スケベ提督と元ブラック鎮守府   作:ルフレオ

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 誠に突然ですが、今回の短編を持ちまして本作は完結とさせていただきます。
 ここまでお付き合い下さった皆様方に心からの感謝を…。


提督の帰還 一

 

 

 

 ()()は、一本の電話から始まった。

 

 

 

「はい、こちら舞鶴鎮守府で…「影波君か!!私だ!!◯◯◯元帥だ!!!」

 

 電話をかけてきた声の主は、佐世保鎮守府の元提督であり、現日本海軍最高責任者でもある大本営の元帥殿だった。

 佐世保鎮守府に所属していた俺に現在の舞鶴鎮守府行きを命じた張本人でもある。

 

「は、はい影波ですけど…どうしたのですか?」

 

 

 

 

 

「前任の提督が脱走しよった!!」

 

 

 

 

 

 前任の提督───その言葉に思わず眉間に皺が寄る。

 

「それは…舞鶴鎮守府の前任ですか?」

 

「う、うむ…。本当にすまない…」

 

 受話器の向こうで話しかける元帥は本当に申し訳なさそうな声色だった。

 

 俺が舞鶴鎮守府に着任するよりも前の頃、今は故人となった叢雲の活躍により、大本営に捕らえられる事となった前任の提督。

 罪人として憲兵に引き渡され、現在は牢屋の中で壁のヒビを数えてばかりだと聞いていたが……。

 

「奴はどうやって逃げ出したのですか?」

 

「分からない。見張りの憲兵は全員死亡していた。一体どうやって檻の中から脱出したのか…。い、いやそんな事はどうでもいい。今も懸命に奴の足取りを追っているのだが、難航している。それに、大本営の小型船が一隻無くなっているのが確認されている。おそらく奴が……」

 

「海に逃げられては、居場所の特定は困難でしょうね」

 

「うむ…だからこそ、こちらの不手際で申し訳ないのだが、君達の管轄下でそれらしい男の目撃情報があったらすぐに知らせてほしいのだ。………奴が現れるとするならば、可能性が一番高いのは君のいる舞鶴鎮守府だろうしな」

 

「……了解しました。警戒します」

 

「頼んだよ、提督」

 

 そこで、大本営からの電話は切れた。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「───以上が、今朝方大本営から回ってきた悪いニュースだ。ココが一番狙われる可能性が高いとの事で、明日には大本営の方から憲兵の人間が応援に駆けつけてくれて、鎮守府周りの警備に当たってくれるそうだ。だが、決してそれに慢心する事なく、全員常に警戒を厳として日々の任務に取り掛かれ」

 

 

『了解しました!!!』

 

 

「うむ!解散!!」

 

 朝一番に号令をかけた全艦娘の緊急招集。

 

 一言話すそのたびに艦娘達の表情は憤怒に歪む。

 特に吹雪 時雨 響 弥生 天龍 夕張 加賀 金剛 武蔵の舞鶴鎮守府の最初期から着任していた艦娘達は正に般若の面。

 彼女達の心の闇は俺が着任してから今日に至るまでの間で十分取り除くことができたと思っている。

 だが、虐げられてきた本人への憎悪となると話は別。

 

 どうにかしてあげたいと心の隅で思いながら、俺は今日の日替わり定食を間宮から受け取るのだった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 暗い暗い海を渡る一隻の船。

 船に乗り込むのは一人の男と、黒い格好の異様な女。

 男の心は憎悪に満ちていた。

 

 

 

 許さん…!!許さんぞ…!!

 この私を豚箱に閉じ込めよって…!!

 この私の人生を台無しにしよって…!!

 

 あの無能共め…!!今度こそぶち殺してくれる!!!

