ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

190 / 273
第159話「銀を纏う少女」

京都上空。

自分たちを仕留めようとレーザーカノンを撃ち放ってくるサフィルスの攻撃を、ティナは必死に避ける。

指令室にいる鈴音の助言は正しかった。

経験値を稼がせようとしているサーヴァントは比較的自由に飛んでいるのだが、それ以外の者はサフィルスの攻撃を上手くサポートし、逃げづらい状況を作り上げてくる。

仲間のサポートがなければ、当たる可能性があった攻撃も一つや二つではなかった。

(くぅッ、できればせーとかいちょーは向こうにいかせたいんだけどッ!)

『じょーだんいってる場合じゃねーぞ。ただでさえ数で負けてんだ』

ティナがそう思うと、思考を読み取ったヴェノムが嗜めてくる。

実際のところ、一夏がシアノスによって抑えられている。

そのため、四人と四機で、残りのサフィルスと、十五機のサーヴァントを相手にしなくてはならない。

その中でも、操縦者としては一級品の刀奈がIS学園に戻ってしまうと、かなり厳しくなる。

『考えろ。勝つ方法を。サフィルスのヤローはかすり傷でも逃げ出すかんな』

とにかく自分本意。

さらには傲慢な性格をしている『自尊』のサフィルスは、自らが傷つけられることを激しく嫌悪する。

仮に傷を負ったなら、即座に修復のために逃げ帰るだろう。

だが。

(一矢報いるくらいじゃ足んないわ)

『上等、二、三十本はぶち込んだれ』

かすり傷でも逃げ出すなら一矢報いるで十分なのだが、何分にもわりと過激なティナと好戦的なヴェノム。

仕返しはたっぷりする腹積もりである。

そんなティナとヴェノムの会話は、ちゃんと周りの者たちにも聞こえていた。

「更識刀奈、サポートの精度を上げろ。集中したほうが良い結果を生む」

「ごめん、心配されちゃったわね」

「簪が心配なのは当然だよ。気にしないで」

ラウラの言葉に頭を下げる刀奈を、シャルロットが労わる。

実際、簪がほぼ一人で奮闘しているIS学園が心配にならないはずがない。

何しろ、肝心のパートナーである大和撫子が、簪に非協力的だからだ。

協力してくれれば相当に頼もしいだけに、本当に惜しいパートナーだといえる。

『サフィルスはやはりヴェノムに思うところがあるようだな。これまではあそこまで集中しなかった』

『シャルロット、隙を見て私たちが攻撃をすることも手になるわ』

「うん、この場を突破する戦術を考えるよ」

かすり傷でもいいのであれば誰が攻撃しても構わないだろう。

ただしラウラはメインに据えられない。

実は、サフィルスは先ほどからラウラに対しては常に注意を向けているのだ。

やはり、諒兵復活からのコンビネーション攻撃は相当に癇に障ったらしい。

「夫婦の愛の力だからな」

「もう突っ込んじゃダメなのかしら?」

「僕はお似合いだと思うんだけど」

真顔で言ってのけるラウラの言葉に、呆れる刀奈に対し、わりとまじめにそう考えるシャルロットだった。

 

 

IS学園にて。

上空を勝手に動き回る大和撫子の動きは簡単には見切れない。

だが、その才能ゆえに、簡単にこちらの攻撃を喰らうこともないだろう。

「ワタツミ、更識さんや山田先生たちには伝えたかい?」

『OKネーっ♪』

さすがに簪に忠告しておかないわけには行かないので、ワタツミに連絡を頼み、その刃を掲げ、上段に構えた。

そして。

 

