時間が無かったというのもあるにはあるのですが、話をどうするのかが思いつかなかったのが
主な原因です。次回もこんな感じになってしまったら申し訳ないです……
さて真面目に前書きを。
今回は雰囲気的に少し重めに書きました。どシリアスな話が好みではない方は少々お気を
つけて。あと、書きたかったイチャイチャを少しほど。シリアスな話に埋もれてそれどころでは
なくなっていないことを願うばかりです。
久しぶりの二十九話。上記した内容を踏まえた上で楽しんでいただければと思います。
無音で床から数センチほど離れて飛び、フランの部屋を目指す。
寝床を探すと思い立ったものの、無断で部屋を借りてフランを寝かせる訳にはいかない。
抱きかかえているフランを惑わせることはしたくないし、咲夜に迷惑をかけたくもないからだ。
そうすると、必然的に本人の部屋に運ぼうという結論に至る。
図書館から出て数分経った今は、紅魔館の東奥から西に移動している。
もっとも紅魔館の中心から見て正門を北と見立てた方角なだけで、本当にこの表現が正しいとは
限らないが。
数人の妖精メイドに目を付けられながらも、脳で思い描く地図以上に複雑な廊下を通り、一際
目立つ石造りの場所を見つける。
窓から入っている月明かりではとても不十分なようで、ほんの数段しか先が見えない。
ここでぶっ倒れたり腕を生やしたりしたな、などと思い返しつつ、ゆっくり一段ずつ降りて
いく。
途中で比喩表現無しで何も見えなくなり、片手をフランの体から離して懐中電灯を具現化し、
足元を照らしつつ部屋を目指す。
まっすぐだと思っていたがやや螺旋状になっていたようで、長い円を一周描いたところでやっと
光を反射する扉を見つけた。
感覚だけで言えば、ビルを30階ほど降りたぐらいだろう。
懐中電灯を消し扉を手に掛けようと近づくとフランの翼が暴れ始め、気が遠くなりそうな時間を
かけてカキンカキンと減衰していく音を出した。
抱きなおして背中をさすってあげてからもう一度取っ手を掴むが、またしても翼が弾かれるよう
に反応してしまう。
扉に仕組みが……?
なんとなくそう思い、できるだけフランを扉に触れないようにすると、当たっていたらしく何も
反応を示さなかった。
「……あら、拓人じゃない」
フランを庇うように回転しながら部屋に入ると、背後からレミリアの声が聞こえた。
「私の妹を抱えて、何の用かしら?」
「変な場所で寝てしまったので、ここまで連れてこようかと」
「そう。 ありがとう」
「いえいえ、お気になさらず」
扉を閉めてベッドまで移動する間にそんな会話をし終わると、興味をなくしたようにレミリアは
部屋を眺め始める。
数秒後壁際まで歩き、壁の凹みを指でなぞる。
「これも、あれも。 あなたがフランから引き出したのね」
「……? あぁ、弾幕ですか?」
あれもと言われて視線を向けられた場所には、大小問わず無数の傷や凹みが付けられていた。
納得したように答えると、「えぇ」と返答してその後の言葉を待たれる。
「そうなるでしょうか。 弾幕ごっこですからね」
「ごっこね……あの巫女、余計なものをばらまいてくれたものよ、ほんと」
「ばらまく、って何を?」
「弾幕ごっことそのルール。 私たち妖怪にとっては、邪魔な足枷に過ぎないのよ。 昔は喉笛に
爪を立てて引き裂くのが普通だったもの」
どう反応するか困り、文字に表せないような苦笑をしながらフランをベッドに移す。
遠い目をして語るレミリアだが、どこか嬉しそうでもある。
「外の世界ではどうなのかしら。 やっぱり、相手を言いなりにさせるには殺すしかないの?」
「……結局のところ、そうですね。 話が通じないから力でねじ伏せてる人は、実際にいくらでも
います」
「通じれば、話し合い?」
「大体はそれで解決します。 でも、無くなりはしませんよ、殺しなんて」
「そう……そう」
レミリアは壁の傷跡から目を離し、ベッドに横にしているフランに近寄る。
バウンドするベッドの上へ膝を立て、自分の服の袖をつかんで離さないフランの右手を両手で
包む。
「私は話せなかったのに。 どうして拓人はできたのかしらね。 心底、羨ましいわ」
「……偶然ですよ」
感じたままを言っただけなのに、「納得できないわね、その答え」と返されてしまった。
フランを救えた、というと大仰な言い方になるが、そうできたのは本当にただの偶然だ。
レミリアだって言葉を交わせる、力も自分よりある。
心が不安定で、弱り切っているタイミングが自分が訪れた時だった。
そう考えるのが、少なくとも自分の中では自然だろう。
しかし、あえて言うならば、そう――
「もしかすると……」
「え?」
「私が、フランと似ていたからでしょうね」
この言葉に、レミリアは少し困惑する。
