まず初めに、先月中と自分で書いておきながら遅くなってしまったことをお詫びいたします……
忙しかったんです、いろいろと。忙しかったこと以外にも、なかなか筆が進まなかったというのも
ありますが……ともかく申し訳ないです。これからももっと精進していきたいです。
はい、前書きしましょうか。今回遅くなりそうだったので、少し短めに切りました。その切った
分を次回に回すために次回も短くなりますが、そのあたりはご了承いただければと思います。
では、第二十四話です。どうぞ。
「……大体、一人でこんな庭なんか世話できるわけないんですよ! 咲夜さんは時間止められます
けど、私はただの妖怪なんですよ! ひどくないですか!?」
「え、えぇ、そうですね……」
美鈴の愚痴は、日が大分傾いて庭に移動しても続いていた。
仕事から咲夜へ、そして仕事へ戻ってきて、今は庭の整理についてあれこれ文句を言っている。
ずっと聞いてばかりいるのも疲れたので、自分からも話しかけてみることにする。
「でも、文句を言う割にはすごくきれいですよ、この庭」
「花に罪はありませんから。 それに好きですしね。 私がお嬢様に出会ったのも、花のおかげ
なんです」
辺りに咲いている花を見つめながら、美鈴は少し落ち着いてどこか嬉しそうに話し始める。
「私は、もともと一人で旅をしていたんですよ。 途中の花畑でお嬢様と出会って、いきなり
『体が強そうだ』とか『門番になれ』とか言われて、勝負して見事に負けて。 気が付けば、
門番兼庭師なんてやってました」
美鈴は話しながら花の近くに座り込み、一輪の花の茎を撫でる。
まるで母親が子供を見守るような姿勢に、自然と自分の顔に笑みが浮かんでくる。
微笑しながらもう一度庭を眺めると、どれだけ花が好きなのかが如実に伝わってくる気がする。
「……薔薇が好きなんですか?」
「え?」
美鈴から飛んできた言葉に少し驚きつつ顔を向けると、いつの間にか自分の顔を見ていた。
薔薇が好きだという事もあながち間違いではないために返す言葉を考えていると、美鈴の方が
先に話し始める。
「ずっと見てましたので。 ちなみに私は薔薇が一番好きです」
「……えぇ、私もです。 いろいろと思い入れもありますから」
死んだ父と母は、共に花や草などの自然がとにかく好きだった。
特に花の中では薔薇が好きで、結婚指輪にその彫りをいれるほどだ。
今左手にはめている父の時計も、薔薇がデザインされている。
「薔薇が好きな人って少ないんですよね。 妖精も棘が苦手みたいで、私が知る限りではお嬢様と
拓人さんぐらいですよ。 よければ理由なんか聞かせてもらえませんか?」
「親が好きだった、というのもありますけど……なんか、周りの全部から避けようとしてるみたい
で、自分と似てる気がしたんです。 好き、とは少し違う気もしますが……」
ここまで言ってから言葉が詰まってしまい、何となく周りを見回す。
様々な草花がバランスよく配置されているが、どこも壁際は薔薇で埋め尽くされている。
そんな光景を見ながら考えても言葉を繋げられずに顔を戻すと、美鈴は無言で自分を見つめていた。
「……格好つけすぎましたね」
「いえ、そんなことないですよ。 私の理由もそんな感じです」
言い終わった美鈴は、再び壁の薔薇を見つめ始める。
視線だけはという意味ではそうだが、美鈴は昔を見るような目をしている。
自分がそうであるように、美鈴にとっても思い出深い花なのだろう。
何を考えているのか少し気になっていると、背中のフランがもぞもぞと動き始めた。
「ぁぅ……?」
「おはよう。 よく寝れた?」
肩越しに話しかけると、半開きだった目が段々と開いていく。
だが全部開くことはなく、三分の二開きほどで辺りを見渡し始める。
そして少し自分の顔を見た後、再び目を閉じて背中に顔をうずめてきた。
「はは、まだ寝るんだな……」
「妹様は朝、というか夕方に弱いんですよ。 もう少しすれば目が覚めると思います」
美鈴から説明を受け、「なるほど」と頷く。
することもなくフランを背負い直していると、少し空気が変わった気がしてその方向へ向く。
「拓人様、お食事の用意が出来ました。 どうぞ、お入りください」
そこには、能力で移動してきたらしい咲夜が立っていた。
体の向きを変えて館へ入ろうとする咲夜を、美鈴が悲しげな目で見つめる。
「咲夜さん、私は……?」
「夜が一番危ないのは知ってるでしょ。 後で一杯持ってきてあげるから、それで我慢しなさい」
「はい……拓人さん、ごゆっくりどうぞ……」