襲いかかってくる無数の刃を、アシュラは捌く。

『苛烈』

そう呟いたアシュラの声には、いささか高揚しているような雰囲気が感じ取れる。

予想以上の攻撃だったと感じているのだろう。

誠吾の剣とワタツミの次元干渉能力。

刃だけが襲いかかる攻撃は、まるで剣の檻とでも言うべきもので、アシュラの言葉通り苛烈な攻撃だ。

『ぬぉーっ、邪魔ぁーッ!』

「突っ込んじゃだめぇぇぇぇっ!」

アシュラが剣の檻を捌いている中、ムリヤリ突進しようとする大和撫子。

普通の武装ならともかく、ワタツミの刃は使徒すらも斬ることができる。

そんな中に突っ込めばこっちが膾切りにされてしまう。

「ふんにゅぅぅぅぅッ!」

奇声を上げつつ簪は必死になって何とか軌道を変えた。

こっちの意志が強ければ、それなりに干渉はできるらしい。

とはいえ、並大抵の意志では大和撫子の行動を制御できないあたり、その力は強大だった。

マトモに協力してくれれば、心強いパートナーになってくれるのにとちょっぴり泣きたくなる。

すると。

『ちょっと手伝う』

(えっ?エル?)

(撫子の砲撃に干渉するってよ。ある程度だが更識ちゃんの意志で曲げられるはずだ)

(五反田くん?)

撃ったときに砲撃に意識を向けろといわれた簪は、大和撫子が無数の砲撃をアシュラに向けて撃ち放った瞬間、一部の砲撃をアシュラが避ける方向に向かうように意識する。

『岩戸?』

避けたはずの砲撃が迫ってくるのを見て、アシュラはそう呟きつつ、四本の腕で弾いた。

エルが大和撫子に干渉していることに気づいたのはアシュラだけではない。

むしろ、一番最初に気づいただろう。

『何しやがってるぅーッ?!』

『カンザシは友達だから』

『あたい一人で十分だってぇーのッ!』

『アシュラを舐めちゃダメ』

頭の中で大和撫子とエルが口げんかしており、まじめに頭が痛くなる。

もっとも、それ以上にエルの心遣いが嬉しかったりする。

(更識ちゃん、エルが撫子に干渉できるのは十分が限度だ。その間に少しでも状況をこっちに有利にしてくれ)

(う、うんっ!)

もういっそのこと弾と恋人になったらエルとももっと仲良くなれるのではないかと思いつつ、違うったら違うと簪は必死に頭を振るのだった。

 

 

上空で簪が奮闘しているころ、箒はシェルター内のモニターで外の様子を見つめていた。

モニターには、パートナーであるはずの大和撫子に振り回されながらも、必死に強敵と戦っている姿が映っている。

アシュラ。

確かに強敵だ。

アレほどの武が見られることなどまずないだろう。

もし自分に力があったなら、助けになれただろうか。

そうは思うも、実際には何の力もない自分に何ができるはずもない。

情けなかった。

一夏に近づくために力を欲していたときよりも、今のほうがはるかに惨めだった。

自分が何も出来ないと、弱いということを思い知らされるからだ。

単純に腕っ節、剣の腕で見るなら箒は弱くはない。

素の実力は代表候補生相手でも引けは取らないだろう。

ISのおかげで、武術を学ぶ女性は数多い。

その中で、同年代で日本一をとった箒は、決して弱くはないのだ。

だが、この場において、箒はただシェルターに引きこもり、友人や前線で戦う者たちに守られているだけだ。

存在価値で言えば、後方支援部隊といえる弾や数馬、簪の親友である本音にも劣るだろう。

素の実力なら箒のほうがおそらくは上だとしても。

今は、彼らよりも『弱い』のだ。

なら、自分は何なのだろう。

友人である簪は言った。

今の織斑一夏を見ていない、と。

同じことを束のパートナーであるヴィヴィもいい、さらに付け加えた。

自分と向き合え、と。

自分の未熟を呪い、鍛え上げた結果が日本一ではなかったのか。

自分は鍛えてきたつもりで、何の力も得ていなかったというのか。

ならば。

「強さって、何だ……?」

自分が手に入れることができていない『強さ』とは、いったい何なのかと箒は悩み続けるのだった。

 

 