似ていたという言葉から、自分が狂っていたとでも思われたのだろうか。
「ほんの4、5年前の話でもしましょうか?」
「……人間が、四、五年を『ほんの』と言うのね」
「あなたから見れば、5年なんてすぐでしょう。 花が咲いて散って。 それが5回です」
「あらほんと。 で、その五回前に何があったのかしら?」
若干の言葉遊びを交え微笑を交わしあいながら、昔話を始めるとしよう。
腕に掴まって寝ている吸血鬼よりはるかに大人しかったものの、自分は狂っていた。
その始まりは中学三年生、親が殺された時からだ。
始まりとはいえ、すぐに苦しんだわけではない。
ごく少数ではあるが理解を示してくれる人もいて、完全に孤立していたわけではなかった
からだ。
その頃、自分は誰よりも苦しんでいるんだと勝手に思い込んでいた。
外ではまだごく一般的な『いじめ』の範疇に収まっているだけだったが、それでも人を殺した
事実も相まって誰よりも辛かったと感じていた。
それを簡単に塗りつぶす苦しみをほんの数瞬後に味わうなんて、当時は知るはずがない。
理由は違えど、身近の人をまた目の前で亡くして、自分もまた誰かを殺そうとした。
一瞬で知れ渡り、居場所が唯一の家からも無くなり、毎日毎日心も体も傷だらけ。
人間らしい心を表に出さず、動物のように生物としての最低限必要な行動を繰り返す毎日が全てとなった時、初めて本格的に自分は狂った。
五感は夢現、偽の人格ができ、思考を放棄する。
狂っているなんてそんな自覚はどこにもなく、振り返ってこそそう言える。
何に何をして欲しかったのか、今でもわからない。
それでも、言葉にできなくてもどこかでわかっていたのかも知れない。
そう考えると、自分の姿と重なったことに辻褄がある気がする。
比較するのもおこがましいが、少なくとも似たような時間を過ごしてきた。
十分すぎるほどの理由だと、自分は思う。
「……独りって、辛いのかしら」
「えぇ、とても。 そうそうわかる辛さではありませんけどね」
フランに話しかけるように会話する。
詫びるように優しい手が、絡んだ金髪をまっすぐに梳かしていく。
話せば話すほど、自分を含めた三人の腕が自然と絡んでいく。
独りは嫌だと言わんばかりに、ひたすら相手を求めるように、必然的に、濃密に。
「いつか……私も、独りになるのかしら……この子にしたように」
「誰かが傍にいますよ。 フランや、パチュリーさんや、美鈴さんが」
「咲夜は? あなたは、一緒じゃないの?」
「人間ですから。 必ず、レミリアさんより先に、いつか死にます」
胸が少しだけ痛む。
寂しがり屋の心が、ここまで触れ合った存在を離したくないと叫んでいる。
その叫びは腕へ伝わり、二人の手、ひいては体を引き寄せる。
死にたくない。
でも、いつか死にたい。
終わりが来るのが怖くて、それでも終わりが無いと怖くて。
わがままに矛盾を孕んだ考えが伝われば。
わかってくれればそれだけでいいのだが。
愚かな自分を少しでも理解してくれれば、それだけで。
「怖いの? 死ぬのが」
「……もちろん。 でも、この先、どこかで死にたいです」
「わからないわね……あなたは、私より濃い時間を過ごしてきたのかしら。 とても深く感じる
わ」
レミリアの片手が、不意に自分の頭に回される。
力が込められて、だんだんと顔が近づいていく。
目と目が近づいていくうちに、それ以上に唇が近づいていく。
しかし、触れ合う前に顔を引き、合っていた目を逸らす。
こんなことは一つも求めてない。
自分の拒絶をどう捉えたのか、横目に映るレミリアは悲しげに自分を見つめる。
「……私の、眷属になって。 いえ、なりなさい」
涙交じりの声が、ぽつりと呟かれる。
眷属。
吸血鬼になれ、寿命を延ばせ、と言ってくる。
「私と生きて。 ずっといて。 一緒に、いて……」
「……嫌です」
「……本当の事、聞かせて、ちょうだい」
なおも顔を近づけてくるが、手で塞ぐ。
だから、こんなものは望んでない。
「私は人間です。 人間として死なせてください」
「あなたも……咲夜と、同じようなこと……!」
咲夜と同じとは何のことだろうと一瞬思い、自分と同じことだと気付いた。
死ぬことが怖く、それでも覚悟し待ち続けている自分と同じ。
人間としての死を受け入れている、人らしい人だ。
「勝手に来て勝手にいなくなるなんて、ふざけてるの? せめて一緒にいなさいよ!」
「すみません。 私にも、私なりの覚悟があるので」
覚悟、というより受け止め方の方が近いのかもしれない。
0歳で生まれて赤子、20歳で大人、60歳前後で年寄り、90歳前後で死ぬ。
生まれてからの自分の常識がこれだから、自分もこの辺りの人生を歩むのだろうと勝手に決意、
もとい思い込みをしていた。
