『天使の卵』
その異様な表現を聞いて呆然としていたスコールに、デイライトは説明を始めた。
「これはおそらくいまだ一つも実例がないISの進化形態の一つだ」
正確にはその途上にあるものだろうが、と、デイライトは付け加える。
さすがにそのくらいは予想していたので、スコールは驚きはしなかったが、安易には信じられない。
「これも進化したISだというの?」
「まったく同じではなかったが似た例は既に世に出ているぞ。ラウラ・ボーディヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンだ。映像を思いだせ」
そういえば、と、スコールは記憶を掘り返す。
色こそ違え、眼前の巨大な卵はIS学園の学年別トーナメントでラウラと諒兵がシュヴァルツェア・レーゲン、正確にはVTシステムに囚われたときの形態に非常に良く似ていた。
「あれは無理やり進化しようとしたために壊れてしまった。惜しいというべきかな?」
「……簡単に壊れる程度なら、あまり役には立たないわ」
巻き込まれたのが『彼』だっただけに、デイライトの言葉はスコールの癇に障った。
どう足掻いても敵にしかならない存在であっても、どうしてもかつての友人の顔がちらついてしまうのだ。
「一理ある。まあ、そういう意味ではこれは正しい進化の途上にあるのだろう」
「新しい進化なのかしら?」
「いや、理論だけならばこれまでにも語られている。ただ、これだけは実例がなかった」
これまで様々な進化があり、AS操縦者や使徒といった存在は希少ではあるが、特別とまではいえなくなっている。
徐々に、ISと人間の関係は変化しているのだ。
「それでも、これだけは間違いなく『特別』だろう」
「特別……」
これまでに語られていながら、いまだ実例がない。
そして他の進化と違い、特別であるとデイライトが断言している。
そこまでを考えて、スコールは先ほど学んだばかりの知識に思い当たるものがあることに気づく。
「融合進化……」
「おそらくだがな。これは融合進化の途上にあるのだろう」
「……待って、そうなると」
スコールが戦慄した表情を見せると、デイライトは薄く笑う。
「そうだ。この中にはISと人間が真の意味で一つになった存在が眠っているはずだ」
共生進化とは違う。
独立進化とも違う。
人とISが融け合い一つとなる別種の進化。
この卵の中に、『その結果』がいるのだとデイライトは笑う。
彼女にとって、これほど面白いこと、楽しいことはないということなのだろう。
そんな彼女に戦慄しつつも、確かにこれが極東支部でもっとも重要な研究対象であることが理解できたスコールだった。
デイライトの説明を邪魔することなく、アシスタントよろしく黙って佇んでいたフェレスが唐突に口を開いた。
『ヒカルノ博士。ダミーポイントに『彼女たち』が来たようです』
「相変わらずだな。任せたぞフェレス。追い払え」
『畏まりました。四十五番と六十七番と八十九番の武装を使用します』
「許可しよう」
デイライトがそう答えるなり、フェレスは白衣だけを残して光となって消え去った。
「どういうこと?」
「我々のことを探っている者は多い。だが、その中でも突出して面倒なのがいる」
「……『天災』や『博士』?」
「その二人も面倒だが、『彼女たち』はもっと別の意味で面倒だ。何しろ何を考えているのか誰にもわからん」
どうせだから見物しようといい、デイライトはその場にモニターを持ってこさせた。
そこに映っているのは『彼女たち』といわれながらもたった一機。
そして、鎧を纏ったフェレスが対峙するように現れる。
「そういえば、フェレスには光の輪がないのね」
「フェレスの輪はここにある」と、そういってデイライトは頭上を指差す。
いつの間にか、デイライトの頭上に光の輪が浮かんでいた。
なるほど、これがフェレスの本体ということなのだろう。
「身体と本体を分離し、本体は私と共生しているんだ。ゆえに身体が破壊されてもすぐに修復できる」
あくまでもここにいる光の輪こそがフェレスであり、身体のほうはアバターだといえる。
それでも同じフェレスであることに変わりはない。同時にあの場にデイライトもいるということができるという。
「どういうこと?」
「私の心とフェレスの心がつながっているからな。私の意志をラグなしで伝えられるんだ」
言うなれば二心同体。