一方そのころ。

クロージングまではいけなかったが、手応えは十分にあった。

その後、顔を見せた権利団体代表は、こちらのパンフレットを食い入るように見ていたからだ。

また、別の国の権利団体にアポイントの電話を入れたところ、自分の意見はかなり興味深く伝わっているらしく、明日すぐに場を作るということになった。

『この場の交渉だけでなく、次の交渉時の足がかりまで作られていたのですね』

「これくらいはできないと、みんなの期待に応えられないわ」

そういって微笑むスコールに、フェレスも微笑み返す。

確実に次につながる交渉が出来たということは、渉外担当として十分な働きが出来たということだ。

それは素直に誇れることだろう。

そんな気持ちを胸に、極東支部に戻る一人と一機。

それが引き金となる。

「何事っ?」

『ヒカルノ博士ッ、何が起きたのですかッ?!』

唐突に研究所内に響くアラーム音に驚くスコール。

そしてすぐに自分のパートナーであるデイライトに問いかけるフェレス。

デイライトの答えは館内放送で響き渡った。

 

[全研究所員は孵化室に退避ッ!一機の使徒と二機の覚醒ISが侵入したッ!]

 

その言葉に、スコールとフェレスは驚愕する。

ティンクルとディアマンテではない。

ならば、こんな言い方をするはずがないし、何より襲来があればフェレスに出動要請がくる。

こんな、まるで自分たちが戻ってくる瞬間に合わせたように現れた使徒と覚醒ISとは何者か。

[フェレスッ、戦闘準備だッ!神原を護衛しろッ!]

『スコールさんッ、孵化室まで護衛しますッ!』

「ありがとうフェレスッ!」

スコールがそう答えるや否や、フェレスはいつもの透き通る人形に戻り、鎧を纏う。

だが、敵の襲来は予想以上に速かった。

まるで自分がいる場所に突然現れたかのように。

ギィンッという金属がぶつかり合ったような音を響かせて、フェレスは手にした剣で敵の攻撃を受け止める。

だが。

 

下がってッ、二撃目が来るわよッ!

 

チィッ!

 

『くッ!』と、呻き声を漏らしてしまう。

フェレスが手にしている剣は、コードネーム『フラガラッハ』

神話において回答者、報復者という意味を持つソレはどのような鎧であっても止められないという。

フェレスが手にしている武装は『報復者』の意味を深く掘り下げ、相手の攻撃を受け止めた瞬間、その運動エネルギーを砲撃エネルギーに変換し、至近距離で狙い撃つという武装となっていた。

形状は剣だが、実は盾のような使い方をイメージした矛盾した武装なのである。

まさか初見で見抜かれるとは思わなかったとフェレスもさすがに焦る。

『何者ですか?お会いしたことはありませんね?』

 

こっちが聞きたいわ。今の一撃を止めるなんて

 

剣をあわせてわかったが、何でお前がソレを持つ?

 

そういって姿を現した二機の覚醒ISはフェレスを問い詰める。

特に剣を手に攻撃してきた機体は、こちらにかなりの疑問を感じている様子だ。

『どういう意味ですか?』

 

お前、『アスクレピオスの杖』だろ?

 

「えっ?」と、スコールが思わず驚きの声を漏らした。

十六年前の悲劇の原因ともいえる名を、ここで、しかも覚醒ISの口から聞くことになるとは思わなかったからだ。

しかも、ソレがフェレスのことを指しているとは、と。

 

アスクレピオスの杖。

医学のシンボルともされる、『一匹』の蛇が巻きついた杖の絵が有名である。

特別に名がついていないため、アスクレピオスの杖と呼ばれる。

対となる薬学のシンボルはアスクレピオスの娘である伝説の薬学者の名をとり、『ヒュギエイアの杯』という。

なお、勘違いされやすいカドゥケウス、もしくはケリュケイオンと呼ばれる『二匹』の蛇が巻きついた杖は『伝令使の杖』の意味であり、神々の伝令役が持っていたとされる。

現代においては、商業や交通のシンボルとなっていることが多い。

 

余談が過ぎた。

驚愕するスコールを無視して、攻撃してきた機体はフェレスを問い詰める。

 

お前、特に武器を嫌ってなかったか?

