前回で書き溜めていた分が切れ、今回から作風が変わった文章でお送りしていきます。それに
しても、自分で見ていてもかなり変わったと思います。
今更前の書き方に戻せ、と言われてもどうしようもできないので、多くの読者様に気に入って
いただければ幸いです。
さてさて、二十三話もほのぼのとした(途中で少しシリアスあり)話です。ゆっくりリラックス
しながら読んでいってほしいです。
では、二十三話本編です。どうぞ!
「うぅ、あぁ……」
死にかけた人のような声が、口から勝手に出て目が覚めた。
手を畳について上体を起こし、とりあえず周りを見渡してみる。
縁側でうつ伏せで寝ている魔理沙の姿は見えるが、霊夢の姿が見えないことに気が付いた。
だが、今の自分ははそれどころではない。
「腹、減った……」
昼食を、とり忘れていた。
音は出さないが、胃が飯をよこせと抗議してきているのがわかる。
霊力はあるのに体力がないという、不思議な感覚が全身を包んでいる。
空腹に耐えきれず、目を閉じて右手にあるものを創造する。
できたことを掌の感触で判断し、おもむろに口へ放り込む。
……いい塩加減……
久々の『おにぎり』の味が、とてもおいしく感じる。
熱くもなく冷たくもなく、噛むたびに中の梅干しが良い味を出し続ける。
味を堪能しながら飲み込み、もう一つ作って頬張りながら状況を整理してみる。
ちょっと早く起きすぎたな……
太陽の光が差し込んでいる部屋を見てそう思い、咀嚼を続けながら考える。
霊夢に夕方に起こしてもらうように頼んだが、もう眠気はどこかに行ってしまったため起こして
もらう必要はなくなった。
どうしようかと悩んだ末、先に紅魔館へ行っておこうという結論が出た。
考えがまとまったところでおにぎりを飲み込み、紙と鉛筆を創造して机に向かって書いていく。
『霊夢へ
早めに起きたから先に紅魔館に行ってくる。
夜になったら魔理沙やチルノたちを連れて一緒に紅魔館に来てくれ。 拓人より』
……こんなものかな。
適当に手紙を書き終え、見えやすいように机の中心に置き、寝る前に作っておいた黒い山へ向き
直る。
この山を紅魔館まで運ぶため、同じ大きさの段ボールをもう一つ作って隣に並べる。
魔理沙を起こさないように溢れている分を一つずつゆっくり入れていくと、ほんの数分で入れ
終わった。
ちょうど二箱分出来上がり、ふたを閉めて梱包しておく。
これを紅魔館へ運ぶのだが、1m四方の立方体を二つ同時には持てないため、瞬間移動しか思い
つかない。
霊力を消費して疲れるのは嫌ではあるが、これもフランの為となんとか頑張ってみることに
する。
正座をして集中しやすい体勢を作り、二箱の段ボールの上に片手ずつ乗せる。
ひたすら無心に、紅魔館の正門前へと移動した自分と箱の姿を脳に焼き付けていく。
正座した効果があったのか二十秒ほどで能力が発動し、霊力がかなり削れると同時に周りの空気
が一斉に変わった。
とりあえず顔を上げて美鈴に挨拶を――
「侵入者ー!」
――する前に、気合の入った言葉と同時に何かが額に当たった。
「ぐはぁ!?」
首が反射的に後ろに傾いて威力を逃がすが逃がしきれず、正座をしていたというのに後方へ回転
しながら自分の体が宙に舞い始めた。
一回転半ぐらいして地面へうつ伏せ状態で落ち、体に力が入らなくなる。
『……え、あれ、拓人さん!? だ、だい、大丈夫でで!?』
美鈴と思わしき声が聞こえてきたが、何故かどこか遠くに感じた。
勝手に目の前が真っ暗になっていって、急な脱力感に耐えきれず、それに身を任せることしか
できなかった。
……や、やっちゃった……!
