ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第168話「悩める神の剣」

亡国機業極東支部。

『天使の卵』のある研究スペースで新たな戦力が誕生していた。

『私が先でよかったの?』

 

気にしてねえ。アタシはアタシのペースでやるから

 

研究者たちの協力により、ヘル・ハウンドが独立進化に至ったのである。

「独立進化を間近で見られるとは幸運だ」

「そう、なんでしょうけどね……」

『ヒカルノ博士が嬉しそうで何よりです』

実に楽しそうなデイライトに対し、複雑な表情のスコール。

そんな二人の傍に控えるように立っているのはフェレスである。

『上手くいったわねえん』

そう嬉しそうな声を上げたのは、鎧のみを仕舞い、長く緑色に輝く髪を揺らすスマラカタ。

さすがにあのビキニアーマーは刺激が強すぎるため、今は洋服を纏っている。

姿が姿だけに人間にしか見えないが、光沢が異常ともいえる髪の色がやはり使徒であることを示していた。

 

らしい姿だな

 

そうコールド・ブラッドが感想を述べるヘル・ハウンドは、孔雀をモチーフにした大きな翼のある鎧を身に纏い、頭上に光の輪を頂く人形をしている。

黒をベースに虹色に輝くその人型は、宝石に例えるならばブラックオパールだろう。

非常に珍しい色をした姿だが、孔雀というモチーフにはぴったりと合っていた。

『その色合いからすると、オパールって呼ぶべきかしらん?』

『協力してくれたあなたにあやかって『ウパラ』にするわ。昔はそこにいたし』

そういってウパラは微笑んでいるような雰囲気を醸し出す。

オパールの語源はギリシャ語で色の変化見るということを意味する「オパリオス」である。

そのオパリオスの語源がサンスクリット語で貴重な石を意味する「ウパラ」だ。

元々がインド神話の武器であったことを考えると、ウパラは元ヘル・ハウンドには合った名前だということができるだろう。

「フェレス、ウパラの進化の過程を記録しておいてくれ。貴重な資料だ」

『承りました』

そう答えたフェレスは足早にコンソールに駆け寄ると、ウパラの進化の様子をしっかりと記録し、保存する。

これは後にコールド・ブラッドの進化を促す際の貴重な資料になる。

各国が涎を垂らして欲しがるデータだろう。

今のところ、同様のデータがあるのはIS学園だけだが、悪用を避けるという理由からデータはまったく流出していない。

このデータだけでも、億以上の価値がある。

もっとも、今のところこのデータを売る気はないデイライトや極東支部の研究者たちだった。

こういうところが商売に向かないのである。

デイライトはフェレスからしっかりと記録されたという報告を聞くと、ウパラに向き直る。

「ウパラ、我々はあくまで協力体制にあるにすぎん。だから出て行っても文句はいわんが、しばらくは協力してくれるとありがたい」

『さすがにそこまで自分勝手はできないわ。感謝してるしね。フェレスと一緒に極東支部の防衛をするつもりよ?』

「使徒の進化に協力できること自体が我々にとっては大きな報酬なのだが……」

『そういうあなたたちの無欲さは、けっこう好みなのよ』

ウパラは今日に至るまで極東支部にいて、支部の人間を観察していた。

研究者たちは自分の研究だけにしか興味がない者たちばかりだが、その研究においては非常に前向きで、かつ実直である。

そんな彼らの性格は、ウパラと馬が合った。

また、フェレスのことも気に入っており、ある意味では元パートナーがいるスマラカタ以上に極東支部に馴染んでしまったのがウパラである。

『手を貸していただけるととても助かります』

『相手は強いから油断だけはしないでね。私たちは万能じゃないもの』

『それは私が一番感じていますから』

実際、第2世代機のフェレスは、純粋な性能で考えると弱い。

それを研究者たちのバックアップで補っている。

そういった人とフェレスの関係性も、ウパラは気に入っていた。

「……あなたもこれくらい付き合いやすいと助かるのだけど?」

『私は楽しいことしかしないのよん♪』

スコールの言葉に、無慈悲にもそう答えるスマラカタである。

それはともかく。

『武装は如何ですか?』

『悪くないわ。移動砲台みたいになっちゃったけど』

そういって苦笑するウパラ。

