ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第163話「青の戦場」

幾重にも閃く剣の光。

激しくぶつかり合う二振りの剣は火花を散らし、互いの相手の顔を照らす。

イチカには、無機質であるはずのシアノスの人形が、自分と同じように笑っているのが見えた。

距離を取り、二騎の剣士が互いを見据えて止まる。

まるで、空に立っているかのように見えた。

『さすがに考えることは同じね、ビャッコ』

『これが一番ベターなんだもん』

「ゴメン、苦労かけるな白虎」

そういって一夏は苦笑する。

実のところ、実際に一夏とシアノスは空に立っていた。

実はPICを応用することで、足の裏に地球の重力と釣り合う様な反重力を慣性によって形成しているのだ。

剣を空中で振るとなると、その動きはかなり制限される。

踏ん張りが利かないためだ。

振った勢いで自分がグルンと回るような事になってしまう。

そうさせないために、シアノスと白虎は空に立てるように足場を作っているということである。

当然、制約も存在する。

剣を思いのままに振れる反面、通常の飛行が出来なくなるのだ。

だが、一夏とシアノスはお互いが剣士。

飛んで移動する必要はない。

かつて一夏はザクロとの最終決戦でも同じように戦っていた。

確実にザクロレベルの強敵、それがシアノスだった。

「困ったな」

『あら、どうしたの?』

「一度や二度で終わらせたくないんだ。どこまで自分を高められるか、お前を相手に試したい」

『嬉しいこといってくれるじゃない。そういう子、好きよ』

『むーッ!』

『ゴメンゴメン、嫉妬しないでよビャッコ』

本当に、サーヴァントとしてサフィルスに縛られているのでなければ、よき好敵手としていられそうな性格のシアノス。

それでも、ここでそんなことを言ってはいられない。

「悪いけど、俺は仲間を信じてお前はここに足止めする。IS学園は諒兵が来たし」

『あの子もまっすぐそうね。でもやるからには剣の勝負がしたいわ。だから、雇われ者だけど、勝負は全力で行くわよ』

「望むところだッ!」

そう叫んで空を蹴った一夏は、白虎徹を全力で振り抜いた。

 

 

IS学園では、そんな一夏とシアノスの戦いを見つめていた。

「ほぼ互角。シアノスのほうが上か」

「歴戦の勇士の剣術です。一夏さんも優れた剣士と思いますけれど……」

「実戦経験が違うってこと?」

「だろうな。こればかりはどうしようもない」

千冬の言葉に答えたセシリアの評価は正しい。

鈴音がいったとおりなのだ。

シアノスは太陽の騎士ガウェインの剣を使う。

幾多の戦いを生き延びた騎士の剣だ。

その伝説の剣技を再現できるのであれば、実戦経験が違うのも当然だろう。

だが、一夏は喰らいついていけている。

そのほうが驚きであるともいえる。

「そこはザクロとの戦いの経験が生きている。あの戦いを経たからこそ、シアノスの剣についていけているんだろう」

ザクロは一夏の敵ではあったが、一夏を成長させるという点では非常に得がたい存在でもあったのだ。

『シアノスがあの性格で良かったと言えます。もし、サフィルスたちと連携していれば、非常に難しい戦いになっていたはずです』

「そうだな。こちらは一夏を抑えられてしまっているとはいえ、向こうはシアノスという優秀な前衛を抑えられている」

ブルー・フェザーの言葉に千冬は肯いた。

最も優秀な前衛を抑えられているのは、サフィルスもこちらも同じ。

だが、サフィルスとサーヴァントは基本的に後衛だ。

何しろサーヴァントは前衛の武器を持っておらず、サフィルスは決して最前線には出てこない。

ならば。

「ラウラ、前衛に出てハミルトンをサポートしろ。更識刀奈、少し下がってデュノアと連携するんだ」

[[[はいっ!]]]

その指示に鈴音は疑問を感じる。

ラウラはサフィルスに警戒されているからだ。

諒兵との合体攻撃もあり、一番警戒し、同時に嫌悪している相手を前に出すのはどうしてか?

