ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第124話「白き式と黒き答え」

束の告白を聞き終えた箒は、ふと疑問に思ったことを尋ねた。

「そういえば、シロは今でも姉さんが持ってるんですか?」

「つい最近まで傍にいたんだけどね。ただ、私、もう一度シロと話したかったから、環境を変えるために新しいISに搭載したの」

「新しいIS?」

「白式だよ」

何気なく答えられ、箒は逆に答えに詰まってしまう。

白式がかつて白騎士であったことも、箒は知らなかったからだ。

ただし、最初は搭載されるはずはなかった。

「最初、白式の開発は倉持が勝手にやってたからね」

「それじゃ、何故?」

「開発が頓挫しちゃったんだよ。相当無理してたみたいだったなあ」

「それで、姉さんが?」

「うん。もともといっくんの専用機になる予定だったし、もしかしたらシロがまた話してくれるかもって思ったんだよ」

初の男性専用機として開発されていた白式だったが、開発が頓挫してしまい、倉持技研の研究者が困り果てていたところに、声をかけたのが束だったのだ。

無論、束に協力する意思などなかった。

ただ、千冬の弟である一夏なら、シロがまた話してくれるのではないかと考えて完成させたのだ。

「ちーちゃんも一度だけ話したことがあるしね」

「そうなんですか?」

「声を聞いたみたいだったよ。まあ、その後すぐサンプルとして提供されることになったから、シロは私の傍にいさせたんだけど」

だが、傍にいさせても、いつからか誰とも話さなくなったシロ。

ISコアですら、シロと話したことがある者はほとんどいないらしい。

ゆえに、少ない可能性を一夏に見い出したということなのである。

「まあ、それでいっくんをIS学園に入学させるように仕向けたんだけどね」

「姉さんの仕業だったんですか……」

「でも、まさかりょうくんまで乗れるなんて思わなかった。というか、白虎とレオも計算外だったなあ」

今の一夏と諒兵の専用機ともいえる白虎とレオ。

最初はちょっと動かすために接触するはずだったのだが、くっついたまま離れないとは思わなかったのだ。

「ASのことを知ってればよかったんだけど、あいつのこと知らなかったし」

「あいつ?」

「あいつ」としか束は答えない。

正直に言えば、束にとっては『嫌い』に属する人間だからだ。

だとすると、これ以上聞いても決して話さないだろう。

そう考えた箒は、別のことを尋ねる。

「シロは今でも話さないんですか?」

「うん、ちーちゃんが話そうとしてるけど、答えないみたい。ただ怒ってるみたいだとは聞いたよ。それは私も感じてるんだけど」

もう少し言えば、シロは何かを待っているらしいことも束は理解している。

理解しているが、その何かがわからないので、対処のしようがないのだ。

「だから、今は待つしかないかなって……」

「そうですか……、そういえばシロの代わりに差し出した二番目のコアって今はどうなってるんです?」

「探してるんだけど、見つからないんだよね」

「えっ?」

