ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第16話「セブン・カラーズ」

着替えを終え、一夏と諒兵のISスーツを見たシャルロットが驚く。

「珍しいね、全身を覆うタイプって」

「そか?」

「俺たちのIS、フルスキンだからってこうなったんだ」

ISスーツとはISを装着するためのいわば下着のようなものだ。

どちらかといえば、身体にぴったりと張り付いたものになる。

まるで水着のようなデザインもあり、実はこれ自体を開発する会社も数多い。

シャルロットは男装する必要があるため、自社開発のセパレートタイプの改造スーツを着ている。

一夏と諒兵は「水着着て空飛ぶなんてゴメンだ」と、いったことで、最初はセパレートタイプで下はズボンだった。

だが、『白虎』と『レオ』のデザインから、全身を覆うタイプのISスーツを特注して作ってもらっていた。

こう見えて保温性と透湿性は高く、着ていても寒さに震えることはないし、逆に蒸れることもない。

すると、シャルロットの首元で揺れるペンダントに一夏が気づいた。

「それがシャルのISか?」

「うん、うちのラファール・リヴァイブのカスタム機」

「カスタム?」

「改造して、武装を多く積めるようにしてあるの」

すなわち第2世代機の改良型ということになる。

無論、使い方によってはこれでも十分第3世代機と戦えるのだ。

「一夏と諒兵は、もしかしてその首輪?」

「ああ、白虎だよ」

「俺のはレオだ」

と、そう答えてそれぞれ首輪を差す二人。

珍しい形だなあとシャルロットは思うものの、無理してデータを取る必要がなくなったため、そんなものもあるのだろうと気楽に考えていた。

 

 

そして、アリーナにだいぶ遅れて三人が到着すると、鈴音とセシリア、そして箒が出迎えてくれた。

「遅かったじゃない」

「何かありましたの?」

「いや、千冬姉に頼まれた用事済ませてて」

「だからといってのんびりしすぎだ」

「千冬さんも一緒にいたんだぜ。別にのんびりしてたわけじゃねえよ」

と、そんな会話の後、鈴音がシャルロットに自己紹介する。

「あんたがシャルルね。私は2組の代表で凰鈴音、鈴でいいわ。よろしくね」

「シャルでいいよ。名前は聞いてるよ、鈴」

やはり『無冠のヴァルキリー』の名前は各国に轟いているらしいと一夏と諒兵は感心する。

だが、そんな鈴音の後ろに不自然な空間が見えた。

一人の少女、ラウラがぽつねんと立っているだけで、周りの者はみな距離をとっている。

「なんだありゃ?」

「あの子、敵意丸出しでみんな近寄らないのよ」

「変わった子だなあ」

自分を叩こうしたとはいえ、別にそこまで嫌う必要もないため、一夏は気にしていない。

ただ、諒兵としてはなんだか懐かしくも恥ずかしい姿を見ている気分になっていた。

 

そこにいつものスーツ姿で千冬が来た。

すぐに全員が整列する。

「む、山田先生は?」

まだ来てませーんという女子生徒の返事に少しこめかみを押さえる。

シャルロットの事情を一夏と諒兵にも伝えている間に来ているものだと思っていたらしい。

「普段は少しトロい所があったな、山田先生は」

と、千冬がそう呟くと訓練機のラファール・リヴァイブを装着した真耶が空を飛んできた。

「遅れてすみませえんっ!」

そういいながら、手本になるような見事な姿勢で着地しようとして、「はうっ!」と、一気にバランスを崩す。

生徒全員が凝視しているために、上がり症が出てしまったらしい。

どでぇんっと、見事にずっこけてしまった。

「フン、レベルの低いことだ」というラウラの呟きが諒兵の耳に届く。

後でなんかいっておくべきかと思いつつ、必死に立ち上がろうとする真耶を一夏とともに助けにいった。

「ほら、べそかくなよ、先生」

「大丈夫ですか、先生」

「うぅ、恥ずかしい……。上がり症治ったと思ったのに」

とはいえ、生徒たちもいい意味で緊張が抜けたらしくリラックスした空気になっていた。

 