「刀奈さん、十分強いし、サポートも巧いですけど?」

「わかっている。だがサフィルスは『自尊』だからな。ラウラが前に出れば、釣れる可能性が高い」

『なるほど。自分のプライドを満たすことを優先する可能性は高いと判断できます』

「つまり餌?」

「バカを言え。私の教え子だぞ。釣るだけで済ますものか」

ここでラウラを指名したのは、サフィルスの性格を考えただけではなく、千冬が手ずから指導したラウラの実力を考慮してだ。

本当に釣れることができたならば、ティナと協力すれば倒せる可能性もある。

「最悪傷つけるだけであっても、サフィルスは撤退する可能性が高い。……あまり時間はかけられんからな」

諒兵が戻ってきたことで、わずかばかりの余裕ができたIS学園だが、それでも一瞬たりとて油断できないのが、アシュラとアンスラックスだ。

できるならば、サフィルス戦は早く終わらせたい。

もっとも、そんなことをいえばサフィルスは意固地になるだろう。

なんとも面倒な性格をしている敵だった。

 

 

そんなサフィルスと戦う面々、ラウラ、シャルロット、ティナ、刀奈は、千冬の指示どおりに陣形を変える。

『出てきまして?』

「だんなさまが共にいれば一瞬でかたがつくが、それではあまりに貴様が哀れなのでな」

『人間風情が図に乗るなッ!』

ラウラが少し煽っただけで、声を荒げるサフィルス。

どうやら、先の合体攻撃に関しては相当に気にしているらしい。

「ティナ、私がサポートする」

「りょーかい。頼むわね」

『おめーと一緒に戦うたーなあ』

『それはこっちのセリフだヴェノム』

そんな会話の後、ティナの頭に閃いたことがあった。

(早速なんだけど)

(何だ?)

「これ撃ってっ!」

そう叫んで、クロトの糸車から吐き出された白い塊をティナはラウラの頭、つまりヘッドセット付近に投げる。

すぐに耳を起動したラウラは、手近な敵に向けて撃ち放った。

「何ッ?!」と、ラウラが叫んだのも無理はない。

打ち出された白い塊は、いきなり開いたかと思うと、蜘蛛の巣の形になって高速でサーヴァントへと向かっていったのだ。

それを数秒、呆然と見ていたサフィルスだったが、慌てた様子で叫ぶ。

『お逃げなさいッ!』

だが、一機遅れてしまい、蜘蛛の巣に絡めとられた。

さすがに落ちることはなかったが、身動きが取れなくなってしまっていた。

「私式スパイダーウェブってとこかなっ♪」

「シャルロットッ、更識刀奈ッ!」

ラウラが好機とばかりに叫ぶよりも早く、既にシャルロットと刀奈は動き出していた。

シャルロットがサテリットの砲撃で衝撃を与えた後、刀奈が祢々切丸でコアを抉り出す。

『己ェッ!』

そう叫んでいても、サフィルスは冷静であったらしい。

取り憑いていたドラッジをすぐに自分の翼に戻したのだ。

さすがにドラッジを奪われるのは危険だと判断したのだろう。

「一機落としたわ。あまり私たちを舐めてもらっちゃ困るわね」

「こういう使い方は思いつかないでしょ?」

ニヤリと笑ってそう告げる刀奈、そしてシャルロット。

さらにヴェノムまでが楽しそうに話す。

『おもしれーだろ。おめーにゃわかんねーだろーけどな』

『人間如きにいいように利用されているとわからなくて?』

『お互い様さ。俺もいーよーに利用してっし。』

サフィルスの嫌味に対しても、ヴェノムはどこ吹く風だ。

納得の上で一緒にいて、さらに今は楽しめている。

ならば、嫌味など通じるはずがない。

『ハッ、プライドを捨てた虫けらに、私の言葉が通じると思ったことが愚かと理解しましてよ』

『いっとくけど、俺のモチーフの蜘蛛は分類学上は蠍の仲間だぜ。虫はおめーだろ。ブーメランってゆーんだぜそーゆうの』

『愚物がッ!』

もともとが『悪辣』のヴェノムである。

こういった煽りあいになると、生き生きしているように感じるのは気のせいではないだろう。

「いい効果なのかなあ?」

「まあ、今は役に立ってるわね」

と、シャルロットと刀奈が苦笑していた。

 

 

再び、IS学園。

ティナとラウラ、そしてシャルロットの刀奈の見事な連携に司令室は沸き立った。

「ここでこういうこと思いつくのがティナの強みよねっ♪」

「見事ですわっ、これは大きな一歩ですっ♪」

鈴音とセシリアは戦闘に参加できないだけに嬉しそうだ。

ぱんっと両手を合わせて喜びの声を上げている。

だが、千冬は冷静にシャルロットに通信をつなげた。

「デュノア、何番だ?」

[3番ですっ!]

