ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第153話「パプリック・リレイションズ」

IS学園の出歯亀どもに見守られながら、諒兵がまどかとお出かけしているころ。

 

都内某所のとあるオフィスに来客があった。

客というと、少し語弊があるかもしれないが。

「初めまして。私が『日本女性の人権を保護する会』で対外交渉と財務管理を行っています」

「初めまして。倉持技研第2研究所渉外担当の『神原雨音』と申します」

神原雨音(かんばら あまね)と名乗ったその女性は、自分の名刺を両手で持って渡しつつ、差し出された名刺を受け取った。

神原雨音は三十代くらいだが落ち着いた雰囲気の美女だった。

その傍には、まだ少女らしさを残す若い女性が控えている。

こちらもけっこうな美女である。

「本日はよろしくお願い致します」

と、そういって神原雨音は、傍に控えていた女性と共に深々と頭を下げる。

今さら隠すようなことでもないが、神原雨音と名乗ったこの女性は、元亡国機業実働部隊所属のスコール・ミューゼルである。

以前、篝火ヒカルノことデイライトに頼まれた渉外職務を行っているのだ。

傍にいるのはサポート役である。

「こちらこそよろしくお願いします。いろいろとお力を貸していただけると助かります」

「できる限りは。それで、以前より弊社の第2研究所とはコンタクトを取っていらっしゃったとのことですが?」

「はい。ただ、向こうが商売はわからない、安易に売ることもできないということで拒まれていました。今回、第2研究所所属の渉外担当が決まったということで、大変嬉しい限りです」

「光栄です。ご期待に沿えるよう努力致します」

通り一遍の営業トークだが、スコールは淀みなく答えていく

かつての友人ほどではなくとも、今までいろんなタヌキやキツネを相手にしてきたのだ。

腹の探り合いには自信がある。

こうしてみると、相手には焦りがあるように感じられた。

どの国も女性人権団体は解体の方向で動いている。

その状況で必死に抵抗している今、なんとしても自分たちの力を示したいのだろう。

そのための『何か』を強烈に欲しているのだ。

(権力を失くさないために別の力を欲する、か……。業が深いわね、人間って生き物は)

自らも深い業を背負っているだけにスコールは自嘲したくなったが、決して営業スマイルは崩さなかった。

 

 

一方そのころ。

諒兵とまどかのデートを見物して『いない』者たちは、一名を除き、それぞれの場所で作業しつつ、通信していた。

「心配ではないんですか?」と、そう問いかけたのは誠吾。

「あいつぁあれでいいあんちゃんができっかんな。まどかがわがままいっても上手く付き合えらぁな」

「ちーちゃんは過保護、いっくんは小さい子の面倒をまともに見たことがないからね。一番いいのは姉弟みんなで仲直りできることなんだけど、今はまずりょうくんに任せるよ」

「そうなんですね」と、誠吾は丈太郎と束の言葉に納得した表情を見せる。

ちなみに、真耶はデートという響きで思いっきり意識してしまい、通信に参加できなかった。

ただ、本題は出歯亀どもが楽しんでいるデートのことではない。

真面目な話である。

「で、何が聞きてえ?」

「僕じゃなくて、ワタツミが聞きたいそうです」

『ジョーが気になってるのハ、『卵』のことなのかなって思ったんだヨー』

「ああ、気づいてたんだ。すごいねワタツミ」

『ターバも気づいてたんだネー』

今はまだ『卵』としかわからない。

天狼が見つけ、また、白騎士も気にしているらしき『卵』

その点に関して、ワタツミも気にしていたらしい。

「シロはまだ、私に直接話してくれないんだけどね。かなりショックだよー」

『ママ、しっかりー』

どよーんと落ち込む束を励ますヴィヴィである。

それはともかく。

『アレは何に成ると思ってるのネー?』

ワタツミが聞きたいことはそれであるという。

実のところ、使徒やASにも何に成るのかわからないのが『卵』の中身だ。

ゆえに、興味が湧かないはずがない。

しかし、丈太郎は危険視している。実は束も同じだった。

 

『卵』を孵化させるのは危険である。

 

二人はそう認識しているのだ。

ただし。

「俺ぁ『破滅志向』って個性がどうにも捨て置けねぇ」

「私は人間と融合したっていう点がヤだな」

考え方はまったく別方向からなのだが。それぞれの性格がもろに出ているところが面白いといえば面白い。

ただ、何に成るかという点に関しては同じ見解を持っていた。

「「神」」

『どっちノ?』

「四文字のほうだ」

「要するに迷惑なほうだね」

と、世界を変えただけあって、平然と恐ろしいことを口にする束である。

そもそも『神』という言葉は日本語だ。

そこには様々な意味があるが、実のところ『力ある者』というのがもっとも適切かもしれない。

正しく祀れば恩恵を与えるが、間違えると祟る。

神とはそういうものだ。

その点で見るなら、欧米の神も似たところはある。

ただ、特に日本の神は祀る以外のところで人が何をしようが、気にしてくることはない。

放任主義とでもいえばいいだろうか。

上手く距離をとって付き合うことのできる存在だ。

しかし、丈太郎が『四文字』と表現した者は異なる。

法の神とも呼ばれるそれは、人の在り方そのものに干渉してくる。

そこがもっとも問題だといえるだろう。

在り方、すなわち生き方や考え方に干渉してこられる世界に自由はないからだ。

 

