ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第118話「それぞれの場所で」

IS学園の武道場で、一夏と誠吾が向かい合っていた。

誠吾の手には鞘に収められた状態でワタツミが握られている。

そして、鈴音を除いたいつものメンバーと刀奈、そして諒兵が少し離れたところで見守っていた。

「手合わせっていったから、てっきりアリーナでやるんだと思ったけど……」

「というか、井波さんはワタツミを使うつもりですか?」

と、シャルロットとセシリアが疑問の声を上げる。

確かに、誠吾はワタツミを握っているが、一夏は無手だ。

木刀すら持っていない状態で手合わせできるのかと思う。

そもそも、普通の武器ではワタツミにはまったく敵わないのだ。

それで手合わせになるのかと思うセシリアやシャルロット。

「一夏、井波さんはASを着てても勝てるかどうか難しい相手だよ?」と、シャルロットが問う。

「わかってる」

そう答えた一夏に、諒兵が声をかける。

「そろそろ出したほうがいいぜ」

「ああ。白虎」

『うん、大丈夫』

白虎がそう答えると、一夏の両腕が光と共に手甲を纏う。

さらにその手には白虎徹が握られていた。

「部分展開……」

「いつのまにできるようになったんですの?」

「やったのは今が初めてだけど、できるって感じるようになったのはもう少し前からかな」

そういって答えてくる一夏に、セシリアやシャルロットは驚きの表情を見せる。

「できるできないはイメージの問題だかんな。できなきゃあレオや白虎が止めてくれる」

「なるほどね。逆にいえば白虎やレオ、それに他の子たちがパートナーを止めないなら、たいていのことはできるってことなのね?」

「そういうこった」

刀奈の言葉に諒兵は素直に肯いた。

悪い例ではあるが、できないのに無理にやろうとしたのが、先の戦闘での鈴音である。

あのとき、猫鈴どころか他のASまで止めてきたのだから、できたとしても反動が大きいのは最初に理解できたのだ。

一夏と諒兵はASとの付き合いは丈太郎に次いで長い。

そのあたりのことは感覚で理解できていた。

とはいえ、何故一夏は武道場で誠吾と手合わせする気になったのだろうか。

そう感じたシャルロットは、既に臨戦態勢に入っている一夏には無理だと感じ、諒兵に尋ねかけた。

「お前、自分でいったじゃねえか。AS着てても勝てるかどうか難しいってよ?」

「うん」

「俺や一夏があのダンナとガチでやり合うなら、接近戦しかねえ。なら、飛ぶのは逆にハンデになる」

むしろ飛ばないほうがわずかでも勝機を見いだすことができるということだと諒兵は説明した。

「確かに、空間を包囲するあの刃は広い空間ほど効果が高いな。不必要に刃を増やさせると、身動きが取れなくなる」

そう口を挟んできたラウラに諒兵は肯いた。

「ああ。だから、あの距離で飛ばないのが俺たちが戦うならベターってことだ」

勝ち負けを考えているわけではないが、一夏は剣を握れば真剣勝負をしたいという人間だ。

そして誠吾は真剣勝負をすれば、応えてくれる相手でもある。

命のやり取りをするわけではないが、剣を交えるからには少しでも勝機を見出したいということである。