「よくやった!ブリーズ、コアを格納できるか?」

『問題ないわ』

「戦闘後に凍結する。奪い返されるな」

『任せといて』

サフィルスが経験値を稼がせようとしていたサーヴァントのコアとなれば、今回一機落としたという事実はさらに価値が上がる。

現在、一夏と剣を交えているシアノスの存在を考えると、間違いなく強力な前衛だったはずだからだ。

シアノスレベルの敵が増えると、サフィルス陣営は完璧な使徒の軍隊と化す。

そうなる前に一機落とすことができたのは間違いなく僥倖だった。

だからこそ千冬は告げる。

「ハミルトン、先ほどの攻撃は見事だ。だが、同じ手は効果が薄くなるぞ」

[はいッ、わかってますッ!]

「よしッ、ラウラッ、ハミルトンをしっかりサポートしてやれッ!」

[了解です教官ッ!]

褒めるべきところを褒めつつ、注意を促す。

それこそが、司令官として戦う者たちのためにできる最大の助力だと千冬は理解していた。

 

 

そんな四人の少女と四機のASの活躍を見ていたのは、別のところにもいた。

「うまいなあティナ。これは凄いわね」

「別にあの女が倒したわけじゃないじゃないか」

いまだに自然公園にいるまどかとティンクルの二人である。

なお、天狼についてはディアマンテが追い返していた。

さすがに少女の教育上、悪いと考えたらしい。

その後、ディアマンテがコア・ネットワークから、戦闘の様子を見られるようにしたのである。

実はまどかが諒兵の戦いを見たいといったのが始まりだったのだが、どうせなら全部見ようかということで、サフィルス戦も映しているのだ。

今さら極東支部を探しても、スマラカタとヘル・ハウンド、コールド・ブラッドには追いつけない。

なら、今後のことも考えて、戦闘情報を集めようということである。

それはともかく。

直接倒したわけではないティナを称賛することに異を唱えるまどかに対し、ティンクルは説明してきた。

「始まりはティナが出したティナ式スパイダーウェブでしょ?」

「捕らえたことは認めるけど、あんなもの私なら斬り捨てられる」

「そりゃ、あんたならね」

実際、同じ状況でもまどかなら対処できただろう。

ティナレベルではないにしても、発想力を持っているからだ。

しかし、今、ティナが相手にしているのはサフィルスだ。

ティナの発想力はサフィルスにとっては致命的にすら成り得るのである。

「何故だ?」

「最初から説明してほしい?」

「べ、別に……」

「んじゃ、最初から♪」

素直になれないまどかにティンクルはニコッと微笑みかける。

まるで姉妹のような姿である。

「始まりは千冬さんの指示ね。シフトチェンジでラウラと刀奈さんが入れ替わった」

「それはわかる」

「でも、千冬さんはこういった効果を狙ったわけじゃないわ。ティナがそのシフトチェンジから、あることを『思いだした』のよ」

「思いだした?」

「諒兵とラウラの合体攻撃よ」

かつて、サフィルスを襲った諒兵とラウラの合体攻撃は、サフィルスにとって脅威だった。

何しろたった一撃で自分たちが壊滅しかけたのだから。

それほどに強力な攻撃だったのである。

「だからずっとアイツを警戒してたんだ……」

「そうね。でも、そのときの記憶があるから、諒兵とラウラの合体攻撃だと、前回みたいな効果は見込めないわ」

サフィルスは馬鹿ではない。

同じ手を何度も喰らいはしない。

だから警戒していたのだ。

「でもね、今度はそれがサフィルスの固定概念になってたのよ」

「何だそれ?」

「サフィルスが持っていた情報は、『諒兵+ラウラ+合体攻撃』=『強力』、キーワードにするとこんな感じね」

つまり、諒兵とラウラが揃い、一緒に攻撃してきたとき、大きなダメージを受ける可能性があるとサフィルスは警戒していたのだ。

「だから、ティナとラウラが揃ってもラウラしか警戒していなかった。また諒兵が来るんじゃないかってね」

ティナはそれを逆手に取ったのだ。

自分とラウラでも合体攻撃はできる。

ラウラの耳のレールカノンは、基本的には何でも弾にできるからだ。

「でーも」

「何だ?」

「それだと、ラウラ、合体攻撃の情報に合致するから強力かもしれないってサフィルスは思考するわ。もし、ティナがアトロポスの裁ち鋏を撃たせてたら、せいぜい傷がついた程度だったでしょうね」