激しい後悔の念と、居眠りをしながら仕事をしていた自分を罵りながら、頭の中で拓人の事しか
考えられなくなった。
自分は寝ていても近くに来る人や物には気づけるが、それが誰で何なのかまでは分からない。
失念だった、と思う一方で、頭の隅でこれからどうするかを考えていく。
「と、とととりあえず、死んでませんよよね! 死んでませんよね!?」
焦りでまともな言葉が出てこなかったが、自分に言い聞かせるように声を出して拓人に近づく。
「あぁ、うっ……うぅ……」
呻き声をあげながら苦しんでいるが、死んではいなかった。
その事に安堵するが、それどころじゃないと頭を振り両手で抱え込む。
今朝の仕事中、咲夜からレミリアが拓人を好いていると聞き、恋の成就を手伝えと言われた。
別にそれに文句は一切ないが、蹴りで拓人の意識を刈り取るという行為はどう見ても手伝いには
見えない。
咲夜に知られれば説教は当然、今回の場合下手すればレミリアも交えての説教、後にフランから
の抗議は避けられないだろう。
「はっ、はわっ、はわわ……」
もしかすると、自分は本当に危ないことをしてしまったのではないか。
途端に恐怖が襲ってきて、歯をガタガタと振るわせて怯えることしかできない。
とりあえず運ばないと! 主に咲夜さんに怒られる!
自分自身を脅し、拓人に腕を伸ばす。
「なにやってるの、中国」
…………
「……ぅぁあい!?」
横から聞こえた声の主を理解すると、自分でもどう出したのかわからない奇妙な声が漏れた。
「さくっ、さくさく咲夜さんいつの間まに!?」
「誰が『さくさく咲夜さん』よ。 それより、何やってるのよ」
「い、いやぁ~、拓人さんが来て倒れちゃいまして運ぼうと、あはっ、あははは……」
引きつった頬を何とか動かして説明し、その間に拓人を抱える。
ごまかせたか、と思いつつ立ち上がって咲夜の方を見ると、拓人の様子をじっと見始めた。
「……蹴ったわね? 額が赤くなってるわよ」
拓人の額を見ると、咲夜の言葉通りに一点が赤く腫れていた。
「な、なんのことですか? いきなり現れたからってそんなことするわけが――」
「嘘はもっとわかりにくく使うことね」
話している途中で嘘を看破され、喉の奥で「むぐっ」とまた変な声が出た。
「その様子だと図星みたいね。 まぁ、怪我はそれほどじゃないから、あまり怒らないから安心
しなさい」
「え……説教無しですか……?」
「してほしいの?」
「と、とんでもないです!」
頭をぶんぶんと振り、いつもとは違う咲夜の言葉を戸惑いながらもありがたく受け取っておく。
咲夜から感じる違和感を感じて首をかしげるが、それに見向きもせず話しかけてくる。
「それじゃ、仕事に戻るわ。 一階に空き部屋があるから、早く拓人様を運ぶように」
「りょ、了解です」
返事をすると、能力を使ったのか一瞬で咲夜の姿が消える。
違和感の正体はわからなかったが、そんな事を考えても無駄だろう。
何か裏があるのではないかとも考えたが、自分が怖くなるだけだったのでやめた。
「……こんな体で、か……」
前で抱える拓人の体を意識し、思わず声が漏れた。
筋肉はついているが簡単に折れそうな華奢な腕、触れば骨の形が簡単にわかるほどの細い体。
こんな人が、女らしい肉付きを半ば捨てるように鍛えた自分に勝ったとは、未だに信じられ
ない。
拓人に負けた時、本心から『また戦いたい』と思った。
一人の武闘家として、心から。
「……不思議だなぁ」
一つ言葉を正門前に残し、不思議な人間を空き部屋へ運んだ。
ガッ、コン、と重々しい、しかし心地の良い音が耳に届いた。
視界が暗いまま動かずにいると、もう一度先ほどの音が聞こえてくる。
その音に反応するように何かがもぞもぞと動く感覚がして、やっと自分が目を閉じたままだと
いうことに気づいた。
ゆっくりと目を開けると、どこか見覚えのあるシャンデリアが吊られている。
寝てたのか……
横になっている体を起こし、部屋の中を見渡してみる。
ぱっと見は十畳ほどの広さで、大きな振り子時計が部屋の隅に置いてある他に、窓が一か所に
ついているだけの普通の部屋だ。
「六時……もう夕方か」
振り子時計が示す時間の通り、窓の外は赤く染まっていた。
……何で、ここに……?
