眷属竜②のifルートと言うか、こういう会話もみたいなというものです。

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天剣

「……ここは」

 

 ユーリが目を覚ます。

 

 彼女の周囲に広がった光景は、暗闇であった。

 一寸先は目が眩むほどの深淵で、自分が立っているのか、落ちているのかでさえ定かではない。しかし、それとは裏腹に彼女に不安はなかった。どうして自分がこの場所に放り込まれているのか、その心当たりがはっきりとあったからだ。

 

「うまく行ったみたいだな、ユーリ」

「……ウル」

 

 かつ、かつ、と。

 虚空を踏みしめ、勝利の足跡を響かせるのは灰色の少年。ウルだった。

 

 精神世界だからか一糸も纏わない少年の四肢は、人ならざる竜の鱗に包まれている。最初に出会ったときより多少たくましくなったように感じるのは、彼女の錯覚ではないのだろう。そんな思考にユーリが浸っていた時、ふと──

 

 自分の体を見下ろした。

 

「えっち」

「不本意だ」

 

 そこに在ったのは、服にも、天剣の力にも包まれていない瑞々しい少女の体。

 正直特に羞恥心もなく、からかうようにウルに言葉を飛ばしてみたが、帰ってきたのは本当に疲れ果てた生返事であった。自分もそうだが、彼も彼でこの戦いに多大なる何かをかけていたのだろう。そう思うと溜飲が下がるような、それはそれとして敗北が胃に残るような、複雑な気分である。

 

「……ふぅ」

 

 閑話休題。

 コミカルになった空気も、空回りし始めた思考も一呼吸に乗せて、一度ため息を付く。

 

 そして、彼と向き合った。

 

「貴方は、証明した。それは否定するべきではないでしょう」

 

 ユーリの言葉に従い、太陽神の懐刀である彼女を手中に抑えた。

 最低限ではあるが、神に挑むための切符を、彼は手に入れたということになる。

 

「私はこれから貴方の剣となる。その上で、確認しておきたいことがいくつかあります」

「あぁ」

 

 相対するウルの返事は簡潔だった。

 彼もこうなることは予想していたのだろう。

 

「どうやって、救うつもりですか?」

 

 空色の瞳に睨まれ、ウルは小さく笑う。

 そして、話し始める。彼の秘策と、その力について。

 

 

 ◆

 

 

 「世界をどう壊すかはさっき説明したとおりだ。その力、貸してもらうぞ。ユーリ」

 

 不遜に言い放つ灰の王の前で、剣の少女は瞑目した。

 瞼の裏に最初に写ったのは、やはり天賢王、アルノルドだ。ウルが示した方針は彼の結論に似ているようで、非なるものだと彼女は結論付けた。

 

 互いに距離を取り、害することを無くすことを目指したアルノルド。

 互いの世界を崩壊させ、嵐を起こすことで害を破壊するウル。

 

 どちらが正しいのか?

 愚問だ。どちらも正しいし、どちらも正しくない。

 

 世界を踏み潰す巨人の観点から行われる決断など、それに踏みつけられる人間の気持ちになれば害にも、益にもなるのだ。それを捉えるのは、2つの世界に住まう個々人でしか無い。ユーリは自分の視点で、彼女の考え方としてアルノルドが正しく、二人の少女を救うために望まない不幸を生むウルを身勝手だと感じてしまう。

 

 けれど。

 その身勝手に、不快感は抱かなかった。

 

 彼の選択だ。

 奈落の底から這い上がり、世界の頂点に手を伸ばす彼が、考え選んだ道だ。そこに価値観の相違はあれど、貴賤はない。その上、私は彼の口車に乗せられたうえで負かされている。これでウルが間違っているなどほざくのは恥さらしにも程がある。

 

 もう一度、ぐっとまぶたを下げる。

 そこに映るのは、自分の肉親を含めた方舟に住まう人たちと──太陽神。自分が、守るべきだった者たち。

 

 そして。その反対に見える魔界の住人たちと銀色の竜は、暗闇の中で頭を抱え続けている。私が、見捨てるつもりだった者たち。

 

 私の取捨選択で生まれる、救われるものと、救われないものだ。

 

「……」

 

 目を開ける。

 眼前に立つ灰色の少年は、ユーリの言葉を待っていた。その決意に満ち溢れた表情に、軽く顔を伏せてしまう。

 

(拒んだ)

 

 彼は、拒んだのだ。

 ユーリが受け止めた取捨選択を。自分の世界を守るために無辜の民を殺す罪悪を、彼は良しとしなかった。

 

 そんなものは許さないと。

 二人の少女に背負わすぐらいならば。世界すべてが嵐に飲まれろと。

 

 世界を救った救済の王か、世界を破滅に導く絶望の王か。彼が歴史に名を残せるとするならば、どんな名前がつくのだろう。

 

(……どうでもいいですね)

 

 どちらでも構わない。

 もう私は決めたのだ。彼の、剣となることを。

 

「行きますよ、私の主。神をぶん殴りに」

 

 灰の炎を顕現させ、その手に掴む。

 決意と覚悟が、剣の形で揺れていた。

 

「頼もしい限りだよ。眷属」

 

 

 

「眷属はやめなさい。ユーリのままで」

「めんどくせぇ……」


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