1学年合同授業。
今回の授業の内容は、専用機持ちのみでのタッグトーナメントに向け、専用機持ちではない生徒たちのなかに、優秀な者がいるかどうかを見出すためのものらしい。
代表候補生になるだけでも相当に大変だ。
秀でた能力を持っていてもチャンスに恵まれないものもいるだろう。
そういった者たちを見つける意味もあるらしいと諒兵は考えていた。
とはいえ。
(無茶だろ。専用機持ちと一騎打ちで勝てとか……)
仮の専用機持ちに選ばれる条件が、専用機持ち、つまり代表候補生やそのレベルの相手に勝つことなのだから、ほとんど無理な話である。
機体性能も操縦者としての経験値もまるで違う相手にどう勝てというのかと諒兵は正直呆れていた。
既に、何人もの普通の生徒がやられているからだ。
(てか、紅椿は別格だな……)
これまでで一番戦っているのは箒と紅椿だ。
なぜなら戦う相手を指名する権利は挑戦者側といえる普通の生徒にあるからである。
代表候補生ではなく、操縦時間も短いだろう箒を指名する生徒が多いのである。
(まあ、鈴やセシリア、シャル、ラウラ、更識は地力があるしな)
性能は紅椿に劣るとしても、操縦者としてのレベルが高い者たちよりは、勝てる可能性があるということなのだろう。
ちなみに次いで指名が多いのは一夏と白式だった。理由は箒と紅椿とほぼ同じである。
だが。
(これじゃ篠ノ之のお膳立てしてるみてえじゃねえか)
圧倒的な性能差。
それを駆使する箒の姿を見ていると、普通の生徒たちが引き立て役にされているようにしか見えない。
この世界の箒もやはり戦闘経験値が少ないのだ。
だから、相手を立てるような加減ができていない。
実際、見ている印象でいうなら、鈴音たちを相手にしている生徒のほうが動きも良い。
そのあたり、専用機持ちや代表候補生としての自覚が多少なりとあるのだろう。
(一夏もいっぱいいっぱいだし。外してやれよ……)
少なくとも一夏と箒は対戦相手から外してやるべきだろうと思う。
どうも、一夏、そしてその周りの者たちをひいきしているようにしか見えないのだ。
そんな光景を諒兵はのんびり眺めていた。
ちなみに現在は、赤い首輪という待機形態でレオの首に巻きついている状態である。
まさか、レオの待機形態と色違いとは、と、諒兵は苦笑いするしかなかった。
そして程なく、レオの番まで回ってきた。
「次、1年3組、獅子堂レオさん」
「はい」と、真耶の呼ぶ声に答えるレオ。
「え~っと、申請された使用ISは……赤鉄ッ?!」
真耶が素っ頓狂な声を上げると、その場にいた全員が顔を向けてきた。
途端、真耶の顔が真っ赤になってしまう。
(ああ。こっちでも上がり症なんだな、真耶ちゃん先生)
何故か、妙にほんわかしてしまう諒兵だった。
唯一の癒しなのかもしれない。
残念ながら、癒されている暇はなかったようだが。
「山田先生、間違いないのか?」と、千冬が尋ねてくると、真耶は肯いた。
「獅子堂さん、赤鉄は欠陥機といわれています。挑戦するならば他の機体に変えるべきですよ」
「いえ、どうせならいろんな機体を試してみたいので。せっかくの機会ですから」
「武装を一つも載せられない機体で何をするつもりだ?」
「赤鉄の設計コンセプトは武装を失った状態での戦闘を考慮してのものだそうです」
と、いうことになってたのかと諒兵は感心してしまう。
おそらく、本来ならば存在しない機体のはずだ。
それでも、諒兵がこの世界にいるための設定として考えられたものなのだろう。
良く考えたものだと本当に感心していた。
さらにレオは続ける。
「IS本来の機動力、防御性能をどう活かすかは考えてきてます。それに一応武器はありますし」
「装甲の爪だけでは……」と渋る真耶に対し、千冬は一応納得した顔を見せる。
「まあいい。いい経験にはなるだろう。それで、対戦相手は誰を指名する?」
後に控えているものもいるので、レオにそこまで時間をかけられないのだろう。
千冬は強引に話を進めてくる。
(あいつらなら勝てる自信はある。けど、レオなら……)
あくまで自分がこの機体で戦った場合だが、今の諒兵ならば専用機持ちでも勝てる相手はいる。
しかし、レオがその人物を指名してくるとは思えない。
レオの性格を考えれば……。
「凰鈴音さんを指名します」
「ほう、根拠は?」
「中距離型で、接近戦も砲撃もできる優秀な人ですから。経験を積むなら良い相手だと思います。この機体はどうしても接近戦しかできませんので、遊撃型や遠距離型だと近づくだけで一苦労なので経験を積めません。ボーデヴィッヒさんの場合、AICとの相性が悪すぎますので、同様に経験が積めません」
