東方壊命録   作:鼠返し

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 二か月ぶり、でしょうか……鼠返しです。遅筆で申し訳ないです……

 今回結構悩みました。どんな展開にしようかと思考を巡らせて、たまに紅魔郷から妖々夢とか
風神録とかに脱線したり、いろいろと大変でした。

 本編に移りましょうか。注意事項は最後に少しだけ両方のR-18要素から二~三歩ほど
下がったほどの描写があります。それ以外はいいかなと。

 第二十七話、楽しんでいただけたら幸いです。


第二十七話 魔法使いと小間使い

 ぱっちりと目が覚めた時には、日が暮れ始めていた。

 

 滅多に聞かないカラスの声が、一日が終わる旨を訴えてくる。

 

「ふぁ~……」

 

 違う環境で寝たのにもかかわらず、いつもの寝ぼけがなかった。

 

 寝始めた時はまだ起きて間がなかったが、不思議とこんな時間まで寝れた。

 

 寝床が良かったのか、ここまで寝るほど疲れていたのか定かではないのがもどかしい。

 

 考えても意味がなさそうなため、体を起こすと同時に気にしないことにした。

 

 草の上に座ったまま伸びをして、茜色の景色を見てみる。

 

 外の世界にも緑はあるが、これほどまで美しい景色はなかなか拝めないだろう。

 

 ずっと自然のままで人の手がかかっていない緑は、明るさが違った。

 

 一つ一つの植物が石を持って空気と踊っているような、生き生きとしたものを感じる。

 

 ただただ、圧巻されるばかり。

 

 しばらく眺めていたら、日がほとんど落ちて数メートル先の視認が怪しいほどまで暗くなって

しまった。

 

 本当に小さくだが、妖怪と思しき声も聞こえ始めたため、ひとまず中に入ろうと立ち上がる。

 

 ぽきぽきと鳴る腰に快感を覚えつつ門をくぐろうとすると、端で美鈴が直立不動で寝てしまって

いた。

 

 また咲夜にどやされるのは可哀想と思い、肩を軽く叩いて呼び掛ける。

 

「美鈴さん、起きてますかー?」

 

「ふみゅ……? 拓人さん、どうかしましたか……?」

 

 少々寝ぼけ眼な美鈴に苦笑しつつ、眠気を覚ますために少し声を大きくする。

 

「そろそろ咲夜さんが来ると思いますよ。 寝ていたらまたナイフ投げられるんじゃない

 ですか?」

 

「あ……もうこんな時間ですか。 ありがとうー……ございます」

 

 漫画ならぽわぽわといった擬音が浮かびそうな美鈴は、伸びをしながらそう答えた。

 

 ついでに落ちそうな帽子も指摘して直させ、少し話をしようと口を開く。

 

「美鈴さんって毎日ここで門番してるんですか?」

 

「えぇ、まぁ。 でも、あまり退屈はしないんですよ? 妖精のみんなが遊びに来たり、人里から

 腕に自信のある格闘家が来たりで、意外と飽きません」

 

「格闘家、ですか……?」

 

 聞きなれない言葉を聞き直すと、美鈴は少し笑顔になって話し始める。

 

「昔、館に侵入しようとした人がいたんです。 その時ぼこぼこにして帰らせたら、人里で

 『化け物みたいに強い女がいる』って噂になっちゃいまして。 それから格闘家やら何やらが

 押し掛けるようになったんです。 今は落ち着いて三日に一度くらいですけど、これが力に物を

 言わせるばかりで弱いったらありゃしないんですよ。 並大抵の人間に負けるほど、非力な妖怪

 じゃありませんから!」

 

「は、はぁ……」

 

「少しは拓人さんを見習ってテクニックを身に付けてきてほしいですよ。 まぁ、咲夜さんほど

 となれば厄介なことこの上ないわけなんですが、最近ナイフばっかりで体使ってなさそうです

 からね、肉弾戦なら私の方が上かもしれないですねぇ――って、拓人さん?」

 

 勢いに乗った長話の途中から指を指し続けていたが、ようやく気付いてくれた。

 

 手遅れだろうが。

 

