「入電!!夕立に続いて最上、球磨、鈴谷がやられました!!」
「応援部隊行け!!!負傷艦の入渠急げ!!!バケツも使え!!使えるもんは全部使え!!」
担架に乗せられて運ばれてくる夕立。
ギリギリ生きてると言えるボロボロの身体を抑えながら、担架に乗せられて運ばれてくる夕立の姿に、提督の脳裏にも焦りが生じる。
(まさかあの夕立がこんなにあっさりやられるとは…!!)
提督が抱える駆逐艦の中では間違いなくダントツで最強の夕立が一番最初に運ばれてきたときの衝撃と絶望感は凄まじかった。
普段はどんな戦場に向かっても終わる頃には煤だらけ油まみれで元気いっぱいに『ぽい〜♡』と甘えてくる夕立からは想像も出来ないほどに全身傷だらけの弱々しい姿は提督の心に怒りと、それ以上の絶望をもたらした。
「提督さん…。ごめんなさいっぽい。夕立、勝てなかった…」
「…バーカ、お前が最後の最後まであいつに砲弾ぶちかましてやったっていうのは聞いてるよ。よく頑張ったな。あとは俺とお前のお友達に任せてよく休め。…特別に、明日は俺様特製のスーパーおにぎりを作ってやるからな」
「……エヘヘ」
嬉しそうに笑った夕立はそのまま入渠ドックへと運ばれていった。運ばれる夕立を見届けたあと、俺は隣に立つ神通に目を送った。
「……
「以前のヤツが相手なら、今の夕立さんの実力ならば遅れを取ることは無かったでしょうからね。今の私でも勝てるかどうか…」
「……クソ」
こんな時、なんの役にも立てない自分に本当に腹が立つ。
「提督。大丈夫か」
そのとき、現れたのは黒狼だった。
「お前、門番はどうしたんだよ」
「冬月と涼月が代わってくれた。今はお前のところに行ってやってくれってさ」
確かに。
忘れがちだが、黒狼は元々海軍有数の超エリート成績を収めた優秀な兵士だったのだ。
実際に艦娘を運用させた事こそないものの、煙草吹かしながらただ正門前に突っ立たせとくぐらいならば、まだ俺と一緒に頭を働かせる方が有用かもしれない。
黒狼は、俺と神通と同じようにボードの前に立つと、同じようにボードに貼り付けられた巨大な海図を見ながら、顎に手を当てた。
「……ここの岩場に誘い込んで一気に総攻撃!ってのはどうだ?奴をこの岩場に誘い込んで、装甲装備でガッチガチに固めた戦艦と重巡で逃げ道を塞ぐ。あとは大鳳だとか赤城だとか雲龍だとかの空母艦隊で一気に総攻撃を仕掛けて決めるんだ」
「いえ、ダメです。既に多くの空母艦が中破、もしくは大破に追い込まれており決定打に欠けます。それに、奴の一撃は武蔵さんの装甲も貫きました。壁としての役割を全うできる艦娘は存在しません」
なにより奴は機銃も扱える。
半端な攻撃機では撃ち落とされるだけだ。
「提督。一つ立案をしたいのですが、発言の許可を」
「あぁ、言ってくれ」
「敵の狙いは私です。私を海に出してください。お望み通り、私と奴が戦いましょう。お腹の赤ちゃんは………………………………………………海に流します。で、ですからどうか、全てが終わった後にまた私を孕ませていただければ…「それはダメだよ!!」
神通の言葉を遮ったのは、身重な神通のボディーガードを任されている二人の姉妹艦のうちの一人、那珂だった。
「せっかく授かった命なんだよ!?提督との赤ちゃんを殺しちゃ駄目だよ!!」
「うん、那珂の言う通りだよ。それに、お腹の赤ちゃんを死産させた直後の神通なんて相当体力を消耗してるに決まってる。そんな状態で姫級との戦闘なんてどう考えてもできる訳ないじゃん!」」
那珂に続けて川内も苦言を呈す。
「で、ですがもうこれしか!!」
神通の案は明らかに神通一人だけの犠牲で敵の怒りを鎮めようといういわば己の命を捧げる必死の作戦だ。
愛する嫁にそんな惨いことをさせられるわけがない!そんな作戦に首を縦に振れるわけがないだろう!!