と、レオはすらすらと理由を述べていく。
確かに、今の諒兵の身体は完全な近接仕様だ。
接近戦がしにくい相手では経験にならない。
いっていることに間違いはないだろう。
だが。
「織斑や篠ノ之は?」
白式を使う一夏や、紅椿を纏う箒はどちらも接近戦が可能だ。もっとも紅椿は中距離戦もできるのだが。
とはいえ、今の論理でいえば、鈴音同様に経験の積める相手であるということができる。
指名してもまったくおかしくないが、レオは意外な言葉を発した。
「私は、別にトーナメントに出る気はありませんので」
「ええっ?!」
真耶が驚いているのに対し、千冬は剣呑な眼差しを向けてきた。
レオの言葉の意味がわかるのだろう。
「マジメな優等生かと思ったが、少し調子に乗っているようだな」
「冷静に判断してますけど」
千冬の視線を柳のように受け流すレオ。
(すげえ度胸だな、レオ)
千冬に対してここまでいえると思わなかったと諒兵は苦笑する。
レオは、一夏や箒なら勝てると言っているのである。
「わかった。向こうに伝えてくる。ピットに向かえ、獅子堂」
「はい」と、そう答えたレオはまっすぐにピットに向かう。
諒兵は思う。
想像通りなら出てくる相手は鈴音ではないはずだ。
鈴音相手だとこの機体ではまず勝利は難しい。
しかし、想像通りなら、勝利できる可能性は十分にあるし、何より、仮の専用機としてレオと一緒にいる時間が増えるはずだ。
(記憶をインストールするにゃ、一緒にいるしかねえからなあ)
鈴音とは純粋に戦ってみたい気もするが、この先を考えると出てきてほしくないと考えていた。
十分後。
ピットで待機しているレオと共に諒兵は暇を持て余していた。
(何分待たせんだよ)
千冬が伝えてくるといってから既に十分が経過している。
伝えて出てくるだけなら一分もかからないはずだ。
にもかかわらず、なかなか合図が来ないのは、おそらく向こうに何か問題が起きているからだろう。
「暇ですね……」と、レオも退屈そうにしていた。
話ができればなと思うものの、今の段階ではどうしようもない。
(見てくっか)
甲龍かシュヴァルツェア・レーゲンのコアに行けば、向こうの様子がわかるだろうと思った諒兵は、暇潰しもかねてネットワークを移動することにした。
(ちっと待ってろよ、レオ)
そう言葉を残して、諒兵はネットワークを飛び立った。
唐突に怒鳴り声が聞こえてくる。
「私が行くといってるだろうッ!」
「指名されたのは私でしょ」
怒鳴っていたのは箒、対照的に冷静に答えたのは鈴音。
どうやら移動できたらしい。子どもらしき人影の雰囲気から、甲龍に移動できたようだと諒兵は安堵する。
『邪魔すんぜ』
肯いた甲龍にニッと笑みを返した。
それから、外の様子を見てみると、箒が怒っているらしいことと、鈴音含め、他のメンバーが呆れている様子が見える。
一夏といえば、所在無さげに立っているだけだ。
(ここに一人じゃあ辛えよな)と、諒兵は思わず同情してしまっていた。
それはともかく。
箒の様子から、やはり先ほどのレオの言葉はかなりの影響を残していたと諒兵は思った。
普通に伝えていれば鈴音が出てきたのだろうが、馬鹿にされたと思ったのだろう。
箒が戦うと言い張っているのである。
「思い上がっているとしか思えない。いずれ周りに迷惑をかけるぞ、あの手の女は」
「だから、あの子に自分の実力を思い知らせるなら、私がやるっていってんのよ」
怒り心頭といった箒に対し、鈴音は妙に冷静だった。
なぜかといえば、答えは簡単だ。
鈴音から見ると、レオは本当に冷静に戦力分析をしていると思えるかららしい。
「あんたや一夏じゃ万が一が本当にあるわ。だから私が行ってあの子に教えてあげるわよ」
「お前ッ!」
「鈴さん、一夏さんでも負ける可能性があるとおっしゃいますの?」
と、セシリアも会話に割り込んでくる。
鈴音が一夏の名前を出したことで、気になったらしい。
その様子を見て、諒兵はピンと来た。
(ここのセシリアは一夏に惚れてんのか)
というか、冷静に全体を見回してみると、メンバー全員にその気があるように思える。
(一夏にゃ却って地獄だな、ここ……)
自分に対する好意には鈍感だが、人に気を遣うタイプの人間である一夏は、こういう状況でははっきりと我を通すことができない。
