東方壊命録   作:鼠返し

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 だんご、だんご、だんご、だんご……失礼。鼠返しです、お久しぶりです。

 前回で一段落がついて、どうしようか悩みました。悩んだ結果がどうなったのかは本編をお読み
ください。

 今回は6000文字とちょっと少なめです。ちょっとした時間にでも読めると思います。あと、
注意事項とかはないです。普通にお読みください。

 書きたいことはないですし、本編に入りましょうか。第二十六話です、どうぞ。


第二十六話 約束

 ちゅんちゅん、と朝を知らせる鳥の鳴き声が聞こえる。

 

 もぞもぞと掛け布団から顔を出すと、目に入るのは紅い壁。

 

 昨日の一件で思っていたよりも疲れてしまったようで、そのまま泊めさせてもらい、今に至る。

 

 窓を通過して入ってくる日光が、再び自分を布団の中へ押し戻す。

 

 のんびりとしていて、やるべきこともなく、ただ時間が過ぎていくだけ。

 

 怠惰だとわかっていても、それがとても心地よい。

 

 堕落する至福に身を任せたまま、ごろごろと意識を体の奥底に転がしていく。

 

 邪魔されずに、静かに、一人だけ――

 

 

 

「……すよ。 拓人様、朝ですよ」

 

 と、夢心地から引っ張り戻された。

 

 小さくともぴんと張った声が、頭の中で反響して眠りから覚ましていく。

 

「……おはよう、ございます」

 

「えぇ、おはようございます。 随分とお疲れのようですが、もう少しお休みになられますか?」

 

「いえ……せっかくですし、起きますよ」

 

 布団の誘惑から逃れるように体を起こすと、頭から血がすとんと落ちて目の前が暗くなる。

 

 本調子ではない心臓が落ちた血を押し戻していくのを感じ、閉じていた瞼をゆっくり開く。

 

 ベッドの右側には、少しも動かず優しい目を向けてくれている咲夜が立っていた。

 

「ご用件はありますか?」

 

「そうですね……軽めの朝食をお願いできますか」

 

「朝食はこちらでとられますか?」

 

「……しばらくこのままでいたいので、それでお願いします」

 

「かしこまりました。 十分ほどでお持ちしますので、少々お待ちください」

 

 流れるような会話の後、咲夜が部屋から出ていき完全に一人になる。

 

 まだまだ頭が冴えないまま、日光に顔をさらしてみる。

 

 目を閉じてじっとしていると、じわじわ暖かくなっていく。

 

 季節的には初夏の少し前なため、熱くなりすぎずに丁度いい。

 

  ……ここに来て、どれぐらいたったかな……

 

 ふと思い、頭の中でカレンダーをぱらぱらめくっていく。

 

 おおよそ一週間程度。

 

 長いようで、体感的にはかなり短い一週間。

 

 外の世界で何もなかったせいか、こちらでの日々があり得ないほどに濃厚だ。

 

『誰かといる一年は、一人でいる一年の半分にも満たない』とは誰が言ったものだろうか。

 

 その通り、まったくその通りだ。

 

「食事をお持ちしました」

 

 二年前までは、とても満ち足りた日々だった。

 

 叔父さんと叔母さんは優しくしてくれて、人を殺した手を握ってくれた。

 

 あまりにも、懐かしい。

 

「拓人様、食事をお持ちしました」

 

 今更想ったところで涙は出ないが、戻りたいとは思う。

 

 なんだかんだで、親に甘えたり、妹と喧嘩した後に笑ったりするのが、嬉しくて楽しかった。

 

「……失礼します」

 

 自分で招いた種が芽吹いた結果がこれだというなら、それはそれで良かったのかもしれない。

 

 もちろん、皆が死んでよかったというわけでは絶対にないが、受け入れるほかない。

 

 過去があるからこそ、今の自分がいる。

 

 それを否定すれば、今の自分は自分じゃなくなる。

 

「拓人様。 どうなさいましたか?」

 

「ふぇっ?」

 

 突然隣から咲夜の声が聞こえてきて、少々間抜けな音を漏らしながら顔を向ける。

 

 サンドイッチと紅茶を上品なトレイに乗せ、いつの間にか戻ってきていた。

 

「随分と早かったですね」

 

「やはり、まだお疲れではないですか? 私が声をかけてもお気づきになられませんでしたし」

 

「……そうですか?」

 

 トレイをすぐそばに机に置きながら咲夜に言われて、そんな記憶のない自分は戸惑うことしか

できない。

 

