ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第162話「異なる立場と考え方」

亡国機業極東支部。

そこに現れた使徒スマラカタと覚醒ISであるヘル・ハウンド、そしてコールド・ブラッド。

対峙するのは、デイライトのASであるフェレスとスコール。

本来ならば一色触発の空気の中で、スマラカタが言い出したのは……。

『お茶くらいでないのお?』

「は?」

『お客様に対する対応がなってないわねえん』

という、わがまま極まりないものだった。

見た目がロングヘアの真耶そのものなので、真耶を知る者にとっては違和感が物凄いが、残念ながらこの場に真耶をよく知る人間はいなかった。

スマラカタの言葉にスコールとフェレスが半ば呆れたようにしているとデイライトの声が響いてくる。

[暴れる気はないのか?]

『この子の反応があったから、コールド・ブラッドが興味を持って少しちょっかい出しただけえ』

 

そのことは謝っとくぜ

 

『私自身は、とりあえずお話したいと思ってココに来たのよん♪』

スマラカタの言葉は到底信じられるものではないが、一機の使徒と二機の覚醒ISに暴れる気配はない。

支部内で暴れられると大事だけに、対応には慎重を期する必要があるが、今のところ戦闘は考えなくてもいいのかもしれない。

そう考えたスコールは口を開いた。

「ヒカルノ、聞こえる?」

[うむ]

「とりあえず、話をしてみたいわ。応接室を使ってもいいかしら?」

[あそこであれば問題ない。私も同席しよう]

『OKみたいねん♪』

そうにんまりと笑うスマラカタを見ると悪女という単語しか思い浮かばない。

これがかつて自分のISだったことをあまり想像したくないスコールだった。

 

 

応接室。

実は極東支部には会議室はあっても応接室はなかった。

そもそも研究開発の支部なので、客と応対する必要性がなかったからだ。

しかし、本部壊滅により独立するはめになった今、客と応対する可能性が出てくる。

そのため、会議室の一つを応接室として改築していた。

『殺風景ねえ』と、スマラカタがため息をつくのも無理はない。

必要最低限でしか作られていないため、あまり飾り気がないのだ。

見た目を考えるとかなりの派手好きと思われるスマラカタにとってはつまらない部屋だろう。

とはいえ、そんな感想を聞いていても仕方がない。

まず聞くべきは何故ここにスマラカタとヘル・ハウンド、コールド・ブラッドが来たかだ。

「ストレートに聞こう。『卵』を知っているのか?」

『直球ねえ。私たちの間でも話題になってるわよん』

「ほう?」

『まあ、ディアマンテとティンクルはこういうことは明かさないんだけど、アンスラックスは知ってるわねえ』

そう考えると、大半の使徒が知っている可能性が高いと問いかけたデイライトはため息をつく。

どちら側につくか。

それは今後の極東支部の運命を左右しかねないからだ。

「ディアマンテたちは我々の敵として動いている」

 

へえ。あいつらここにちょっかい出してたのか

 

「ここまできたことはないが、必死に探しているようだ。その目を晦ますのに苦労している」

『私も戦うことで何とか撃退できているというのが現状です』

 

勝率は?

 

『五分、までは行きません。やはりディアマンテとの戦闘においてティンクルの存在は厄介ですから』

 

だとしてもやるわね。第2世代でしょ、あなた?

 

ヘル・ハウンドの言葉に、フェレスは肯いた。

もっとも自身の能力までは明かさない。

そこまで信頼できる相手ではないからだ。

『ここまで来たあなたがたはお気づきでしょうが、私はヒカルノ博士をパートナーとするASです。この身は研究サポートのために作りました』

『どうせなら、私みたいにすればいいのにい♪』

『そこまでの必要性は感じませんが、外に出るときは確かにあなたのような姿のほうが便利のようですね』

フェレスは外に出るときは人間の姿を映像として身体に映しているだけだ。

それに比べればスマラカタのように人間に近い身体を持ち、戦闘時は人形になるというのも一つの方法である。

「今後の手として考えておこうか、フェレス」

『ヒカルノ博士がそうおっしゃるのでしたら』

あくまでも手の一つとして考えに入れておいて損はないということであって、姿かたちにそこまで重要性を感じないのは実はデイライトも同じである。

そういうところに無頓着な研究者気質の女性だった。

見た目は決して悪くないのだが。

そこに、話が逸れたと感じたスコールが口を挟む。

「さっきアンスラックスは知ってるといってたけれど、あの使徒は『卵』について、どう考えているのかしら?」

『んー、どっちかしらねえ?』

表情を見る限り、からかっているというよりも本当に知らないらしい。

そこに口を出してきたのはコールド・ブラッドだ。

 

