁ~、遠いわね~……

 

 魔理沙を背中に背負い、霊夢は自分の家に向かっている。

 

 だが、魔理沙を遠くまで飛ばしすぎたのか、神社が霞んで見える。

 

 それに加え、背中に背負っている金髪魔法使いが思ったより重く、

なかなか前に進まず無駄に霊力が消費されていく。

 

「もっと速く飛べないのか?」

 

「あんたが重いせいよ」

 

 しかも、原因である魔理沙本人は自覚なしだ。

 

「まったく、私はどこまで飛んだんだ……?」

 

 魔理沙が、呑気にきょろきょろと下を見ながら呟く。

 

 飛ばした本人としても、ここまで吹っ飛ぶとは予想してなかった。

 

 やはり、お払い棒に霊力を込めたのが悪かったのだろうが、謝るつもりは微塵もない。

 

 だが、心配ぐらいはしてやろうと、背中の魔理沙に振り返りながら話しかける。

 

「あんた、お腹とか痛くないの?」

 

「ん~、あんまり覚えてないな……」

 

「そ、ならいいわ」

 

 そういって、魔理沙から視線を外すと、少し強い風が吹いてくる。

 

 ごく普通のなんの変哲もない風だ。

 

「ぼ、帽子が!」

 

 急に魔理沙が暴れだしてしまい、後ろに傾いて飛行が困難になる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 幸い、魔理沙の暴挙はほんの一瞬で収まる。

 

 崩れた姿勢を元に戻してから、何の前触れもなく暴れだした魔理沙に問いかける。

 

「危ないじゃない! なにやってるのよ!」

 

「いや~、帽子が飛びそうになってな、あはは……」

 

 片手で大きなとんがり帽子を押さえながら、魔理沙は弱く笑う。

 

「まったく……落ちないようにちゃんと抑えてなさいよ」

 

「もう離さないぜ!」

 

 魔理沙の威勢の良さに、なんとなくため息をついてから前方を見やる。

 

 魔理沙が被っている帽子は初めて会った時も頭の上にあり、大きさがあっておらず

帽子にかぶらされているような様子だった。

 

 今思えば、その時からの『魔法使いになりたい』という夢は実現しているのだろう。

 

 自分にも夢はあった気がするのだが、『博麗の巫女』と小さい頃から決まっており、

夢など抱く前に巫女としての修行を積んでいたため覚えていない。

 

 自由奔放に生きていたなら、自分も魔理沙と同じように夢を追いかけ、

もしかしたら実現していたのだろうか。

 

  ……そんなこと、考えてもしかたないわ……

 

 自分に言い聞かせるように、胸中で呟く。

 

 先ほど魔理沙の口から聞いたとおり、『過去は過去、今は今』だ。

 

 などなど考え込んでいると、いつの間にか目と鼻の先にまで神社が近づいていた。

 

「そろそろ降りるわよ」

 

「おう。 あと少し、頼むぜ」

 

 速度を落としてゆっくりと降下して庭へ降り立ち、魔理沙を降ろす。

 

「いや~、助かったんだぜ。

 ありがとうな、霊夢」

 

「はいはい、どういたしまして」

 

 適当に返事を返し、ゆっくり休もうと居間へと体を向ける。

 

「……なによ、これ」

 

 そこにあったのは、かなり大きい茶色の箱と、山のように積んである無数の丸く黒い塊。

 

 なぜこうなっているのか理解できず、半ば放心状態で居間へ草履を脱いで上がる。

 

 段々と箱に近づいていくと、向こう側からまた丸い塊が飛んできて、

綺麗に山の上へ崩れることなく積み上がる。

 

 不審に思って飛んできた方を覗くと、拓人が座り込んで何かしている。

 

 右手を突きだし、下から何かを支えるような形をしており、

数秒ほど待つと、先程の黒い何かが右手の上に音もなく現れる。

 

「拓人、何やってるのよ」

 

 話しかけると、振り返りながら返事を返してくる。

 

「ん? あぁ、霊夢か。 おかえり」

 

