「……以上が作戦の概要だ。質問はあるか?」
司令室に集まった神通と黒狼に俺は問う。
一番初めに口を開いたのは黒狼だった。
「…‥本気なのか?」
「あぁ、他にいい案があるなら言ってくれ」
「……しょ、正直、俺には代案なんか何一つ浮かばない。けどこの作戦は穴だらけだ!こちらが攻め落とされる可能性は!?奴が俺たちの作戦に付き合ってくれる保証は!?そもそもこの作戦が上手く行ったとしても、奴を確実に倒せる保証もない!!!無茶苦茶もいいとこだ!」
「だとしても、やる」
黒狼の言葉を遮るように、俺は語気を強めて静かに言い放った。
「僅かな確率でも奴を倒せる可能性があるなら、俺はやる。なんの犠牲もなしに勝つなんて甘い考えがあるんだったら、今すぐ部屋を出ていってくれ、黒狼。俺はとうに捨ててるぞ」
「んなっ!?テメエ!!」
「黒狼さん、理解して下さい」
提督の冷たい言葉を肯定するのは、なんと神通だった。
その目には、確かに強い覚悟の炎が灯っていた。
「ッ!!!じ、神通さん!!あんたはこんな作戦認める気かよ!?」
「それが命令ならば」
黒狼を黙らせた神通は、俺に向かい直す。
「提督……本当にこれしかないのですね?」
「あぁ、お前の頭でも何も思いつかないのならな」
「……了解しました。それでは、提督の意志に沿うように動きます」
「あぁ…頼むよ」
数瞬間の間……神通は俺から目を逸らさなかった。その視線からも感じ取れる神通の強い意志。それと同時に、俺の覚悟を見定めているようだ。
「……これが最後になるかもしれませんので、最後に一言だけ、添えさせて下さい。………わたしッ「ストップストップ〜!!!
と、ここで川内が神通の言葉を遮った。
便乗するように、那珂が神通の口を塞ぐ。
「何言うつもりだったか知んないけどお姉ちゃん達の前で言う事じゃないよね〜!!」
「そういうのは二人きりになってから!!」
そして最後に川内が神通を、那珂が俺を押し出して、無理矢理に抱き合わせた。
「きゃっ!!」
「おっとと!おいなにを!!」
「うんうん!そうやってバカップル全開の方があんた達らしいよ♪」
「さっきみたいに喧嘩ばっかりしちゃダメッ!アイドルは、いつだってキュートスマイルだよ⭐︎」
「……作戦の準備は俺達で済ませとく。お前らはそこで作戦開始までずっとパコっといたらいいさ」
「そんなことしません!!」
「お、それもいいな……神通、スケベしようや?」
無言で殴られた。
「クハハッ!まぁパコっとけってのは冗談だけどよ。……悔いの残らないようにな。お互いに」
「……うん、あと、五分ぐらいしかないかもだけどね」
「那珂ちゃん達、誰も司令室に近づけないようにするからね」
そして黒狼達は出ていった。
残されたのは、抱き合った姿勢のままの俺と神通の二人だけ。
俺は神通の肩を掴み、彼女をギュッと抱きしめた。
「……これでお別れという訳ではないんですよ?」
「あぁ、だからこそ、今のうちにたっぷり神通成分を補給しとかないとな」
「……どんな栄養素なんですか?」
「俺に必要な栄養素の一つだよ」
(※タンパク質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル・神通)
「なんですかそれ……私にだって、あなたは必要な栄養素なんですよ?」
神通が、俺の胸に顔を押し付けてきた。
「お、おぉ…カワイイなお前」
「私にも、あなたが必要なんです。だからどうか……」
「………お前を残して死んだりするもんか。約束する。必ず生きて帰る」
「はい、約束です。本当に……約束ですからね?」
神通は俺の肩に手を置き、静かに見つめてくる。……俺は、ゆっくりとキスをした。その口付けが、俺と神通の死なずの誓いのつもりだ。
「“愛してる“とは言わないでくださいね?それは帰ってきてからのお楽しみですから」
「あぁ、分かった。耳にタコが出来るぐらい言ってやるさ」
そして神通は部屋を出ていく。
………
………………
………………………………
一人執務室に残された俺は、机の上に置いてある電話を手に取り、一つ電話をかけた。
『………もしもし、私だ』
「……元帥、私です」
『!! 影波君か!?無事なのかい!?』
「はい、こちらはなんとか、まぁ…もう少しで無事じゃなくなることと思いますが」
『どういうことだ!?まさか、深海棲姫がもうすぐそこまで!?』
「フフフ…はい、そうです。そしてどうせなら、最後に一つとんでもない大バカをやらかしてやろうかなと。……今から謝っておきます。始末書処理、よろしくお願いします」
『待て!影波君は一体何をする気なんだ!?し、死ぬことは許されないぞ!!!君の事を助けようと、佐世保の方からもたくさんの艦娘達がそっちに向かってるんだ!!それまで持ち堪えるんだ!!』
「………もう間に合いませんよ。だから、あなたに一つお願いがあって電話をかけました。………もし俺が死んだら、舞鶴の艦娘達は『空風 黒狼』って男に託したいんです。……出来るだけの援助をしてやってください」
『ならん!!君が死ぬことなどあってはならない!!鎮守府を置いて脱出してくれ!!影波君!!』
「元帥……俺は、提督です。大好きな艦娘の皆を置いて、逃げ出したりするもんですか」
『……影波君……君は、何をする気なんだ…!?』
「俺にしかできないことを」
ここで俺は一方的に電話をぶつ切りし、二度とかかってこないように電話線まで断ち切った。
「フゥゥッ…………ィヨシ!いっちょやるか!」
〜〜〜
(ツマらなイ…ツマらなイ…ツマらなイ…ツマらなイ…)
深海棲姫はあまりにも乾いていた。
物理的にではない。その魂が、だ。
刺激のない毎日に退屈しきっていた。命のやり取りを強制される星の下に生まれながら、戦いに快楽を見出す事さえも出来ない日々が彼女にはあまりにも苦痛だった。
適当に一発二発も当てれば沈んでゆく艦娘。
当たる訳もないノロマな砲弾しか撃てない艦娘。
更には己の人生に唯一刺激を与えてくれた神通でさえも、今は戦闘が出来ないだと?