人に関わりすぎる力ある存在に成る。

 

其処こそが、丈太郎や束が危険視するポイントなのである。

「最悪、破壊神にならぁな」

「人類も使徒も滅ぼす。それはさすがに束さんはヤだね。どうでもいい連中なんて知らないけど、『卵』の中身は私の大切な人たちも壊そうとするかもしれないんだもん」

「それは、確かに困りますね」と誠吾も納得顔だ。

『だーりん壊そうとするなら、ぶった斬るのネー』

容赦する気のないワタツミだが、それはパートナーを持つASにとっては自然な考えだろう。

パートナーの死など望むはずがないからだ。

もっとも、そのパートナー自身の性格などに問題があれば、別の話になってしまうが。

とはいえ、丈太郎と束としては『卵』を破壊することに抵抗は感じていても、実行するべきだと判断しているらしい。

「命を『生まれる前に壊す』ってなぁ一番罪があるんかしんねぇけどな」

「哲学的ですね」と、誠吾は複雑そうな表情を見せた。

「でも、このまま誕生はさせられない。させるべきじゃないと思うよ」

『デ、それがあるのがきょくとーしぶ?』

「たぶんな」

ネットワーク上で天狼が『卵』の存在を見つけたが、それが実際にどこにあるのかはまだ見つけられていない。

ゆえに、ネットワークから実際の所在地がわかるところは徹底的に調べている。

その中で、丈太郎と束に抵抗してきたどころか、今の段階で防ぎきっているのが亡国機業極東支部になる。

「名前から考えっと、アジアのはずだ」

「ではけっこう絞れるのでは?」

「そこがけっこうやっけぇでな。アジアに限定すっと、億単位で所在地が出てきやがる」

「うへぇ。そっちやらないでよかった」と束がこぼす。

つまり、それだけのダミーを作っている可能性があるということだ。

ネットワークから探すにしても、一つ一つのダミーがこれまた精巧に作られているため、幾つかは実際に検証する必要もあるだろう。

そう考えると、極東支部はかなり厄介な相手ということができるのだ。

「それでも急がねぇとなんねぇ。確実に『孵化』が近づいてっかんな」

「これまでの使徒の襲来とは規模が違ってくるからね。何せ『孵化』は爆弾が破裂するようなものだから」

文字通りの意味でだと束は付け加える。

目の前で破裂しようとする時限爆弾と対話できる『者』などいない。

相手は『物』だからだ。

そして、『孵化』してくるものは、その個性を考えても対話できる『モノ』ではない。

究極のエゴイズムだろう。

自分を含めてすべてを巻き込んで破滅しようとするのは。

そんな相手を、しかも人間でも使徒でもない存在となった相手を説得するなど、無理を通り越して無謀な話だ。

「いったいどんな個性なのか、気にならないわけじゃないんだけどね」

束としては、ようやく見つけた二番目のISコアだったのだが、見つけたと思ったら人と融合していた。

それも選択の自由だが、束としては一番見たくなかったものでもあった。

融合はISコアにとっても人間とっても、かつての自分を殺すという『自殺』になるのだから。

「できるならコアのままで話したかったよ……」

そう呟く束の顔は、ただひたすらに悲しみに満ちていた。

 

 

並べられたパンフレット一つ一つの説明を終えると、スコールは一旦話を逸らすことにした。

「IS学園?」

「はい。現状、IS学園の戦力は世界最強といってもいいでしょう。方向性を間違えれば世界征服とて可能と思いませんか?」

それは現在、誰もが目を瞑っている事実である。

 

白虎。

レオ。

猫鈴。

ブルー・フェザー。

ブリーズ。

オーステルン。

大和撫子とそのオプション。

そしてヴェノム。

 

八機のASとオプション機体。

使徒に対抗できる機体をこれだけ揃えている場所は他にはない。

ドイツのクラリッサとシュヴァルツェア・ハーゼのワルキューレ。

アメリカのナターシャとイヴ。

諸外国を見ても、対抗できる機体は多くて一機という状態でありながら、IS学園にはこれだけあるのだ。

そして、一番重要なポイントとしてIS学園は地理的には日本にあるが、日本はおろか、どの国にも所属していないということがあげられる。

つまり、無国籍の軍事要塞と化しているのが今のIS学園なのである。

その事実を突きつけられ、権利団体の女性職員は生唾を飲んだ。

まともに相手をすれば簡単に叩き潰されてしまう。

それだけの力がIS学園にはあるということなのだから。

「私どもと致しましても脅威を感じます。ブリュンヒルデはあくまで使徒に対抗するためとしていますが、果たして使徒との戦争の後、その力は各国に平等に配されると思いますか?」