ふと、そんな疑問が湧いてきた。
確か、二箱の段ボールと一緒に紅魔館へ瞬間移動したはずだ。
それから――何故か記憶がない。
もしかすると、瞬間移動してそのまま寝てしまったのかもしれない。
迷惑をかけたであろう美鈴に謝りに行こうとベッドから降りようとするが、右手が何かに押さえ
られていたためにできなかった。
服でも引っかかったのかと思って右手を見ると、思いもしない人物がいた。
「っ!?」
驚いて手を引くが離れず、押さえつけていた張本人を揺り動かすだけで終わった。
「んぅ……?」
その犯人は寝ぼけた声を出しながら、伏せていた顔を起こす。
金色の髪を小さく揺らし、背中から伸びている枝のようなものに付いている水晶に似た羽が
ぶつかり、静かな部屋に響く。
床へ座り込み、両手と顔で右手を押さえ込んでいたのはフランだった。
「あ……拓人、おはよう……」
「おはよう。 ごめん、起こしちゃったかな」
「べつに、だいじょう……ふわあぁ~」
フランは、吸血鬼特有と思われる牙をむき出しにしながら欠伸をする。
体を蝙蝠に変化できるためか、生態が人間より蝙蝠の方に近いのだろう。
夜行性の生き物にとって、六時はまだ辛い時間なのかもしれない。
「もう一回寝たら?」
自分の提案に頷きかけるが、何故か急に首を横に振って拒否してきた。
「拓人が、なんかしてくれる、って……だから……」
「まだ時間あるから大丈夫。 本番は夜だから」
そう言いつつベッドから降り、フランに明け渡す。
だが、フランはベッドに入らず自分の顔を眠そうな目で見つめて口を開く。
「どこ、行くの……?」
「美鈴さんや咲夜さんと会ってくる。 時間になったら起こしに来るよ」
そうフランに言い、部屋の入口まで歩いてドアノブを握る。
まずは美鈴に会おうかな、と思って止まっていると、背中に何かが当たってしがみついてきた。
「ど、どうしたフラン? 寝ないのか?」
「いっしょ、に……行く……」
そして背中にしがみついたまま寝始め、仕方なく片手でフランを支えておんぶの形に持って
いく。
……まぁ、いいか。
一瞬だけベッドに寝かせようかと考えたが、したいようにさせようと決めて扉を開ける。
片手で扉を閉め、両手でおんぶし直しながら廊下の左右を見渡す。
数日前に能力で覚えた紅魔館の地図と照らし合わせ、正門へ続く方の道を選んで歩く。
「あ! 妹様だ!」
どこからともなく、知らない声が聞こえてきた。
声のした方向へ向くと、メイド服を着た小さい女の子が小走りで近づいてくる。
「あなたが拓人さんですね! 他のメイドから話は聞いてます!」
「あぁ、うん……えっと、君は?」
「この館で働いている妖精メイドです!」
妖精といわれて肩の後ろあたりに視線をずらすと、薄い羽根が見えた。
「それより拓人さん! 妹様をおんぶしてどこに行くんですか?」
「えっと、美鈴さんの所、かな……?」
妖精メイドの過剰なまでの元気さに言葉が少しつまるが、お構いなしで妖精メイドは話を
続ける。
「なら日傘がいりますね! 誰かー! 日傘持ってきてー!」
『はーい!』
館のどこかからか返事が聞こえ、十秒とかからずに妖精メイドが日傘を持ってきた。
何故か、総勢三十人ほどで。
「持ってきたよー!」
「おー、外来人だー」
「何あの服ー」
「妹様とラブラブだー」
「お嬢様とじゃないの?」
「咲夜さんもじゃなかった?」
「あれれー?」
あっという間に自分たちの周りに群がり、好き勝手に会話を始めてしまった。
ある者は顔を赤らめ、ある者は自分の服を珍しそうに眺め、ある者は体によじ登ってくる。
「ちょ、ちょっと……!」
「外来人って咲夜さんと変わらないなー」