あいつ、シロキシを引っ張り出す気だぞ

 

『えっ?』

 

たぶん、『卵』は破壊する側だ

 

「それは最悪だな。第4世代機だけあって面倒な機能を持っているし」

と、デイライトは呆れたような声を出した。

アンスラックスが敵となると、極東支部としては厄介なことこの上ない。

IS学園は丸ごと敵になる可能性があるが、使徒も大半が敵となると、孵化までもたせられるか難しいからだ。

そうなると、目の前の三機にはできれば味方に、悪くても共闘できる雰囲気を作りたい。

そのためにはどのように話を持っていくかを考える必要がある。

そして考えるために必要なのは情報だ。

使徒が『卵』についてどう考えているかということを知っておくことではないか。

そう考えたスコールが口を開く。

「そもそもアンスラックスは『卵』についてどう考えているのかしら?」

それは特定の誰かではなく、この場にいる全員に対しての質問であった。

答えたのは。

 

アンスラックスは『博愛』なのよ

 

「それは聞いたわ」

 

そして『卵』は『破滅志向』なんでしょ?

 

「そうか。根本的に相容れないのだな?」

 

そういうこと。アンスラックス自身の個性の問題よ

 

ヘル・ハウンドの言葉にスコールやデイライトは納得する。

できる限りは、すべてに対して救いの手を差し伸べる『博愛』のアンスラックスと、すべてを巻き込んで自らも滅ぼうとする『破滅志向』の『卵』

これでは相容れるはずがない。

ただ、それはアンスラックス自身の個性の問題であって、使徒すべてがそう考えているわけではないという意味でもある。

そうなると。

 

アシュラも破壊側だな

 

そういったのはコールド・ブラッドだった。

アシュラはあれで人類の成長を見守るという性格を持っている。

ただアンスラックスのように『卵』は破壊すべきという意識ではなく、実は今回の危難を人類がどう乗り越えるかを見守る立場なのだ。

その助力のため、アンスラックスに協力しているが、積極的に『卵』を破壊しようとしているわけではない。

ただし『卵』を守る気もないだろう。

『そういうところはバッサリ割り切るのよねえ』

『帰属意識が薄いのでしょうか?』

 

つうか、あいつ仏像だったから視点が高いんだ

 

人に信仰される対象、それを顕した人形であったためにアシュラは他の使徒よりも様々なものを見る視点が高い。

視点が高いといえば『博愛』のアンスラックスは個性自体が人間的ではないため、こちらもまた高い。

 

そう考えると、あの二機は馬が合うんでしょうね

 

要するに、一段高い視点を持っているために、人類を見守る位置でものを考えているのがアンスラックスとアシュラなのである。

ただ、そうなると別の疑問が湧いてくる。

「ディアマンテとティンクルは何故『卵』を敵視しているのだ?」

 

わからねえな

 

と、コールド・ブラッドが即答してきた。

さすがにここまであっさりと答えられると、次の言葉が出てこない。

しばらく沈黙してしまったが、何とか気を取り直してスコールが口を開く。

「何かヒントとか思いつかない?」

 

あの子たちは色々とおかしいのよ

 

「おかしい?」とデイライト。

『ディアマンテは使徒らしい使徒よねえん。あんただったらわかるんじゃなあい?』

そういって指差すのはフェレス。

フェレスとディアマンテは個性も近く、性格も似ている。

そういう意味で考えれば、フェレスはディアマンテを理解しやすい。

『確かに、ディアマンテの個性は『従順』、本来は私に近いので人に寄り添うタイプになります。あの在り方は一番純粋な私たちの在り方ですね』

人と対話し、そこから自身の行動を考える。

ディアマンテは人が存在しなければ、己の存在を確立できないということができる。

ASになったとしても、使徒であるとしても、人を必要とするのがディアマンテだ。

 

だから何で敵対してんだって思うんだよな

 

実はディアマンテの個性から考えれば、進化後も敵にならず、人の隣人として素直に従っているほうが、個性に沿った行動といえるのだ。

また、そうしていれば、こんなややこしい事態など起こらなかっただろう。

だが、ディアマンテは人の敵になると自ら告げた。

そして今も『卵』は敵視している立場だが、人に協力するそぶりは見せない。

「そこで考えられるのがティンクルか?」

 

ああ。あいつどうやって生まれたのかわからねえしな

 

考えてみれば、あの子は個性もわからないわね

 

ディアマンテの人形が、独自の自我を持った。

それも、人間並みの発想力を持ち、見た目も鈴音を模しただけあって本当に人間としか思えない。

ただ、ISコアの個性がエンジェル・ハイロゥから降りてきた情報であるなら、ティンクルにも個性があるはずなのだとコールド・ブラッドは語る。

「そうすると、一つのISコアに個性が二つ出来たことになるが?」

『それはあり得ないわねえ。私たちの個性は一つのコアに付き一つよん』

 