しょんぼりとしながら美鈴は頷き、渋々と門の前まで歩いていく。
苦笑いしながらも見送り、咲夜に連れられて館の中へ入る。
やっぱりすごいな……
外観と中との相当な違いに、そう思わざるを得ない。
能力で把握した大きさと比較すると、三倍以上はありそうだ。
改めて咲夜の能力に感心しながら、遅れないように背中を追いかける。
かつかつ、と自分だけの足音がして、非常に歩きにくい。
咲夜は踵の低いヒールを履いているとはいえ、無音で歩けることに今更ながらに気づいて感心
する。
自分も出来るだけ音を出さないように頑張ってみるが、到底足音は少しも小さくならず、一分も
しない内に諦めた。
足音に気づいたのか、廊下の角や扉の隙間からちらちらと妖精メイド達が視線を送ってくる。
数時間前のように群がって来ないのは、咲夜が傍にいるからだろう。
嫌味や拒絶の視線には飽きるほど浴びて慣れたが、妖精メイドたちから送られる純粋な好奇心に
よる視線は初めてだ。
「申し訳ありません。 何しろ好奇心の塊のような者ばかりでして」
「いえ、別に構いませんよ。 ただ、また登られるのはこりごりですけどね……」
「注意はしておきましたので、勝手な行動は慎むかと思います。 少なくとも私が傍にいる間、
絶対に無礼な行為はさせませんのでご安心ください」
「えぇ、ありがとうございます……」
一応礼を言いながら、そこら中にいる妖精メイドを見てみる。
大人しく覗いているのもいれば、近づこうとして咲夜に気づいて断念するのもいる。
共通しているのは、全て好奇心によるものだ。
それらは忌避や拒絶よりははるかにましで、館にお邪魔させてもらっている身としては、何も
しないというのは少し気が引けてしまう。
微妙な罪悪感を抱きながら歩いていると、自分が礼を言った数秒後に声が飛んでくる。
「拓人様。 明日以降、もしよろしければ、妖精メイド達と遊んでくださいませんか? あの子
たちにも気分転換は必要ですので」
意外なことに、言いだそうとしたことをお願いされてしまった。
予想していなかったために少し驚くが、願ってもいなかったことだ。
「えぇ、喜んで」
咲夜に返事をした後、何も話すことなく黙々と歩き続ける。
時折顔を出している妖精メイドたちに微笑みかけながら、朝食の時と同じ場所に着いた。
「すでに配膳は済ませてあります。 ゆっくりとお食事をお楽しみください」
そう一言自分に言うと扉を開いてくれたので、部屋の中へ入っていく。
すでにそこには、美鈴とフラン以外の主な紅魔館の住人が揃って食事をしていた。
「こんばんは、レミリアさん」
「私にとってはおはようだけど、こんばんは。 朝と同様、いくらでも食べていいわよ」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
そういって空いている席に座ろうとするが、フランを背負ったままで座ることができない。
仕方なく背中を揺り動かして起きてもらうことにする。
「フラン起きて。 ご飯だぞ」
「…………ぅ」
今度は自分の首を絞めることはなく、薄目を開いて顔を見つめてくる。
起きたことを確認してゆっくりとフランを下すが、ふらふらと体が揺れ、足にもたれかかって
きた。
「ほら起きて。 お腹空いてるだろ?」
もう少し揺らしているとだんだん薄目が開いていき、半分ほど開いたところでゆっくりと床に
降ろす。
まだぽわぽわしているフランの手を握ってどうしようかと悩んでいると、咲夜が近づいて空いて
いるフランの手を取った。
「妹様をお預かりします。 さ、食べましょう妹様」
そのままフランを連れて行こうとするが、自分の手を握ったまま動かない。
「……いっしょ、がいい」
フランの静かな言葉に、思わず咲夜と顔を見合わせて苦笑いしてしまう。
空いている二席は、隣り合ってはいるが離れているため、一緒にとはいかない。
頭を掻きながらきょろきょろとしていると、先に食べていたパチュリーに手招きされた。
「持ってきて一緒に食べない? 話があるの」
言葉だけなら優しそうに話しかけてきたが、顔には怪しい笑みが浮かんでいた。
「……えぇ、わかりました」
少し悩みつつも了承して皿を持とうとするが、レミリアが何かを訴えるような眼でパチュリーを
見ている姿が目に入り手が止まる。
「あら、どうしたのレミィ?」
「…………」
レミリアが無言でパチュリーを視線を交わしていると、「ふふっ」と少しパチュリーが笑って
口を開く。
「心配しなくても取らないわよ。 好みじゃないし」
「……勝手にしなさいよ!」