「――やってみる? 肉弾戦」

 

 理由は単純明快。

 

 金剛力士も怖気づくようなオーラをまとった咲夜が、後ろに立っているのだから。

 

「……咲夜さん、いったい、いつか――らぁっ!?」

 

 咲夜が右腕をひねり上げると同時に、美鈴の声もひねり上がった。

 

「テクニックがどうやらってところからかしら」

 

「なんで一番聞かれちゃいけないところからなんですかぁ!? あと痛い痛い肩外れます腕折れ

 ますぅぅぅ!」

 

「大丈夫よ、外れたらはめればいいし、折れたらパチュリー様に治癒魔法で治してもらえば

 いいわ」

 

「どっちも痛いじゃないですかぁあああ!」

 

「たまには体も使わないとね」

 

 肉弾戦でも、咲夜のテクニックの前に勝ちはなかったようだ。

 

 妖怪とはいえ女性がしてはいけないような表情を美鈴が浮かべ始めたため、「まあまあ……」と

間に入り込むようにして落ち着かせる。

 

 多少は渋ってくると思ったが、諦めがいいのか本気ではなかったのか、あっさりと美鈴の腕を

解放した。

 

「まだまだね。 もっと()()()()()を身に付けてから物を言いなさい」

 

「なんで鍛えもしてないのに咲夜さんが……」

 

「何?」

 

「……ごめんなさい」

 

 腕を押さえながらぼそぼそ言う美鈴を、咲夜はナイフの柄を見せながら抑えつけた。

 

 少々荒々しいが、互いが信用できているからこそのやり取りに、自然と口角が上がる。

 

「それで、私の腕をひねり上げるために来たんですか?」

 

「まさか。 ……拓人様は、今晩もお泊りなさいますか?」

 

「まぁこんな時間ですし……迷惑でなければ泊めさせていただければと」

 

「そんなことはございません。 それでは、夕食の準備が整いましたので、よろしければ召し

 上がってください。 お嬢様も、来ていただければ喜びます」

 

「では、ご厄介になります」

 

 一つながりの会話を終え、咲夜が歩き始めるのに合わせて館に足を向ける。

 

「あの~、私のご飯は……?」と美鈴の悲しげな声を「後で」の一言で咲夜が封じ込め、正面の

入口をくぐる。

 

 こう何回も見ていると慣れてくるが、この内装に飽きることはない。

 

 隅々まで紅いことを除けばな、と思いつつ通過して、数分歩いて何回目かになる食堂へと入る。

 

 強くも弱くもない匂いが鼻をくすぐり、胃が食べ物をよこせとせがんできた。

 

 早く食べたいとは思うが、ここの主に挨拶をするのが先だ。

 

「どうも、レミリアさん」

 

「あら、意外ね。 てっきりもう帰っているのかと思ったわ」

 

「本来はそうしようかと思いましたが、今日は天気が良くて、外で寝てしまいまして」

 

「そう……」

 

 普通に話していたら、レミリアの機嫌が悪くなったのか、顔を伏せて目を閉じてしまう。

 

 何か間違えたのか、と思ったが、誘うように翼を揺らしているのが目に入った。

 

 レミリアの考えが読めるはずもないが、一か八かで話を切り出してみる。

 

「その様子だとご迷惑だったでしょうか。 本日もまことに勝手ながら泊めさせていただきたいと

 思っていたのですが、お食事をいただいた後、帰路に就くことにしましょう」

 

 芝居がかかった声で話すと、レミリアは少し驚いた顔をした。

 

「……そんな事はないわ。 部屋はいつでも開いているから、客人は大歓迎よ。 もっとも、魑魅

 魍魎が跋扈する夜の中を帰りたいのであれば、引き止めないわ」

 

「それはそれは。 ではお言葉に甘えまして、本日も泊まらせていただくことにします」

 

「そうでなくては。 大したもてなしはできないけど、この夜を楽しんで」

 

 賭けが当たったらしく、思った以上に言葉遊びに興じてくれた。

 

 主としてふさわしい毅然とした態度の後ろで、ふわふわと楽しかったと語る翼が揺れている。

 