「ディアマンテの事件でISたちの心がみんなシロと同じような感じなんだってわかったから、悪いことしたなって思って探してるんだけど、全然見つからないの」

束としては贖罪の意味もあった。

こっちの都合で研究材料にしてしまったのだ。

できるなら謝りたいと思っていたのである。

「倉持が持ってて最初は白式に搭載される予定だったらしいんだけど、白式を受け取るとき、コアはこっちで用意するからっていって抜いてもらったんだよね」

「だとすると、最初は白式のコアになる予定だったんですか……」

「うん。でも、今はわかんない。新しい機体のコアにするとかいってたけど」

「新しい機体?」

「あのころは全然興味なかったけど、りょうくんの専用機もこっそり開発してたらしいよ、倉持」

「というか、さっきから言ってる『りょうくん』て誰ですか?」

「日野諒兵。箒ちゃんも興味ない人は全然覚えないよね……」

変なところが似た姉妹だと束は内心呆れてしまう。

だからこそ箒だともいえるが。

逆に箒にしてみれば、姉がここまで諒兵に興味を持っていることが驚きである。

もっとも、それ以上に諒兵のための専用機があると思っていなかった箒は驚く。

「男性専用機の開発は夢だったらしいよ。いっくんが白式を受け取らなかったから、そっちの開発は続けてたみたい」

「そうなんですか。それが二番目……、なら三番目もいるんですよね?」

「うん。正確には『いた』だね。三番目のコアがザクロ、つまりちーちゃんの専用機の暮桜」

千冬の専用機となるのなら、コアもちゃんと用意しなければと考えた束は、シロは出したくないし、二番目は差し出してしまったので、三番目として作ったコアを用意した。

それがかつて使徒として暴れていたザクロである。

「面白いですね」

「面白い?」

「一番目が八咫鏡で三番目が草那芸之大刀なら、二番目は八尺瓊勾玉かなって思ったんです」

「あ」と、思わず束は声を漏らす。

箒にしてみれば、日本に伝わる三種の神器がISコアになったというのが面白いと思ったくらいなのだが、束にしてみればそれは大きなヒントとなった。

一種のつながりがあるはずだと思ったのだ。

ザクロはもういないが、シロは白式としてここにいる。

三種の神器としてのつながりを辿れば、二番目のISコアが見つかるかもしれない。

同時に、そのコアで諒兵の専用機を作ろうとしていたのはなぜかと考える。

(そうだ、そもそもなんで白式はあんな設計だったんだろう?)

設計そのものは倉持の研究者がやっていたのだ。

束はそれを完成させただけである。

白式は単に男性専用機として開発されていたわけではない。

何か特殊な理由がある。

そう思った束はすぐに駆け出した。

「ねっ、姉さんっ?!」

「ありがと箒ちゃんっ、またお話しようねっ!」

そういって束は全速力でラボへと駆けていく。

そんな束の背中を、箒は呆然と見つめていたのだが、思わずプッと吹き出してしまう。

「姉さんって、けっこう面白いところもあるんだな」

初めて束に感じた人間らしさ。

それは箒にとって好ましいものだった。

 

 