 確かに昨日は能力を酷使したような気はするが、今はその疲れは感じない。

 

 となると、原因は一つしかなくなった。

 

「私は朝に弱くて。 まだ頭が寝ぼけているのでしょう」

 

「お嬢様と一緒ですね。 ……他にご用件はありますか?」

 

「特には何も」

 

「食事が終わりましたら、食器等は部屋に残しておいて結構です。 困るようなことが

 ありましたら、近くの妖精メイドに申し付け下さい。 では失礼します」

 

 矢継ぎ早にそう言い、すたすたと部屋から出て行ってしまった。

 

「…………」

 

 いつもと違う様子に戸惑ったのか、寝ぼけが続いているのか、あるいは両方か。

 

 ただ業務連絡を済ませた後のように去っていった後の扉を、無言で見つめることしか

できなかった。

 

 このまま固まっていても仕方ない、と思い直し、作ってきてくれた朝食をいただくことにする。

 

 サンドイッチと紅茶は、特別においしかった。

 

 

 

「っ~~~ふぁ~~……」

 

 伸びと欠伸のダブルコンボを決めながら、何となく庭に来てみた。

 

 一言で庭と言っても正門にあるような花でいっぱいの所ではなく、開けていてバスケができる

ぐらいの大きさの庭だ。

 

 道中で妖精メイドに聞いたところ、紅魔館には庭が四つに分かれているらしく、正門は美鈴が、

その他は咲夜と妖精メイド達で分担しているらしい。

 

 美鈴が少々不憫に思えたが、館全体を世話する労力と比べればそこまでではないか、と思うこと

にした。

 

「よいしょ……」

 

 誰も来ないことをいいことに、仰向けで寝転がってみる。

 

 人工じゃない芝と綺麗な風が、自分をやさしく包み込んでくれた。

 

 外の文明があまりにも発達した世界では、なかなか味わえない。

 

 今まで肺に溜まっていたのはただの排気ガスの塊だったのではないかと錯覚するほど、ここの

空気は澄んでいる。

 

 当たり前に呼吸することが幸せに思えた後、立ち上がって正門まで歩いていく。

 

 することもないし、どうせなら約束を果たそうと思ったからだった。

 

 次第に花が見え始め、大仰な鉄製の門が見えてくる。

 

 それをくぐって外に出ると、目の前が野原に早変わりした。

 

 見渡す限り、自然しか目に入ってこない。

 

 ここに来た本来の目的も忘れ、ただただ見入ってしまう。

 

「あ、拓人さん。 どうしたんですか?」

 

 と、その声で自然に見入るのをやめ、聞こえてきた方へ向いて口を開く。

 

「おはようございます、美鈴さん。 実は美鈴さんに用がありまして」

 

「用事、ですか……?」

 

「この前の約束がまだだったと思いまして。 ……手合わせ願えませんか?」

 

 あの時の台詞そっくりに言うと、少し考えた後に笑顔で頷いた。

 

「いいですね。 私、ちょっと暇だったんですよ……!」

 

 手足をほぐしながら不敵な笑みを浮かべる美鈴は、さながら狂戦士のようだ。

 

 ならって自分も全身をほぐし、互いに準備運動を終わらせて5mほど距離を開ける。

 

「止めは寸止め。 それでいいですか?」

 

「はい。 前回は私が攻めでしたからね。 今回は拓人さんからどうぞ」

 

「では……遠慮なく!」

 

 息を止め、全力で美鈴に向かう。

 

 柔道は、いかに相手に手を出させないかどうかで勝敗が決まる。

 

 常に自分の流れに巻き込み、相手に対処させないことが重要だ。

 

 そうはいっても、相手が何をしてくるのか分かってしまうと、どれだけ早くても捌かれてしまう

のが現実。

 

 悟られないようにするために、視線は美鈴の顔に固定する。

 

 他の動きは、すべて横目か感覚で感じ取る。

 

 カウンター気味に出された前蹴りを左に避け、左手で右袖、右手で左襟を掴みにいく。

 

 流石の反応で右手は引かれてしまったが、右手は何とか襟をつかむことに成功した。

 

 美鈴は右手を引くときに半身になっており、自分に対して体の左側を見せるような形になって

いる。

 

 ここで右足で美鈴の左足を押さえ、右手でバランスを崩して倒す『支え釣り込み足』をかける。

 

 体重を支える足を横に出せずそのまま倒れるだろうと思い、事実そうなっていく。

 

 だが、それは途中までだった。

 

「エィヤッ!」

 

