いろいろ、することがあったんです。あと、ネタがなかったんです。
ごちゃごちゃ述べるのもこれぐらいにして本編にいきましょうか。書くこともないですし。
第三十話です、どうぞ。
目が覚めると、まず二つの熱の塊を感じた。
見知らぬ天井から目を離し、ぼーっとした頭を動かしてそれを確かめる。
一つは体、一つは足にくっついている熱源は、順にレミリアとフランだ。
間抜けに驚きはしなかったが、現状を理解した脳は冷めていく。
寝ぼけが消え失せた代わりに、二人の体を細やかに感じてしまう。
昨日に首に噛みつかれた時とは違い、純粋な緊張で心臓が高鳴る。
一度も思わなかったわけではない形をなった状況に、誰に対してか自慢したくなった。
……暇だなぁ。
のんきなことを思い、足首だけを小さくぶらぶらさせる。
あまり大きく動かすと二人を起こしてしまうため、動きは最小限だ。
それにしても、二人はいつ起きるのか心配だ。
人間とほぼ同じ姿をしているものの、吸血鬼とあって夜行性であることは知っている。
レミリア曰く昼寝だそうだが、睡眠時間は人それぞれで推測なんてできない。
自分の就寝時刻すら把握していないのも合わさって、考えるのは無謀というものだ。
もう一度寝てみるか惰性で起きてみるかと天秤にかけてみようとした時、ふとレミリアの翼が
目に入った。
「…………」
がっしりとした骨が背中から伸び、一部が飛び出した後屈折してレイピアのように細く先端へ
続く。
そのたくましく鮮麗な骨から何本か枝分かれして、光が簡単に透けるほど薄い、蝙蝠などで言う
ところの翼膜を支えている。
知的好奇心が湧き、触れてみたいという思いが強くなる。
失礼だと、駄目だと思いつつも、空いて動かせる左手を止められない。
寝ているし優しく触れば大丈夫だろうと、勝手に作り上げた免罪符を頭に掲げ、畳まれ波が
できている膜を『ふみ』とつまんでみる。
犬猫の耳よりも薄く、伝わってくる体温に自然と興奮した。
紙より薄いだとかこんなところではちゃんと血は流れてるんだとか、好奇心が満たされていく
快感が、興奮という形で頭を揺さぶる。
少しして手を離し、今度は太めの主となる骨の方を触ってみる。
薄く毛が生えているせいかもしれないが、人間のそれとは少し違う骨だと感じた。
さすさす、と何度か動かしてから、枝分かれした翼膜を支えるようにしている細い骨へと関心と
共に指を向ける。
細い、しかしそれでいて強い骨だ。
先の先まで、細くはあれど一本全部が鍛え上げられた、それこそレイピアのようだ。
ここまでいろいろと触ってきて、次に興味がわいたのは生え際だった。
人間には存在しないものが、どこからどのようにしてあるのか、今まで疑問だった。
今が確かめるチャンスとばかりに、翼の根元へ目線を移していく。
当然だが、服に穴が開いていてそこから通す形になっており、はっきりとは見えない。
見えないこともないが、抱き合っているようなこの状況では体勢的にも目で見るには無理が
ある。
ゆっくりと骨をなぞりつつ背中へ動かしていく。
「……ひゅう!? ちょ、ちょっと!」
びくっとレミリアの全身が震え、ばたばたと翼が暴れ始める。
そういえば、途中から寝ていることをすっかり忘れてしまっていた。
徐々に羞恥心と思われる表情に変わっていくレミリアの顔は、比例して赤みも増していく。
「ふあ~……お姉さま……?」
腰にしがみつく妹が起き出しても、状況は全く変わらない。
しばらくフランに起因する音以外が消えたまま目を合わせ続ける。
「…………そんなに、触りたいの?」
何を言われようと真摯に受け止めようと構えていたにもかかわらず、少しの間固まって
しまった。
言われたことを少し時間をかけて理解し、こくりと頷いて否定する。
……ん?