 互いに微笑を交換して、せっかくの料理が冷めないうちに席に着く。

 

 今日はサラダや野菜の入ったスープなど、野菜が中心のメニューだ。

 

「今日は野菜なのね。 久しぶりだわ」

 

 いつの間にか入ってきていたパチュリーが、自分と向かいの席に腰かけながら呟いた。

 

「えぇ。 人里では野菜が溢れるほどに売られていましたので」

 

「そう。 レミィは肉肉ってうるさいから、ちょうどいいけど」

 

 最後は小声で、なぜか自分に向けて言ってきた。

 

 どうでもいいと思ったが覚えておくことにして、とりあえず一口食べてみる。

 

 味は、やっぱり美味しかった。

 

 外の世界では一応自炊をしていただけに、少し悔しい。

 

「お口に合いませんでしたか?」

 

 ふと声がかかった方を見れば、咲夜が非常に申し訳なさそうな子をしていた。

 

 よくよく思い返せば、味に感想を抱くと同時にため息をついてしまっていた。

 

 あまりにも失礼なことをしてしまった、と自分を戒める。

 

「いえ、とてもおいしいですよ。 ただ、私より上手なのが悔しかっただけです」

 

「そうでしたか。 ……お時間がありましたが、僭越ながら料理の手ほどきを致しましょうか?」

 

 普段の咲夜なら言わないようなことに少し驚きつつも、ありきたりな、それでいて本心からの

言葉を返す。

 

「ありがとうございます。 すぐには訪れないかもしれませんが、楽しみにしています」

 

「いつでも大丈夫ですので、気が向いたときにでも声をおかけください。 ……引き止めてしまい

 申し訳ありません。 引き続き食事をお楽しみください」

 

 そういうと一歩引き、咲夜はレミリアの元へ歩き始めた。

 

 冷めないうちに、料理を味わいつつ胃へ収めていく。

 

 皿の上から半分ほどが消えた頃に、不意にパチュリーが話しかけてくる。

 

「終わったら、一緒に来てくれないかしら。 私の部屋」

 

「えぇ、わかりました。 …………?」

 

 手を止めて返事をすると、パチュリーの様子がおかしいことに気付いた。

 

 言葉や顔色は変わっていないのに、どこか違うような気がする。

 

 何かを期待するような、生き生きとしているのに近いとは思うが、はっきりとはわからない。

 

 気にしつつも美味しくすべて平らげて席を立つと、不意に両脇を抱えられた。

 

「は~い拓人さ~ん、こっちですよ~」

 

「いや、ちょっと、え?」

 

 食事ということで動きが鈍くなった頭をおいていくように、周囲が流れ始める。

 

 さらりと目の前に垂れた赤髪を追っていくと、小悪魔が自分を抱えて飛んでいた。

 

「こぁさん、一体何ですか?」

 

「何って……うふふっ……!」

 

 自分の言葉など興味を亡くしたのか、一人勝手にほくそ笑み始める。

 

 そのまま食堂を出てふらふらと飛んでいくので、反抗して両脇の拘束を解き下に足をつける。

 

 パチュリーに「逃げる前に捕まえろ」みたいなことを言われたのだろうと推測して、ため息

交じりに話す。

 

「自分で歩きますよ。 軽く運動もしておきたいですし」

 

「……私に」

 

 急にしおらしくなって、うつむきつつ甘えるような声が聞こえてきた。

 

 答えになっていない返事に内心おろおろするが、悟られないようにポーカーフェイスを貫く。

 

 そんな自分の目の前で、長くも艶があって綺麗な髪をいじりながら、顔を上げつつ。

 

「私に触れられるの……いや、でしたか……?」

 

 涙目の、上目遣い。

 

 普段の小悪魔を知らなければ、少しは緊張していたかもしれない。

 

 要するに、今の自分には無駄だった。

 

「……何が目的ですか?」

 

「も、目的だなんて、ありません……」

 

 あくまでこの姿勢を貫くらしく、同じく甘い声で反論してきた。

 

 どう聞いても芝居かかった声に、苦笑とため息が同時に漏れる。

 