答えることは出来ない。女性職員はそう感じていた。

IS学園のAS操縦者は本来IS学園の生徒だ。

それを楯に、就学という理由でIS学園に居続けさせる可能性は十分にある。

「何が、言いたいんです?」

「……私は、この商談を貴女がた『だけ』としたいわけではないということなのです」

「えっ?」

「調べてみましたが、各国の権利団体はそれぞれ我先にと私どもの研究所にコンタクトを取っていました」

理由は単純だ。

力を他の者に取られたくない。

それは他国の女性権利団体も変わらないということだ。

それぞれの国のそれぞれの団体が、自分勝手に動いているのである。

だが、それはスコールとしては実はありがたくないのだ。

「手を組め、と?」

「はい。協力できる関係にあるのではありませんか?」

「矛盾してます。競争させるほうが値は上げやすいでしょう?」

「おっしゃるとおりです。私どもと致しましては、高く売れればありがたい。ですが、私どもの作った研究作品を貴女がたはどう使うおつもりですか?」

「えっ?」と女性職員はぽかんとマヌケな顔を晒す。

ISに代わる力。

とにかくそれを欲するだけで、それをどう使うかといったことまで考えていなかったからだ。

持っていれば何とかなる。

そんなわけはない。

力は上手く使ってこそ、その価値を生む。

ならば、使い方は非常に重要なポイントだ。

今後、自分たちの存在を大きなものとして世界に知らしめるためにも。

「どうしろと言うんです?」

「相手は無国籍の軍事要塞。ならば多国籍の軍事団体を作るというのも一つの手です」

極東支部で作っているものは兵器だ。

ならば、使い手は兵士であるべきだ。

だが、兵士とは命令によって動くものである。

そうなると命令を下す者が必要となる。

「それだけではありません。あなたのような対外交渉、財務、広報、企画立案、積算、人事、それらの管理、そういった人材も必要でしょう」

日本の女性権利団体だけでそれが賄えるはずがない。

賄えたとしても、非常に規模は小さい。

それで世界最強の戦力を相手にできるわけがない。

「古来より戦争は数といわれます。IS学園という『質』に対抗するためには、『量』を集めるのが一番手っ取り早いかと」

自分たちの存在はIS学園に劣らない。

そう示すだけで、今後、各国の女性権利団体は十分に力を得ることができる可能性があるとスコールは謳う。

それは、女性職員の興味を惹くに十分な話題だった。

「お時間はありますか?」

「はい」

「上の者と話してきます。しばしお待ちください」

「どうぞ、ごゆるりと」

スコールは柔和な笑みを見せる。

それでいて、その視線が冷たい光を放っていることに、小走りに出て行った女性職員は気づくことはなかった。

 

職員が出て行った後、スコールの傍にいた女性が口を開く。

『お見事です。ヒカルノ博士が渉外を頼んだことが良く理解できます』

「こういうことは私のほうが得意ね。でも、見ていて不快じゃなかったかしら、フェレス?」

『人は千差万別。そうヒカルノ博士から教えられました。ただ、それでも今の女性にスコールさんやヒカルノ博士のように好意を持つのは難しいです』

スコールと共にいたのはフェレスだった。

今の人間の姿はスマラカタやティンクルのような量子変換ではない。

本来の透き通るボディをスクリーン代わりにして、人間の姿を映しているだけである。

なお、デザインは男性職員の一人が実に熱心に行ってくれたらしい。

曰く。

「俺の嫁に恥ずかしい格好はさせられないっ!」

極東支部は本当に大丈夫だろうかとスコールは思ったものである。

それはともかく。

『しかし、先ほどの女性がいっていたとおり、競争させるほうが価格を上げやすいのではありませんか?』

「それだと一回売って終わってしまうのよ。売り続けるためには、顧客にも体力をつけてもらわなければならないの」

現在スコールがやっている渉外、というか営業はリピーター作りということができるだろう。

新規顧客の獲得ではなく、極東支部のお得意さんを作るということだ。

「今、一番力を欲しているのは女性権利団体。だからといってそこに研究作品を売るだけでは意味がないわ」

単に買ってもらうだけではなく、お得意さんにも稼いでもらうことで買い続けてもらうのが目的なのである。

スコールが示したのはそのための第一歩なのだ。

「IS学園にとっては邪魔になるだろうけれどね。でも、『卵』が絡めば彼らは敵になるのでしょう?」

『はい、ヒカルノ博士はそうおっしゃっていました。『博士』や『天災』は『卵』を孵化させようとはしないだろう、と』

「なら、目眩ましにもなるわ。彼女たちの動きに気をとられて、私たちのほうに目を向ける余裕が少なくなる」

戦力で互角になることはないだろうが、IS学園としてはうろちょろされるだけでも邪魔に感じるだろう。

何しろ相手は『天使』のような存在なのだから、ちょっとした邪魔があるだけで迷惑になる。

スコールがやったことは、IS学園の邪魔者作りということでもあるのだ。

『私たち極東支部を助けるためになのですか?』

「それは酷いわね」

『えっ?』

「私は今は極東支部の一員のつもりなんだけれど?」

『すみません。ありがとうございますスコールさん』

そういって微笑むフェレスに対し、スコールは先ほどとは違う優しい笑みを返していた。

 

 

 

 

 

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