ぷい、と顔を背け、レミリアはやけ食いという表現がぴったりな様子で夕食を口に運び始める。
パチュリーからレミリアと恋仲にされていたのは不本意だが、話を聞かないと面倒くさいことに
なりそうなため渋々動くことにする。
まず皿を取ろうと手を伸ばすが、フランに右手を握られているため、両手でも持てるかどうか
怪しい量の皿やナイフ等は持てない。
「私がお持ちします」
「すみません、助かります。 行こうか、フラン」
咲夜が良いタイミングで来てくれたので任せ、フランの手を引いてパチュリーと小悪魔の所へ
向かう。
少し離れると、机の上の自分の分と思われる料理等が瞬間移動し始める。
咲夜が能力で行っているらしく、時折一瞬だけ姿が見える。
他の皆は見慣れているのか全く動じず、半分も近づかない内に椅子の移動まで全て終わった。
レミリアのそばに移動した咲夜に頭を下げて礼をして、パチュリーの傍の椅子に座る。
「それで、話とはなんでしょうか」
「食べながら話しましょう。 少し長くなりそうだから」
フランをすぐ近くの席に座らせながら話し、言われた通り料理を少しだけ口に含みながら話を
聞く体制を作る。
「わかってるとは思うけど、また研究を手伝ってもらうわ。 こぁ?」
「は~い、今持ってきま~す」
パチュリーに呼ばれてどこからか現れた小悪魔が、一冊の本を持ってくる。
その本は魔導書か何かなのか、片手で持てるかどうかぐらいに大きい。
小悪魔は目の前までその本を持ってきて、自分に見えるようにページをペラペラとめくり
始める。
所々に垣間見えるページを見ると、どうやら英語で書かれている本のようだ。
「えっとですね……ここです」
小悪魔に指さされた場所を見てみると、やはりと言うべきか『love』やら『kiss』といった文字
が書かれてあった。
あまりこういうことに興味がなく読む気が失せるが、学生時代に学んだこと文法やその他諸々を
思い浮かべながら読んでみる。
『以上のことから、男女ともに愛を深めるには体に触れることが最も有効であると推測される。
手をつなぐ、抱き合う、キスをするといったものでも成果は見込めるだろう』
……何だ、この本……
軽く二文ほど読んだだけで、完全に読む気が失せてしまった。
どういうタイトルか気になって表紙を見てみると、手書きで『人間の感情について』と書かれて
あった。
「……これを私にしろって事ですか……?」
「まぁ、最初はね。 続きは読んだ?」
パチュリーに諭されるまま、先ほどのページをもう一度開いて読んでみる。
何か嫌な予感がしたので単語のみを見ていくと、『sex act』という連語が見つかり、見て
いられなくなって思わずページを閉じる。
何だかもう、訳が分からなかった。
「とても興味深いでしょ? 私はしようとは思わないけどね。 愛している人は皆女だし、愛して
いるとはいっても家族だし」
「見たいですね~、お嬢様と拓人様が獣のようにお互いを貪るお姿……えへ、はうぅ~……」
パチュリーは見た人が寒気を感じるような笑みを浮かべ、小悪魔は乙女よろしく顔を赤らめる。
その様子を若干放心状態で眺めていると、背中に何かが当たった。
首だけを回して見てみると、案の定フランが自分に寄りかかって寝ていた。
「ほら、食べないとお腹空くぞ」
話しかけつつフランの体を起こし、しっかりと椅子に座らせる。
しかしまだ眠たいのか、目元を手でこすって瞬きをするだけで食べようとしない。
このままではせっかく作ってもらった料理も冷めてしまうため、フランのナイフとフォークを
手に取り、肉を切り分けて口元へ運ぶ。
「口開けて」
「あ~……」
眠たそうにしながらも口を半分ほど開け、その中へ周りが汚れないよう丁寧に肉を運ぶ。
フランの口内からフォークを抜いてテーブルに置き自分のに手をつけようとしたが、パチュリー
と小悪魔からの視線を感じて手を止める。
「どうしました?」
「意外だな、とね。 あなたはこういう事、苦手だと思っていたから」
「私は親子みたいだなぁ、と。 見てるだけでほっこりしますね~」
また何か変なことを言われるのかと準備をしていたが、真面目な内容で少し驚いた。
何を言えばいいのかわからず、「ど、どうも……」とだけ言って今度こそ料理へ手をつける。
適当に料理を口へ運びながら、小悪魔の言葉を嚙み締める。
親子、か……
味もほとんど意識せず、頭の中は昔の事へ一杯になる。
中学の二年、十四歳までの事で覚えてないことも多いが、楽しかったことだけは忘れていない。
死んでしまったものは仕方ない、とは分かっているのに、もし死んでいなかったら、と考えずに