ラボに戻った束は通信相手を叩き起こした。

「てめぇなぁ……、コア・ネットワーク使って脳みそ直接叩き起こすやつがいるかッ!」

「知らないよそんなのっ、それよりあんた白式の設計コンセプト聞いたことないッ?!」

「白式の設計コンセプトだぁ?」

通信相手は丈太郎である。

知っている人間の中で唯一科学者よりといえるのは丈太郎しかいないからだ。

ゆえに、白式について知るために丈太郎に通信をつなげたのである。

かなり荒っぽくはあったが。

「そんなもん知ってどうすんだ?」

「知ってるでしょっ、私が二番目の子を探してるのはッ?!」

「あぁ」

「白式を受け取ったとき、りょうくんの機体を倉持が作ってるっぽいのは知ったんだけど、その機体に二番目の子が載せられてるはずなの」

そのことは丈太郎も知っている。

もっとも興味は持たなかった。

最初からASを知っていた丈太郎は、レオが諒兵から離れないことを知っていたからだ。

つまり、無駄な努力になる。

そのことは倉持の研究者にも伝えていたが、彼らは聞く耳を持たず、開発が続けられた。

研究自体は別に無駄にはならないだろうと思った丈太郎はそれ以上は関わらなかったのである。

ただ、束のいいたいことがさっぱりわからなかった。

「それが白式の設計コンセプトとどうつながんだ?」

「シロは八咫鏡、三番目だったザクロが草那芸之大刀、なら二番目の子は八尺瓊勾玉かもしれないの」

「で?」

「シロからネットワークで探せるかもしれない」

「探しゃいいじゃねぇか」

それ以外に答えようがない。

確かに束のいうとおり、三種の神器としてのつながりがあるならシロからコア・ネットワークで探し出すことはできるだろう。

シロが答えないとしても、シロの持つネットワークアドレスを辿っていけばいいのだから、話さなくても問題ない。

「いいたいのはそこじゃないっ!」

「んあ?」

「そこまで考えて白式って機体のコンセプトがおかしいって思ったんだよッ!」

そう、白式はおかしい。

開発当時、イグニッション・プランに則った開発をしていくならば第3世代兵器を載せる必要がある。

しかし、白式に載っているのは第3世代兵器ではなく、単一仕様能力だった。

これは束が開発したわけでも、考えたわけでもない。

無論、束や丈太郎なら十分にできることだが、考えたのは二人のどちらでもなく、倉持の研究者だったのだ。

「……だから設計コンセプトが知りてぇってか」

「あんなバカな仕様、普通考えないよ」

「まぁな。俺も最初聞いたときゃぁ、アホかと思ったぜ」

そして一つため息をつくと、丈太郎は話し出した。

「白式ぁ実験機だったらしぃ」

「えっ?」

「あの機体ぁ最初から対で作られてたんだよ。おめぇの紅椿ぁ白式のサポート機なんだろ?」

「うん」

「だが、倉持じゃぁサポート機じゃなく、白式をさらに発展させた上位機を作るつもりだったらしぃ」

つまり、白式はその機体のベースになる予定だった。

しかし、だからといって白式は弱い機体ではない。

白式はIS開発を発展させるための機体だったのだ。

「白式で何を実験する気だったのさ?」

「再現だ」

「再現?」

「単一仕様能力の『完全再現』だ。おめぇが完成させたが、倉持の連中ぁ、それをまず最初の目的にしてたみてぇだ」

第3世代兵器は、単一仕様能力に近い能力を機体に持たせるために作られたものである。

しかし、それはあくまで近い能力であって、単一仕様能力のような異常な能力ではない。

倉持の研究者はその異常な能力の完全再現を目指していたということである。

「そっか。だから『雪片』弐型に『零落白夜』なのか……」

「あぁ。現存する中でもっともデータが多かった織斑と暮桜の『零落白夜』を、機体の機能として再現することを目的にしてた。それが白式の設計コンセプトだ」

今となっては、意味のないことである。

シールドエネルギーを大量消費しての一撃必殺。

しかし、覚醒ISとの戦争で、そんな力は危険でしかない。

避けられれば落とされるだけだからだ。

「織斑の零落白夜ぁ『競技』だったからこそ最強だったかんな。今の戦いじゃぁむしろ邪魔な機能だ」

「でも、白式を開発してたころは意味があった」

その意味とは、白式をさらに発展させた上位機を作るためということになる。

では、何を発展させるというのか。

単一仕様能力以外には考えつかない。

とはいえ、単一仕様能力は『究極』に近い力だ。

そこからどう発展させるつもりだったというのかと束は思う。

「力じゃぁねぇ」

「力じゃない?」

「おめぇも科学者ならわかんだろ?」

つまり発展するのはISの単一仕様能力ではなく、ISを研究開発する科学のほうである。