とりあえず、顔こそ赤いものの立ち上がった真耶を見て息をついた千冬は授業内容について説明した。

「本日は訓練機を使ったISの基礎的な操縦訓練を行う。今さらと思う者もいるかもしれんが、基礎の確認は重要だ。真剣にやるように」

はい!という生徒たちの声に肯く千冬。

さらに言葉を続けた。

「その前に、今日はお前たちにIS学園の教師のレベルを少し見せておこうと思う。オルコット、凰、山田先生と模擬戦だ」

「構いませんが、連戦なのですか?」と、セシリアが尋ねる。

「いや、二対一だ」

そういってニヤリと笑う千冬に、鈴音とセシリアの目が剣呑な光を帯びる。

「侮るなよ。かつて『セブン・カラーズ』と呼ばれたのは他ならぬ山田先生だぞ」

「……へえ、相手にとって不足なしね」

「なるほど、参考にさせていただきますわ」

そう答えた二人は『セブン・カラーズ』という言葉の意味を知っているらしく、不敵な笑みを見せた。

 

 

上空で対峙する一機と二機のIS。

真耶と鈴音、そしてセシリアはそれぞれの思惑を胸に対峙していた。

「強いとは聞いてるけど……」

「かの『セブン・カラーズ』は強いという話だけで、どのように戦うのかは資料に残っていませんわね」

事実、『セブン・カラーズ』と呼ばれるIS操縦者の戦闘記録は実はほとんど残っていない。

特に公式記録は皆無といってよかった。

だが、同期のIS操縦者は強かったと口を揃えているという。

「なんせ『幻のヴァルキリー』なんていう人もいるくらいだし」

「気になりますの?」

「ま、ね。先輩ってことになるのかな」

『無冠のヴァルキリー』と呼ばれる鈴音としては、気になるのは確かである。

そして、先ほどの千冬の言葉を信じるなら、元日本代表候補生の山田真耶が、それほどのIS操縦者になるということだ。

「まあ、後輩とはいえ千冬さんとほぼ同期なんだし、弱くはないと思うのよね」

「確かに同時期に織斑先生がいる以上、公式戦に出るチャンスはほとんどなかったと考えられますわね」

世界最強が自国の代表では、チャンスがあったと考えるほうが無理がある。

そういう意味で不遇だったのかもしれない。

そう考えた二人は、戦意を高める。

「クロスラインでいくわ」

「承知しましたわ」

そしてゆっくりとそれぞれのポジションに二人は移動し始めた。

 

自分を見て戦意を高める鈴音とセシリアに、真耶は思った以上に厳しい戦いになることを自覚する。

(相手を侮らないのはいいことですね)

まあ、先ほど千冬がいってしまったことが理由でもあるのだろうが。

とはいえ、IS学園の教師としては、生徒相手に無様な戦いはできない。

少なくとも、この戦いで二人が成長するように導く。

それが教師の務めなのだ。

そう考えた真耶は一つ深呼吸する。

そして。

「いきますッ!」

一気に鈴音との間合いを詰めた。

 

 

始まった戦いを見つめながら、一夏と諒兵は分析を始めた。

戦いを見るということは大事な勉強だ。

二人はこの方面においてだけは誰よりも勤勉だといっていい。

普段の勉強はサボりがちだが。

「両手使いかよ。やるな真耶ちゃん先生」

「ブレードとアサルトライフルか。近接をいなして射撃で倒すってことか?」

上空には鈴音の斬撃をブレードでいなしつつ、アサルトライフルで零距離射撃を行う真耶の姿ある。

自らもそれを見ながら、千冬は生徒たちに注意した。

「よく見ておけ。他の者たちもだ。山田先生の戦い方はIS戦闘術の基本といっていい」

「そうなのか?」と、一夏。

「強力な性能を持ったISなどほとんどない。積んでいる武装をどう使うか。戦況に応じて持ち替えるのが今のISの基本だ」

以前、十六個もの武装を積んでいたと真耶はいった。

それだけの数があると、使いこなせることを前提としても、重要なのは戦況に応じて何を使うかという戦術眼になる。

「基本を徹底的に磨き抜けば、それは必殺となる。装着しているISともども特化型といえる凰やオルコットはどうしても才能に頼る部分があるが、山田先生の強さは誰もが届き得るものだ」