自分が一緒にいた元の世界の一夏でも周りに気を遣っていたのだから、一人きりではその苦労は倍ではすまないだろう。
(がんばれ。応援しかできねえけど)
タイミング良くため息をついた一夏の姿に、諒兵は思わず苦笑してしまった。
話を戻そう。
鈴音はセシリアの言葉に対しても冷静に答える。
「アレだけ冷静に戦力分析できる子よ。接近戦では十分な戦闘力があると見るべきでしょ」
「まあ、そうかもしれないけど。でもムッとするね」
「我々との差というものを教える必要があるだろう」
と、シャルロットとラウラも口を挟んでくる。
「だから、私が行くわ。指名もされてるし」
「だが、あの女、鈴音なら自分が負けるとわかっているような口ぶりだったそうじゃないか」
やる前から結果がわかっているのであれば、そう簡単に気持ちは変わらない。
こういう場合、相手の気持ちを変えるには、予想外の結果でなければならない。
つまり。
「私か一夏で鼻っ柱を叩き折ってやるべきだ」
驚くことに、箒の言に鈴音と一夏以外は共感しているように諒兵には見える。
どうも、レオの言葉に腹を立てているのは、箒だけではなかったようだ。
(……レオもけっこう熱くなるほうだかんなあ)
普通の生徒がやられっぱなしの現状に腹を立ててのあの言葉なのだろう。
結果として、煽りあいになってしまったのだろうと諒兵は嘆息した。
「凰、マシントラブルが起きたということにしろ」
「織斑先生」と、鈴音は千冬に呆れたような目を向ける。
「篠ノ之か織斑が出んことには場がまとまらん。これ以上、ムダに時間を使えんからな。篠ノ之、やる気も十分なようだし、お前がピットに上がれ」
「はいッ!」
「織斑、一応意見は聞いておくが?」
「俺はいいよ。あそこまで言うあの子には興味あるけどな」
一夏がそういった途端、全員が剣呑な表情を見せる。
その様子に、諒兵は苦笑いするしかなかった。
(レオは俺のパートナーだっつーの)
そんなこと、誰も知らないのだから仕方ない話である。
そして、さらに五分後。
アリーナに紅の機体が登場したことで、会場はどよめいた。
レオが指名したのは鈴音。しかし出てきたのは箒だったからだ。
しかし。
「何だアレは……?」
箒はピットから出てきた赤の機体に驚愕してしまう。
比較的小柄ではあるが、胸部にまるで牙を生やした顎のようなデザインの装甲があり、また、両腕両足を覆う装甲のほとんどに突起物が生えていた。
さらに、両手足には大きな爪がある。
何より、ヘッドセットに生物を思わせるような目がついているのだ。
それら全てが赤一色。だが雅さを感じさせる紅色の紅椿とは違う。
ストレートに言えば『血の赤』だ。
その姿は、機械でありながら、どこか生物的な禍々しさがあった。
「私が指名したのは凰さんだったんですけど」
と、その機体、すなわち赤鉄、つまりは諒兵を身に纏うレオが少しばかり呆れた様子で箒に声をかける。
「……マシントラブルだ。代理で私が出ることになった」
箒は当初の動揺を抑えつつ、レオの言葉に答える。
もっとも、理由を知っている諒兵にとっては呆れる他ない。
(専用機持ちのための舞台だかんなあ。役者は最初から決められてるって感じだな)
その中でも、第4世代機を駆る箒や一夏のための舞台なのだろう。
選ばれし者。
そういえる者たちが活躍するための舞台。
では、誰が選んだのか?
(篠ノ之の姉貴なのは間違いねえんだろうけど、なんか、違う気いすんだよな)
何か、もっと大きなモノが、一夏の運命を弄んでいるような気がしてならない諒兵だった。
「私や一夏ならば勝てるといったそうだな」
「覚えがありません。私はトーナメントには出る気がないといっただけです」
「戯言を。力もないのに思い上がるのは見苦しいぞ」
「そうですか」
煽る煽る、と、諒兵は苦笑してしまう。
レオの視線は、ドコからどう見ても箒を舐めているとしか思えないようなものだった。
もともと、諒兵のパートナーであるレオは嫉妬深い面がある。
一番を自称するし、渋々だが相手として認めている元の世界のラウラであったとしても、ギリギリのところで線を引かせる。
つまり、なんだかんだといって、自分が諒兵にとっての一番じゃないと気がすまないのだ。
ゆえに、鈴音を指名したのだろうと諒兵は考えている。
心の奥底にある気持ちに従い、戦う相手として鈴音を選んだのではないか、ということである。
そこに割って入った邪魔者である箒。
(……レオ、お前がどのくらい戦えるか知んねえけど、瞬殺とかやめてやれよ?)
