ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第158話「雲のように」

さて。

空で戦闘が行われているとはつゆ知らず、諒兵とまどかはのんびりしていた。

「ホントにここでいいのか?」

「うんっ♪」

空を飛ぶには肝心のレオとヨルムンガンドがいないため、かなり難しいのだが、それでも移動できないわけではない。

このあたりの地理は頭に叩き込んできたので、遊園地くらいなら手持ちのお金で移動できる。

そう思い、まどかに行ってみるかと聞いたのだが、まどかはここがいいと否定してきた。

「おにいちゃんとのんびりできるのって嬉しいよ?」

「そか」と、諒兵は苦笑してしまう。

とはいえ、のんびり寝転がっているだけというのも飽きるので、自然公園の中を散歩しようということになった。

しばらくして。

「広いねっ♪」

「だな。こういうとこは初めてか?」

「うんっ♪」

以前、まどかがいた場所は亡国機業の施設の中なので、広さなど感じるはずもない。

そして諒兵に会うまでの間、旅をしてきたといっても、周囲を見る余裕などなかっただろう。

そういう意味でいうなら、確かに初めての経験であることに間違いはない。

広い場所を『家族』と一緒に歩くのは。

「ママといるときは、いつも施設の中だったから、歩いててもそんなに面白くなかったんだ」

「そか……、やっぱ空が見えるとこじゃねえとな」

「おにいちゃんは、お空が好きなの?」

「ああ、こうして見上げてると小せえことが馬鹿らしくなってくるかんな」

そういって立ち止まり、空を見上げる。

小さい頃からの癖だが、今でもこうしているのが一番好きなのは確かだ。

広い青空を見ていると、気持ちが落ち着いてくる。

「何で好きになったの?」

「ん?」

「何でかなって思って」

「何で、か……」

何故だろう、と、諒兵自身も不思議に思う。

きっかけは丈太郎や先代の園長先生の言葉だった。

でも、今でも好きなのは、諒兵自身が好きになる理由があったからだろう。

性格から考えると諒兵は反抗心が強く、束縛されるのを嫌う。

『アイツはああいう奴だ』と、決め付けられるのが嫌いだ。

何もかも思い通りになるとは思っていない。

ただ、全てを決め付けられたくはなかった。

そんな自分を省みつつ、再び空を見上げ、流れていく雲を見つめると、すとんと胸に落ちるものがあった。

「雲だな」

「くも?八本足の?」

「そっちじゃねえ。空に浮いてる白いふわふわだ」

「あっ、そっち?」

「ああ」と、そう答えて諒兵は再び空を見上げる。

少しずつ形を変えながら、流れていく雲を見ていると、心が落ち着いてくる。

「何で雲なの?」

「自由だなって思うんだよ」

「自由?」

「ああ。この広い空をどこまでも行ける。風に乗ってゆっくりとさ。それって自由だと思うんだよ」

今は、確かにレオのおかげで空を飛べるとはいえ、戦いという目的があって飛んでいる。

ただ、諒兵としては何も考えずに風に乗ってゆっくりと空に浮かぶような飛び方も悪くないのではないかと思える。

絶大な戦闘力も、何でも手に入るような権力も必要ない。

ただ、自由であるだけ。

そういった飛び方を自分は望んでいると諒兵は気づく。

もっとも、自由こそ、とてつもないほどの力が必要となることを理解できないほど愚かではないが。

ただ、だからこそ憧れてしまうのだ。

「時間も国境も関係ねえ。そんな飛び方ができるのは雲だけだ。だから、空を、雲が流れるのを見るのが好きなんだな、俺は」

「おにいちゃんって意外とのんびりさん?」

「そうだな。のんびりするのは好きだぜ」

「雲になったら、ふわふわのんびりだね♪」

「ふわふわのんびりか。そりゃいいな」

「私もこういうのんびりは楽しいから、一緒だね」

「ああ。一緒だな」

そういって笑い合うと本当に楽しくなる。

そんな気持ちで諒兵とまどかは空を見上げていた。

 

 