「なるほどな。すげえんだな、先生」

と、感心する諒兵に、わかっていればいいと千冬は告げる。

「だから気安く『真耶ちゃん』などと呼ぶな。敬意が薄れるぞ」

「はい」と、一夏と諒兵以外にもそう答えた生徒がいたことに、千冬は軽くこめかみを押さえた。

 

 

双牙天月を刃を滑らすことでいなし、アサルトライフルで銃撃。

装甲に差があるとはいえ、こうも細かくダメージを与えられるといずれはシールドエネルギーがゼロになると鈴音は舌打ちした。

(徹底的に基本戦術なのねッ、ここまで磨き上げれば確かに強いってのも肯けるわッ!)

さらに真耶が構えを変えるとミサイルランチャーがその手に現れる。

「ラピッド・スイッチッ!」

小型ミサイルを発射し、即座に離脱して距離をとる真耶。

鈴音は小型ミサイルを切り落としたが爆発し、やはり細かいダメージが溜まってしまうのを苦々しく思っていた。

 

ブルー・ティアーズを使って鈴音を援護しつつ、レーザーライフルで狙いをつけていたセシリアもまた驚愕した。

(なるほど、距離の取り方が見事ですわ。近接対処もまさにお手本といえますわね)

自分が学ぼうとしていたことだけに、心から賛辞を送りたいとセシリアは思う。

しかも。

「くッ!」

ビットの一つが弾かれてしまい、レーザーがあさっての方向に発射されるのをセシリアは苦々しく思う。

(ラピッド・スイッチを使いこなしてますわね。ハンドガンでもビットの向きを変えるくらいは可能ですし)

セシリアのビットはそれなりに強度があり、威力の弱いハンドガン程度では大きなダメージを与えられない。

しかし、弾いて発射する方向を変えるだけならばハンドガンでも問題はない。

対象を冷静に観察し、もっともふさわしい武装で対処する。

確かに真耶は自分にとっていい参考になると感心するセシリアだった。

 

しかし、真耶とて余裕があるわけではなかった。

(クロスラインの凰さんの動きを遮らないようにビットを動かしてるんですね)

クロスラインとは対象となる相手から見て、縦方向と横方向の十字を描く移動の事を指すものである。

鈴音とセシリアは開始前に話し合っていたとはいえ、普通は前もって訓練していなければ、ここまで動きは噛み合わない。

一度対戦したことがあるだけに、お互いの動きをわずかなやり取りで理解できたのだろう。

さすがに二人とも優秀だった。

(これは、『アレ』を使わなければ二人を倒すのは無理ですね)

実のところ、真耶が『アレ』と呼ぶものを使わせたのは日本の国家代表であった織斑千冬ただ一人。

もっとも彼女には使った上で負かされたのだが。

とはいえ、その技の恐ろしさを鈴音とセシリアはまともに喰らうことになる。

 

 

