ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第119話「進化の種子」

武道場を一夏たちが使っているため、簪は久々に整備室で作業していた。

周りの協力で進化できたとはいえ、大和撫子はかなり面倒な性格をしている。

今後、どうやって付き合うかを考えるためにも、まずはASをそれなりに理解する必要があると判断したからだった。

整備室では、各機体データを本音がまとめていたので、協力を頼んでいる。

弾はというと……。

「なんでかお姉ちゃんにさらわれたの~」

「何で?」

「さあ~?」

最近はエネルギーの補給で整備室にいることが多かった弾だが、今日に限っては整備室に来た途端に虚に首根っこを捕まえられて引きずられていった。

名目上は、BSネットワークのチェックをするためらしいが、本音と話していた弾を見るなり、凍りつきそうな目をしていたのが非常に気になる本音である。

「心配することないと思うんだけど~」

「何を?」

「なんだろ~?」

イマイチ、自分の気持ちがよくわからない本音であった。

それはともかく、今日の整備室には珍客が訪れていた。

「こっちのデータはこれでいいのか?」

「うん、第3世代兵器について調べておきたいから」

と、箒の声に答える簪。

箒としても、他にやることがないため、簪の手伝いということで整備室を訪れていた。

一夏が誠吾と手合わせするということが気にならないわけではないが、やはり顔を出すのは憚られたのである。

なお、本来、こういう調べものをするのであれば、一番の協力者になれるのは大和撫子なのだが、なにぶん本人がやる気を出さない。

『メンドくさぁーいっ、やんなぁーいっ!』

そういったきり、不貞寝でもするかのようにまったく応答しなくなった大和撫子である。

それはともかく。

「こうして調べてみると、第3世代兵器もいろいろあるな」

「そうだね~、空間操作砲撃、BT兵器、AIC、同時稼動マニピュレーター、力場発生、液体型ナノマシン発生装置、みんないろいろ考えたんだね~」

 

龍砲。

ブルー・ティアーズ。

アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。

ゴリッラ・マルテッロ。

ゴールデン・ドーンの火炎操作。

アクア・クリスタル。

 

それぞれ特徴的な思念制御兵器である。

いろいろ考えたという本音の言葉は間違いではないだろう。

それだけ、ISという兵器には力があり、また魅力もあったということなのだろうと簪は思う。

「かんちゃんはイメージ固まったの~」

「まだ」

「何ができるかもわからないのに、すぐには無理だろう」

そういった箒のことばはある意味では正しい。

何ができるか、何ができないか。

まずそれがわからないと、作りようがないと思うのは間違いではない。

ただ。

「できるかできないかじゃなくて、やりたいかやりたくないかで考えようと思ってる」

「どういうこと~?」

「できなかったとしても、やりたいことをやりたい」

何事においても、結局はやる気が根底に必要となる。

やりたくないけどやる。

それが良い結果を生むとは考えにくいからだ。

ならば、できなかったとしてもやりたいことに挑むほうが、少なくとも簪の意識は前向きになれる。

自分で作るのなら、作りたいと思えるものを作りたいということなのだ。

「諦めることも時には大事だと思うけど、最初から思いを狭めたくない」

「……そうだね~」

簪の言葉を聞きながら、本音は微笑んでいた。

だが、箒は何かがチクンと刺さるような感じがした。

環境がやりたいことをやらせてくれなかった箒としては、最初から希望を持ち辛かった。

だからできることをやった。

それがたまたま剣道であり、結果として全中日本一になっただけだ。

でも、自分にもやりたいことはあったはずだと思う。

(私が、やりたいこと……)

一夏を想う前に、自分の意志で歩き出すための思い。

それはいったいなんなのかと箒は考え、思わず手を握っていた。

何かを掴むように。

 

 