 そのままパチュリーに言われたように図書館へ向かう。

 

 別の道から通ってきたパチュリーと会い、これ幸いと相談してみる。

 

「さっきからこぁさんの様子がおかしいのですが、どうしたんですか?」

 

「私じゃなくて、後ろの本人には言わないの?」

 

「無駄でしたよ」

 

 短く言い切ると、パチュリーは頭を抱えて困り果てたように首を横に振った。

 

「読んだ本の気に入った登場人物とか、興味のある性格なんかをすぐ真似したがるのよ。 今回は

 あなたに色仕掛けしてるみたいね」

 

「……これが?」

 

 後ろを振り返り、小悪魔を見てみる。

 

 ぱっと見は、悪く言えば根暗、良く言えば大人しめの女の子にしか見えない。

 

 どこに色気があるのかさっぱり分からないでいると、演技をやめたのか、前に垂らしていた髪を

後ろへ払い、残念そうな、かつ普段の小悪魔に戻った。

 

「はぁ……見た目との反動でころっと拓人さんを落とそうと思ったのに、ばらすなんてパチュリー

 様ひどいです」

 

「こぁ、どこか間違ってるわよ」

 

「あれ?」

 

 所謂『ギャップ萌え』なるものを狙っていたのだろうが、生憎女性にさほど興味はない。

 

 内心あきれているとパチュリーが先を行き始めたので、小悪魔と一緒に着いていく。

 

 このまま何事もなく平和にたどり着ければ、と思っていると、平和だったが何事かが起こって

しまう。

 

 じっと、小悪魔が見てきている。

 

 腕、胴、脚、また腕、と全身を視線で舐められるのは、気分が良いものではない。

 

「私の体に何か……?」

 

 薄ら寒さを跳ね除けながら聞くと、小悪魔は至って真面目な顔で返答してくる。

 

「男の人の体ってあまり見たことないですから、つい。 外の世界では拓人さんぐらいが標準

 なんですか?」

 

「標準はもう少し縦にも横にも大きいですよ。 私はまだ小さい方です」

 

「へえ~……。 まぁ、確かに拓人さんは小さいですよね」

 

「っ……」

 

 小悪魔が心に刺さる言葉を言ってくるが、反論できない。

 

 身長が162~163cmの自分に対して、小悪魔は少し高く165cmほどあるのだ。

 

 直球に言われたからと言って、言い返せるはずもない。

 

「女の方はどうなの?」

 

 前を向いていたパチュリーが、興味ありげに顔を向けて聞いてきた。

 

 悲しさを押し込めて、質問に答える。

 

「女性は……身長は私ぐらいですかね。 体重は私と同じか少し軽いぐらいかと」

 

「私は結構小さいのね。 咲夜から聞いたりするけど、人里では私ぐらいが多いそうよ」

 

 そんなことを言われて気になったので、パチュリーの身長を目分量で測ってみる。

 

 おおよそ155cmぐらいと、小悪魔と10cm程も違う。

 

 体の方は大きめの紫色の服で見えないが、腕と顔の肉付き具合から見て少し痩せ気味の体系

だろう。

 

 ただ文明は違ってくるはずなので、一概に時代を特定することなどできないが。

 

「あら、私の体に興味でも湧いた?」

 

 恥ずかしげもなく言ってきたパチュリーは、守るように自身の体を腕で抱いていた。

 

 ほんの一瞬だけしか見ていないのに、やはり女性は男の視線に敏感なのだと再認識しつつ口を

開く。

 

「いえ。 ここではパチュリーさんぐらいが平均なんだな、と」

 

「あら、残念」

 

 言葉とは裏腹に残念がる様子を見せず、パチュリーは再び前を向いて歩き始める。

 

 すると、今度は小悪魔が、遠慮もなく腕をぺたぺたと触り始めた。

 

「で、今度は何ですか?」

 

「人間の、しかも男の体を触る機会なんて滅多にありませんからね。 情報収集です」

 

「そうですか……」

 

 それならいいかと思い、一応目を配りながらも自由に触らせる。

 

 ――別にこれといって駄目なわけではないが、触り方が妙にねちっこい。

 