だがそれだけではない。

「どういうことですの?」

そう、セシリアが問いかけると、逆に諒兵は尋ねかけてきた。

「あのダンナがワタツミってのと一緒に戦うには、剣を持たなきゃダメなんだろ?」

「そうね」と答える刀奈に、同調するようにセシリアも肯いた。

「俺たちは普段からレオや白虎と一緒だかんな。できれば同じ状態で戦いたいってことだろ」

なるほど、と、全員が納得した。

一夏としては、自分は普段から白虎というパートナーと一緒にいる。

しかし、誠吾はワタツミの機能上、本体である模造刀を握っていなければ一緒にはいられない。

本気で戦うならできるだけ近い条件がいいという一夏の考えに、誠吾が応えたのが今の状況なのである。

そして。

「強くなったね、一夏君」

「どうだろう、自分だとよくわかんないんだけど」

「昔とは覇気が違うんだ」

そういって、誠吾は剣を上段に構えた。

対して、一夏は切っ先を相手に向けた突撃の構えだ。

それを見たシャルロットが呆然としながらラウラに問いかける。

「ラウラ、井波さん、構えたことあったっけ?」

「いや、模擬戦では見たことがないな」

「……話を聞く限り、井波さんの本来の構えは上段だそうよ」

「つまり……」

「本気ってことね」と、セシリアの呟きに答えるように刀奈が言葉を続けると、全員が息を呑んだ。

既に、何かがぶつかり合っているような気配を感じ取ったからだ。

互いの気が、互いのパートナーを通して放たれているということなのだろう。

「ワタツミ、気を抜くな」

『OK!』

誠吾が厳しい声で話しかけると、ワタツミも普段と違い、どこか強気な声で答える。

対して。

「白虎、行くぞ」

『うんっ!』

一夏の言葉に、白虎はいつものように元気よく答える。

そして一気に二つの刃がぶつかり合ったのだった。

 

 

そのころ、アメリカ国防総省、すなわちペンタゴンにて。

「うあー、おわっだー。もー、じょるいがぎだぐないー」

「ご苦労様」

机に突っ伏しているティナを見つつ、ナターシャが苦笑いしていた。

ヴェノムに乗れるようになったことで、アメリカまでひとっ飛びなのだが、呼び出されてやらされたのが山のような書類に書き込むことでは、徒労感も大きかろう。

ティナが愚痴をこぼすのも仕方がないといえる。

『ケッケッ、大変だなーティナ♪』

「他人事だと思ってえー」

『他人事だかんなー』

ケタケタと笑うヴェノムに思わず不満顔を向けてしまうティナである。

だが、書類作業自体は必要なことでもあった。

「権利団体がヴェノムに乗れるようになったあなたを取り込もうとしてたのよ。その前に手を打たなければならなかったの」

わざわざ大統領が動いてくれたというのだから、まさにVIP待遇のティナ。

しかし、VIPとしてやらされたのはなかなかに憂鬱な作業であったのは笑うしかないだろう。

「スパイ活動を盾にしようとしてたしね。でも、書類作業はこれで終わりだから」

「文句言えないかー」

そうぼやいたティナに声をかけたのは、耳が鳥の羽のようになっており、尾羽を生やした金髪ショートヘアで、赤と白のストライプのトレーナーとジーンズのオーバーオールを着た小さな人形。