「この服かわってるー」
「でも、顔の形は違うー」
ついには肩や顔までに登ってきて、やたらめったらに全身を触られる。
「お、降りて、重い……」
「髪もかたいー」
更に頭にまで登りつめ、妖精メイドだらけで訳がわからなくなる。
飛んで逃げるにしてもこのメイドたちに怪我をさせるわけにはいかないし、さっきから身じろぎ
して起きかけているフランを起こしたくない――
「あなたたち! 何やってるの!」
――と、どうすればいいか悩んでいると、誰かの怒号が飛んできた。
「仕事さぼって、一体何固まって遊んでるのよ!」
「さ、咲夜さんだ! 拓人さん助けて!」
一人の妖精メイドが叫ぶと、全員が自分へ密着してくる。
顔にしがみつかれて目は押さえられ、腕も足も関節技をかけられたように動かなくなる。
「たく、と……? もしかして、拓人様ですか!?」
「は、はい……咲夜さんですか?」
かろうじて開いていた口から声をひねり出すと、即座に返事が返ってくる。
「そうです! 少々お待ちください、すぐに持ち場に戻らせます!」
やや大きめの咲夜の声が聞こえ、これで何とかなるな、と安堵する。
だが、直後に刃物同士が触れ合う音がして、一瞬で安堵が恐怖に変わった。
「あなたたち……『一回休み』になりたくなかったら、今すぐ拓人様から離れなさい」
咲夜から、何もかもが凍り付くのではと思うほどの冷たい声が聞こえてきた。
しがみついている妖精メイドたちの体が震え、一人の「逃げろー!」という声を合図に次々と
去っていく。
「んぅ~……む~……」
うるさかったのかわからないが、フランから抗議の唸り声が飛んできた。
「大丈夫、大丈夫だよフラ――ンンンンッー!?」
体を揺らしてあやそうとしたのが間違いだったのか、フランの両腕は見事に自分の首に食い
込んだ。
抱きしめてきた腕には徐々に力が増していき、段々と視界が黒く染まっていく。
決まって……落ちる……!
このままだと本当に死にそうなため、なんとかフランを支えている片手を首へ持っていく。
それまでの時間が、途方もなく長く感じる。
も、う……だ……め…………
息が完全に止まって気絶する直前、何故か肺に新鮮な空気が流れ込んできた。
「――ゲホッ! ゲッ、はぁっ!」
少し遅れて息ができる事に気づき、咳き込みながらなんとか呼吸を繰り返していく。
「大丈夫ですか?」
気づけば、咲夜がフランの腕に手をかけ、自分の首から外していた。
首に何かが擦れたような感覚はないし、外してもらった事に全く気付かなかった。
完璧な絞め技の外し方だ、と内心で感心しつつ息を整えて返事をする。
「ありがとうございます……かなり手慣れてますね、全然気づきませんでした……」
「中ご……美鈴ほどではないですが、いろいろと鍛えていますので」
自分に話しながら、フランが組んでいる腕を肩へずらしてくれる。
「妖精メイドが迷惑をかけて、申し訳ございません。 厳しく言いつけておきます」
「いえ、いいですよ。 外来人が珍しいみたいでしたし。 まぁ、あの人数は少し疲れました
けど……」
「本当に申し訳ございません――それで、何しに来たの? リーダー」
話していると咲夜の視線が自分の後ろに向き、それにならって振り返ってみる。
そこには、一本の赤い傘を持った、最初に話しかけてきた妖精メイドが立っていた。
「えぇっと、拓人さんが美鈴さんに会うということなので、日傘持ってきました!」
言い終わると同時に、ずいっ、と日傘を差し出してくる。
つい受け取ろうと前に出るが、フランを支えるのに両手を使っているために受け取れない。
「私が持ちます」
