紅魔館の便利屋   作:全智一皆

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The never ending wailing(鳴り止まない慟哭)


第三章「異なる世界の来訪者」

 

■  ■

 赤、赤、赤。

 右も左も上も下も、もう何処を見ても赤ばっか! 赤一色過ぎるだろ、どういう構造してんだよこの館は!?

 紅魔館とか言う名前だからそりゃ赤いんだろうなーぐらいには思ってたし、あの地下通路も殆ど赤かったから何となく分かっちゃいたけど、まさかここまで赤一色だとは思わなかった。

 もう酷い有様だ。煙戦争を思い出しそう。うぇ、気持ち悪くなってきた。

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「それでは、改めて自己紹介をしようかしら、御客人。私はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主であり、貴方が相手したフランドール・スカーレットの実の姉よ」

「ご丁寧にどーも。俺はモーセ、『都市』でフィクサー活動してる。こんなんだが、ちゃんとした1級フィクサーだよ」

「へぇ、モーセ。良い名ね。フィクサーというのは聞き慣れないけれど、それってもしかして預言者の隠語だったりするのかしら」

「はぁ? 何を言ってるんだ。あ、もしかして聖典とかそっち方面の話か? やだやだ、勘弁してくれよ。宗教関連の話題は懲り懲りなんだ、良い思い出がない」

 

 自分の顔色が悪くなっているのが分かる。思い出すだけでも胃が痛むんだ、本当に勘弁してほしい。

 1級フィクサーに成り立ての頃、そういう依頼が舞い込んできた。名前は確か『カナのクリームソースを隠す会』だったか?

 マジでバカみたいな名前だよな、俺も実際に聞いて耳を疑った。口に出したよ、何寝ぼけてるんだってな。でも本当にそういう名前だった。やっぱ都市は狂ってると再認識したよ。

 とは言え、『カナのクリームソース』については耳に挟んだ事があった。都市じゃ珍しい真っ当な料理人であるカナが振る舞う、定番のクリームソーススパゲッティに使われているとされるソースの事だ。

 俺は食べた事ないが、昔、ローランがアンジェリカと食べた事があるって言ってたな。まさか都市にあんなに美味いパスタがあったなんて、とか言って驚いてたのを憶えてる。

 で、連中はそのカナのクリームソースを信仰対象にしてる奴らだった。カナ本人じゃなくて、ソースの方な。自分達が信仰してる神様ならぬソース様が、無神論者に食われるのは我慢ならんのだと。

 だからカナ本人を攫って、ソースを独占しようとした。本当にくだらん活動だろ? しかもな、ソイツらはよりによって『L社』の跡地で宗教活動をしてやがった。

 『黒雲会』とか『親指』とかの連中の荒事に巻き込まれるかもしれないのにな。バカな奴等とか思ってたら、まさかの『親指』の何人かも居た。何なら『人差し指』もだ。

 目を疑ったが、マジで何人か居たんだよ。多分、カナのクリームソースを食べた事がある奴等なんだろうな。夢でも見てるんじゃないかって自分をぶん殴ったけど、現実でした。

 その後は、うん……察してくれ。これ以上は語りたくない。

 

「すっごく気になるのだけれど」

「ナチュラルに心読むなよ」

「心じゃないわ、運命を見たのよ。まぁ、ほんの断片でしかないけれどね。ここまで運命の全貌が見えないのは、貴方が初めてよ」

「へー、そうですか。なんだ、最近の吸血鬼ってのは『運命』だったりとか『破壊』だったりとか、そういう特殊能力でも持ってるのか? 勘弁してくれよ、『血染めの夜』でもそこまではいかなかったぞ」

 

 ため息と共に肩を落とす。こりゃいよいよ手も足も出せそうにないな。あの妹ちゃんならまだ勝機がありそうだったんだが、コイツは無理かもしれんな。

 『運命』とか主語がデカ過ぎるだろ。外郭のバケモノ共とか『ねじれ』を相手にした事あるけど、そんな能力持ってる奴は一匹だって居なかったぞ。

 アルガリアが『都市の星』に認定された時に『残響楽団』とか作ってたけど、『泣く子』とか『昨日の約束』もそういうタイプじゃなかったしな。

 此処は人外魔境か何かか? 少なくとも図書館なんて平和的な所じゃねぇ。ローランの野郎、マジでぶん殴ってやる…!

 俺がそう決意していると、レミリア嬢がやけに静かになっている事に気が付く。どうかしたのかと顔を見ると、何やら驚いた表情を浮かべていた。

 

「え、なに。何に驚いてんの?」

「……貴方、どうやってフランの『能力』を見抜いたの?」

「はい?……あ、え? もしかして当たってた? マジでそういう特殊能力的なやつ持ってる感じ?」

 

 勘に任せて言ったら当たりやがった!

 マジかよ、特殊能力が『破壊』!? ふざけるのも大概にしろよ!? 下手すれば手も足も出せずに彼処で死んでんじゃねぇか俺!