「……物好き」
否定しようとしたはずだが、なぜか体が逆のことをしてしまった。
そんなことも知らずレミリアは起き上がってくるりと背中を自分に向け、翼をばさりと広げて
見せつけてくる。
今から言い直しても間に合うだろうに、情けない自分は幸運とばかりに触り始めてしまう。
「……っ」
触れた瞬間に小さく声を上げるので、びっくりして手を離してしまう。
とまどいつつも、重い口を開けて聞いてみる。
「なにか、いけなかったですか……?」
「その……咲夜にもあんまり触らせたことないから……優しくお願い」
甘噛みのような、それこそ女の子のような声に、わずかながらにも心臓が高鳴る。
だがその高鳴りが、不意に昔を思い出させた。
初めて『女』に虐げられた日のそれにそっくり。
色仕掛けの意味を初めて知ったあの日と変わらない。
全身を冷たい血液が流れていく。
「……早く、しなさいよ。 これでも、恥ずかしいんだから……」
促され、震える手で先ほどまで触っていたものを恐る恐る触ってみる。
再び感じた、血が通う優しく温かい翼。
――キメー! マジ変態あの人殺し!
頭で、憎たらしい女が叫ぶ。
ケダモノだとか変態だとか、ありもしない自分を勝手に作られる。
でも、今は何も言われない。
自分を知らない人はこんなにも暖かいことを、初めて知った。
そして安堵する自分が嫌いだ。
都合のいいことだけを見せて、本当のことを隠したままこうして甘える自分が大嫌いだ。
それでも嬉しい。
そのことが、とても悲しい。
「ねぇ、どうしたの? 何かあったの?」
フランに声をかけられ、やっと体の動きが戻る。
そして気が付けば、レミリアの羽を触ったまま涙を流していた。
泣いているのではなく、ただ涙が頬を伝う。
「な、泣くほどって、何なのよ……」
困惑してはいるがまんざらでもなさそうに翼をゆらゆら揺らすレミリアは、自分に安心感を
もたらした。
「……抱いていいですか」
自分でもさらっと出たのが不思議だ。
無性に温もりが欲しくなった。
「え? いやちょっと、フランが……好きに、すれば」
唐突の自分の言葉に驚いたが、振り返って自分の顔を見ると、静かに了承してくれた。
許しが出たため、安心して目の前の体を抱きしめる。
ただ心地よい感覚に身をゆだねる。
脈打つ体は暖かく、ゆだねてくる躰は愛おしい。
過去を、汚い自分を知らない相手はこんなにも優しい。
話さないのは卑怯だと思うが、打ち明けて拒否されるのも怖い。
この考えが知られたら、この腕の中の人はどう思うだろうか。
「私も入れて」
ごそごそと自分とレミリアの隙間を縫って、間にすっぽりフランが入ってきた。
「あったか~い」と非常にご満悦のようだ。
もう少しだけと決めて、二人をまとめて抱きしめる。
やはり、今言うことではないだろう。
今だけは汚く逃げてもいい。
そう言い聞かせて、もう少しだけ二人のぬくもりを感じ続けることにした。
「ふぁ~……おはようございます、拓人さぁん……」
寝ぼけ眼で、食堂に美鈴がやってきた。
もう少しした後には日が昇り始めたようで、咲夜がフランの部屋まで呼びに来てくれた。
急いで離れたため決定的な瞬間こそ見られはしなかったが、訝しむ視線を喰らったのは少し前の
話。
朝食、レミリアたちにとっては人間でいう夕食の時間だというので、ここに来て今に至るという
ことだ。
メイドの妖精たちが部屋の端に規則正しく並び見守られる中、場の空気に合わない登場をした
美鈴にレミリアは軽くため息を吐く。
「もうちょっとまともなあいさつの仕方はないの美鈴?」
「すみません、ここ最近眠くて……」
「いつもでしょ、咲夜から聞いているわ。 で、あいさつをするのは客人だけかしら」
「いえそんなことは! おはようございます!」
「遅い。 ……はぁ。 ほら、席についてゆっくりしなさい」
「はい、ありがとうございます!」
今まで見たことのない二人のやり取りを見ながら、とりあえずスープから頂く。
メニューは肉料理が中心の、いかにも西洋風といった料理だ。
すたすたと早歩きで自分の近くの席に近づき、ガタガタ音を鳴らしながらどすんと座る。
気の抜けたため息から、まるで全身の疲れが形として滲みだしているようだ。
「大変ですね……」
「まったくです……。 ま、住まわせてもらっているだけありがたいので、あまり文句は言え
ません」
「なるほど」
ここでいったん話を切って、止まっていた手を動かし肉を切って口に入れていく。
程よく香辛料が効いて、食欲をそそらざるを得ない素晴らしい味だ。
しっかりと味わい飲み込んでから、気になることを美鈴に聞いてみる。
「……美鈴さん、一つお聞きしてもいいですか?」
「はひ?