 肩まで全て触りきったところで、指を絡めて来たり、袖から中に手を入れてきたりと、段々と

深く踏み込んでくる。

 

 暑苦しいからやめてほしい、と心の隅で思っても通じる訳はなく、されるがままに服まで脱が

された。

 

「おぉ……」と言われても、反応に困ってしまう。

 

 外気にさらされた腕を再び直接触り、結局図書館に着くまで触りっぱなしだった。

 

 第一印象は『別世界』。

 

 10m×5mほどの、何百何千冊入るのかわからない本棚が何個も並び、ぱっと見の広さは

サッカーコートが4つほどだろうか。

 

 奥にはさらに大きな棚も見えるため、実際はもっと広いだろう。

 

「どう? 私の図書館は」

 

「すごいですけど、すごすぎて眩暈がしそうです」

 

 比喩ではなく、本当に倒れてしまいそうだ。

 

「まぁ、私のとは言っても、元からあっただけでまだ全部読み切れてないのだけれど。 一緒に

 全部読んでみる?」

 

「読み終わる前に人生が終わりそうなので遠慮させていただきます」

 

「そう。 まあいいわ、こっちよ」

 

 小悪魔に腕を撫でられ触られ、うっとうしく感じつつ言われた通りに付いていく。

 

 文学、地学、薬学、歴史、童話、魔法と、非常に多くの種類の本が並ぶ棚の間をすり抜けて

進む。

 

 そして途中で右手に飽きたのか調べつくしたのか、左腕と体に手が回された。

 

 もちろんくすぐったさが生じ、笑い声を抑えながら小悪魔の手を握って止める。

 

「くすぐったいんでやめていただけますか?」

 

「嫌です」

 

「なぜ……」

 

 拒否を拒否され、お構いなく問答無用に、自分の手を振り払って再び触り始めた。

 

「っふ……んふ、ぐっ……!」

 

 押さえようとしても漏れる声、そして止まない手の動き。

 

 思いっきり触ってくるのなら耐えられるかもしれないが、さわさわと腫れ物に触れるようにして

いるため、はっきり言ってたちが悪い。

 

  ……もう、勘弁してくれ。

 

 内心跪きながら涙しつつ、体は薄気味悪く笑いながら、なんとかパチュリーの部屋らしき所へ

着いた。

 

 招かれるまま中に入ると、この前自分が目覚めた台があった。

 

「こぁ、そろそろやめなさい」

 

「はいは~い」

 

 小悪魔はすんなりと手を止め、にこにこ笑いながらパチュリーの元に戻った。

 

 二対一のような構造になり、取り残されたようで少し居心地が悪くなる。

 

 そんなことはいざ知らず、二人ともてきぱきと何かを準備し始める。

 

「あ、あの~……」と聞いても、待っているように手で止められてしまい、黙ってみていること

しかできない。

 

 床に散らばっている本を片付け、分厚い本と羽ペンを持ってきて、長机を置き、水晶玉を何個も

持ってくる様子を何分か眺める。

 

 それが終わると台に立つようにパチュリーに指示され、それに従う。

 

 ようやく全部終わったらしく、数メートル離れた机に二人が座って動きが止まった。

 

「……あの、何するんですか?」

 

「ちょっと私の実験に付き合ってもらおうと思って」

 

 一応答えては貰ったが、肝心なことが分からず頭に?が浮かぶ自分を他所にして本を開き、

パチュリーと小悪魔が手をつないだ。

 

「「Beschwört(ベスウェート) einen(エイネン) Tentakel(テンターケル)」」

 

「ベ、ベス、うぇ……うぇ?」

 

 訳も分からず更に?を増やしていると、台が薄い赤色に光り始めた。

 

 少し大きさの違う輪が二重に重なり、自分には解読不能の文字なのか記号なのかわからない何か

を含んだ、魔法陣らしきものが足元に表れる。

 

 それは一枚絵とは違い、形を変えて魔法陣の中に等間隔に6~7個の丸を作り出した。

 

 おろおろするしかなく不安になって原因と思われる二人に目を向けるが、パチュリーは真剣に

魔法陣を見つめ、小悪魔は風もないのに髪をたなびかせながら目を瞑って何かに集中している。

 