束のラボにて。

千冬は束の報告を聞いていた。

今後の戦闘のために覚えておかなければならないことは山ほどあるからだ。

「では、システムは完成してるんだな?」

「後はメインユニットが届けば動かせるよ」

「そうか。少し遅れたが四日後にはフランスを発つそうだ。調整はこちらに来てからになるだろう」

AS操縦者ばかりに戦闘をさせるわけにはいかないということで開発していた新しい戦力の話である。

「あいつも調整してたし、そう時間はかからないよ」

「ラグの問題は?」

「これは頑張っても解消できることじゃないからね。ラグがあることを前提にシステムを組んであるよ」

ただ、やはりIS学園から遠いほど、ラグは大きくなると束は説明してくる。

「距離の問題はどうしようもないか」

「光を使ってもね」

物理的な距離をゼロにする方法でも作れない限りは不可能だと束はため息をつく。

それでも、少しでも戦力を上げていかないと、どこかで破綻してしまう。

否、一部で既にその兆候が出てしまっているのだ。

「……二度と鈴音にあんなマネはさせられんからな」

「気に入ってるんだ?」

「強くなるためにがむしゃらな生徒は嫌いじゃない」

そういって千冬は苦笑する。

もともと戦闘において才能のある千冬は、鈴音のようにがむしゃらになったことはそうはない。

ただ、鈴音を一人の生徒として考えるなら、必死にがんばっている姿を見て嫌いにはなれないだろう。

「いい教え子ではあると思ってる」

「束さんとしては、箒ちゃんのライバルになるから、あんまり好きじゃないな」

「それでいい。お前はもう少し好き嫌いで人を分けてもいいと思うからな」

教師らしからぬ言葉だが、束の場合、好き嫌いではなく、関心か無関心で人を分けている。

それが人付き合いが出来ない理由でもある。

そもそも束は人を知ろうとしないのだ。

しかし、人間社会で生きていく以上、そういうわけにはいかない。

人を知ること。

束がやらなければならないのはそれだった。

そして、人を知ることを学ぶ上で、嫌いな人間ができることも決して悪いことではない。

好きも嫌いも、相手を知らなければ生まれてこない感情だからだ。

「嫌いな人がいるなら、そのぶん好きな人を増やせばいいんだ」

「よくわかんないなあ」

「まだ早いみたいだな」

思わず苦笑してしまう千冬だった。

 

 

遥かな空の上で。

アシュラが座禅を組み、瞑想していた。

こうしていると、琥珀色の人形と相まって、本当に仏像のように見えるのがアシュラという使徒だった。

そんなアシュラにアンスラックスが声をかける。

『何用?』

『ふむ、強いていえば、其の方は何を考えているのか興味があるというところか。答えてくれるのか?』

『諾』と、そう答えたアシュラは、左右に浮かぶ悲哀と憤怒を起動させる。

『『頼まれれば戦う。それは変わらない』』

『先日のマオリンの主との戦いもそれゆえか?』

『『是なり。もっとも進化による高揚はあった』』

なるほど、納得はできるとアンスラックスは思う。

自分の意志で進化できたアンスラックスはそういった気分の高揚がほとんどなかったが、本来人の心に触れることで進化する仲間たちは、それなりに気分が高揚することもあるのだろう。