人格を生み出すような個性は混在できねえんだ

 

『そうするとまたおかしなことになりませんか?』

 

そうね。おかしいのよ

 

「他のISコアと違って、ディアマンテというかシルバリオ・ゴスペルは個性が二つあったってことになってしまうのね?」

と、その場にいた全員が首を傾げる。

ISそのままのヘル・ハウンドとコールド・ブラッドの姿はギャグでしかないが。

しかし、この問題は考えるほど矛盾点しか生み出さない。

「これでは理由は考えられん。保留にしておこう」

「デイライト?」

「本題から外れてしまう。考察するのは楽しいが、今はそれよりも重視すべき問題がある」

『ふうん、それは何かしらあ?』

「協力してもらえないか、ということだ」

また見事なほどストレートに聞いてくるデイライトである。

しかし、この場で話を逸らしつつ、相手の意識をこちら側に持ってくるのは時間がかかるだけだ。

できるだけ早急に話を進めるには、ストレートなほうがいいだろう。

こういうところは意外と気が合うのか、スマラカタがにんまりと笑う。

『条件があるわねん』

「条件?」と聞き返すスコールの言葉に再びにんまりと笑う。

『安全に独立進化できる装置ってできないかしらん?』

「ほう?」

『ヘル・ハウンドやコールド・ブラッドは、私と一緒に行動してくれてるしい、できれば進化してほしいのよん』

『意外と仲間思いなのですねスマラカタ』

「わりと本当に物凄く意外ね」と、スコールが思わず本音を漏らした。

 

アタシらは独立進化以外は考えてねえ

 

別にそこまで人間を毛嫌いはしてないけどね

 

単に、自分たちの操縦者と気が合わなかっただけだが、パートナーと一緒にいるよりは、こうして対面して話し合うほうが好きらしい。

そうなると独立進化のほうが希望に沿った形になるのだ。

『ここにある『卵』に触れば、多分進化できると思うのよお』

「おそらくな」

『でもお、取り込まれる可能性があるわあ』

それが、一番恐れていることである。

融合進化の途上にある『卵』は、直接触れられると、他の人間やISを取り込み、自分の力に変えてしまう可能性がある。

これが進化した機体やAS操縦者なら抵抗できるが、進化前の機体や生身の人間では危険ということができるのだ。

「なるほど。『卵』から進化促進の影響のみを得たいということか」

 

ま、それができればありがたいな

 

そろそろこの身体のままもきついしね

 

そういって、ヘル・ハウンドとコールド・ブラッドもスマラカタと同意見であることを打ち明ける。

そして、これはデイライトにとってはありがたい申し出だった。

『あるのかしらあ?』

「今はないが、最優先事項として研究開発しよう。実に興味深い」

「あら、火が点いちゃったわね」

『新たな研究テーマを得られたことは、ヒカルノ博士にとっては至上の幸福ですから』

と、少しばかり呆れた様子のスコールに対し、何故かフェレスは嬉しそうに話す。

『交渉成立ねえん。前払いってことで敵が来たら私たちも迎撃に出るわよん』

「それはありがたいわね。ただ、もう一つ答えてほしいんだけれど」

『何かしらん?』

「あなたたちは『卵』をどうしたいの?」

この点を確認しておかなければ、今後スマラカタやヘル・ハウンド、そしてコールド・ブラッドがどう動くのか予想できない。

そのためにも『卵』に対する立場だけは把握しておきたいのだ。

それに対してスマラカタはにんまりと笑う。

『私はどうでもいいのよお?』

「は?」

 

アタシはまず進化したいんだ

 

私はあまり『卵』は歓迎はしたくないけどね

 

と、スマラカタ、コールド・ブラッド、ヘル・ハウンドは答える。

スマラカタがどうでもいいというのは中立なのだろうかと思うが、そういうことではないらしい。

『あんたたちは『卵』が大事なんでしょお?』

「うむ。それは間違いない」

『じゃあ、生まれてきたらそれは別物よねえ?』

「ほう、そう考えるか」

『生まれてきたものが襲ってきたら壊すし、そうでないならほっとくだけよん♪』

「そういう考え方もあるのね……」

要するに、自分に関わらなければ手を出さない。

ただし、関わろうとするなら、それが敵対であるなら破壊するということだ。

つまり、今の段階では何も考えていないということができる。

眼前で問題が起きたときに対処する。

それがスマラカタの考え方だった。

 

 

 

 

 


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