大口に肉を加えたままの少々情けない話し方に笑いをこらえつつ、本題を切り出してみる。
「美鈴さんは門番ですよね。 今は誰がしてるんですか?」
「……んくっ。 咲夜さんです。 機嫌がいい時や一人になりたい時とかに、たまに変わって
もらうんですよ」
「美鈴さんには厳しいイメージがありましたけど、優しいところもあるんですね」
「ただの気まぐれじゃないですかね」
一息吐いて、茶をすすり、二人同時にカップを机に置く。
その何気ない行動の一致に、少しだけ心地よさを覚えた。
紅魔館にいる人たちの中で、一番気が合うのは美鈴かもしれない。
「しかし、欲を言えばもっと変わってほしいんですよね。 たまには横になって寝たいです」
「いつもは立ったままですか……」
「慣れましたよ。 熟睡しませんし、誰かが近づいても『気』で分かりますからね。 ですけど、
たまにはぐっすり寝たいです……」
「我慢しなさい美鈴。 何のためにあなたを雇ったのか忘れたの?」
急に聞こえてきたと思ったら、レミリアが話しかけてきていた。
意外だったのか、端に並ぶ妖精メイドの半数ほどが差こそあれ驚いている。
美鈴も同様のようで、少しの間の後に話を続ける。
「……いえそんな。 でも、毎日外で立ってるだけなのは辛いんですよ……」
「なら咲夜と変わってみる? 館の掃除、百匹以上の妖精メイドの統率、私やパチェの雑用。
いろいろあるわよ」
「…………遠慮しておきます」
「なら頑張って。 門番なら咲夜よりあなたの方が適任よ」
涙目になりながら「はぁい……」と濡れていて乾いている声で返事をして食事を再開した。
見た目が元気のない子犬みたいで、少しだけ笑いが出そうになるが飲み込む。
残りも食べてしまおうと肉を切って食べようとしたとき、後ろからふわっと軽く抱きしめ
られた。
「ねぇねぇ、遊ぼうよ」
視界の端に垂れた金髪と幼い元気な声はフランのものだ。
口に入る寸前の肉を止め、首だけを動かしてフランの顔を見て話しかける。
「まだ食べてる人の邪魔をしちゃいけないだろ」
「あ、ごめん」
首に回した手を椅子の背もたれに置き、言う通りにしたよと軽く鼻を鳴らしてくる。
その様子に笑顔で応えながら止めていた肉を動かし、咀嚼し飲み込んでから話を切り出す。
「ちょっと今日は用事があるんだ。 遊ぶのはまた今度な」
用事、というのは湖に張ったブルーシートの回収のこと。
今まで忘れていたが、ただでさえ約束から一日遅れているのに、これ以上待たせるのはチルノは
もちろん大妖精、他の妖精たちにも申し訳ない。
「え~。 じゃあ終わったら」
「霊夢の所にも顔を出そうと思うんだ。 多分しばらく戻らないかな」
「む~……」
ふくれっ面をしているフランを横目に、残りを食べ進めていく。
遊びたくないというわけではないが、数日連続で泊まらせてもらっていることもあって流石に
まずいだろうというのが理由だ。
何もせず他人の家の上がりっぱなしというのは、申し訳なさから非常に居づらいものだ。
かといって何かを手伝うにも邪魔になるのは目に見え、大人しく退散するという手段を取らざる
を得ない。
「フラン、あまり無茶に止めちゃ駄目よ」
「お姉さまだって行ってほしくないんじゃないの?」
「っ……だからといって、拓人の行動を制限する理由にはならないわ。 そのあたり、ちゃんと
わかるわよね?」