それがフェレスの身体であり、普通のAS操縦者とはASと人間の立場が反対になっているのがデイライトとフェレスなのである。
その少し前。
フェレスが『彼女たち』と表したその存在は、空の上から一点を凝視していた。
「どお?」
『反応はあります。ただ、これまでのデータを鑑みる限り、ダミーの可能性が高いでしょう』
「たくっ、向こうの話が終わったから気合いを入れて来てみたってのに、ホントくそったれな連中ね」
『さすがにそれは淑女としてどうかと思いますが。ティンクル』
「生憎、私は育ちが悪いのよ、ディア」
鈴音そっくりの容姿を持つティンクルと、光を弾いて輝く銀の天使ディアマンテ。
飛来してきたのは『彼女たち』だった。
そんな二人の前に、山羊を模した紫色の鎧を纏い、大きな翼を広げた薄紫色の人形、フェレスが現れる。
唯一おかしいといえるのは、その頭上に光の輪がないことだ。
「来たわねガーディアン。『フェレス』って言ったっけ?」
『ようやく名前を覚えていただきましたか。光栄ですティンクル、ディアマンテ』
会話から察するに、既に何度も戦っているだろうことが見て取れる。
つまり、ティンクルとディアマンテは、フェレスが『守る物』を狙って飛来してきたということになる。
すなわち極東支部に敵対しているということだ。
「あんた性格は悪くないのに、なんだって連中の味方してんのよ?」
『これは私のマスターの意志。そして私自身の意志でもあります』
「女の勘がビンビン言ってんのよ?ヤバいって」
『その危険こそを望む者も、この世にはいるということです』
完全に平行線を辿る会話にティンクルは大げさにため息をつく。
話にならないと思っているのだろう。
そこにディアマンテが口を挟んできた。
『危険を守ろうとするあなたの行動は理解できかねます。道を譲る気はありませんかフェレス?』
『私とあなたは同じではありませんから。ここから先へは通しません、ディアマンテ』
そう答えるなり、フェレスの翼から二門の砲身が現れた。
そして。
『ティンクルッ!』
ディアマンテが慌てたような声を出すよりも速く、ティンクルは翼を広げて一気に加速した。
「何なの今のッ?!」
『砲撃ですッ、ですが異常なほど迅すぎますッ!』
タメも何もなく、わずか一瞬で荷電粒子砲並の砲撃が放たれたのだ。
さすがにまともに喰らえば、ティンクルとディアマンテでもただではすまない。
『コードネーム『カラドボルグ』、発射までにコンマ五秒かかりません』
「チッ、『稲妻の剣』ってわけッ、いいセンスしてるわねッ!」
その名はわずか一瞬で山を薙ぎ払うほど伸びる伝説の剣。
瞬く間に砲撃してきた武装には相応しい名前だろう。
「ディアッ!」
『承知致しましたッ!』
ティンクルの言葉にディアマンテは即座に応え、『銀の鐘』を起動し、無数の砲弾をばら撒く。
だが、それがフェレスに届くことはなかった。
「今度は何ッ?!」
フェレスが発現した砲身が消えた直後、今度は全身を覆うような光の球が現れた。
『コードネーム『スヴァリン』、この楯の前にはあらゆる攻撃が無意味です……と、言えればいいんですが』
その名が意味するのは太陽の前に立ちし物、輝く神の前に立つ楯。
実際のところ、神話のように完全にすべて防げるというわけではないらしいが、それでもたいていの攻撃は防ぐという。
『ブリューナク相手ではさすがに突破されてしまうでしょう。残念です』
『あの光の槍でなければ貫けないという点で異常な強度を誇りますね、そのシールドは』
「のん気に感想言わないのッ!」
感心するディアマンテに思わず突っ込んでしまうティンクルだった。
「てかっ、あんたいくつ第3世代クラスの武装持ってんのよッ、そろそろ二桁行くわよッ?!」
それはつまり、これまでのティンクルとディアマンテとの戦闘で見せたものと、今使っている武装は違うということになる。
そうなると、フェレスの武装の多さは元第4世代機であり、進化すればいくらでも武装を増やせるだろうアンスラックスとタメを張るレベルだ。
だが、フェレスは首を振る。
『私には武装は搭載されていません。研究用の打鉄でしたから』
「じょーだんッ、白虎やレオと一緒だってーのッ?!」
『そうですね。あのお二方、そしてヨルムンガンドの同類となります』
だが、それにしては武装が多すぎるのがフェレスの異常だった。
このまま閉じこもられては埒が明かない。そう考えたティンクルは両手に光の手刀を発現する。
『その程度の武装では切れません』