「なぁ、他の鎮守府に助けを求めるしかないんじゃねぇか?それこそ、お前が前に勤めていた鎮守府の艦娘は?ほら、確かお前、鳳翔だとか大和だとかの神通並にクソ強い艦娘を抱えてたんだろ」
「それはもうダメだ。いやもちろん、要請自体はあいつが深海棲姫だって判明したときからもう出してるさ。だが、どう考えても応援が到着するよりも先にこの鎮守府が落とされてしまう」
「だったら舞鶴にいる全艦娘を動かせ!一人残らず奴一匹にぶつけりゃちったぁ戦況を変えられんだろ!!」
「アホか!闇雲にぶつけても練度の低い艦娘から沈んでくだけだ!」
「練度の低い艦は遠方からの援護に回せばいい!攻撃機の撃ち落としとか、支援砲撃だとかやれることは多いだろ!」
「それが出来たらとっくにやってる!あいつは支援艦隊を優先して攻撃する傾向があると報告を受けてるんだ!そんな危険な戦場に練度の低い子達をホイホイと向かわせられるか!!」
「あぁ!?だったら俺を戦場に出せ!!砲弾なんざ俺が弾き飛ばしてやる!!」
「いや無理だろ!!!何寝ぼけたこと言って───」
そのときだった。
俺の脳内にとんでもない作戦が浮かび上がった。
「………いや、待てよ」
「あ?どうした?」
「? て、提督?どうかなさいましたか?」
「・・・」
俺は黙考する。
とにかく考える。
この絶望的状況を覆せるかもしれない作戦が本当に上手くいくかどうか、俺は何度も何度も頭の中でイメージして、何度も何度も反復して考え続けた。
本当にこの作戦で奴を倒し切る事は出来るのか。
見落としている穴はないか。
必要な材料はなにか。足りないものはないか。
……自分の人生全てを振り返り、俺は直感した。
もう、これしかない。
「作戦を思いついた」
〜〜〜
〜遠海〜
「ハァッ、ハァッ、ハァッ…どうしたんですか…私はまだ、ッグ!立っていますよ!!」
「……マだやル気なの?」
深海棲姫の前に立ちはだかるのは、赤城だ。
「一航戦の誇りは沈みません。ハァッ、ハァッ、ハァッ……私はッ、絶対に下がらない!!」
赤城の後ろには、壊滅した第一、第二の連合艦隊の仲間達がいた。
加賀・雲龍・翔鶴・武蔵・金剛・最上・鈴谷・衣笠・球磨・時雨。
バラつきはあるものの、全員に少なくない被害が出ていた。特に球磨、最上、鈴谷は深刻だ。夕立と同レベル、もしくはそれ以上の損傷をしており、放っておいたら沈んでしまうだろう。
だからこそ、赤城は一歩も引かなかった。
敵を捉え、真っ直ぐに相手を見る燃えるような瞳には、揺るがない闘志があった。頭から血を流し、装甲は砕け、服も破れた満身創痍だというのに、赤城は決して下がらない。
痛む身体に鞭を打ち、赤城は決してダメージを感じさせない堂々とした立ち姿で深海棲姫を睨みつける。
「赤城さんもうやめて!!いくら貴方でも、これ以上は本当に沈んじゃう!!」
「赤城!!もう立つな!!沈んでしまう!!!」
加賀と武蔵の二人の声が赤城の背中に届く。
だが、赤城は振り返らない。
「・・・だ、そうヨ。ア、ソうだワこうしマショう!!アナた、赤城といったカシら?両手を上ゲて降伏しなサい。ソうスれば、アナたの命だけハ助ケてアゲる♡」
「ッ!?」
その言葉に一番最初に反応したのは、赤城ではなく加賀だった。
奴の言う通りに赤城が降伏すれば、赤城の命だけは助かると思ったからだ。加賀は自らの命と引き換えにしてでも、赤城だけにでもなんとしても未来に生きてもらいたかった。
加賀にとって、赤城と加賀の二人を象徴する『一航戦の誇り』は確かに命よりも重いものだ。もしも自分が今の赤城と同じ立場になったならば、迷いなく弓を引いて真正面から立ち向かった事だろう。
だが……友の命には劣るのだ。
だからこそ、加賀は進言しようとした。“降伏して“と。赤城に……友に、ほんの少しでも生きてほしかったから。
「…笑わせないで下さいよ」
だが、赤城は一歩も引かなかった。
それどころか弓を構えた。既に大破して発艦も碌に出来ないはずなのに、既に弦も切れかかっている弓を引き絞って狙いを定める。
「赤城さん…!駄目よ!戦っては…!!」
「一航戦の誇りは、あなたごときに折れたりしない。日の本の魂は、あなたごときに負けはしない。私達は、こんなところで沈まない!!」
赤城は誓ったのだ。
かつて実際にあったミッドウェー海戦。
自らの慢心により、守るべき祖国を破滅に導いたかつての己に赤城は誓ったのだ。
「今度こそ、皆を守り抜く!!」
放たれた矢は次第に変化してゆき、数機の攻撃機となって深海棲姫へと突撃してゆく。
だが、今の赤城の状態を現すように満身創痍なボロボロの機体に積んである装備はもはや使い物にならず、残された使い道は…特攻だけだ。
「…馬鹿ネ」
ため息一つ吐き出すと、深海棲姫は機銃を向ける。
そして暴風雨のような機銃掃射を放つと、残された僅かな航空機は全て落とされた…。
シズメ
全ての艦載機を撃ち尽くした赤城の目に映ったのは、主砲を構える深海棲姫の姿だった───
そして、赤城は水柱の中に消えた。
Q:何故、赤城は大破していても発艦出来たの?
A:特別な訓練を施した鳳翔さんのおかげです。