ヴェノム最強の武器であるアトロポスの裁ち鋏。これが襲ってくると成れば、サフィルスは諒兵とラウラの合体攻撃に順ずる攻撃になると警戒しただろう。

そうなれば、逃げろという指示ももっと早かったはずだ。

しかし、ティナが撃たせたのは、蜘蛛の巣をまとめていた白い塊。

実はここに大きなポイントがある。

「あんたがさっきいったとおりなのよ」

「えっ?」

「あれに攻撃力はないから、受けてもダメージはないわ。つまり倒せる攻撃じゃなかったことが大きいの」

そうなると、サフィルスが持っている『ラウラ、合体攻撃』=『強力』という情報から外れてしまうのだ。

「ラウラ、合体攻撃にプラスされた情報が攻撃力のない蜘蛛の巣だった。だからサフィルスは『何やってんの?馬鹿なの?』って考えて、数秒間ティナのことを舐めちゃったのよ」

ところが、ティナが放った蜘蛛の巣は、ヴェノムの使徒としての能力から生まれたものだ。

サーヴァントとて捕らえられる。

捕まえられれば危険ということに、サフィルスは後から気づいた。

「そこでようやく逃げろって指示が出たけど」

『時既に遅しということです』

「捕まってしまったことで、その場にいた別の連中がコアを抉りに来た。ならば、そのティナという女はそこまで計算したのか?」

「それはどーかな。ただ、まず動きを止めるってことを考えたのは間違いないわね」

より正確にいえば、ダメージのない攻撃は避けない可能性があるとティナは考えたのである。

実際にはサフィルスが気づいたことで避けたが、それでも間に合わなかった。

結果はご覧のとおり。

ティナの発想が、サーヴァントを一機落とすことにつながったのだ。

「サフィルスはいっつも自信満々に見えるけど、けっこう必死なのよ。性格上ヴェノムみたいに人間と組めない。なら、強くなるためには戦闘を重ねて情報を集めていくしかないからね」

「あっ、そういうことなのか?」

「気づいた?使徒になってから一番戦闘してるのはサフィルスなんだけど、それ以外に自分とサーヴァントを強くする方法がないのよ」

サフィルスにはアドバイスする人間がいない。

余程、奇特な人間でもない限り、サフィルスに隷属する人間はいないのだから当然である。

そして、自己進化機能を持つアンスラックスのような進化はできない。

さらに、アシュラのような戦闘のスペシャリストでもない。

ゆえに、地道に努力を重ね、自分も、そしてサーヴァントも強くしようとしているのがサフィルスなのだ。

「こう考えるとけっこう可愛いわよね、サフィルスも」

「かわいい~?」

あの性格を可愛いといってのけるティンクルにまどかは呆れたような表情を見せる。

「私、サフィルスの考えには共感できないし、話してるとムカつくけど、そこまで嫌いじゃないわよ?」

「私にはわからない」

「まあね。酷いことされてたし。しょうがないと思うわ」

「知ってるのか?」

「見てたもん。亡国の本部で倒れてたあんたを治してあげたの誰だか覚えてない?」

「あ……」と、まどかはあのときのことを思いだした。

サフィルス、かつてサイレント・ゼフィルスと呼ばれた機体にボロボロにされた自分を治癒したのは、銀色に輝く天使だったことを。

『思いだしていただけましたか?』

「そうか。あのとき助けてくれたのはお前だった。……ごめん、お礼いってなかったねディアマンテ」

『あの状況では覚えていられなくても不思議ではありません。お気になさらず』

そう答えたディアマンテの声音は優しく響く。

それがまどかの心をわずかに動かした。

「お前たち、これからどうする?」

「私たち?極東支部を探すつもりよ?」

『まずは、あなたからいただいた画像を使って、スコールという女性を探します』

「付き合う」

「へっ?」

「スマなんとかとは戦闘になる可能性もあるんだろう?だから付き合う」

そういいだしたまどかを、ティンクルは呆然と見つめてしまう。

まさかこんなことをいいだすとは思わなかったのだ。

「諒兵のところに帰らないの?」

「待っててくれるっていったもん。それにおにいちゃんなら、お前たちの力になるっていえばわかってくれる」

実際、それで本当にわかってくれそうなので、ティンクルとしては逆に困ってしまう。

「どうしよっか、ディア?」

『常に一緒に行動することはできませんが、時間を決めて行動を共にすることは可能でしょう』

「まどかはいいけどヨルムンガンドがねー……」

あの皮肉屋はどうにも付き合いづらい。

そうなると、時間を決めて行動を共にするというのがベターであるといえるだろう。

「わかったわ。エネルギー補充もあるし、昼間だけ一緒に探そ?」

「わかった」

「んじゃ、続き見よっか?」

「早くお兄ちゃんを映してっ!」

『少々お待ちください』

そう答えてディアマンテは再び空中に映像を投影したのだった。

 

 

 

 

 

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