真耶の手の中の武器が一瞬で変わるのを、一夏と諒兵は驚いた表情で見つめていた。

そんな二人にシャルロットが説明してくる。

「ラピッド・スイッチ?」

「高速切替。武装の収納と展開をほぼ一瞬で行う展開の高等技術だよ」

僕もできるよというシャルロットの言葉に、二人は目を見張る。

「構えた状態でそこに納まるように武器が出てきやがる。何をだすかじゃなく、どんな戦術でいくかで武器を切り替えてんのかよ」

頭の回転が相当速くないとできないなと諒兵は感心する。

「あれほどの速さならそう簡単に隙にはならないな。持ち替えの隙がないなら、さまざまな連続攻撃ができる」

と、一夏も感心した表情で真耶を見つめていた。

だが、何故ここまでできる真耶があまり名前を聞かなかったのかと二人は疑問に思う。

実力があるならば、実は国籍を取得して他国の代表になることもある。

生徒会長の更識楯無がその例で、彼女は日本人でありながら、ロシアの代表を務めている。

だが。

「強い。確かに山田先生は強いんだが、極度の上がり症だからな……」

と、千冬がたそがれながら呟いた。

実のところ、真耶の公式記録が残っていないのは、本番ではまったく力が出せない上がり症であったためである。

はっきりいって無様な結果しかだせなかったので、記録に残すまでもなかったのだ。

「だが模擬戦ではあれほどのレベルで戦える。上がり症でさえなければ、代表は決して夢じゃなかった」

「「残念すぎる……」」

一夏と諒兵のみならず、その場にいた生徒全員がたそがれてしまうのだった。

 

 

背筋がゾクッとした鈴音とセシリアは、何か危険な攻撃が来ると直感した。

固まっていてはマズいと、二人は別々の方向に瞬時加速を使って移動する。

しかし。

「ターゲット、ロック」

妙に通る声が響いたかと思うと、真耶の周囲に七つの武装が展開され、直後、凄まじい銃撃が二人に襲いかかってきた。

「ウソッ、振り切れないッ!」

「そんなッ、七種の武装を同時に操るなんてッ!」

多角的な移動を使って真耶の狙いを外そうとする二人だが、銃撃は一発も外されることなく襲いかかってくる。

真耶は信じられないほど素早く手を動かし、展開した七つの武装をほぼ同時に発砲していた。

しかも弾切れを起こすや否や、すぐに次の武装が展開される。

すべての武装を使い切るつもりらしい。

鈴音が双牙天月を投げ放ち、セシリアがスターライトmk2を撃って必死に応戦するものの、真耶はこれだけの銃撃を行いながら、見事にかわしてみせた。

二人としては龍砲と偏光制御射撃を使いたいところだが、スコールのような銃撃を受けていては精神が集中できない。

結果。

 

「「きゃああああああああっ!」」

 

二人のシールドエネルギーはゼロになった。

 

 

無様な姿こそさらさなかったものの、地面に落とされた鈴音とセシリアは悔しそうな顔を隠しもしなかった。

「大丈夫かっ、二人ともっ!」

「さすがにあれはねえよ。見てるもんが信じられなかったぜ」と、一夏と諒兵が鈴音とセシリアに駆け寄る。

だが、最後のプライドか、二人は何とか自力で立ち上がった。

「もーっ、黒星なんて久しぶりよっ!」

「まさに完敗でしたわ。あれはISの戦闘術の基本形というより、理想形ですわ」

そういって悔しがる二人に、千冬が満足そうに肯いた。

「その通りだ。基本を磨き上げれば必殺、つまり理想的な戦い方となる。参考になったか?」

「悔しいけど、ホント参考になるわね」

「学ぶべき点が多々ありましたわ」

「安心しろ。お前たちが弱いわけではない。『セブン・カラーズ』を使われたのはお前たち以外では私だけだ」

どうやら『セブン・カラーズ』という通称は真耶が使った七種の武装の同時攻撃を指すものらしい。

なるほど七色の攻撃といっても違和感がない。

「私にできたのは弾切れまで逃げ続けることだけだった。シールドエネルギーの残量を気にしながらな。あれは最高の攻撃方法の一つといっていい」

その言葉に生徒たちが、しかもラウラまでが目を見張る。

そこに真耶がようやく降りてきた。

千冬がどこか満足そうに声をかける。

「久しぶりに見させてもらったよ、山田先生」

「腕が錆付いてなくてよかったですよ」

対して、真耶は微笑みながら謙遜していた。

だが。

「現役でも十分通用するんじゃねえか?」

「代表、今から目指してもいいんじゃないですか?」

「むむむむむむ無理ですよおおおっ!」

諒兵、一夏の順に褒めそやすと真耶は顔を真っ赤にしてしまい、大慌てで否定する。

どうやら上がり症が治らないうちは、真耶が代表を目指すのは無理のようだった。

 

 

 

 

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