ナターシャのパートナーであるイヴである。

『これからもがんばるの、ティナ』

「はいよー」

イヴの激励に力なく答えるティナだった。

とはいえ、ナターシャのいっていることはすべて事実である。

アメリカの女性権利団体は、シルバリオ・ゴスペルの離反後、ティナをスパイとして学園に潜入させていた。

目的は当然、ISコアの凍結解除と再生産。

もっとストレートにいえば、自分たちが力を取り戻すためである。

だが、そのための手駒であったはずのティナが、AS操縦者の仲間入りを果たした。

ならば、自分たちも力を得るために、手駒であるティナをさらに利用しようと考えるのは当然だろう。

まして、ティナはただのAS操縦者ではないのだ。

「あの『天災』もいっていたそうよ。あなたたちは進化したわけじゃないって」

「そりゃー知ってるけど」

『共生進化は、一緒に進化しなけりゃなんねーかんな』

ヴェノムの言うとおり、共生進化は人とISコアが一緒に進化しなければ成り立たない。

しかし、ヴェノムはもともとオニキスとして独立進化した使徒であった。

独立進化した使徒が、人を乗せられるように変化するとは誰も考えなかったのだ。

しかし、オニキスは鎧を纏わせるための人形を破棄し、そこに人間を乗せられるヴェノムとなった。

ここから考えられることは。

『他の使徒も人を乗せられるように変化できるってことなの』

『その気になりゃーな』

使徒は人類の敵。

そう考えていた者たちにとって、ヴェノムの存在は大きな衝撃を与えたのだ。

強力な力を持つ使徒が、人を乗せられるようになれる。

力を欲する者たちにとって、使徒は『倒すべき敵』から『手に入れたい獲物』へと変わったのだ。

『そー考えてるヤツにゃー無理だろーけどな』

『私たちをバカにしないで欲しいの』

「そうよねー」と、ティナは苦笑いしながらヴェノムやイヴの言葉に同意する。

「私も無理だと思うけど、思い込んでる人たちはある意味強いのよ。間違いを正さないという点ではね」

そういったナターシャの言葉にろくな強さではないなと思ってしまった一同である。

いずれにしても、他の使徒がヴェノムのようになるのは、ほぼ不可能だろう。まず、その意志がないからだ。

しかし、力を欲する者たちは、そういったことを認めない。

「さすがにティンクルがいるディアマンテと自身が人間の姿になったスマラカタは難しいと思ってるらしいけど、アンスラックス、サフィルス、タテナシ、アシュラは可能性があるんじゃないかと思ってるようよ」

『望み薄にもほどがあるメンバーじゃねーかよ』

ヴェノムの言うとおり、全員が人間を乗せるという選択をするとは考え辛いメンバーである。

 

アンスラックスはその個性から特定の人間に与しない。

サフィルスは人間を隷属させたがっている。

タテナシは命というものを大事に思わない。

アシュラは人間に試練を与える側、つまり神仏に意識が近い。

 

『この中に人を乗せるのがいたら、とってもびっくりしちゃうの』

イヴの言葉はその場にいる全員の心の代弁であった。

とはいえ。

「でも、そう考えちゃうのよ、イヴ。だからティナは危なかったの」

「危なかった?」

「自分たちにとって最高の前例なのよ。まして自分たちの手駒として使ってたから、その動きはかなり早かったのよ」

スパイ活動をさせていた権利団体が、その罪をティナに被せ、IS学園から引っ張り出すつもりだったのである。

さすがにスパイを庇うとなると、千冬の動きが制限されてしまうし、束にまでその手が及ぶ可能性がある。

「うあー、めんどくさーっ!」

「そうね。だから、こっちで先に手を打ったの。幸い、イチカ・オリムラとリョウヘイ・ヒノが目覚めて、しかも以前以上の力を見せてくれたからね」

「何でそこにあの二人が出てくるの?」

「二人とも眠り続けてたでしょ?それを悪用して各国の権利団体が男性では進化に負担がかかりすぎるって意見を出させてたんだけど、二人の活躍であっさり覆されて、別の意見を出す必要が出てきたの。その隙に、ね」

力を手に入れる手段をなくすわけにはいかないと、権利団体が別の動きをしていた隙に、アメリカ大統領や、ナターシャ、アメリカ国家代表のイーリス・コーリング、そしてISに直接触れてきた者たちがティナを守るために動いたということである。

その結果、ティナはただのIS学園生であったと国家が承認できた。

よって、これからもIS学園所属でいられるようになったのだ。

「うー、頭が上がんなくなっちゃうー」

「なら、がんばって。同じアメリカのAS操縦者として期待してるわ」

「そりゃまー、がんばるけどさー」

「書類は終わったし、後は検査が終われば、後の面倒ごとは私のほうで引き受けるから」

「サンクス」

「シュア♪」

そういって笑いあうティナとナターシャ。

そんな二人をヴェノムとイヴが面白そうに眺めていた。

 

 

