80話もかけてなろう小説の棚ぼた主人公強化展開をやった漫画があるらしいよ!なの!

だから一話でマヌルを棚ぼた強化してやろうと思ったなの

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僕の武器は攻撃力9999の「あんこくけん」しかない

「マヌル。今日からお前はクビだ。このパーティから出ていってくれ」

 

 開口一番、マヌルは旅の仲間のケンシという男にそう言い放たれた。

 

「そ、そんな!」

「言い訳は認めないぞ。勇者様の幼馴染だからということで今まで見逃してやったが、お前は普段の素行が悪すぎる。それになんだ? 黒騎士という聞いたこともない職業だというから戦闘での活躍を期待していたが、実際にはお前は何もできない役立たずじゃないか。剣を振るうこともなく、盾で仲間を守るわけでもなく、後ろで薬草とパンを食ってるだけだ」

「そ、それは! 黒騎士のレベル上げのために必要なんです!」

「またそれか……マヌル。そんな言い分を俺たちが本気で信じていたと思っているのか? 多めに見てやっていただけだ。普段はサボっていても、いざという時はやる気を出すのだろう、これでもあの勇者様の同郷であり、彼女から認められているのだから、とな。だが実際は違った。マヌル、俺たちがこの前ドラゴンと戦った時は大変な目に遭ったな? 後の方から悪魔の群れも出てきたし、殲滅に非常に苦労した」

「はい。大変だったと思います」

「お前は後ろで飯を食っていただけだったけどな」

「……」

「言うことはもうないか? ならこの書類にサインをしていってくれ。それで除名の手続きが正式に完了する」

「……くそ」

「なんだって? 声が小さすぎて聞こえなかった。もう一回言ってくれ」

「なんでも、ありません」

「そうか。もう会うこともないだろう。さらばだ」

 

 そうして、マヌルは勇者パーティから追放された。

 帰り道、マヌルは泣いた。己が不甲斐なさを悔いたのではない。世の理不尽に嘆いたのだ。

 マヌルにとって、世のすべての出来事は自分にとって不都合に出来ており、星の回りの悪さによって自分は常に苦境に立たされているのだと、彼は考えていた。

 

 もしゃり、とマヌルは懐から取り出した草を食んだ。それは多くの人にとって「薬草」という名称で知られており、鎮痛・解熱の作用を持つとある植物を乾燥させたものであった。

 マヌルはこれを食べるのが日課だった。自身の持つ職業「黒騎士」によって課された制約が故であり、しかしマヌルはその行いを好んでいた。薬草は苦く乾燥していて、噛めば噛むほど口内の水分を奪っていく。それを毎日続けるというのは、想像以上に苦痛である。だが、それが良かった。マヌルは苦行を好んだからである。自らが徳を積んでいる気分になれたからだ。自身の精神と味覚を痛めつけるその行為はマヌルにとって修行であり、快楽の源であり、そして自身が努力をしているという主張をする時の根源だった。もはや薬草を食むことで経験値を得るーー自身を強くするための糧を獲得することだーーことはマヌルにとってさして重要なことではなくなっていたが、彼はそれに気付いていなかった。

 

 もしゃり。故郷へと帰る道すがらまた一口噛んだ。ぴろぴろりーん。マヌルの脳内にレベルアップの音が聞こえる。自分がまた強くなったのだ。とはいえマヌルはここまでの経験から、それによる恩恵にそこまでの期待を寄せていなかった。自分の肉体が大きく強化されたことも、新たに何か素晴らしい技を会得できた試しもなかったからだ。マヌルは自分の職業が嫌いだった。その名前と装備が無駄に仰々しいこと、それに反してあまりに弱い職業だったからだ。同じレベルでも、勇者やケンシの方が確実に強かった。

 大した変化はないだろうが、どれ一応確認だけはしてやるか……と思い、マヌルが自身のステータスウインドウを確認すると、普段とは違い、新たな技を獲得したという表記がされているではないか。新たな技の名前は「暗黒剣」というらしかった。詳細は不明だった。ただ、自分の剣で斬りかかる技であることは確かなようだった。

 

 その効果のほどがいかほどが分からないとはいえ、新たな力を手に入れたマヌルは先ほどより少しだけ前向きな心持ちで歩く。目指していたのは自身の故郷だった。やることもなくなったので村に帰って農夫でもやろうという、特に深く考えることもなく決めての行動だった。勇者パーティにいた頃はそれなりの金銭が支給されており、それが残っていたため、自堕落に過ごすなら自宅であろうという考えも含まれていた。

 

 だが、村に近づいてみればそこは燃えているではないか。

 

 マヌルの故郷は焼かれていた。ごうごうと燃える火は天をも焦さんとばかりに高々と上がっており、その中からはもはや「人のものである」と断言できるか怪しいほどに、苦痛に満ちた声が聞こえていた。断末魔と呼ぶに相応しい音であった。

 ぶわり、と向かい側から風が吹いてきて、マヌルの前髪を持ち上げた。その中には肉を焼きすぎた時の匂いが混じっていて、マヌルはたまらず嘔吐した。

 

「なんで、なんでこんなことに……」

「なんだァ? まだ生き残りがいたのかァ」

 

 マヌルが落ち着くためにその場でうずくまってえずいていると、後ろから声がした。知らぬ男の声だった。少なくともが旅立つまで、そのような声色の者は村には存在しなかった。