IS学園上空。

大和撫子は、勝手に空を飛んで無数の光を撃ち放つ。

翼を広げた状態であれば、簪の意思を無視して行動できてしまうあたり、才能溢れる『不羈』という個性をしっかり生かしていた。

これでは簪には第3世代兵器は作りにくい。

大和撫子は、他者に自分の才能をいじられたくないのだ。

協力する気が、最初っからないのである。

しかし。

『未熟』

『んだとぉーッ!』

思わずそう叫んでしまうくらい、アシュラの言葉は癇に障った。

それ以上に、アシュラの両肩に浮かぶあわせて四本の腕が、すべての光を弾いたことに腹を立てる。

「落ち着いて撫子っ!」

『うるっ、さぁーいッ!』

「きゃあぁぁっ?!」

咆哮を上げた大和撫子は、今度は球電のような光の塊を生み出し、凄まじい反動と共に撃ち放つ。

だが、アシュラは四本の腕それぞれで手刀を使い、光の塊を切り裂いて霧散させてしまった。

よもやこれほどの力があるとはと、その場にいた一同、そして指令室の面々も驚く。

「まさに『修羅の腕(しゅらのかいな)』だな……」

千冬が思わずそう呟くと、束も感想を述べる。

「かなり高いレベルで攻防一体を再現してる武装だね。アレを突破するのはかなり難しいよ」

普通、武装というものは特化させて考えるほうが作りやすい。

近距離、中距離、遠距離。

砲撃、斬撃、打撃。

正面突破、死角攻撃。

そういった、それぞれの目的を明確にした上で、設計するのが武装となる。

だが、アシュラの四本の腕は違う。

防御すれば強力な盾となり、攻撃すれば遠距離こそ難しいものの、巨大なハンマーや、剣のようにもなる。

形状は人間の腕だ。

にもかかわらず、近距離が主とはいえ、武器から防具まで様々に変化する。

「人間の腕っていうか、手は万能の道具なんだよ。ソレを生かしたISが進化したからね」

人の手の形は同一だ。

しかし、人間によってその手が生む効果は様々だ。

何でもできる道具。

それが人の手だといえる。

それを戦闘に特化させた上で使いこなしているのがアシュラという使徒なのである。

「真耶っ、井波っ、御手洗っ、更識簪のサポートを頼むッ!」

「「「はいッ!」」」

大和撫子が勝手に暴走している今、簪は思うように戦えていない。

IS操縦者としては万能型の一流レベルの簪だが、如何せん乗っているASがいうことを聞いてくれなければ意味がない。

今のところ、アンスラックスは動いていないし、戦わない可能性もあるため、とりあえずは戦力の大半をアシュラに向ける。

「レオ、ヨルムンガンド、距離をとってアンスラックスを警戒してくれ」

『了解です』

『任せておきたまえ』

それでも、アンスラックスに対する警戒は緩めない。

せめて、諒兵が戻ってきてくれたらと思うが、まどかとようやく仲直りできそうだというのに、それは言えない。

ゆえに、今はこの場にいる戦力で凌ぐ。

アメリカのナターシャや、ドイツのクラリッサを動かすわけにも行かないからだ。

(うちの学園を軍事要塞などと揶揄する者たちもいるからな……)

世論におけるIS学園の現状を理解している千冬としては、少しでもわがままに聞こえそうなことが言えない辛さを実感していた。

 

 