 声と共に、体が倒れるのではなく、丸まって宙で回り始めた。

 

 何かと思い、隠れてしまった顔から全身へ視野を広げると、丁度遠心力を十分に乗せた足が自分

の頭上にあった。

 

 やば、と声を出す余裕もなく、襟から手を離して回り込むようにして足を躱す。

 

 その足が地に着いたとたん、左足の回し蹴りが飛んできて、前回同様に巻き込むようにして

近づき両手で襟を狙いにいく――が、それが間違いだった。

 

「ハァッ!」

 

 ものすごい速さで裏拳が飛んできて、襟を狙いに伸ばしていた左腕を防御に使うしかない。

 

 裏拳は軽く腕を弾くのみならずその後ろの体の奥まで響く勢いがあり、自分を後ろへ倒すには

十分すぎた。

 

 首だけで受け身を取りながら立ち上がろうと勢いに反発するが、強すぎたせいかそのまま一回転

してしまう。

 

「二度も同じ手は食らいませんよ!」

 

 立ち上がったばかりの自分に叫び、距離を一気に詰めてくる。

 

 足が届くか届かないかの所まで来た美鈴は、急にしゃがんだかと思うと逆立ちの要領で手で

立ち、空いたリーチの長い足を振り回してきた。

 

 後ろに下がって避けていくが、当たり前のように追随してきて振り切れない。

 

 このままじり貧になるのは御免なため、美鈴の手を狙って地面をえぐるように蹴りを放つ。

 

 これは当たるだろう、と思っていたのだが、前振りもなく手だけで跳ねて避けられてしまった。

 

 しかも同時に両足をそろえて顔を狙ってきていた。

 

 息を鋭く飲む暇すらなく腕を斜めに重ねて防ぐが、人ひとりの体重は支えきれずに倒れるしか

なかった。

 

「もらった――」

 

 倒れきる途中から、確信したのかそんなことを言いながら、仰向けになった自分の喉笛に突きを

放ってくる。

 

 普通なら負ける――だが、柔道には『寝技』がある。

 

 突いてきた右手を顔のすぐ左に逸らし、そこを軸にして右手と右足で美鈴の左肩と左膝を押して

地面に転がす。

 

 立ち上がろうと一瞬四つん這いになったところを見逃さず、背中から覆いかぶさって両手を

首に、両足を胴に巻き付けて密着する。

 

 離れようとしてもがき始めるが、密着された状態から抜けるのは非常に困難だ。

 

 くっついたまま共に前転して、仰向けになればもう最後。

 

 両腕は足で胴と一緒にしばりつけ、首は裸締めを決めていく。

 

 まだ足が残っているが、この状況での活躍はできない。

 

 寸止めと自分で言ったので、ほんの少し食い込ませるだけにして話しかける。

 

「……どうです?」

 

「……はぁ~……降参です、参りましたよ……」

 

 へなへなと崩れるような降参を受け入れ、絞めと拘束を解く。

 

 美鈴が立った後に自分も立ち、服に着いた土や草をはたいて落とす。

 

「転んだ後どうやったんですか? 私にはさっぱりですよ」

 

「え~っと……『柔道』という武術みたいなものが外の世界にはありまして。 その中の寝技と

 いうのをやったんですよ」

 

「ほへ~……」

 

 純粋に感心したような顔をしながら、こくこくと頷いてくれる。

 

 その後、何かを思い出したかのように指を一本立て、興味津々に聞いてくる。

 

「不思議に思ってたんですけど、私が殴ったり蹴ったりして、当たってもなんか手ごたえが

 ないんですよ。 前回闘った時も同じで」

 

「あぁ、それはですね。 ちょっと速めに私の左肩を殴ってみてください」

 

「え? あ、はい」

 

 急な申し出にびっくりしたのか、戸惑い顔のまま流されたように美鈴の体が動き始める。

 

「ちょっとって、どれくらいです?」

 

「これぐらいで」

 

 デモンストレーションとして三回繰り返し、美鈴が構えると同時に自分も身構える。

 

「い、いきますよ?」

 

 無言で頷き、それを合図に腰をひねった見事な拳が肩をめがけて飛んできた。

 

 それを肩にあたる直前に左手で掴みながらいなし、一本背負いを途中までかける。

 

「うぉ、うわあぁ~!?」

 

 少しやりすぎたのか、自分の体を使って逆立ちができるぐらいまで体が跳ね上がった後、ぼすん

と少々重い音と共に背中に落ちてきた。

 

「どうでした?」

 