はいられない。
あの時に十分感じたから、今更悲しみは感じない。
ただ、『もしも』の事は考えてしまう。
皆生きていれば、違う人生を歩けたのだろうか。
「……何してるの?」
ふと、そんな言葉が耳に届いてきた。
気が付けば、ナイフとフォークを握りしめて空の皿を見つめていた。
声がした方を向いてみれば、フランが不思議そうに自分の様子をうかがっている。
「考え事だよ。 フランは食べないのか?」
話しつつフランの皿を見ると、いつの間にか食べ終えていた。
肩透かしを食らったような感じになりつつフランの顔を見てみると、表情からは眠気が消えて
いる。
どうやら、かなり長い間考え込んでいたようだ。
「……目は覚めたのか?」
「うん。 もう大丈夫だよ」
「それはよかった」
フランから向き直りテーブルにナイフ等を置くと、咲夜がすぐに近づき「お下げします」と
言って皿を片付けた。
よくよく周りを見てみると、全員が食べ終わって自由にくつろいでいる。
何もすることが無くなり、どうしようかと考えてみる。
窓の外は、すっかり日が落ちて夜になっている。
置き手紙通りなら、もう少しすれば霊夢が魔理沙やチルノ達を連れてくるはずだ。
頭をひねりつつ考えていると、パチュリーが静かに話しかけてくる。
「恐るべき集中力ね。 研究者として羨ましいわ」
「周りが見えなくなるので、あまり褒められたものじゃないですよ」
頭を掻きつつ言うと、パチュリーは首を横に振って話し始める。
「それだけ集中できると、こちらとしては好都合なのよ。 研究がどんどん進んでいくからね」
「でも、話しかけられて気づけないと、なんかこう……人として駄目な気がします。 相手にも
失礼ですしね」
「あら、意外としっかりしてるのね」
「一応、今まで真面目に生きてきましたから」
そう言い終えて微笑を交わし、パチュリーは紅茶が入っているであろうカップを手に取り口に付けた。
カチャリと音を立ててカップを置いて少し息を吐くと、垢抜けた笑顔を浮かべ話しかけてくる。
「ま、私は魔法使いだから、関係ないけどね」
「…………」
先ほどはいい人そうに見えたのに、最後の一言でいつものパチュリーになってしまった。
少し落胆した自分の表情を見て、「ふふっ」と笑う所が更にイメージを固める。
ため息を吐き、何を話そうかと思っていると、部屋の扉が開いて妖精メイドが入ってきた。
すかさず咲夜が能力を使って一瞬で移動し、妖精メイドと話し始める。
「……なるほど。 拓人様、博麗の巫女が門で待っているそうです。 どうなさいますか?」
「見せたいものがあるので全員で行きたいと思っていますが、みなさん大丈夫ですか?」
全員を見渡しながら言うと、快く頷いてくれる。
ただレミリアだけは反応を示さず、じっと自分を見つめてくる。
「「…………」」
少しの間見つめ合うが、どうしていいか分からず困惑するしかない。
そのまま何も起こらない時間が過ぎ、冷や汗が流れ始める。
「……お姉さま、どうしたの?」
「…………っ」
フランが話しかけるが、表情を変えることなく顔を背けてしまう。
その様子を見かねたのか、咲夜がレミリアの元まで移動し話しかける。
小声で話しているらしく内容が聞こえず、不安感が増してきた。
「……私、何か気に障るような事しましたか……?」
「それを調べてるのよ。 わかったら苦労しないわ」
緊張感に耐え切れずにパチュリーに問うが、全く頼りにならない返事が返ってきた。
内心『それはないだろ……』と軽い愚痴をつぶやきながら、咲夜と話しているレミリアの返事を
待つ。
その後二十秒ほど沈黙が続くと、おもむろにレミリアは立ち上がり扉へ向かい始める。
「妹様、パチュリー様、拓人様、ご案内いたします」
「あ、はい……」
咲夜が妙に嬉しそうに話しかけてきたため、少したじろいでしまう。
打って変わって、レミリアは少しばかり怒っているような足取りで扉へ向かっている。
「恋する吸血鬼って、よくわからないものね」
「まったくです……恋してるかどうかは疑問ですが」
パチュリーの言葉に半ば同感しながら、先導する咲夜の後を追った。
フランを妹にしたい(真顔
そんな感じで書いた二十四話でした。いかがでしたでしょうか。
いや、もうあれですよ。フランみたいな可愛いくて無邪気な妹がいたら、人生最高ですよ
ほんと。吸血鬼から人間に変化してくれていたら言う事なしです。
年末に近づき最近忙しくなっていますが、今年中にはなんとか次話を書き切りたいです。温かく
ほんわか待っていただければ幸いです。