 

「おまっ、なんつー爆弾抱えてんだよ! そりゃあんなになるわ! あの子何歳だよ!? 見た目的にまだ10か13くらいだろ!?」

「見た目だけならね。いい? 吸血鬼って長命なのよ。それこそ数百年は生きていられるくらいには」

「『ねじれ』てないのが不思議で仕方ねぇよッ!? 絶対に対処間違えてるよ、お前! バカじゃねぇの!?」

「なっ…!?」

 

 数百年単位で爆弾を抱えながら地下に閉じ込めるとか、正気の沙汰じゃねぇぞ!?

 都市でも中々居ないタイプの奴だ。相手が外郭のバケモノと同等のそれとは言っても、そんな事する奴はそう居ない。居たとしてもA社とかそこらの奴等だ。どっちにしたって、気が狂ってやがる。

 

「いいか、まだ遅くねぇから今すぐにでも地下から出してやれ! アレは逆効果だ、ああいう相手には適度に構ってやるのが一番なんだよ!」

「…余所者が知った様な口を訊くわねッ。私が何も考えず、あの子を閉じ込めていると?」

「逆だよ、部外者が口出すくらいにはとんでもねぇ事やらかしてるって話! あ、ちなみに言っとくけどこれ善意じゃねぇからなッ!?」

「はぁ…?」

 

 1級フィクサーだって人間なんだぞ!? パッシブが必殺みたいな能力を持ってる人の形をした怪物とずっと殺し合えとか御免被るっつーの!

 俺がそう言うと、レミリアは唖然とした。そりゃそうなるだろうな、善意100%かと思ったら完全に私情のそれだし。

 

「俺あの子に諸々説明しちまったの! フィクサーが金で雇われる事とか言っちまったんだよ! 絶対に雇われる! あんな子供なら『お金沢山上げるからずっと遊んで!』とか言いかねないだろ!? 嫌なんだよ、あんなおっかない奴を相手するとか!」

 

 けど、生憎と俺も人間なんだ。自分の命は惜しい 。そりゃもう凄く惜しい。

 ぶっちゃけるなら今すぐにでも都市に帰りたい。本来ならあんな所には帰りたくない筈なんだが、コイツらに比べれば一応の暮らしが出来る都市の方がマシだ。

 

「くっ、くくくっ……あっはっははははははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 なんかいきなり爆笑しだした。なんだコイツ。やっぱバケモノの事はよく分からん。

 『ねじれ』じゃなさそうなんだけどな。めっちゃ人型だし。異形の姿してないから、多分元からそういう奴なのかな?

 ……尚更怖くなってきた。今からでも逃げ出そうかな。

 

「面白いわね、貴方っ! 良いわ、私が貴方を雇いましょう!」

「はぁ!? 何言ってんのお前!? 俺ついさっき雇われたくないって言ったよな!?」

「あら、私に雇われる以上に好都合な事はないわよ? 衣食住の提供は勿論の事、お金にも困らないし。それに貴方、幻想郷の外からやって来たのでしょう? 生憎だけど、貴方の世界に居た様な怪物とまではいかなくとも、人間からすれば怪物と言える様な奴なんてそこら中に溢れてるわよ」

「クソッタレが。ローラン(アイツ)俺に恨みでもあんのか? 絶対にぶん殴ってやる」

 

 友達の殺意が増した。あの野郎、マジで許さねぇ。絶対にぶん殴って……いや、剣で斬ってやる。

 人外魔境に誘い込むとか巫山戯てんのかッ!? 都市よりヤバい場所とか生きる事不可能だろ、もはやさぁ!

 

「―――でもまぁ、確かにアンタの言う事は好都合だな」

「凄まじい切り替えの速さね。それが貴方を今日まで生かしてきたのかしら?」

 

 ほっとけ、自覚はある。でも実際、コイツの言う事は魅力的だ。

 何処かも知らん、ルールも分からん人外魔境。そんな世界で、確かな衣食住の提供という素晴らしい報酬。活動拠点が手に入るっていうのはサバイバルにおいて大切な事だ。

 しかも見るからにちょー広いし。さぞかし良い部屋が待ってるんだろうな。

 

「……仕事の内容は? それによる。少なくとも、毎日あの子の相手とか勘弁だぞ」

「そうね、基本的には家事全般よ。メイド長と妖精達が居るけど、男手があるに越した事はないわ。流石に毎日フランの相手をさせる程、私も鬼じゃないわよ」

「いや吸血鬼だろアンタ」

「良い返しね。褒めてあげるわ」

「へいへい、そりゃどーも。じゃあ、なんだ。今日からお世話になるよ。あぁ、敬語の方が良いか?」

「いいえ。あくまで私と貴方は対等よ、特別にそう

扱ってあげるわ。

 

――――――これから宜しくね、白い慟哭(モーセ)?」

 

 ………なんで知ってんの?




『白い慟哭』
都市に存在する特級フィクサーの一人。赤い霧、黒い沈黙と同様の武闘派フィクサーであり、過去に単独で『都市の星』を落とした功績を有する。
赤い霧に続いて自らの『E.G.O』を発現させたフィクサーであり、それが『白い慟哭』の名を与えられた理由でもある。
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