「…………」
むすっとした顔がさらに不機嫌そうに変わり、少しの嬉しさを感じるとともに、その幼さに口角
が上がる。
「また来るよ。 だからちょっとだけ我慢してくれ」
「……うん」
小さくも返事をしてくれたフランに頷く。
「いいですよね、レミリアさん」
「えぇ、いつでも。 歓迎するわ」
「もしかしたら私の方から呼ぶかも」
「その時はまた協力してくださいね、拓人さん」
後ろの二人はパチュリーと小悪魔だ。
内心びくびくしながら頭を下げ、「お、お手柔らかに……」と震えた声で返した。
もうあんな体験は二度としたくない。
心持が原因で質の落ちた料理を食べながら、誰にも言えない思いを噛み締めた。
「じゃあなフラン。 また今度」
食べ終わってすぐ行こうとすると、フランやレミリア、その他妖精メイドを含め、外で門番を
している咲夜以外全員が自分の見送りに来ていた。
「数日間お世話になりました。 ありがとうございました」
「何か不満はあったりしたかしら」
「不満は……」
レミリアに聞かれ、ちらっと奥にいるパチュリーたちを見る。
正直に言うかどうか迷ったが、「ありませんでした」と今回は飲み込むことにした。
次来た時にされたら隠さずに言おう。
「ならよかった。 また来て長大。 いつでも迎える準備をしておくから」
「わかりました。 じゃあ、また来ます」
そう一礼して踵を返し、大きな扉へ向かう。
だが一歩目を踏み出す時に、フランに手をつかまれる。
「……ぎゅっ、てして」
「ここでするのは少し恥ずかしいんだけど。 みんな見てるし……」
次はかなり先になるであろうフランのわがままに、少し困惑してしまう。
踏みとどまらせるべく続く言葉を考えてみるが、自分が動く前に少し浮いて首に腕を回された。
妖精メイドどころか姉にも見られて、非常に居心地が悪い。
ただ昔に比べれば、フランの純粋な気持ちであることもあり、心の底から嫌というわけでは
ない。
その気持ちにこたえて、フランの体を抱き返す。
今後はもう大勢の前でこんなことはしないだろう。
「んふ~」と本人が満足そうなのが、今の自分の唯一の救いか。
それに、他人を感じるのはやっぱり悪くない。
できればずっとこうしていたいが、視線が刺さるのもあってやめることにする。
降ろすとき腕がねだってきたが、半ば無理矢理引き離した。
ちゃんと諦めるあたり、少しは成長したのかな、と親のように思った。
恥ずかしさから頭を掻いていると、ふと奥にいた妖精メイドのリーダーと目が合った。
どことなく焦っているようにも思われるその顔は少しだけ赤い。
はっきり見られていたことを再認識させられ、余計に羞恥心が煽られる。
「あら、どうしたの?」
数秒間リーダーを見つめていた目を離すと、他の全員が彼女を見ていた。
「……い、いえ、何でもないです……」
「みてた」
「りーだーみてた」
「いいなあいいなあ」
「もうみんな!」
小学生のようなノリで周りの妖精たちがからかい始めた。
対抗して叫ぶものの、エスカレートさせるばかりで全く解決にはなっていない。
それを見かねたのか、レミリアが手招きでリーダーを呼び、戸惑いながらもそれに従う。
部下には厳しいイメージあったが、ちゃんと優しいところもあると知り、レミリアに対する考え
が少し変わったような気がした。
「拓人、この子もお願い」
……ん?