 もちろん逃げ出すわけにも話しかける訳にもいかず頭をひねっていると、丸の中から何かが天井

めがけて飛び出した。

 

「うわっ!? な、なんだこれ!?」

 

 半分腰が砕けつつも、自分を驚かした何かを目で追う。

 

 飛び出したのではなく魔法陣から生えたような棒状のものは、妙に生き物のように小さくも

しっかりと脈動し、昔見たSF映画を思い出させた。

 

 先端は丸く、タコのように全方向にうねうねしながらその場にとどまる恐怖に囲まれ、抗議する

ために口を開く。

 

「ちょ、こ、これなんですか! いったい何するつもり――」

 

 シュル――と、続きの言葉が遮られた。

 

 両足を同時に何かにすくわれ、体が逆さまになって2メートルほど上昇したのだ。

 

 ?が!に変わるよりも速く、残りの何かは自分の体を縛り広げていく。

 

  これはまるで……

 

「しょく、しゅ……?」

 

「えぇそうね。 私が召喚した触手よ」

 

 パチュリーが小悪魔の手を離しながら、宙吊りになった自分の元へ歩いてくる。

 

「私をいったいどうするつもりですか……?」

 

「調べつくすのよ。 文字通り、体の隅々まで。 頭の先から足のつま先、筋肉や内臓に至る

 すべてをね」

 

「――っ!?」

 

 脳裏に『解剖』の二文字が浮かび、体が無意識に収縮した。

 

 その様子を見て、パチュリーはくすりと笑う。

 

 いや、笑い事ではないだろう。

 

 少なくとも、自分は命の危険を感じて必死なのだ。

 

「別に体をかっ捌こうなんてわけじゃないわ。 この水晶玉で覗き見るだけよ」

 

 片手に持っていた水晶玉を自分の頭の前に掲げ、自分にも見せつけるようにしてくる。

 

 写っていたのは、テレビで何度か見た脳そのものだった。

 

 3Dモデルやそんなものじゃなく、どこまでも本物の、微弱な電気が流れ続ける、人体を構成

する上で必要不可欠な臓器。

 

 食事をとったばかりの自分には数秒が限界で、胃が収縮する前に目を逸らす。

 

「見たくないならそれでいいわ。 私は遠慮なく見させてもらうけど」

 

 そう言って、羽ペンで分厚い、何も書かれていない本に何かを書いていく。

 

 恐らく、いやほぼ確実に、自分の脳のスケッチだろう。

 

「……なぜ、こんなことを……?」

 

 必死で目を瞑りながら聞くと、ペンを止めずに答えてくれる。

 

「男なんて滅多に見ないのよ。 この際だから参考までにあなたの体を調べておこうと思って」

 

「それだったら書物にも書いてあると思いますけど……」

 

「自分の目で見ないと信用できない質なの。 今日中に全部見させてもらうわよ」

 

「全部って……その、股のあれ、もですか……?」

 

「生殖器が一番の違いなのよ。 見ないわけないじゃない」

 

 うそだろ、と思いつつ、微かな望みを持って質問してみる。

 

 答えようによっては、女を前にした男として終わる気がする。

 

「……直接?」

 

「え? 皮膚を剥いで中身を直接見てほしいの?」

 

「皮膚を剥がずに外から直接お願いします……」

 

 男の前に男の何たるかが終わらせられるかもしれないと知り、深く絶望した。

 

 女にアレを直視される方がましだと本気で思ったのは、生まれて初めてだ。

 

 底なし沼のようなパチュリーの思惑に嵌っていく自分に涙しながら、体を隅々まで調べつく

された。




 どうしてこうなったのか自分でもわからない二十七話でした。

 頭の中で話が脱線したり逆走したりした結果こうなりました。レミリアと話したりとか咲夜の
手伝いしたりとかあったんですけどねぇ……

 次回がどうなるかとか全く考えていません。もしかすると前回と今回以上に間が空くかも
しれません。

 それまでまったり待っていただければ嬉しいです。それではまた次回にお会いしましょう。
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