そのころ、鈴音は自室で横になっていた。

戦闘はともかくとして、訓練や学習もさせてもらえないというのは、努力家の鈴音にはなかなかに苦痛である。

とはいえ、猫鈴はまだ応答できない。

表面の傷跡はほぼ塞がっているが、まだ完治には程遠いからだ。

特に筋肉の損傷が激しく、いまだに動かすと痛いのだ。

じっとしているしかない。

「つっても、退屈すぎるわよ」

日がな一日横になっているだけでは、本当に退屈で死にそうになってしまうと鈴音は思う。

そうなると、やることはいろいろと考えることしかなかった。

「そりゃ、みんなのことは信じてるし、頼りにもしてる。でも……」

だからこそ、自分は今のままではダメだと考えてしまうのが鈴音の悪い癖である。

その点を指摘するはずの猫鈴が動けないのは、実はまずい状態なのだが……。

『変なこと考えちゃダメー』

「ヴィヴィ、お願いだから監視しないでよ」

『マオリンの代わりー』

「それいわれたら、動けないじゃない」

『動くなー、金目の物を出せー』

「持ってないっつーの」

そもそも動くなといっておいて、何かを出せというのは見事な矛盾であった。

どうでもいいことである。

それはともかく、鈴音が動けないのは、ヴィヴィがしっかり見張っているためだった。

IS学園そのものであるヴィヴィは、その気になればそれぞれの部屋の状況を把握できる。

さすがに覗き趣味はないため普段は監視はしないが、鈴音は今、謹慎中だ。

よって千冬の依頼により、鈴音がおかしなまねをしないように見張っているのである。

『イチカやリョウヘイも心配ー、みんなも心配ー』

「うぅ~、ヴィヴィ、イヤミ覚えたの?」

『ホントのことー』

「それがイヤミだっていってんのよっ!」

現在の鈴音の状況については、既に仲間内には伝えられている。

身体を直すためと、無茶をした罰としての謹慎。

そのため、鈴音は、仲間たちとドア越しにしか話すことができない。

それでも、みんなには訓練もあるのでしょっちゅうというわけには行かないが、ちゃんと心配し、ときどき話にきてくれるのだ。

心配されていることは十分に理解している。

ただ、鈴音としては、このままでは取り残されているような気がしてしまうのだ。

『休むのもトレーニングー』

「あーもー、わかったわよっ、休むわよっ!」

『……リンなら絶対大丈夫だからー』

「ありがと」

最後に、本当に心配そうに告げたヴィヴィの一言に、鈴音は思わず苦笑いしてしまっていた。

 

 

 

 




閑話「優秀なる軍隊」

ペンタゴンで検査を受けているティナは暇を持て余しているためか、ふと思いついた疑問を口に出した。
「ドイツ?」と、答えたのはナターシャ。
「あそこにも権利団体あるでしょー?あっちのAS操縦者の……、確かハルフォーフ大尉だっけ。かなり動きが軽くないかなって」
「あそこは軍部が強いのよ」
そういってナターシャは解説する。
ドイツでは、軍部の力が大きいため、ドイツ軍所属のクラリッサを女性権利団体がどうこうすることができないのだという。
クラリッサ自身、軍人としてしっかりやってきているので、やはり軍の意向に沿った考えを持っている。
そうなると、女性権利団体も手の出しようがないのだ。
「一度、シュヴァルツェ・ハーゼに権利団体が息のかかった者を送り込もうとしたと聞いたけど……」
「聞いたけど?」
「わずか一週間で自ら除隊したそうよ。とてもじゃないけどついていけないって」
「へー」
「ドイツ軍は一般兵でも訓練が相当キツいって聞いてるから、エリート部隊じゃ無謀でしょうね」
生半可な覚悟では、シュヴァルツェ・ハーゼではやっていけないのだろうとナターシャは語る。
「でも、羨ましいなー」
「そうね。私ももう少し身軽に動きたいし、ドイツのハルフォーフ大尉は羨ましいわ」
アメリカは男女平等の気質が強いせいか、女性権利団体もまだ力を持っている。
その力に振り回される身のナターシャとしては確かに羨ましいのだろう。
だが。
『知らねーってのは、幸せだな』
『知らぬはほっとくの』
クラリッサとシュヴァルツェ・ハーゼと進化したワルキューレの性格を知っているヴェノムとイヴは、深いため息をついた。


そのころ。
「ああ、この一枚は最高だわ。可愛いわラウラ♪」
「「「はいっ、クラリッサおねえさまっ♪」」」
クラリッサが手にする写真に写っているのはドヤ顔をして、諒兵に突っ込まれているラウラの姿。
まあ、確かに可愛らしいのは間違いない。
『オーステルンの妨害を振り切って写したわ。自信作よ♪』
「「「ありがとうごさいますっ、ワルキューレおねえさまっ♪」」」
ドヤ顔をキメるワルキューレだった。
ちなみに外見は、犬耳と犬の尻尾をつけた淡い金髪の軍服姿の女性である。
そんなことはともかく。

「……なんでうちの軍隊はASまで技術を無駄遣いするの……」

アメリカのティナやナターシャと違い、ドイツ軍の内情を思い知っているアンネリーゼは項垂れていた。



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