「誰がこれで切るなんていったのよ?」
『どういうことでしょう?』
「こういうことッ!」
そう叫びながら、ティンクルは両手の手刀を一つにまとめ、フェレスのシールドを力任せに切り裂いた。
すると、シールドはまるでガラスのようにバリンッと割れてしまう。
『何故ッ?!』
「あっちも伝説の武器使ってるんだし、私も負けちゃいらんないわ♪」
にっこり笑うティンクルの手には、全長約二メートルほどで、幅広の刃が着いた武器、いわゆる古代中国の武器、青龍偃月刀が握られていた。
『……まさか、冷艶鋸なのですか?』
「せーかぁーいっ、よく知ってるじゃない♪」
三国志演義の英雄、関羽雲長。冷艶鋸とは彼が使う武器の名前である。
関羽は非業の死を遂げたことから、後世の人々により関帝聖君という神として祀られている。
「人が神になる。なかなか趣深くない?」
『哲学的な問題ですね、ティンクル』と、ディアマンテも少しばかり興味を示してくる。
だが、フェレスにとっては迷惑なことこの上ない。
かなりの強度を誇るシールドを切り裂くほどとなると、ティンクルが使う冷艶鋸の威力は、瞬間だけでもブリューナク並みだ。
それを生み出せるということが、ティンクルが如何に異常かを物語る。
使徒の一部であったはずの存在が、人間と同等の発想力を持つというのだから。
『つくづく理解しがたい存在です。貴女方は』
「褒め言葉として受け取っとくわ♪」
しかし、だからこそ負けられないとフェレスは考える。
何故なら、自分は使徒ではない。
正しく人と共に生きる進化をしたASなのだから。
すぐに再び二門の砲身を発現したフェレスはティンクルとディアマンテに向かって砲撃を開始する。
しかしどれほどの力があるというのだろう。
ティンクルが振るう冷艶鋸は、砲撃すらも切り裂いて迫ってくる。
身体を切り裂かれたところでフェレスは死ぬわけではない。
だが、ダメージは相当なものになる。
だから、接近されることこそが狙いだった。
「ガッ?!」
『アゥッ?!』
直径30センチはあろうかという巨大な光の砲弾が、ティンクルとディアマンテを彼方へと吹き飛ばす。
だが、反面、フェレスの右腕には無数のひびが入っていた。
『コードネーム『タスラム』、零距離でのみ最高の威力を持つ砲弾です。……といっても、もう聞こえませんか』
近距離どころか、ダメージ覚悟で零距離で撃たなければならない砲弾という矛盾した武装。
だが、命中すれば確実に絶対防御を発動させるほどの破壊力を持つ。
もっとも、使徒やASの身体を破壊するには至らないらしい。
『まだまだ研究が必要のようです。できればしばらく来ないでいただけますと、大変ありがたいのですが……』
そういってため息をつくような仕草をしたフェレスは、その場から消え去った。
モニターを見ていたスコールが口を開く。
「いつから?」
「ここ一ヶ月くらいだな。あくまで推測だが孵化が近くなってきているのだろう」
それだけで理解できる。
デイライトのいう『天使の卵』の中身が成長してきているということだ。
飛来してきた『彼女たち』、ティンクルとディアマンテの言葉から、それが危険なものであると感じていることが理解できる。
「ティンクルとディアマンテは『卵』を危険視している」
「何故?ある意味では同胞でしょうに?」
「いや、融合進化は正直『何』になるのかすらわからん。使徒たちの同胞とはいえんだろう。それに……」
「それに?」
「融合進化した人間の方は誰だか知らんからわからんが、ISの方の個性は一般人なら危険視するだろうからな」
一般人が危険視するような個性となると、おそらくは悪といえるような個性持ちだったということだろうとスコールは考える。
残虐、残忍、外道、鬼畜。
そういったものも個性として考えるなら、あってもおかしくはない。
「実在はするようだが、今のところそれらは覚醒ISのままらしい。だが、あれはそれらより危険だ」
「えっ?」
「フェレスに聞いたところ、『破滅志向』だそうだ」
全てを巻き込んで自ら滅ぼうとする個性を持っているとデイライトは楽しそうに笑う。
確かに全てを巻き込んで自ら滅ぼうとするとなると、人類はおろか使徒まで滅ぼすということになる。
そんな危険な個性を持っている存在があったことに驚きだった。
「そもそもどうやって見つけたの?」
「何、たいしたことはしていない。もともとここにあった機体だからな」