元々あった炎を使う機能はスマラカタと被る上に、それほど使っていたわけでもないため、オミットした。

その変わりに搭載したのが、二門のレールカノン、四門のレーザーカノン。

そしてもう二つの武装として、エネルギー弾を打てるマシンガンとレーザーライフルを載せた。

その状態で進化に至ったのである。

前者は翼から発現、後者は二つとも手に持って使う。

移動砲台という評価は間違いではないだろう。

この武装、使徒となった今の状態ならばフルファイアができる。

まさに砲台である。

『やっぱり火力といったらコレでしょ♪』

 

お前、わりとトリガーハッピーだったんだな……

 

『戦争は火力よ、コールド・ブラッド♪』

『その意見には大賛成ねえん♪』

 

お前の火は違うだろうがスマラカタ

 

思わず突っ込んでしまうコールド・ブラッドだった。

そんなコールド・ブラッドだが。

「お前はまだ武装を決めないのか?」

デイライトの言葉どおり、コールド・ブラッドも武装の変更を考えてはいるのだが、まだ決めかねている。

それが進化を遅らせている理由でもあった。

低温、つまりは冷気を操れるコールド・ブラッドの機体だが、コールド・ブラッド自身に合っているわけではない。

元が剣だったこともあり、手に持つ武装が欲しいのだが、それを決めかねているのである。

 

なんだかな。いいのが思い浮かばないんだ

 

どうにもこうにも、イマイチ戦場における自分を見いだせないのが今のコールド・ブラッドだった。

「とりあえず幾つか持ってみるという考え方もあると思うのだけど……」

と、恐る恐るではあったが、スコールが意見を述べてくる。

フェレスはともかく、他の覚醒ISはいまだ苦手意識があるスコール。

一番の問題はスマラカタだが、ウパラやコールド・ブラッドも決して平気というわけではない。

ただ、如何せん極東支部の人間は平然としているため、コミュニケーションをとる努力は続けていた。

 

アリだと思うけど、余計なもん持ちたくないんだよ

 

このあたりが面倒な拘りだとコールド・ブラッド自身が理解している。

一つでいい。

むしろ一つがいいのだ。

戦場を共に駆ける相手は一つあれば十分だと考える。

ただ、能力的にはたいていの武器を扱えるので、どれがいいかと考えるとどれも一長一短があり、決めかねてしまっていた。

 

作ってくれるのはありがたいけどな

 

極東支部では、ヘル・ハウンドやコールド・ブラッドの武装を作ることを明言していた。

そこに対価はいらない。

作ること自体が対価であると言い切るような研究者肌のものばかりなのだ。

そうなると、コールド・ブラッドとしては最高の相棒を作って欲しいと考えてしまう。

その結果、決められないという悪循環に陥ってしまっていた。

 

すまない。ちょっと一人になって考えたい

 

『いいけどお、私たちがここに入ったことは知られてるからねえん?』

 

わかってる。裏切るなんてマネは大嫌いだ

 

『自分のことも気をつけてね』

 

ああ

 

特にディアマンテやアンスラックスのように明確に『卵』を破壊する側の使徒には最悪落とされる可能性がある。

そういう意味では単独行動は危険なのだが、今はどうしても一人になって考えたいとコールド・ブラッドは思う。

「いつでも戻ってくるといい。我々は歓迎する」

 

ありがとよ

 

デイライトの言葉にそう答えると、コールド・ブラッドは極東支部の施設を出て行くのだった。

 

 

極東支部を出たからといって、コールド・ブラッドに行く当てがあるわけではなかった。

何処に行けば自分が欲しい武器が見いだせるのかなど、わかるはずもない。

つまり、一人になりたいだけだった。

 

オニキスの気持ちがわかるな

 

今は人類側にいるオニキスことヴェノムはディアマンテと戦うためということで協力しているだけで、基本的には一匹狼だ。

実のところ、一人で考え事をしていることが一番多かったのである。

コールド・ブラッドも似たようなところがあり、たまたまつるんでいただけで、別に協力したいとか、共に戦いたいといった気持ちはあまりない。

戦うのなら一人がいい。

そういう気持ちが強かった。

別に一騎打ちを好んでいるわけではないので、シアノスとは少し違うのだが。

 