 

『そういうあなたは『天羽々斬』ですね。好戦的なあなたにそういわれるとは驚いてしまいます』

 

答えろよ

 

『心変わりはしていません。ただ、私の大事な方々を守るためなら戦うことを厭いません』

それは間違いなくフェレスの本音だった。

フェレスにとって極東支部は自分の家であり、パートナーであるデイライトはもちろんのこと、スコールや研究員たちも大事な家族だ。

一人として失いたいとは思わない。

そして、そのために戦うことを避けたりはしない。

守るためであるならば、どんな厳しい戦場にでも飛び込んで行ける覚悟がフェレスにはあった。

そんなフェレスだからこそ、極東支部の人間たちは皆好いているのだ。

 

ふーん……。嫌いじゃないぜ。そういうの

 

もういいのかしら?

 

ああ。とりあえずアタシは構わない

 

『何を……?』

 

でてきていいわよ。話があるんでしょ?

 

もう一機が声をかけると、そこに黄金の、かなり過激な鎧を纏ったエメラルドグリーンの髪をした美女が現れた。

『お久しぶりねえん、雌豚さん♪』

美女は、まっすぐにスコールを見つめてにやりと妖艶に笑う。

「えっ?」

『あらあん、忘れちゃったのお?昔は勝手に乗りまわしてくれたじゃない。私は忘れてないわよお♪』

「あっ、ゴールデン・ドーンッ!」

目覚めたときにデイライトに見せてもらった映像にもあったことを思い出す。

かつての自分のIS。

ゴールデン・ドーンが進化したスマラカタがそこにいた。

「というか、雌豚って私のこと?」

『不満なら、スベタでも売女でも阿婆擦れでもいいわよん♪』

「せめて名前で呼んで欲しいわね……」

その表情と返答から、嫌われているというより、最初っから何もかもがまったく合わない相手だったのだろうとスコールは思うのだった。

 

 

そのほぼ同時刻。

唐突に迫ってくる何者かの気配を感じた諒兵は、すぐにまどかを庇う体勢になる。

「おにいちゃんっ?!」

「じっとしてろ。何か来る」

そう答えるや否や、はるか上空から銀の光が凄まじい勢いで飛来してきた。

そして地面にぶつかる直前、いきなりふわりとまるで羽が落ちるかのように優しく大地に立つ。

それは、銀の翼ある鎧を纏った、ライトブラウンの長い髪をツインテールにした細身の少女。

「鈴ッ?!」

そう思わず叫んでしまう諒兵。

だが、その言葉に対し、少女は少し憂いを含んだ表情を見せる。

しかし、すぐにニコッと笑い、ポンッと鎧を消して、普通のどこにでも売ってそうな私服に変身した。

「勘違いしちゃダメよ諒兵。私と一緒にいるのはディアなんだから。私のことはティンクルって呼んで」

『ご無沙汰していますヒノリョウヘイ。回復されたようで何よりです』

その声も話し方も本当に鈴音に似ているが、一緒にいるパートナーの声が、喋り方がまったく違う。

何より、身に纏っていた鎧は光を弾いて輝く銀色だった。

「なっ、あっ!」

そういえば、と思い出す。

特に鈴音と混同しないようにと千冬が自分と一夏に見せた映像を。

ディアマンテを操って戦う人型が、鈴音そっくりに変わったことを。

そして、彼女のことはまどかも知っていた。

「お前っ、あのときのッ!」

「知ってんのかっ、まどかっ?!」

「お兄ちゃんに出会う前に戦ったことがあるのっ!」

あのときはまだ人形のままだったが、その雰囲気や話し方はあのときとまったく変わらない。

それゆえに、忘れられない。

自分と互角以上に戦って見せたこの相手のことは。

「お前っ、邪魔しにきたのかっ!」

「ごめんねー、本当は邪魔する気なんてなかったのよ。ただ……」

「ただ、何だ?」

あえて厳しく問いかける諒兵だった。

何しろティンクルはディアマンテと一緒にいる以外、何もかもが鈴音に似すぎている。

気を抜くと、まだ心に住み着いてる少女と同じ印象を持ってしまいそうになる。

ディアマンテは敵じゃない。

そう考えるのは自分も一夏も同じだが、ティンクルを鈴音と混同するのは失礼極まりない。

そう思い、決して心を許さないように心がける。

そんな雰囲気を悟ったのか、ティンクルは真面目な顔になって告げた。

 

「IS学園にアンスラックスとアシュラが襲来してるわ」

 

それは、場の空気を凍らせるに十分な一言だった。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。