「えぇッ?!」
「あれのISだったころの名は『黒答』、本来は日野諒兵の専用機になるはずだった機体だ」
その言葉に驚くスコールだったが、何も言わず先を促す。
聞けば『黒答』は離反と同時に飛び去ったという。
だが、『黒答』は亡国機業極東支部が総力を挙げて開発していた第4世代機。
さすがに飛び去ったからと簡単には諦められない。
「それから程なく、私はフェレスと共生進化を果たした。ゆえに、まず頼んだのは『黒答』の探索だったんだよ」
万が一のために『黒答』の発信パルスは記録してあり、フェレスはそれを頼りに探して、『天使の卵』を見つけたのだという。
「こちらまで運んだときに、私もパルスを確認したが同一だった。間違いあるまい」
実は、それがスコールがこの極東支部に助けられた理由でもあるという。
「まさか……」
「そうだ。亡国機業本部にあの『卵』は存在していた。お前やオータムを拾ってきたのはそのついでだ」
あっさり言ってのけるデイライトに呆れてしまうスコールだが、そんなことはどうでもいいと考えを戻す。
『天使の卵』が本部にあったということは、本部の人間がIS『黒答』と融合したということが考えられるからだ。
「いったい、誰が……」
「さてな。そもそもどういう状況であの『卵』が産み落とされたのかもわからん。だからだ、私はあれを孵化させたい」
ISと人類の真の進化。
新たなる生命の誕生。
それを間近で見たいとデイライトは目を輝かせる。
「個性が『破滅志向』だろうが、私にはどうでもいい。生まれてくるモノは地球の歴史を根底から覆すぞ」
生まれてくるのは過去に前例のない、『在り得ない生命』となる。
それは純粋に科学者として何よりも興味深いものになるのは確かだろう。
それこそが、否、それだけが今のデイライトの望みだった。
「そのために、ここはなんとしても死守する。幸い、フェレスがいてくれるからな。自画自賛になるが、私は自身の選択は正しかったと考えている」
「身体を別々にしたことかしら?」
「ああ。私は研究者だ。戦闘はできん。だが、フェレスが代わりに戦ってくれる。心から感謝しているよ。私は良いパートナーを得た」
そこまで聞いて、そういえばフェレスがここに戻ってこないことにスコールは気づく。
あの性格なら、まっすぐにデイライトのもとに戻ってくるだろうと思っていたからだ。
「ああ。フェレスなら専用の研究部署だろう」
「研究部署?」
「先の戦闘でフェレス自身が、自分は武装を積んでいないといっていたことを覚えているか?」
確かにデイライトの言うとおり、フェレスはティンクルに対して自分は武装を搭載していないと答えていた。
しかし、使った武装は各国の第3世代兵器ほどではなくとも、それに近い威力や能力を持つ強力なものばかり。
搭載していないという言葉と見事に矛盾してしまう。
しかもティンクルは二桁近いといっていた。
つまり、あれ以外にも武装があるはずなのだ。
「フェレスは嘘を吐いたの?」
「いや、事実だ。フェレスはもともと武装を搭載していなかった」
「それじゃ、さっきの武装はいったい何だというのかしら?」
「フェレスは武装を搭載していなかった。そして私は研究者だ。そもそも戦闘経験がないのだから使いたい武器もない」
だが、だからこそ、フェレスは変わった『特技』を能力として覚えたのだ。
「レトロフィット・パッチ。それがフェレスの能力だ」
「換装……パッチはパッチファイルのことでいいのかしら?」
「そうだ。フェレスはパッチファイルを当てるように、量子化した武装を戦闘情報と共に積み替えることができる。最大で五つ。積み替えるごとに戦い方を変えられるのがフェレスの戦闘能力だ」
自身の武装を持たず、またパートナーであるデイライトも使う武装がない。
ゆえに手に入れたのが、武装の換装能力。
予め積んであった武装を量子化して取り込む他のASや使徒とは違い、無限に武装を変えられるのだ。
「何しろ、ここはISの研究開発のための支部。武装はいくらでも開発することができる。フェレスは私たち極東支部と共に戦うASだということだ」
人と共に戦うIS学園のASたち。
人と対峙する使徒たち。
そんな彼らとは異なり、その背にパートナーであるデイライトと亡国機業極東支部を背負って戦うのがフェレスというASなのである。
閑話「フェレスと愉快な仲間たち」
その日、デイライトのパートナー、フェレスは彼女のアシスタントとして忙しなく働いていた。