どうしようかと悩む暇なく、咲夜が前に出てリーダーから日傘を受け取る。
「後で話があるわ。 夜になる前に私の部屋に来なさい」
「……はい、わかりました……」
咲夜の圧力が強かったせいか、リーダーは元気のない声で返事をした。
続いて咲夜は立ち上がり、廊下の奥に向かって口を開く。
「あなたたちも早く仕事しなさい! お客様を覗き見してる暇なんてないのよ!」
咲夜が叫んだ先には、先ほどの妖精メイド達がちらちらとこちらの様子をうかがっており、
言われるや否やすぐに全員が顔を引っ込めてしまった。
「ほら、あなたも早く戻りなさい」
「はい、わかりました!」
リーダーも負けず劣らずで、咲夜に言われて返事をすると、すぐさま廊下を走り去っていった。
「すみません、態度がなっていなくて……」
「謝る必要なんてないですよ。 別にこういうの、嫌いじゃありませんから」
頭を深々と下げて謝ってくるが、それを言葉で制して会話を続ける。
「そう言っていただけて幸いです。 話は変わりますが、美鈴の所に行かれるのですか?」
「えぇ。 昼に正門に着いた時からの記憶がないものでして……あと、少し話したいこともあり
ますので」
「でしたら、妹様をお預かりしましょうか? まだ外は日が降りきってませんし、拓人様の負担も
減るかと」
「えっと、ありがたい話ではあるのですが……」
申し訳ないと思いつつ提案を断り、前傾姿勢になってフランを背中だけで支える。
片手を腕の前で組まれているフランの手を引き離すべく掴む。
そのまま自分の体から離そうとするが、予想通り服を掴んで離れない。
「……と、こんな感じでして」
「なるほど……では、ご一緒しましょう」
「すみません、お願いします」
咲夜に同行をお願いし、フランを両手で支え直して姿勢を戻し、日傘を持った咲夜と一緒に正門
に向かって歩き始める。
「「…………」」
話が途切れて、少し気まずい空気が流れる。
さっきは事務的なことは話せていたが、昨夜にあんなことがあったばかりで、どう話しかけて
いいかわからない。
「……拓人様」
頭を捻ってかける声を考えていたが、咲夜の方から話しかけてきて話を続ける。
「外の世界では何をされていましたか?」
「外、ですか……」
言葉を止め、自分の生活を振り返る。
叔父夫婦が殺されてから、好きでもない学校に行って邪魔者扱いにされ、帰って一人でご飯を
食べ、気を紛らわせるために楽しむことなく東方をやって寝る――この繰り返し。
「学生で、ずっと勉強してました。 楽しいことなんて何もない、退屈な生活をしてました」
東方をしていた事は伏せ、嘘のない事実を話した。
伏せた理由は、もちろん咲夜の為、幻想郷に住んでいる生き物全ての為だ。
東方の事について話すのは、幻想郷の生き物にとっては『あなたは誰かに作られた架空の存在
ですよ』と言われるのと等しい。
そう言われた場合、自分なら少なくとも一日は発狂し続けてしまうだろう。
今話している相手は単なるプログラムではなく、こうして生きて自分自身の頭で考えている
『生き物』だから。
「学生ですか……失礼ですが年齢は?」
「今年で二十歳です。 そうは見えにくいと思いますが」
苦笑いしながら、自分の歳を明かす。
身長は165で、咲夜とほとんど変わらない。
そのため、外の世界ではよく年齢を低く見られがちだった。
「意外ですね。 てっきりもう少し若いのかと思ってました」
「咲夜さんは……すみません、失言でした」
咲夜に歳を尋ねようとして、途中で失礼だという事に気づいて言葉を切った。
自分の考えを知ってか、咲夜は「ふふっ」と小さく笑って話しかけてくる。