わりと本気で箒のことが心配になった諒兵。
だがそれは、普通、フラグと呼ばれるものである。
十分後。
機能停止を起こし勝手に待機形態となってしまったため、生身となった箒を抱きかかえ、レオは悠然と地に降り立った。
「しょ、勝者、獅子堂レオさん……」
真耶が蒼白になりながら、勝者としてレオの名を呼ぶ。
「第2世代の欠陥機で、第4世代機に勝つだと……?」
と、さすがに千冬も驚きを隠せない様子だった。
しかし会場はにわかに沸き立ってしまっている。
当然だろう。
ようやく、普通の生徒の中から、専用機持ちに勝った生徒が出てきてくれたのだから。
アリーナの地面に箒の身体を置くと、レオはため息をついてピットに戻ろうとする。
だが。
「待てッ、貴様いったい何をしたッ?!」
さすがに、この結果を箒は信じることができなかった。
性能差は圧倒的であったはずだ。
なのに、自分が負けてしまっている。
何か反則をしたとしか思えないのだろう。
「普通に戦っただけですけど?」
「欠陥機が勝てるはずがないッ!」
「そもそもその認識が間違いなんです。赤鉄は確かに武装を積めません。けど、その装甲を武器と考えるなら、全身が武器ともいえますよ」
(……もう少しサポートの手え抜きゃよかった)
レオと箒の口げんかを聞きながら、諒兵は頭を抱えていた。
ギリギリ勝ったくらいだったら箒もここまで吠えないだろうが、いかんせんレオが相当立腹していたのか、本当に瞬殺だった。
赤鉄は第2世代機ではあっても、機動性、移動能力、装甲の耐久力は、設計コンセプトが偏っている分、数値が高く割り振られているのだ。
それを利用できれば、全身の突起はそのまま武器となる。
さらに硬い爪まである。
それらを駆使できるだけの戦闘力がレオにはあった。
この世界のせいなのか、レオは有段者レベルの空手使いとなっていたのだ。
そんなレオを格闘技を得意とする諒兵がサポートしていたのだから、戦闘力は並外れてしまっている。
そもそも諒兵が元の世界で稼いできた戦闘経験値はこの世界のIS操縦者と比べ物にならないのだ。
純粋な格闘型ISの赤鉄を、諒兵がISコアとして動かし、空手使いのレオが操れば、操縦時間の少ない箒や一夏なら十分に倒せるのである。
「だいたい、単一仕様能力まで発動したあなたにいわれたくありません」
ギリッと箒が歯軋りする。
間違いなく接近戦最強クラスの戦闘力を持つレオに追い詰められた箒は、思わず、あくまでも本意ではなかったのだが、単一仕様能力であるエネルギー生成能力、『絢爛舞踏』を発動してしまった。
シールドエネルギーをゼロにできなくなる、まさに反則技だ。
「だから、あまり気は進みませんでしたけど、紅椿のコア狙いでダメージを与えました。まさか、待機形態になるとは思いませんでしたけど」
コアを狙えば勝てると考えたのは、おそらくはレオ自身のおぼろげな記憶なのだろう。
レオが間違いなく自分のパートナーであることを理解できたのはいいが、こうまで敵を作る性格だったとは思わなかった諒兵である。
(マジで悪かった。後で言い聞かせとくから勘弁してくれ)
レオがあくまで冷静に答えるので、何もいえなくなった箒に手を合わせて謝るのだった。
さて、どうしたもんかと諒兵が頭を抱えていると、千冬がレオに声をかけてきた。
「獅子堂」
「トーナメントは辞退したいんですけど」
「却下だ。結果を出した以上、出ろ」
えらく威圧的だなと諒兵は自分の世界の千冬との違いに驚く。
けっこう可愛い面もあった諒兵の世界の千冬と違い、この世界の千冬はあまり愛嬌がないような気がしてしまう。
「そういわれると思いました。機体はこの子がいいんですけど」
「かまわん。もともと誰も乗り手がいない欠陥機だ。好きにしろ」
「はい。後で一次移行しておきます」
その言葉に目を見張る箒にクスッと笑うレオ。言外に初期設定だけで箒を倒したといったのである。
(ああもう、あんま敵作るなよ)
パートナーの意外と好戦的な一面に、頭を抱える諒兵であった。