『恭倹』を個性基盤として持つフェレスは、人に対して恭しい、へりくだった態度を取る。
そんなフェレスに対し、亡国機業極東支部の人間たちは多少は好感を持っていたが、中にはやはりISだったということで避ける者たちもいた。
それが、少しばかり悲しいと考えるフェレスである。
「気にしても仕方あるまい。そうそう受け入れられるものではない」
『皆が皆、ヒカルノ博士のようではないのですね』
「人間は千差万別だそうだ。変わった者もいるのだろうよ」
変わり者として有名な篝火ヒカルノことデイライトに言われたくはないだろう。
それはそれとして、フェレスとしてはできれば人に受け入れられたいと考えていた。
自分はASだ。使徒ではない。
人類と敵対するつもりなどないのだから、と。
そんなことを考えていると、唐突に支部内にアラート音が鳴り響いた。
「クッ、またか。しつこいなあの連中は」
『ティンクルとディアマンテ、ですか……』
「おそらく『卵』を狙っている。孵化する前に破壊するつもりなのだろう」
そのため、極東支部を探しているのだろうとデイライトは忌々しげに呟く。
『ヒカルノ博士……』
「お前が出たところで墜ちるだけだ。武装のないお前に戦いができるはずがなかろう」
デイライトは純粋な研究者だ。
ゆえにまったく戦闘能力がない。
そのパートナーであるフェレスは、戦闘技術を模倣するくらいならばできるが、肝心の武装がない。
「お前がいなくなると研究が滞る。今、上手くダミーポイントに誘導している。そのうち諦めるはずだ。おとなしく待っていろ」
そういって個人の研究室に戻るデイライトの背を見つめていたフェレスだが、その姿が見えなくなるなり、武装の保管庫に向かって走りだした。
ガシャンッと、まるでガラスの人形が壊れたような音が支部内に響き渡る。
研究員たちが驚く中、そこに現れたのは全身ズタボロにされたフェレスだった。
「何をしていたフェレスッ?!」
『申し訳ありません。逃げるので精一杯でした……』
さすがに狼狽した表情で叫ぶデイライトに、フェレスは弱々しく答える。
相手は並外れた戦闘能力を持つティンクルと、元はアメリカの第3世代機であるディアマンテ。
まともに武装もなく、また、パートナーに戦闘能力のないフェレスに勝ち目などあるはずがない。
『この武装を『搭載』していったのですが、戦い方がわかるだけでは勝てませんでした……』
「当たり前だッ、相手は使徒の中でもトップクラスの戦闘能力を持つんだぞッ!」
「待ってくれ篝火博士」と、そこに一人の初老の研究員が声をかける。
「何だッ、邪魔をするなッ!」
「そのASは武装を搭載してなかったはずだな?」
『はい。私はもともと武装を搭載していません……』
「なら、その武装は『後から』搭載したのか?」
その言葉にデイライトはハッとした。
確かにフェレスの言葉通りなら、フェレスは武装を『後から』搭載したことになる。
ASが後から武装を搭載することは出来ない。
変化させることは出来ても、作り変えることは出来ない。
だが、フェレスは搭載できた。
本来、持っていなかった武装を。
「フェレス?」
『私はただ、何か武器をと考えて搭載しただけなのですが……』
「篝火博士。フェレスは武装を搭載、いや、ひょっとしたら換装することができるのかもしれないぞ」
今度は中年の男性研究員が意見してくる。
武装を変えられるAS。
それは今まで一機として存在していない。
そして、これほどに自分たちにとって喜ばしいASはいない。
フェレスは成長できるのだ。自分たち研究者の力で。
自分たちただの人間が、進化したISであるASのフェレスの武装を『これから』作ってやることができるのだ。
「よしっ、フェレスのために武装を作るわよッ!」
「ありったけ作って確認しようっ、いくつ載せられるかも調べる必要があるぞっ!」
「我々のために戦ってくれたフェレスを最強のASにするんだっ!」
「まずはウェディングドレスを制作して俺の嫁にッ!」
最後の一人には問答無用で裏拳突っ込みを入れたデイライトである。
「まったく何が『恭倹』だ。人の言葉を無視して勝手に戦って勝手にやられて帰ってきおって」
『申し訳ありません……』
「おかげでこいつらの研究者魂に火が着いた。責任を取って強くなれ。今後、戦闘はお前に任せる」
『はいっ!』
その日が、無限の武装を持つ変幻自在のASフェレスの誕生の日となった。