別の方向へ、もう一度考えが変わった。
「ほら、してほしいんでしょ?」
「で、でも、拓人様がその……」
「お願いできるかしら。 咲夜の次に頑張っているし、たまにはしたいことさせてあげたいの」
とん、とレミリアに背中を押されたリーダーが、自分も前まで硬い動きで歩いてくる。
立ち止まったあとの姿勢はきれいだが、透けるほど薄い羽根は微妙に震えている。
「あー……してほしいの……?」
「できれば、ですけど……!」
周りの視線の痛さを避けるか、この娘の望みに応えるか。
後者を優先しそうになるが、今しないでいると後々彼女にあった時にも気まずくなるし、もし
この場で泣かれでもしたら周りの目線がさらに突き刺さりそうだ。
悪い娘でもないし、レミリアの言う通り褒美としてさせてもらおう。
「……ど、どうぞ」
そういうと、ふわりと自分の目線までリーダーが浮かぶ。
ちらりと視界に入るフランが何か言いたげな目をしているのもあり、早めに終わらせてほしい
ものだなと思うがなかなか始まらない。
ホバリングしたまま十秒ほどが経った頃、耐えかねたかのように口が開かれる。
「…………あの。 拓人様から、お願いします! 自分からは無理、です……!」
ああもうどうにでもなれ、と思ったのはおかしなことではないと思いたい。
早めに終わらせたいがために、聞いてすぐに浮かぶ小さな体を抱きしめる。
フランとはまた違う小さなぬくもりを感じる。
種族が違うせいもあるのだろうが、骨の太さや筋肉量、体の強張り方から体温、呼吸も何もかも
すべてが異なっている。
初めの思いを少し端に置いていろいろ感じていると、意外と力強くしっかりと両手を背中に
回された。
すると体が密着し、フランの時には感じなかった少し豊かな胸が体に押し当てられてしまう。
心臓が少し強くはねると同時に、何かを感じたのかフランの目が鋭くなった。
自分の知らない吸血鬼の能力なのか、本人の純粋な勘なのか。
服越しにいろいろ味わいつつ見つめたフランは、完全に見切っているようだった。
「……そろそろ、いいかな?」
「……はい」
最後に少しだけ力を込めてから、腕の中から文字通り飛び退いてもらった。
フィギュアスケーターのようにきれいな着地をした後、「ありがとうございました!」と頭を
下げてくれる。
大妖精と肩を並べるほどの律義さだ。
「仕事って大変?」
「……少し」
「頑張って。 応援してるよ」
「……はい……っ!」
少なくとも一か月くらいは会わないであろうと思い励ますと、うつむきつつもしっかり返事を
してくれた。
目線を合わせるために曲げていた足を延ばし、一息つく。
これ以上はないだろうと思い再度レミリアに礼をしようとすると、ふてくされた顔をしたフラン
が飛びついてくる。
声を出す暇もなくされたため体を仰け反らせて力を逃がしていると、これまた間髪入れず文句が
飛んでくる。
「あの子だけずるい。 もう一回!」
姿勢を戻しながら聞いているとそういうことらしい。
一回も二回も変わらないだろうと、言われるがままに抱き締めてやった。
先ほどに比べれば、これぐらい恥ずかしいの内にはもう入らない。
『ねえ、ちょっとだけいい……?』
『だめ』
口を首に付けて聞いてきたのに対し、即答で拒否する。
血を吸われるのは、最中はともかく後が気持ち悪い。
その後不安げにため息を吐くフランの頭を撫でた後、両脇をもって下へ降ろす。
悲しげに上目遣いをしても無駄だ。
「ではそろそろ。 数日間、お世話になりました」
「えぇ。 また会いましょう」
レミリアに短く答えてもらうと、今度こそ外へ向かって踵を返す。
さすがにもう邪魔されることなく、少し風の吹く庭へ出た。
美鈴の育てる綺麗な花を見つめながら正門に近づくと、策の端からメイド服のスカートが
なびいているのが見える。
門を開いて確認すると、話にも合った通り咲夜が門番を、というより佇んでいた。
そう見えたのはほんの一瞬で、気が付けば姿勢を正して自分に向いていた。
「拓人様、どうかしましたか?」
「そろそろ帰ろうかと。 レミリアさんにはさっき伝えてきました」
「もう少しおられてもよかったのですが。 部屋も食べ物にも余裕がありますので」
「さすがにこれ以上してもらうのは心が痛みますし、用事もありますから」
「無理には引き止めません。 またお越しください、いつでも歓迎いたします」
「ありがとうございます。 では」
最後に軽く礼をし、脚から霊力を出して、湖の方へ向かう。
木々に遮られて見えなくなる前に振り返ると、こちらを見てくれていたので軽く手を振って
みる。
遠目でもわかる綺麗な手の振りで返してくれ、また来ようと思いつつ前に向き直って再び湖を
目指した。
中途半端な感じで終わったことを少し後悔しております。第三十話でした。
紅霧異変を執筆し終えて約一年、気が付けば春雪異変にすら入れてない現状をどうしようかと
思い悩んでいます。しかしまだ描き切れてないキャラや場面があるのも事実。次回までがまた長く
なること、ご容赦ください……
長くなるとはいえ執筆自体はやめません。完結も原作の最新作に追いつくまでは、基本は考えて
いません。「いや追いつかないだろ」という考えはさておき、とりあえず春になるまでに春節異変
に入れたらと考えています。
毎度のことですが、遅筆ではありますがどうぞ気長にお待ちください。