すなわち。

「……単一仕様能力を『創造』するつもりだったんだね?」

「俺も詳しかぁ聞いてねぇ。ただ単一仕様能力を機体で再現するって話ぃ聞いただけだ。そんとき相手が漏らしたんだ」

「何を?」

「俺が同じ機能を持つ機体を作ってもあんま意味ねぇぞっつったとき、『同じでなければ意味がある』っつったんだ。そこから考えりゃ、答えぁおめぇのいったとおりだろうよ」

倉持の研究者の目的は、単一仕様能力を創れる科学力の発展であったということだ。

他国とは一線を画する、篠ノ之束という天才を生み出した国の科学者ならではの発想だった。

「それが、りょうくんの専用機になるはずだったんだ」

「あぁ。名前ぁ『黒答』だ。『白い式』の対で『黒い答え』って書く」

なるほど、相応しい名前だと束は思う。

白い式が導き出した黒い答え。

それが単一仕様能力を『創造』するということなのだろう。

だからこそ、彼らは白騎士のコアとして差し出された二番目のコアを白式に、そして黒答に使おうとしたのだ。

ゆえに。

「あんたにそう答えたのって誰?」

束はその相手に興味を持った。

今の束や丈太郎にとって単一仕様能力、ASと人が心をつないで創る力は絆の力だ。

一方的に創ろうとするだけでは、決して壁は超えられないと知っている。

人類の隣人となりつつあるISコアたちと手をつないでいくことで得られるものだと考えているのである。

ゆえに、そう考える者がいたことに束は苛立つ。

今もそうだとは思いたくないくらいだ。

だから興味を持った。

「変な名前だったな。確か『篝火ヒカルノ』だ」

やたら目つきの鋭い女だったと続ける丈太郎の言葉を、束は真剣な表情で聞いていた。

 

 

一方そのころ。

某国、某都市のホテルの一室にて。

まどかはヨルムンガンドに今後の計画について尋ねていた。

「IS学園のシールドは破れない?」

『鞘の君の障壁は隔絶型結界だ。アレはもともとその力を持っている。単純に突き破ろうとしても単体では不可能だよ』

多少揺るがすことはできるが、と続けるヨルムンガンド。

実際、以前、ゴールデン・ドーンたちの侵入が成功したのは、ヨルムンガンドが揺るがすことでできた弱い部分に三機が一気に突入したからなのである。

一機での侵入はまず不可能。

できるとしたら大和撫子か白式、アンスラックスとなる。

それでも全力で、大半のエネルギーを消費してようやくというところだろう。

それほどにヴィヴィのシールドは外からの侵入に対して強力なのだとヨルムンガンドは説明した。

だが、それではまどかは納得できない。

できるはずがない。

「だったらどうやっておにいちゃんに会いに行けばいいっ?!」

それだけが今のまどかの行動原理なのだから。

会えないのを我慢するなんてできるはずがなかった。

そんなまどかの叫びにため息をつきながら、ヨルムンガンドは答える。

『落ち着きたまえ。突き破るのは不可能だといっているだけだ。侵入するならば方法はある』

「ホントかっ?!」

黙して肯くヨルムンガンドにまどかはホッと安堵の息をついた。

そして、方法があるというのならば、当然興味が湧いてくる。

『既に布石は打ってある』

「ふせき?」

『そうだ。考えなしにあの戦場に行ったわけではないよ』

以前、鈴音とセシリアがアシュラと戦っていた戦場のことである。

ヨルムンガンドはそこで、IS学園に侵入するための布石を打っていた。

だからこそ、シドニーに転送したのである。

「準備はできてるのか?」

『そういうことだ』

「じゃあ、どうやって侵入するんだ?」

『置換するのさ』

ヨルムンガンドがニヤリと笑いつつそう答えると、まどかの目がジトッとしたものになる。

『マドカ、汚物を見るような目はやめたまえ。破廉恥な行為をするのではない』

「じゃあ何だ?」

『私は『置き換える』といっている』

さすがに痴漢扱いはイヤなのか、冷や汗を垂らしながらヨルムンガンドは説明してきた。

とたん、まどかの表情がぱあっと明るくなってくる。

「ならっ、今度こそおにいちゃんに会えるんだなっ?!」

『ああ。彼とそのパートナーは既に目覚めているし、普通に会えるだろう』

「やったあっ♪」

『嬉しそうで何よりだ』

子どものように無邪気な笑顔で喜ぶまどかを見て、ヨルムンガンドは娘がはしゃいでいるかのように眩しそうに目を細めた。

その唇が微かに動く。

『聖剣の君には悪いが、利用させていただくとしよう』

空を駆ける青き翼。

それが彼の侵入計画の要だった。

 

 

 

 

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