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その日も、決して良い目覚めとは言い難い朝を迎えた。
「あー……体がだるい」
体がだるい。力を込める気力すらも沸かない。やる気が出ない。このまま何もせずにベッドの上でぐっすりと眠りたい気分が、心を支配する。
だが、無情にも現実はそれを許してはくれない。仕事というものは常日頃から押し付けられ、俺自身の生活を酷く面倒で鬱陶しいものへと変えてくれる。
余計な世話だ、クソ喰らえだ。誰が好きでこんな馬鹿げた仕事をやりたがると言うんだ、ふざけやがって。
そんな愚痴を心の中に留めながら、気怠い己を隠さずにベッドから体を起こす。布団をどけて、気の進まない心を切り替えもせずにのそのそとして、地に足を付ける。
「遂に今日か…『図書館』に潜り込むのは」
『図書館』。そう呼ばれる謎の場所が、この『都市』に存在する。
いや、より正確に表現するならば、存在するというよりは
Lobotomy Corporation―――この都市を監視し、支配する26に分かれる大企業「翼」の内の一つ、L社の崩壊と共に出現した謎の場所。それが『図書館』だ。
“招待状”と呼ばれる、文字通り当人を図書館へ招待するためのチケットを通じてゲストとして図書館に招かれるとは聞くが、それ以外の事はよく聞かされていない。
知り合いの一人が、婆さんの協力で図書館に入ってから連絡の一つも寄越さないのが、何よりの証拠なのだろう。
「ローラン…」
リビングのソファに腰を降ろしながら、消えた知り合いの名を呼ぶ。
ローラン。俺と同じフィクサーだった男。
“ねじれ”と呼ばれる怪物、その中でも最も酷い被害をもたらしたねじれ―――「ピアニスト」によって妻と腹の中の子を失い、復讐に囚われてしまった―――馬鹿だが大切な仲間だ。
俺は、彼奴の復讐を否定する事が出来なかった。止めてやる事なんて出来る訳がなかった。
同じ穴の狢、というやつだ。かつての俺が同族だった。憎悪という獲物を握り、復讐という目標に走り、その甘美を知ったのが俺だったから。
復讐は無意味だと人は言う。亡くなった人もそれを望んでなどいないのだと。
あぁ、そうなのかもしれない。そうだろうとも思う。思うさ。
けれど―――はいそうですかと、それで簡単に納得する事が出来たならば、区切りをつける事が出来たならば、そもそも復讐なんて道を走ってなんかいないんだ。
誰にも分からないだろ、復讐を望んでいるかなんて。もう誰にも聞けないんだ、死んでしまっているんだから。
望んでいるかもしれない。望まれているかもしれない。そんな言い訳じみた考えが頭で蠢く。理性を食らうのさ。
仇を討ってくれと、心から叫んでいるかもしれない。
これ以上、自分の様な人間を増やさないでくれと、哭いているかもしれない。
そう考えるだけで、考えてしまうだけで、心につけられた炎が、まるで油をドバドバと注がれた様に燃え盛って止まないんだ。
俺は、それを身を以て知っている。知ってしまっている。だから…
「誰が止められるか。あんな目をした彼奴を」
止めなかった。止める事をしなかった。
止めた方が良かったのだろう。止めるべきだったのだろう。それは分かっている、そうしなければならなかった事なのだと理解はしている。
だが、まぁ…さっきも言った通り、俺はそれが出来る様な立場ではなかったから。
「色々と後悔してた…筈なんだけどな」
後悔し
にも関わらず――――――
「何が『こっちはそれなりの生活をしています』だよ、このバカ野郎が! 俺がどんだけ心配したと思ってんだアイツは!?」
俺の下に送られた招待状は、あろうことかローランの自筆だった。招待状って人がわざわざ書く奴だったのか?
招待状のくせに近況報告なんかしやがって、巫山戯てんのか? 俺の心配と後悔を返しやがれ、何を普通に生きてんだよ。復讐止めれたのかよ。
まぁ、そこは良かったんだが。生きていてくれたのも、復讐を止めれたのも。
前を向いて生きていく事を決める事ができたんだなって知れたのは、嬉しい事だ。
だが―――それはそれで、これはこれだ。見捨てた分際で何を言うんだって言われてしまえばお終いだが、仲間を心配していた俺の内情は複雑極まっている最中だ。
「いいぜ、行ってやろうじゃねぇか。待ってろよローラン、一発だけでもぶん殴ってやるからな…!」
招待状を握り締め、緩んでいた体の帯を締め直す。
武器防具に身を固め、俺は
あの汚い空を、今日も眺めて――――――
「お兄さん、だれ?」
「……ローランめ、いつか覚えとけよ」
いつの間にか辿り着いた場所は、確かに赤だった。
だが、いつも見上げる見慣れた汚い空ではなく。
とても鮮やかな朱色の部屋で、その真ん中には小さくて儚げな金髪の少女が―――否、怪物が座り込んでいた。
フィクサー(便利屋)
金を払えば猫探しから戦争まで何でもござれの何でも屋の一人。ローランとアンジェリカの友人、アルガリアの知り合い、イオリの弟子の一人。
何の因果か、或いは誤作動か、図書館ではなく紅魔館に入ってしまった。
フラン(かわいい)
皆様ご存知フランドール・スカーレット。きゅっとしてドカーンの女の子。
退屈していたら、いきなり知らない人が現れた。強そうだなーって思った。