「十代後半、と言っておきましょうか。 体は、ですけど」
「え……?」
最後の言葉に疑問を感じ、思わず声が漏れてしまった。
「私の能力はご存知だと思います。 それで体の老化をほぼ完全に止めています」
「……寿命の長いレミリアさんに仕え続けるためですか」
自分の読みは当たっていたらしく、咲夜はこくりと頷く。
「となると、体感ではは実年齢と差がある訳ですね?」
「えぇ。 もしかすると、二十歳以上かもしれません」
そんなことを離していると、咲夜から振ってくれた話が意外と続いたおかげで、話し終わる頃
には館の出入口に着いていた。
日傘をさしてもらい、さらに扉も開けてもらって外に出る。
「……すごい、きれいだ……」
異変を解決しに来たときは見る暇がなかった庭を見て、口が勝手に言葉を紡いだ。
青々とした草が揺らぎ、様々な色の花が見栄え良く配置され、それを夕日が優しく照らして
いる。
館の外壁付近には薔薇が咲いており、赤い花が『紅い』花になり、棘は全て優しさを兼ね備えた
ように見える。
「この庭は美鈴が整えているものです。 本人へ言ってあげると喜びますよ」
「えぇ、そうさせてもらいます」
庭から目を離し、本題を果たしに正門まで咲夜と一緒に歩いていく。
高さが五メートルはあろうかという大きな門を咲夜に開けてもらい、美鈴の姿を探す。
意外とすぐ近くにおり、腕と足を組んで壁に寄りかかっている。
「美鈴さ……ん?」
歩み寄って声をかけようとしたが、途中で美鈴の異変に気付いて口を閉じた。
……寝てるのか……
ただ壁に寄りかかっているのかと思えば、一本足で器用に寝ているだけだった。
心なしかニヤニヤとしているように見えるのは気のせいだろうか。
「まったく、いつもこうなんだから……!」
小さくつぶやきながら、咲夜は太もものホルスターからナイフを一本取りだして逆手に持つ。
そのまま日傘でフランに日光が当たらないようにしながらも美鈴に近づき、首元へ刃の腹を
当てる。
その瞬間に美鈴の目が見開かれ、微動だにせずに驚愕の表情を作った。
「毎度毎度、いい根性してるのね。 食事抜きにするわよ」
「い、いや、それはそのですね……風と夕日があれであれがあれで……」
「あれあれうるさいわね。 私は言い訳を聞きたい訳じゃないのだけれど」
「……すみません。 あと食事抜きは勘弁してください……」
美鈴を威圧しながらも咲夜はナイフを引いていき、ホルスターの中へ収める。
それを見た美鈴は緊張が解けたのか、息を吐きながら地面へ座り込んだ。
「その脅しやめてくださいよ……」
「こうでもしないと聞かないでしょ。 それより、お客様を前にしてよく座れるわね」
そういわれた美鈴は、少し眠たそうな目で周りをきょろきょろとし始める。
そして、咲夜が日傘をさしている事に気づき、その影の中にいる自分を見ると、即座に一直線に
立ち上がって声をかけてくる。
「た、拓人さん起きてたんで――あべしっ!?」
「『様』を付けなさいこの居眠り門番」
「いいですよ咲夜さん。 これぐらいがちょうど良いぐらいですから」
美鈴の頭をはたいた咲夜を抑えるように言うと、渋々といった様子で上げている手を降ろす。
「ありがとうございます、拓人さん。 ところで、どうしてここに?」
「少し話をしに来ました。 ひょっとして邪魔でしたか?」
「いえいえ、とんでもないです! むしろ歓迎です! それで咲夜さんは?」
「拓人様の背中を見てみなさい」
美鈴の質問に、咲夜は自分の背中を見ながら答えた。
美鈴もつられるように同じ所へ視線を振り、納得したのか首を何回か縦に振った。
「日傘持ってくれる? まだ掃除が終わってないの」