 

「お前は、誰だ」

「あーァ? 誰ェ? 誰、誰誰、ダレ? ヒャッハハハハハハ!! 俺は誰ェ!? 教えてやるよォ! 俺はドレッドノートォ!! 王国人は皆殺しダァ!」

「なんだ、お前……」

 

 明らかに気狂いの類だった。ドレッドノートと名乗ったその男は口から涎を垂らし、目を血走らせ、数秒ごとに足を鳴らしていた。

 だが、その男の強さは一目見るだけでもマヌルに伝わってきた。マヌルの身長を頭二つ分も超える、巨大な体躯。それを包む丸太のように太く、鍛えられた筋肉。熊のような男だった。男がその気になればマヌルなど潰れた赤茄子のようになってしまうであろうことは想像に難くなかった。

 

「王国人はァ……ころォす!!」

「う、うわああああ!!」

 

 ドレッドノートが悪鬼のような形相で飛び込んできたため、マヌルも咄嗟に技を繰り出した。だが、その顔は恐怖に歪み、腰は引けていた。形ばかりの抵抗であった。

 本能的に死を悟ったマヌルは、僅かな望みをまだ見ぬ新技に賭けた。自身が持つ既存のあらゆる手段では眼前の鬼を討伐せしめることはとてもではないが不可能であると考えたためだ。藁にもすがる思いだった。

 

「暗黒剣!」

 

 9999

 

「ぐあああァァァァァ!?!?!?」

 

 しかして、マヌルの繰り出した剣はドレッドノートを貫き、肋骨を砕き、心臓を潰し、その体を遥か前方へと飛ばした。

 

「え、あれ?」

 

 マヌルは困惑した。あれだけ強大に感じたはずのドレッドノートがいつの間にか肉団子になって転がっているからである。明らかに即死だった。その証拠として、マヌルが呆けているうちにその死体は光の粒となって消えていった。

 

 ぴろぴろりーん。

 

 マヌルの脳内に音が聞こえた。レベルアップの音である。強者を倒したため、普段よりも経験値を多くもらえたのだ。

 

 ぴろぴろりーん。ぴろぴろりーん。

 

 レベルアップはまだまだ続く。よほど、ドレッドノートの蓄えていた経験値が多かったのであろう。同族を殺した際、もらえる経験値の量は相手が生前獲得していたものと同じだけ貰えるということが知られていた。

 

 ぴろぴろりーん。ぴろぴろーん。ぴろぴろりーん。ぴろぴろりーん。

 

 ぴろぴろりーん。ぴろぴろりーんぴろぴろりーんぴろぴろりーんぴろぴろりーんぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろ……

 

 もはや数えるのも億劫なほどのレベルアップ音が響いた。日頃では嬉しさを伴って聞こえるはずのそれが、今だけは鬱陶しさを、ともすれば苦痛すら伴って聞こえるほどの多さだった。単純にうるさかった。マヌルは、この世界を作った神に、レベルアップの演出スキップ機能を実装してくれと願った。

 

 その願いは届くことはなく、しっかりと100回余りのレベルアップ音を済ませたところで、それはようやく止んだ。

 

 マヌルが慌ててステータスを確認すると、そのレベルは150以上に、素早さはかつての4倍に、防御力は2倍に、攻撃力は9999倍になっていた。攻撃力だけ高すぎてステータス画面をはみ出し、画面端で改行して二行目に突入していた。

 

「す、すごい。こんなステータス見たことがない」

 

 マヌルは全能感に酔いしれた。全身に力が満ちているのが肌で感じ取れた。たまらず、マヌルは駆け出した。

 

「アハ、アハハハハハハ!!」

 

 素晴らしいスピードだった。視界が早く流れすぎて、絵の具を水に垂らしたような景色になっていた。

 

 道中、タマウサギを見つけたので蹴り殺した。

 

 道中、ビーストイーターを見つけたので刺し殺した。

 

 道中、ネネコポンを見つけたので殴り殺した。

 

 道中、ハウンドドッグHHを見つけたので斬り殺した。

 

 道中、クオンツ族の女を見つけたので轢き殺そうとしたが、死ぬほど硬かったため暗黒剣で殺した。

 

「嗚呼、最高だ」

 

 マヌルは歓喜に満ち溢れていた。今までの不幸の積み重ねが報われる時がついに来たのだと、そう感じていた。これからの自分はやりたいことをやってよくて、そのための力を神様から与えられたのだと。今の幸福はこれまでの不幸の揺り戻しなのだと。

 

 もはや、村人の死や、家財が燃え尽きたことについてはマヌルの頭から抜け落ちていた。

 

「何から始めようかな! もう衛兵だって僕に敵わないんだし、お金で物を買う必要もないよね! 適当に犯罪者を殺して街を平和にしたりとかもしようかな! 昔僕をバカにした、エルフとかいう魔法しか取り柄のない害悪種族も根絶やしにしよう! あとは好きなものを好きなだけ食べて、住みたいところに住んで、魔族を皆殺しにして、魔王を倒して、勇者を僕の女にして、それから、それからーー」

 

「ああ、でもあれだけはやっておかないとな」

 

「ケンシは、この僕が直々に殺そう」

 

 そうして、マヌルは歩き出した。

 その先に、どれほどの後悔と絶望が待つのかを、今はまだ知らぬまま。


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