「ただいま。 で、その黒いのは何?」

 

 右手に乗っている物を指差して問いかけると、

少し悪戯心が混じったような返事を返してくる。

 

「これの事か。 そうだな……夜のお楽しみってところかな」

 

「何なのよ……こんなに一杯作っちゃって」

 

 今まで体で隠すように拓人と話していたため、体をずらして拓人に見えるようにする。

 

 すると、この謎の山を作った本人は、

 

「……な、なんだこれ……」

 

 驚愕と共に唖然とした。

 

「それはこっちが聞きたいわよ、まったく……」

 

 肩を落としてため息をつき、何気なく首を横に振ってから話を続ける。

 

「この山、どうにかしておきなさいよ」

 

「……お、おう……」

 

 未だ目を点にしたままの拓人だったが、さっきの自分と同じように頭を振り、

普段の表情に戻して口を開く。

 

「何とかするからさ、その前に寝ていいか?

 なんか疲れちゃってさ……」

 

「これだけ作ってたらそうでしょうね……」

 

 再び黒い山を見ながら独り言のように呟く。

 

 見えている部分だけでもニ十個ほどはあり、箱の中の数に至っては、

考えるのが億劫になってくる。

 

「ま、そう言うわけだからさ。

 日が傾き始めたら起こしてくれ」

 

「え?……そんな時間でいいの?」

 

 日が傾き始める時間と言えば、人々の仕事が終わる時間、そして妖怪の動きが

活性化し始めるという、とても中途半端な時間帯だ。

 

「言ったろ? 夜のお楽しみってさ。

 霊夢や魔理沙にも見せておきたいんだが、今日の夜の予定って空いてるか?」

 

「夜はいっつも空いてるわよ」

 

「それはよかった」

 

 言い終わると同時に、拓人は畳に横になって寝る姿勢にはいる。

 

「夕方、起こしてくれよ?」

 

「はいはい、わかったわよ……って、もう寝てるし……」

 

 霊夢が返事を返し終わった頃には、拓人はいびきもかかずに寝始めていた。

 

「よくもまぁ、すぐに寝れるわね……」

 

 あまりにも寝るのが速いので、少しだけからかってみることにする。

 

 目の前で横になっている拓人に近づき、しゃがんで耳元へ口を寄せて、

普段では口にできない言葉を囁く。

 

『私、拓人のことが好きなのよ?』

 

 周りには聞こえないが確実に届く声量で囁き、すぐさま拓人の反応を見る。

 

「すぅ~……すぅ~……」

 

 顔を赤くしないどころか、呼吸一つ乱れていない。

 

 どうやら、本当に眠っているようだ。

 

「…………はぁ」

 

  ほんと……何やってるんだろ……

 

 寝ている相手に告白して、一体何になるのだろうか。

 

 一瞬で普段の思考に切り替え、その場から立ち上がりながら、

体全体の縮まった筋肉を伸ばしていく。

 

「さて、掃除の続きしないと……」

 

 途中で投げ出してしまった掃除を再開すべく、縁側まで歩くが、

 

「ぐか~……ぐか~……」

 

 魔理沙も何故か寝ていた。

 

  久しぶりに、静かになるわね……

 

 そんなことを思いながら、外へ出て落ちている箒を拾い上げる霊夢だった。




 もうちょっと上手く書けなかったかな……でも昔の自分だしな……

 推敲中にそう思わされた二十二話でした。楽しめましたでしょうか?

 ラブコメはもっと練習しないとですね。こういうのが書きたいくせに、このジャンルの文章力は
全く成長してないんですよね。普段こういうの読まないしなぁ……

 さてさて、今回の話ですが。ちょうど一話を投稿してから丸一年が経ちました。時間が経つのは
早いですね……。これからは少し成長した文章力で書いていくので、どうか『東方壊命録』を
よろしくお願いします!

 今回で書きためた分は終わりなので、次回は早くて来月の上旬ぐらいですかね。それまで
ゆっくり待っていただければと思います。二十三話、お楽しみに!
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