ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第102話余話「適性と人間性」

鈴音と模擬戦をした日の夜。

刀奈は鈴音に悪いとは思いつつも、彼女が語った内容を千冬に伝えた。

無論のこと、他の者たちには秘密にするという条件でである。

簪はあまり鈴音に興味を持っていないが、今、鈴音とチームを組んでいる者たちにとっては多少なりとショックを受けるだろうことが理解できたからだ。

「正直にいうと、私も驚きました」

「天才が自身の凡庸に悩む、か。皮肉なものだな」

千冬の目から見ても、鈴音の成長スピードは異常の域だ。

十分に天才と呼ばれるだけの才能を持っていると思える。

それは確かにがむしゃらな努力によって得たものではあるが、それでも凡人といえるようなものではない。

「鈴音のもともとのIS適正はB、それだけでも才能はあるほうだといえるな」

「もっとも、そのレベルなら代表候補生にはごろごろしてますけど」

「ああ。しかしIS操縦者、もしくは志望者から見れば才能はあるほうだ」

しかし、今、その適性はまったく意味がない。

適性が高かろうと離反されるし、低くても進化に至れる。

鈴音と対極にいる一夏のもう一人の幼馴染がその現実を示してしまっている。

「Sの適性を持つ篠ノ之が、真っ先に離反されているからな」

「彼女、適正Sだったんですか?」

今のところ、公称ではCであるだけに、刀奈にとっては驚きである。IS適性がSということは、自在にISを操ることができるということだからだ。

これは束が独自に調べたもので公称はされていないのだが。

とはいえ、箒は確かにIS適性ならば、天才といえるレベルである。

しかし、その未熟な人間性から、真っ先に離反されてしまった。

確かに皮肉といえるだろう。

「教えたところで慰めにもならんからな。束も私以外には誰にも明かしていない」

「ですね。今じゃ指標にもならないものですし」

ISコアと心を通じ合わせることができるかどうかは、適性ではなく、人間性の問題になるからだ。

ある意味では、残酷なほどに容赦なく人間という存在を評価しているのが、今のISコアということができる。

「話が逸れたな。それで、鈴音はどうだったんだ?」

「少しは気が楽になったみたいでした。生まれなんて、どうしようもないものですからね」

刀奈とて、好きで更識の家に生まれたわけではない。

代わってくれるというのなら、代わってほしいと思ったこともある。

そういう意味で考えるなら、鈴音の、いわば嫉妬はまったく意味のないものともいえる。

しかし、鈴音本人にとっては大問題だ。

IS操縦者として、AS操縦者として強いということだけがアイデンティティというのは。

「正直、危険だと思います」

「ああ。だが、だからといって外すこともできん。唯一の救いはあのまっすぐな性格だな」

一夏と諒兵の背中を追う。

ただそれだけで必死に走り続ける鈴音のまっすぐな性格、まっすぐな想いは、彼女に道を踏み外すことをさせない。

つまり、悪人になるようなことはないといえる。

ただ、力尽きれば糸が切れたように倒れてしまうだろう。

刀奈のいう危険とは、無茶をしすぎるのではないか、という意味だ。

「そのあたりは私がバランスを取っていく」

「ペア以上で動かすっていうのは、そのためもあるんですか?」

「ああ。特に鈴音は一人にさせるとどんな無茶をするかわからんからな。その点でオルコットはいいパートナーだ」

前に出やすい鈴音を後衛からサポートできるセシリア。

前線を抑えられる実力を持つラウラと、優秀な遊撃手であるシャルロット。

基本はこの組み合わせでやっていくと千冬は説明する。

加えていうなら、一夏と諒兵は長年コンビを組んでいたため、やはり二人で動かすのがいい。

「でも、実力を考えると別の子と組ませたほうがいいときもありますね」

「そのあたりは、襲来してくる相手によるな。その判断も私がしていくから心配はするな」

無茶をさせられないのは刀奈も同じなのである。

ただ、こういった戦術、戦略方面で話ができるのが、生徒の中では刀奈くらいだというだけのことである。

「お前はどうしても一人で動くことになるからな」

「無茶はしませんよ。簪ちゃんとようやく仲直りできたんですから。これからめいっぱい仲良くするんです」

「そうだな……」

簪の名前を出すときの刀奈は本当にきれいな顔で微笑む。

そんな彼女を見て千冬もやわらかい笑みを零した。

今の刀奈であれば、鈴音のような心配をする必要はないだろう。

いい意味で成長してくれたことを喜ばしく思う。

ただ。

(あっちの姉妹はまだまだ時間がかかりそうだな)

頭を悩ませるもう一組の姉妹を思い、千冬は小さくため息をついた。

 

 

 

 




閑話「刀奈のなかよし計画」

ふと思いついた千冬は、刀奈に尋ねかける。
「めいっぱい仲良くするといっていたが、何か予定でも組んでいるのか?」
「さすがに、今の状況では一緒にショッピングとかは難しいですね」と、苦笑する刀奈。
日本防衛を担う刀奈と、IS学園の防衛を担う簪では確かになかなか時間が作れないだろう。
申し訳ないと思うものの、こればかりは我慢してもらうしかない。
「まあ、IS学園にも多少は遊べるものもあるだろうし、好きに使うといい」
「はい。実はもう借りてます」
そう答えてくれたことに安堵する。
しかし、刀奈が借りてきたものを見て、千冬の顎は外れかけた。
「ナンダソレハ?」
「おままごとセットですよ?」
「何デソンナモノヲ持ッテクル?」
「私、ずっと修行漬けでおままごともしたことないですし、興味あるんです」
刀奈としては、せっかくなので子供のころにできなかったことを簪とやってみたいと考えているらしい。
「待て、本気で待て。更識簪が困ると思うぞ」
「えー?」
「えー、じゃない。高校生がやる遊びじゃないぞ」
常識的に考えても、リアルに料理が作れる年齢である。
ままごと遊びする高校生はいないだろう。
「じゃあこっちにします」
そういって取り出したのは、ミニカーの嵌まったブレスレットと異様にでかいバックルのついたベルト。
ぶっちゃけ仮面ライダーの変身ベルトである。
「おいっ、本当に待てっ!」
「簪ちゃんはヒーローものが好きですから♪」
そういって変身ポーズを決める刀奈。かなりノリノリである。
[ナイスドライブ]
「どこがだッ、思いっきり迷走してるぞッ!」
良くできた変身ベルトのオモチャの渋い男性ヴォイスに、思わず突っ込んでしまう千冬だった。




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