「はい、わかりました」
「す、すみません咲夜さん、仕事があるのに付き合わせてしまって……」
「いえ、これも仕事の内ですし……他愛もない話は、嫌いではないので」
申し訳なく謝ると、咲夜は手を軽く振りながら返事を返し、近づいてきた美鈴に日傘を渡した。
「お二人をよろしく。 あと、寝てたら今度こそ食事抜きよ」
「わ、わかってます! お仕事頑張ってください!」
「えぇ。 では拓人様、失礼します」
美鈴と言葉を交わし、最後に自分に一礼すると一瞬で姿を消した。
「……美鈴さんも大変ですね」
「あはは、情けない限りです……それで、話ってなんですか?」
「大したことじゃないですけどね。 私がここに来てから記憶が無いんです。 その時一緒に箱が
あったと思うのですが、心当たりはありますか?」
「えぇ、ありました、け……ど……」
自分の質問に答えてくれていたが、段々と声が小さくなっていき、顎に手を当てて考え込んで
しまった。
数秒ほど考え込んでいると、「あ!」と声を上げ、自分に日傘をさしたまま頭を下げてきた。
「す、すみませんでした!」
「え? いや、何がです……?」
「頭蹴っちゃって本当にすみません!」
「あ、頭……蹴った……?」
「……あれ?」
会話が噛み合わず、なんとなく顔を見合わせてしまう。
そのまま再び無言の状態が続き、埒が明かないので自分から話を切り出す。
「あの、私が来た時に何かありました……?」
「……いきなり現れて、てっきり侵入者かと思いまして、その……頭を蹴っちゃいました、
すみません……」
「そ、そうなんですか……?」
記憶がないため美鈴の話がにわかに信じられず、記憶を辿ってみる。
瞬間移動してからはほとんど覚えてないが、何か声が聞こえた気がするが、もしかしてそれが
蹴りの掛け声だったのだろうか。
「言われてみれば、そういう気もしないではないですが……まぁ、自分が勝手に移動してきたのが
原因ですし、あまり気にしないでください。 話を戻しますが、箱はありましたか?」
「は、はい。 えっと、今は庭の隅に運んであります」
「ならよかった」
話す内容が無くなり、また無言の時間が流れ始める。
気まずい空気の中で、今度は美鈴から話しかけてくる。
「……他に何かあります?」
「いえ、これだけですが……夜まで暇ですし、話し相手になってくれませんか?」
「いいですね! 門番ってすごく暇なんですよ! だから眠くなっちゃうのも仕方ないと思うん
ですけど、咲夜さんっていっつも私を怒ってばかりで……」
提案したところ、話ではなく美鈴の愚痴が始まってしまった。
だが、愚痴を聞くのはそこまで嫌いなことではないし、今は夜まで時間を潰せればそれでいい。
……何か忘れているような……
そんな事を思ったが、美鈴の愚痴ラッシュに流されてしまう。
何かを思い出せないまま、美鈴の愚痴を聞いていくことにした。
久々の長文疲れた……
二十三話でした。楽しめましたでしょうか?
最近やっと紅魔郷のExtraがクリアできるようになりました。フランめっちゃ強かったです、
ほんと。
プレイしていて思ったことがあるのですが、原作でのキャラの口調が私の作品と全く違うんです
よね(他の方の作品でもそうですが)。自分の中でのイメージで書いているので、原作との違いは
あまり意識してませんでした。
唐突ですが、「キャラの口調が違い過ぎる!」とか「このキャラ全然性格違うじゃねぇか!」と
思った方は是非報告をお願いします。出来るだけ善処して原作に近づくようにいたします。
それでは今回はこの辺りで。次回は……今月中かな? ほんわか待っていただければ嬉しい
です!