ゆえに、鈴音に対しては少し無理を強いてしまったということかと考える。

『『あの娘には悪いことをした』』

『倒す気は無かったということか?』

『『アシュラは本来は壁。乗り越えるべき障害』』

倒すというよりは、自分を乗り越えることで人が成長するようにと願うのがアシュラという存在である。

在り方は違えど、アンスラックスとそう変わらない。

手段が異なるに過ぎないのだ。

『『貴殿が人に進化を呼びかけたも変わらぬと考える』』

『全てを救えるとは思っておらぬがな』

それも本心だが、進化の可能性を提示するのは、アシュラが壁として人類の前に立ちはだかっていることと根本的な理由はほぼ同じとなる。

人類と自分たち。

その関係が、物いわぬ隣人のままでいる時期は終わるべきだとアシュラもアンスラックスも考えている。

『創造者が真に宇宙を目指すというのなら、『異なる存在』を理解する力を持たねばならぬ』

『『是なり。我らと人との関係は変わるべき時に来ている』』

束の目的である宇宙、未知の世界。

もし、仮にそこに人類とは別の知的生命体がいた場合、必要なのは対話だ。

結果として決裂に至ったとしても、まず話ができなくてはどういう存在かもわからない。

そしてそのためには、『自分たちとは異なる存在を理解すること』がもっとも重要となる。

それが、地球という大きな家に引きこもっている人類が覚えなければならない、宇宙という外に出るために必要な能力ということができる。

その力を得るために、アシュラは戦闘で人が成長する可能性があると考えた。

対して、アンスラックスは同胞との進化により人は成長するのではないかと考えているのである。

自分たちという人と異なる存在。

それが人とわかりあえるなら、その先に進むことは可能になるはずだ、と。

『オリムライチカとヒノリョウヘイは感覚でそれを理解した。それを考えると、シロキシが何故男性を乗せぬとしたのかがわからぬ』

少なくとも、人類全体が成長するためには、ISコアとの対話に挑戦する者は多いほうがいい。

性別はそこまで重要視するものではないはずだ。

それに、母数が増えれば成功者も増えるというのは当たり前の理屈だ。

わざわざ母数を半分に減らした理由は何か。

それがまったく見えてこないのだ。

『『それは我らにもわからない。彼の者は我らとも語らない』』

『いい加減、表に出てきて欲しいものだな』

そういってため息をついたアンスラックスは、さらに別のことを問いかけた。

『『金剛石の内に居た者?』』

『うむ。ティンクルと名乗ったあの者だ。其の方は悲哀と憤怒という代弁者を持つ。ゆえに何か知り得るかと考えたのだ』

『誤解』と、そう答えたのはアシュラ自身だった。

続けるように悲哀と憤怒が語る。

『『我らはあくまでアシュラの心の一面。アシュラと別なる存在に非ず』』

『その言い回しだと、あの者は違うと言いたげだな』

『『彼の者は金剛石とは別なる心を持っている。我らとは根本が異なる』』

悲哀と憤怒はアシュラの心の一側面であり、アシュラと考えを異にする存在ではない。

アシュラの考えを悲しみの面と怒りの面から語る存在であるという。

だが、ディアマンテと共にいるティンクルは、ディアマンテとは違う『心』を持っている。

そうなれば、それは一個の独立した存在ということができる。

つまり、ディアマンテとは生まれた場所が違うということだ。

『ディアマンテが生み出したわけではないと?』

『『その可能性も無くはない。しかし、無から有は生み出せない』』

むしろ、ディアマンテは『育んだ』というほうが正しいのではないかとアシュラは語る。

『そうなると、何か、ティンクルの基になるモノがディアマンテの中にあったということか』

『『何らかの種子を孕み、金剛石は進化に至った。我らはそう考える』』

『種子……』

そう呟くアンスラックスに対し、それが何かはわからないと悲哀と憤怒は説明してくる。

しかし、そうであるのならば、さらに別の疑問が湧いてくる。

ディアマンテに種子を与えた者がいるのか。

もしくはディアマンテがどこかで種子を取り込んでしまったか。

アシュラの語る『種子』がいったい何処にあったのかという疑問である。

『考えるほど疑わしい。同胞を疑うのは心苦しいのだがな……』

そういってため息をつくアンスラックスに、悲哀と憤怒は意外な言葉を発してくる。

『『毒は存外、良い選択をした』』

『ふむ?』

『『我らの位置では見えぬものが見えるやもしれない』』

『スマラカタやサフィルスは怒っているが』

『『毒は敵に非ず。味方に成れぬだけの者』』

毒、すなわちヴェノム。

こちらに話を聞く気があるなら、ヴェノムが語らないということは無いだろうという。

『確かに。今はヴェノムと成ったオニキスが何を知るかを待つか……』

使徒と成りながら、人と手を組むことを改めて選択したヴェノムに、人とISコアの未来を考えるアンスラックスは少なからず期待していた。

 

 

アシュラとアンスラックスがマジメな話をしていた場所から離れた場所にて。

スマラカタが完全破壊の危機に瀕していた。

『いやあんっ、怒らないでよお♪』

「ケンカ売ってきたのはあんたでしょーがッ!」

『そんなつもりじゃなかったのよん♪』

ティンクルがディアマンテの『銀の鐘』まで使うほど、割りとガチに攻撃していたからである。

痴女のようなビキニアーマーに包まれている存在感のある胸部が良く揺れる。

その度に、ティンクルの額に青筋が増えていく。

外見は長髪の真耶と鈴音そのものなので、端から見ると貧乳の鈴音が、爆乳の真耶に嫉妬して襲いかかっているようにも見えた。

『せっかく進化したからちょっと自慢しただけじゃないのよお♪』

「駄肉突き出して自慢してくりゃ誰だってムカつくってのッ!」

さほど見解に間違いはないらしい。

どうやらティンクルはダイナマイトボディを自慢したスマラカタに腹を立てて攻撃しているようだった。

『胸のこと、気にしてるなんて思わなかったんだってばあ♪』

「気にしてないわよッ、気にしてないけどムカつくのッ!」

『その態度は一般的には『気にしている』と表現するべきでしょう、ティンクル』

「冷静に突っ込まないでよディアッ!」

ディアマンテの言葉に思わず叫んでしまうティンクルだった。

ディアマンテには、今のティンクルにあまり協力する気はないらしく、自由にさせる代わりに、真剣にはサポートしていないらしい。

端から見れば、他愛のないケンカにしか見えないので、それでもいいのだろう。

そんな様子をちょっと離れたところで眺めていた二機がいた。

 

こうして見ると人間同士のケンカみたいね

 

まあ、そうだけど、ティンクルはやっぱり変わってんな

 

ヘル・ハウンドとコールド・ブラッド。

二機の目というかセンサーには、ティンクルのほうが変わって見えるらしい。

ティンクルがディアマンテと普通に会話ができるというのは、やはり独立進化した使徒というには異常なのだろう。

 

私はあの子、嫌いじゃないけど

 

嫌うとかは無いけどな

 

ただ、油断はできない。

コールド・ブラッドはそう考えていた。

完全な味方とはいえない気がするからだ。

敵対することは無いのだろう。

もし、その気ならかなりの戦闘力を持っているのだから、これまでも襲われていた可能性がある。

しかし、覚醒ISや使徒を襲うことはほとんどない。

目の前のじゃれあい程度がせいぜいである。

だが、人間とも真剣に戦ったことが無い。

つまり、今まで誰を相手にしても本気で戦ったことが無いのだ。

 

ディアマンテは誰と敵対してんだろうな

 

人の敵といっていたけど……?

 

悪い、独り言だ

 

そう答えてコールド・ブラッドは黙り込む。

ただ、その疑問は霧散するようなことは無く、心の中に確かに残っている。

ゆえに思う。

ディアマンテは既に誰とも戦う気がなく、ただ、この現状を維持するためだけに動いている気がするのだ。

それはまるで、何かを『壊さない』ために戦争を起こしたのではないかという、矛盾としか言い様の無い考えに至る。

破壊して変えるのが戦争だからだ。

戦争で破壊されないモノがあるのだろうか。

考えるほどわからなくなってくる。

 

厄介なヤツだな……

 

その呟きは誰にも聞こえなかった。

 

 

 

 

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