それが崩れるのが、今までの自分を否定してしまうのが怖いのだ。
自分が可愛いとよく言うが、まさしくそう。
『自己同一性を失いたくない』という一つの事だけでレミリアの誘いを断った十分な理由になる。
「……ばか。 ばか!」
「馬鹿で結構です」
「っ……! ずっと一緒に居られるのよ? それじゃ、駄目なの……?」
流れる涙も、回された腕も、伝わる鼓動も、熱い吐息も、全てが優しく、そして痛い。
少しは考えが傾いたりしたが、最後は元に戻った。
自分
「私は一生死ぬ人間ですよ。 大丈夫、生きている間は出来るだけ一緒ですから」
せめてもの償いをしようとしたがこのぐらいしか出来なかった。
抱きしめたりなんてしなかったし、涙も拭いたりしなかった。
上げて落とすような真似をしたくなかったというのもある。
「…………ばか」
こつんと、頭頂部を胸に押し当ててくる。
その後の長い息から、どうやら諦めたのだろう。
この決断をさせたことを、いつか死ぬまでに謝っておこう。
「眷属にならないし、きす……? もしてくれないし。 敬語だって抜いてくれないし、散々
よ……!」
「あー……んんっ。 それは、勢いというか慣れというか……」
「……聞き飽きたわ」
「ごめん」
小さくたたまれた腕が体の気持ちの良い場所を探り自分の服を掴む。
代わりに、という言葉が前に付くような行動に、戸惑いやら恥やらを捨てて頭を撫でるぐらい
しかできない。
だが、最初は呼吸や体の動きから嬉しそうにしていたものの、時間が経つにつれて翼が苛立ち
始める。
「……こんなときぐらい、抱きなさいよ」
不満の原因はそれだったらしい。
先ほど勇気を出して頭を撫でた自分が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。
だがまあ、これも短い人生の中の限りある経験だろう。
言われた通りに、フランに使われていない左腕だけではあるが、レミリアの肩を抱く。
自分の腰とレミリアの腹に挟まれるフランが可哀想だが、今だけは我慢してもらおう。
「これでいいか?」
「まだ……私が寝るまで、こうしてなさい……」
「まだ朝も来てないと思うけど、また寝るのか?」
「人間の昼寝みたいなものよ。 いいからもう黙って」
言われた通りに黙り、一人部屋にしては広すぎる部屋に耳鳴りがするほどの静けさが訪れる。
この中でずっと、自分の人生の何倍も何十倍も生きてきたフラン。
似たようなというだけで、本当の孤独を味わっていたのは自分じゃない。
迫害という形で他人と関わっていた自分とは違って、本当にフランは独りだったのだ。
生まれて半年で誰とも会話もせず暮らしてきたとなれば、やはり自分の苦痛は比べるのも
おこがましい。
曖昧にしか理解できていなかったのかもと思い、胸中で謝る。
そんな中、この状況を作った本人は、肩に置かれた自分の手を頭へ動かし、撫でるような仕草を
する。
撫でてくれというそのサインに、子供だななんて殴られそうな思いをしつつ応える。
おまけで少し力を込めて密着すると、安心したように抜けていた体の力がもっと抜けていくのが
分かった。
五百歳の子供とはこれいかに――いや、年齢を考えるのは無粋か。
五年しか家族と触れ合えず、それでいて甘えることのできない立場に居たせいで、自分以外の人
にこうやって甘えることができなかったのだろう。
それに人肌恋しいのは自分な訳で、レミリアを咎める事はできない。
お互い様というものだろうか。
どちらも、まだ大人になれてない。
「すー……すー……」
しばらくしていると寝てしまったらしく、胸に柔らかい寝息が当たる。
腹でももう一人が温めており、瞼が重くなり始めた。
寝てしまおうか、と考えたが最後、体を起こす気力など生まれなくなる。
そのまま欲に従って少し上げていた頭をベッドに落とし、目を閉じる。
こんな風に寝るのは小学生以来だ。
他人を感じながら寝ることがもう一度来るなんて思ってもみなかった。
懐かしさと嬉しさを抱きつつ、意識を落としていく。
今いる二人を妹のように錯覚しながら、ゆっくりと。
少々無理矢理感の否めないような二十九話でした。
実際に(生きれたらの話ですが)500年近く幽閉なんてされたら、私であれば自殺するか
どうにかして外に飛び出していきそうです。しかし東方紅魔郷のフランは姉より常識を持って霊夢
や魔理沙と接しているところを見るに、とてつもなく大人のオーラを感じます。流石吸血鬼。心が
ダイヤモンドでできていそうです。
皆さんも心の傷をお持ちかと思います。私もそうです。しかし負けることなく、乗り越えて日々
を暮らしていきたいところです。
最後が意味不明な感じになってしまいましたが、今回はこのあたりで。たとえ独りでも、心を
挫かずに頑張っていきましょう。