ようやくマシな勝負が出来るかもと期待していた舞鶴鎮守府の艦娘達にすら尻尾を巻いて逃げ出され、彼女はあまりにも疲れ、そして怒りを感じていた。
それ故、深海棲姫は歩みを進める。
ならばせめて、神通を一目だけでも見てやろうと。
もしも本当に彼女が戦えないというのならば、今回ばかりは引いてやろうと。未来に残す一つのお楽しみというものだ。
それまでは、また適当な艦娘を沈めて暇を潰す毎日で満足してやろうと。
「……どこなノ?あぁァァぁ神通ゥゥゥ…。ドコォ?あァどこ?あぁ、お前ニ会イタイわ…♡」
深海棲姫は海上を進む。進む。進む。
〜〜〜
やがて彼女の白い目玉に、とても大きな白い建物と広大な大地が写った。
舞鶴鎮守府だ。
(??? どういうコト?見張りガ一人もいないデすっテ?……さてハ、ワナか。まァいイ。お前達の砲弾ナど、たとえ戦艦ノ砲弾を百発受ケテも損傷など受けナい…!!!)
深海棲姫は、もぬけの殻の鎮守府の入口港に接近する。
深海棲姫、舞鶴鎮守府敷地内へと侵入す───
「………提督、深海棲姫の鎮守府敷地内への侵入を確認」
『了解、これより、作戦を開始する。……頼んだぞ』
「了解ニャ」
「はいは〜い」
「了解しました」
「任せろ」
「うん!」
「は、はい!」
港入り口の陰に隠れる六隻の艦娘。
多摩・北上・大井・木曾・伊26・伊401
「作戦開始よ。まずは私達が奴の気を引く………あとはお願いね、ニムさん、しおいさん」
「う、うん…!!!」
「はい!!!」
多摩・北上・大井・木曾の四隻は艤装を展開すると、深海棲姫を相手に真正面から立ち塞がった。
「アら…?見張りがイるにはイたのネ」
深海棲姫は、新たな獲物が現れたことを歓喜しているような喜びに満ちた声をしていた。
だが、その声色に多摩達はまず恐怖し…その恐怖を上回るほどに怒りに満ちた。
なにせ、目の前の敵は、我々球磨型姉妹の長女である球磨を轟沈寸前まで追い詰めた張本人なのだ。
誰よりも尊敬する自らの姉を殺しかけた元凶を前に、球磨型の怒りは狂気的なまでの殺気となって深海棲姫へ向けられた。
「鎮守府の中にだけは、絶対に近寄らせないニャ!!!」
「あたしらも神通さんには何かと御恩があってさ〜……この先には行かせないよ!!」
「海の藻屑にしてあげるわ…かかって来なさい!!!」
「少しは楽しませてやるよ!!」
「そレはイイわねぇ!!!」
球磨型姉妹と深海棲姫の激突が始まる。
………そして、伊26と伊401は潜航しながら、深海棲姫の足元に接近する。
(お、おねがい…潜水艦の警戒だけはしていませんよーに!!!)
(こ、怖い…!!怖いよぉ…!!)
……深海棲姫が潜水艦二隻の接近に気付いていないのは、深海棲姫自身の圧倒的な強さゆえに周囲を全く警戒していなかったことが大きい。
“深海棲姫は、通常の艦娘達を取るに足らない相手だと油断している。そこが狙い目だ“というのは、神通の予想した話である。
今回、神通の賭けは当たっていた。
(やった!やったよシオイちゃん!!ヨォ〜シ!!深海棲姫の足元まで辿り着けたよ!!)
(うんっ!そ、それじゃあ……行こうか!ニムちゃん!!)
目配せで合図を送り、二人は一気に急速浮上!
「うりゃああああ!!!!」
「こんのおおおお!!!!」
潜航するニムとしおいの二隻の潜水艦は、一気に急浮上すると深海棲姫の両足にしがみつき、その足を止めた。
「はア?ナニこのガキども」
「い、今です!!」
「私達が抑えてるうちに!はやく!!」
『全艦!!魚雷発射!!!』
「ア?」
その瞬間、鎮守府の四方八方に隠れていた
「はぁ!?貴様らドコに隠れテ!!?」
「ニムちゃん!しおいちゃん!!逃げてェ!!!」
「きゅ!急速潜航ーー!!!!」
「ヒィィーーー!!!提督恨むよーー!!?」
舞鶴鎮守府のほぼ全艦から放たれる無数の魚雷は、深海棲姫に向けて急速で進んでくる!
大慌てで急速潜航で逃げ出した潜水艦とは違い、潜水艦二隻に一瞬だけ足を掴まれて身動きを取れなかった深海棲姫には、緊急離脱できる術が無かったのだ。
「オノレエエェェ!!!!」
『くたばれ!!!深海棲姫!!!』