光が弾ける。

はるか空の上で、唐突に二つの光がぶつかり、そしてその場に留まった。

『へえ。僕の不意打ちを防ぐとは驚いたね』

「舐めないでね、うっかりぶった斬っちゃうトコロだったわよ?」

楽しそうに声をかけたのはタテナシ。

返事をしたのはティンクル。

タテナシがティンクルに対し、落花流水で不意打ちを仕掛けたのである。

『それはそれで楽しそうだけどね』

「あんたの楽しいには付き合えそうにないわ」

『まったくです。私たちに用があるのなら、まず声をかけるようにしてください。タテナシ』

相変わらず楽しそうなタテナシに対し、ため息をつくティンクルと呆れた声を出すディアマンテである。

「それで、何の用なのよ?」

『傍観してるだけでいいのかい?』

関わるべきではないか、と、タテナシは告げてくる。

このまま傍観に徹するのは、少々無責任ではないかと。

『例の『卵』だったかな。あれは確かに僕としても危険性を感じるけれど、この状況も決していいとはいえないだろう?』

「そうね……」

『否定は致しません』

『サフィルスとサーヴァントはこのままだとどんどん強化されていくよ。偶然か、必然かはわからないけど、サーヴァントたちは円卓の騎士の武器が多いみたいだね』

ブリテンを守護する。

伝説において、その色合いが濃いアーサー王と円卓の騎士。

当然武器も守護する系統であり、女性格が実はかなり多かった。

『エクスカリバーだったブルー・フェザーが除け者にされているのも興味深いけれどね』

と、本当に楽しそうにタテナシは語るが、ブルー・フェザー本人にとっては辛いものがあるだろう。

そういった本人の気持ちを理解した上で楽しめるあたり、本当に非情だとよくわかる。

「それでも、積極的に関わるほどじゃないわ。私たちとしては『卵』のほうが重要なのよ」

『早いうちに破壊しておく必要があります。最優先事項と認識しておりますので』

『なるほどね。なら、まずこれは教えておこう。スマラカタは『卵』までの独自のルートを持ってるみたいだよ』

「えっ?」

『どういうことでしょう?』

『何をしているのかなと思って信号を追跡していたんだけど、途中で消えたんだ。どうやら『卵』を守ってる者たちに接触しようとしてるみたいだね』

信号が消えたのは、向こうのシールド内には入れたからだろうとタテナシは楽しそうに告げる。

「くっ、それを先に言いなさいよッ!」

『礼は言いません。あなたが何を考えているのかは理解しにくいので』

『慌てないでくれるかな?』

すぐに移動しようとしたティンクルとディアマンテを、タテナシはのんびりと止める。

苛立ちを顕わにする一人と一機だが、タテナシは重要な情報を持っているので、無碍にもできないとその場に留まった。

「早くしてよ」

『美人が台無しだよ』

『冗談を聞いている余裕はありません』

『おそらくスマラカタのルートは僕でも入れない。なら、出てきたときに叩くしかないと思うよ』

それは確かに正しい考えだとティンクルもディアマンテも考える。

既に信号が消えているというのであれば、追跡するのは不可能だからだ。

「でも、スマラカタにヘル・ハウンド、コールド・ブラッドがあっちに加わったら面倒なのよ」

『ヘル・ハウンドとコールド・ブラッドに関しては、『卵』の近くに行くことで共鳴を起こす可能性もあり得ます』

一番怖いのがそれだ。

敵の戦力が軽く三倍化してしまう。

進化の方向性次第では、それ以上になることも考えられる。

だからこそ、出来れば止めたいのだ。

『それは、君たちがスマラカタたちの行動を予測できなかった時点でアウトだったんじゃないかな』

ゆえに、今を収めるべきではないかとタテナシはアドバイスしてくる。

「どうしろっていうのよ?」

『むしろ、思いつかないほうが不思議だよ。何故、『彼』を呼び戻さないんだい?』

その問いに対し、ティンクルもディアマンテも答えられなかった。

彼。すなわち諒兵のことだ。

状況を考えれば、IS学園に諒兵が来るだけでもかなり情勢は変わるだろう。

もしかしたらまどかが協力してくれるかもしれない。

そうなれば、凌ぐだけではなく、撃退できる可能性も出てくる。

『IS学園の人間たちは甘いからね。呼び戻せないのはわかるよ。でも、君たちは居場所をしっかり追跡しているのに、この状況で呼び戻そうとしない。それは何故なのかな?』

「だって……」と、そこまで呟いてティンクルは口を噤んだ。

ディアマンテはティンクルの言葉を待っているのか、何も言ってこない。

まるで、このことに対する決定権はティンクルにあるかのようだとタテナシは考える。

『思いつかなかった。というわけでもないみたいだね』

追求してくるタテナシに対し、ティンクルはどこか諦めたように、ため息をつきながら答える。

「諒兵に、血がつながってないとはいえ、妹って家族ができるかもしれないのに邪魔できないわ……」

『君は、随分と人間らしいことをいうんだね』

『それがティンクルの強みです。揶揄されるいわれはありません』

『揶揄してるわけじゃないんだけどね』

むしろ、その人間らしさこそが興味深いとタテナシは感じているのだ。

ディアマンテが強みと表現したように、ティンクルにとってそれこそが一番重要な部分なのだろうから。

ただ、だからといって今の状況は放りおけるものではない。

『誰かが教えなければ、彼は知らなかったことを悔やむと思うけど?』

「それはっ、わかってるけど……」

『僕は警戒されてるからね。できるのは君くらいだと思うよ』

『自分のことを理解しているのですね』

『そりゃあね』と、ディアマンテの皮肉に対し、楽しげに答えたタテナシは、言うべきことはすべて言ったといい、その場を去る。

一人と一機で残されたティンクルとディアマンテは。

『ティンクル、私が伝達役を務めます。タテナシの言葉には一理ありますから』

「ダメ」

『ティンクル』

「それをあんたに任せたら、私ダメダメじゃない。そんなの自分が許せないわ」

そう答えたものの、ティンクルは鈴音そっくりの顔をまるで苦痛に耐えるかのように歪ませていた。

 

 

 

 

 

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