話の腰をいきなり折ったのはシャルロットだった。
「いきなりなんでぇ?」
「あの、今の話だと、一夏のお父さんとお母さん、恋人同士って感じじゃないですよね?」
「まぁ、そうだな」
「一夏が生まれることになったきっかけとかあるのかなあって……」
確かに、話を聞く限り、家族ではあったとしてもそれは千冬を中心として、父と母であるという関係だ。
しかし、一夏、そしてまどかが生まれるとなると、両親には当然夫婦としての交渉があったはずである。
ただ、そんな色気のある関係とは思えないのだ。
「……たぶん、私のせいだ」と、まるで懺悔するように呟いたのは千冬だった。
「どういうこった、千冬さん?」
と、諒兵が少々興味を示す。
同い年ということは同じころに生まれたわけで、気にならないはずがなかった。
「なんというか……」と、言いづらそうに千冬は語る。
その日は千冬の誕生日だった。
小さなアパートの一室で、家族揃ってお祝いをしていた。
「誕生日おめでとう、千冬」
「おめでとう。今日で七歳か。随分大きくなったな」
深雪も陽平も、ふーっと息を吹きかけて誕生日ケーキの蝋燭を消す千冬を見て、にこやかに誕生日を祝う。
「ありがとう、母様、父様♪」
いまだに父母の呼び方が直らない千冬だが、これはこれで可愛くていい♪とお互いが思っているらしい。
親バカである。
「プレゼント、一つしか用意できなくて、ごめんなさいね」
「だいじょうぶっ、あっ、でも……」
「時間がかかってもいいなら用意するぞ。何か欲しいものがあるのか?」
決して裕福ではないが、両親が自分のことを大切にしていることを理解している千冬に不満などない。
ただ、確かに欲しいものはあった。
この間、友だちになった女の子の家に遊びにいったときに見つけてしまったのだ。
「私っ、おとうとかいもうとが欲しいっ♪」
「「ぶっ!」」と、深雪も陽平も二人してお茶を噴き出してしまう。
「かわいかったのっ、だから私も欲しいっ♪」
「そっ、それは母さんに相談を……」
「あっ、卑怯ですよお父さんっ、逃げないでくださいっ!」
というか、一般的に両親が努力してできるものである。
父親が逃げたら普通はできるものではない。
「待ってるからねっ♪」
そういって笑う千冬に、深雪も陽平も返す言葉を持たなかった。
その夜。
千冬が寝付いたころ、陽平は頭を抱えていた。
「こ、こればかりはどうしようも……」
「た、確かに……」
「というか、その……」
陽平はこれまでの生活の中で、深雪の手を触れたことすらない。
自分のせいで犯罪組織に関わる羽目になったという負い目から、自分が触れていいなどとは決して思わなかったのだ。
そして、それを実行してきたのだから、鋼の精神力である。
だからこそ。
「……あなたが誠実な人であることくらい、もう理解できてます」
「母さん……」
「父親としてがんばってくれてるんですから。だから、最近思うんです。ちゃんと妻になりたいって……」
今日までの生活で、決して苦しめないよう、自分の気持ちを押し付けないよう、深雪や千冬のために心を砕いてきた陽平。
そんな陽平のことを理解できないほど、深雪は馬鹿ではない。
そして理解できたことで、別の感情も湧いてきた。
つまり。
「ちゃんとあなたの子を産んであげたいって思うときもあるんです……」
「そんなことをいわれては……」
「これからは夫婦の時間も作りましょう?もちろん、父親としてがんばってもらいますけど」
「がんばるさ。千冬のためだからな」
そんなことがあってから一年後。
千冬に待望の弟が生まれたのである。
そして現代。
「あー、つまり千冬さんの言葉がきっかけで、一夏ができたってこと?」と、鈴音。
「たぶん……、時期的にもそれしか思いつかん」
「そっかあ。一夏が生まれたのは、一夏のお父さんとお母さんがちゃんと夫婦になった証なんだね」
千冬の説明に、シャルロットが感心したように肯いていた。
だが。
「いぃーやぁーっ、もーやめてぇぇぇぇっ!」
一夏が唐突に叫び声を上げた。
「落ち着け一夏」と諒兵は何故かけけけと笑っている。
「自分ができたきっかけとか恥ず過ぎるぅぅぅぅぅッ!」
当然である。
こんな話をされては、ほとんど晒し者である。
まして生々しい話だからなおのことだ。
「いい話だなー」
「いい話なのか?」
と、ニヤつく弾に数馬が突っ込む。
それどころではなく。
『そうだよ。そうじゃなきゃ私、イチカに会えなかったもん』
と、白虎までいってくるので余計に恥ずかしい。
「うぁぁぁーッ、穴があったら入りたいぃぃぃーッ!」
ひたすら叫び続ける一夏を、みんなが生暖かい目で見守っていた。