「……なんか、すごくふわってしました」

 

「抵抗感は?」

 

「なかったです……」

 

「これが柔道の基本です。 相手の力を利用するから、自分は力を入れなくても相手を動か

 せる。 そうして相手の攻撃から自分を守るんです」

 

 背負った状態から技を解き、対面して服のしわを伸ばしながら話した。

 

 またもや関心している美鈴の期待に応えるため、さらに話してみる。

 

「ですから、前回も今回も、私は闘ってる間に力はほとんど使っていません。 投げたりする力は

 全部美鈴さんから引き出してましたから」

 

「道理で気持ち悪いと思いました。 何しても思い通りに体が動かなくて……」

 

「最後、私が倒れた後もそうです。 美鈴さんの突きを躱した後、左に回ろうとした時に、肩と足

 を押しただけです。 その後立ち上がろうとしたところを羽交い絞めにして、前に一緒に

 転がって首を絞めてお終い。 簡単でしょう?」

 

「言葉で言われるとそうですが……は~、私の動きがわかってたんですね」

 

「わかっていた、というよりそう動くように仕組んだ、というのが正しいですが」

 

 悔しさと嬉しさが入り混じったような顔をしながら、美鈴は声なく薄く笑った。

 

 それから、美鈴は大きく息を吐きながら草の上に身を投げ飛ばして体を伸ばした。

 

「一応力はあるんですけどねえ……いやはや、外の世界はすごいですね」

 

「外の世界には65億も人がいますからね。 その中ですごい人がこういうのを作って残して

 いるんですよ」

 

「お、億ですか……想像つきませんね。 一度見てみたいです」

 

 苦笑いする美鈴を横目に、やめておいた方がいい、と瞬時に思ってしまう自分がいた。

 

「ここの方がいいですよ。 物は少ないですけど、平和ですし、空気も綺麗です」

 

 偽らざる本心を告げると、意外そうに表情を変えて問いてくる。

 

「空気が綺麗……?」

 

「外の世界は文明が発達しすぎて、ガスなんかで汚れてしまってます。 多分美鈴さんが行くと、

 咳が止まらないでしょうね」

 

「そんなにですか……失礼ですけど、なんか行きたくなくなりました」

 

「あはは。 これだけ言っておいてなんですが、悪いことばかりじゃないですよ。 ちゃんと綺麗

 なところもありますし。 機会があれば美鈴さんと一緒に行ってみたいです」

 

「機会があればですか。 それは何年先なんでしょうね」

 

「さあ」と首を傾げて言った途端、美鈴と一緒に何故か笑った。

 

 理由はわからないけど、今は笑っていたかった。

 

 ひとしきり笑って落ち着いた後、美鈴の隣に自分も寝そべった。

 

「このまま寝てしまいそうです」

 

「門番の仕事はいいんですか?」

 

「冗談ですよ。 拓人さんは寝てみてはどうですか?」

 

「ん~、どうしましょうか」

 

 日差しは強くも弱くもなく、風も柔らかく全身を撫でていき、人の手がかかってない草は上質の

ベッドのようだ。

 

 確かに、このまま寝てしまいそうというのもわかる。

 

 そして、美鈴が言ったせいか、さっきまで寝ていたのに実際に眠くなってきた。

 

「……寝ましょうかね。 特にやることもないですし」

 

「わかりました。 私は門番してますね。 手合わせありがとうございました」

 

「こちらも久しぶりにいい運動ができました。 また暇な時にでもしましょう」

 

「はい。 楽しみにしてます」

 

 話し終えると、かっこよく両手で飛び上がって見事に両足で着地した。

 

 そんな美鈴の様子を見ながら、目を閉じる。

 

 頭の中を空っぽにして自然に包まれるのは、悪い気分じゃない。

 

 初めての環境の中で、久しぶりに気持ちよく、堂々と昼寝をした。




 柔道ってどんな感じだったっけ……。柔道をしていた三年ほど前を思い出しながら書いた
二十六話でした。

 美鈴との戦闘シーンですが、あまり細かいところは気にしないでください。明らかな矛盾とか
以外は目を瞑っていただければと……。

 前書きにも書いた通り、悩んだ結果こうなりました。先に進もうかとは思ったのですが、紅魔館
メンバーをもっと書きたいな、なんて思いから続けることにしました。ちなみに紅魔郷は東方
シリーズの中で3番目に好きです。

 書くことがなくなったので今回はこの辺で。次回は来月にできたらと思っています。また次話で
お会いしましょう、さようなら……
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