 

 

 

 

 人を……いや艦娘をいたぶり、不必要に怖がらせ、暴力と恐怖で彼女達を縛りつけていたこの男は、黒い海の真ん中を進む。

 

 

「面白イコトを、教エてやルわ…。アナたの鎮守府、イマは別のテイトクが居ルみタイよ?」

 

 男の後ろには、禍々しい風貌をした黒い女がいた。

 

「なんだと!?オノレ…!!私の鎮守府にまんまと居座りおって!!そいつも処刑だァ!!!」

 

「ウッフフ♡ソウこなクっちゃ。セッかく助ケてアげたのだモの、タノしまセてちょウだイ?」

 

 

 女は深海棲艦であった。

 

 海に濡れた黒い髪。一切の光を通さない真っ黒な衣服。異常な程に青白い素肌。

 彼女を形取るパーツひとつひとつが彼女が人間とはよく似て異なる異形の生物だということを印象づける。

 

 

 

 女の名前は、深海棲姫。

 

 かつて、佐世保鎮守府近海に現れた最強の深海棲艦である。

 

 

 

 

(モウ少しヨ…モう少シで会エルわね…)

 

 女の心はドス黒い感情に満ちていた。

 いや、ドス黒いと言っては少し語弊があるかもしれない。

 彼女の心を満たす負の感情は、船に乗り込む薄汚れた男の醜悪な感情に比べればよほど美しく、それ以上に気持ちの悪いものだからだ。

 

 彼女の心に残るのはたった一人の艦娘。

 

 数年前に一度だけ戦い、己の艦生で唯一決着をつけることなく幕切れを迎えた、間違いなく過去最強の艦娘。

 

 

 名を───

 

 

 

(神通ゥ…!神通ウゥゥゥ……!!あぁぁぁぁ!!神通ウウウウウウウ!!!!アァァァアアアア!!!!素晴ラしいィ!!!オまえとまタ殺シあえル!!!まタあノ幸せガやッてクるのねェ!!!あぁたまラナい!!たまラないワ!!!コンなにも待ち遠シい…!!お前ニ会いタイ…!!そシてモう一度私と死合ってクレ!!コの私と殺しあっテ!!アの冷タい殺意の目デ、私を睨み殺シてェ!!!あぁぁーー!!!神通ウゥゥゥ!!!!!!)

 

 

 深海棲姫の抱く感情はまさに狂気であった。

 

 

(あぁ…!!こレこソが愛…!!ウツくしイワ…!!あァお願イよ神通!!モッと私を愛シて…!!もっと私ダケを見テ!!もっト私ヲ憎んで!!もッと私の事ダけを考えテ!!!私ハこンなにも!!こんなニもアなタに焦ガレているのダから!!!)

 

 

 彼女の前に立ちはだかり、砲口を向けた艦娘達はそれこそ星の数ほど存在する。

 だから、彼女は星の数ほどの艦娘を沈めてきた。

 

 長い長い戦いの日々に、彼女の心は少しずつ飽いてきてしまっていた。

 

 毎日毎日雑魚を沈め続ける流れ作業──。それが彼女にはたまらなく苦痛だった。退屈な日々に刺激を欲していた。

 

 そんな彼女が唯一名前も顔も覚えているたった一人の艦娘こそが、我らが舞鶴鎮守府お抱えの最強の軽巡洋艦 神通である。

 

 

(僅か20分にも満タない短いジかんダっタけれど…!!!ソレでも確信してイる!!この私の渇きを癒シてくれルのは神通オまえだけ…♡)

 

 

 

 彼女の願いは自らと対等に渡り合えるおそらく唯一の艦娘である神通と心ゆくまで思う存分死合うこと、ただそれだけ。

 

 囚われていた元提督を大本営の牢屋から引き摺り出したのだって『こいつを神通の前に連れて行けば心優しい神通はきっとブチ切れて、私のことを殺しにきてくれる筈!』だと思ったからだ。

 たったそれだけの理由なので、言ってしまえばこいつは神通と闘うための口実。

 

 この男が不要になれば全然普通に海に投げ捨てるだろうし、簡単に首だって刎ねるだろう。

 

 まさか自分がそんな適当な理由で助け出されたとは知る由もない舞鶴の前任提督は、妙に心ここに在らずな様子の深海棲姫に少し首を傾げるばかり。

 

 

 

 

 だが彼女はまだ知らない。

 

 

 深海棲姫はまだ知らない。

 

 

 神通のお腹には赤ん坊がいることを。

 

 

 自宅療養を言い渡され、海の上にすらほとんど立っていないことを。

 

 

 彼女と心ゆくまで死合う事は、不可能であるということを。

 

 

 

 

 

 そして、神通へぶつけることの叶わなくなった有り余る狂気は、一体いずこへ向けられるのだろうか…。

 

 

 そればかりはまだ、未だ誰も知る由もない。

 

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