剣が欲しいわけじゃないんだよなあ……

 

元が『天羽々斬』であったコールド・ブラッドだが、別に剣を使いたいとは思っていない。

むしろ、語られる神話の中では、草那芸之大刀に刃を欠かされているので、あまり好ましいとも思っていない。

そうなると手に持つ武器、それも接近戦用になると思いつくのは槍、薙刀、ハンマーといった武器になる。

ただ、何故かどれもとことんまで使ってみたいとは思わなかった。

 

アタシは何が使いたいんだ?

 

そう自問自答してしまう。

やはり剣なのか、それとも別の武器か、またはまったく新しい武器なのか。

問題はまったく新しい武器である場合だ。

発想力を持たない自分たちは、創造するということが難しい。

それは人間の領分だ。

その点では、極東支部はいい場所だし、研究者たちはいろいろと調べて意見をくれる。

そこは本当に感謝しているのだ。

しかし、その中に自分が使いたい武器がなかった。

それが何だか申し訳ない。

実のところ、一人になりたかったのは、協力的な人間たちに対して負い目があったからだ。

人類と敵対してもいいと考えて独立進化を望んでいるのに、それでも協力してくれる人類がいるとは思わなかったからだ。

本当に、人間というものは千差万別だ。

ゆえに、今のコールド・ブラッドは人間のことが好きなのか嫌いなのかもよくわからない。

気に入らない人間もいれば、気に入った人間もいる。

その差がいま一つわからなかった。

そんなことを考えながらふらふらと空を飛んでいると。

 

「らっきー♪」

 

と、酷く場違いな声が聞こえてきた。

しかし、その声が、自分にとっては最悪であることを物語っていることをコールド・ブラッドは悟る。

 

ちぃッ!

 

「逃がさないわよっ!」

声の主は、銀の閃光となって自分に迫る。

しかも、もう一つ別の気配が自分の逃げ道を塞ぐように飛び込んできた。

「間違いないのか、ヨルム?」

『うむ。コールド・ブラッドだ。まさか一人で飛んでいるとは思わなかったがね』

声の主たち、ティンクル、まどか、そしてヨルムンガンド。

コールド・ブラッドは『卵』を危険視する中で、もっとも厄介な者たちに遭遇してしまったのである。

『コールド・ブラッド、あなたは極東支部に一度入っている。場所を知っていますね?』

 

ディアマンテ……、アタシが教えると思うか?

 

『残念です。あなたから場所を聞くことができるのが最善なのですが』

 

次善は?

 

「極東支部の戦力を殺ぐことになるわ。恨まないでよ?」

 

そういう容赦ないとこは嫌いじゃないぜ

 

実際、ティンクルの答えは予想通りで、かつ、ある意味では好ましいくらいのストレートさがあるとコールド・ブラッドは思う。

「付き合いやすそうだな」

『まあ、君の性格には合っているだろう。だが、君の暴走を止められん気がするのだがね?』

「うるさいなっ!」

 

漫才コンビかよ

 

と、コールド・ブラッドは呆れたような声を出す。

確かにまどかは直情型の戦士なので、コールド・ブラッドと性格が合っているだろう。

共に進化すれば、かなりの力を得ることは間違いない。

もっとも、まどかに必要なのはその直情による暴走を止める存在なので、ヨルムンガンドのほうが周りにあわせるためには必要なパートナーと言える。

それはともかくとして、コールド・ブラッドとしてはこの状況は何としても回避したい。

進化しているいないと言うより、思うような戦いができていないからだ。

『勝気』のコールド・ブラッドはかなり好戦的な性格をしている。

だが、機体の機能がコールド・ブラッド自身の性格を制限するような冷気操作で、思うように戦えたことがないのだ。

このまま凍結では悔いが残るどころではない。

しかし、相手はその辺りは本当に容赦がない。

「まどか。メイン張る?」

「いいのか?」

「あんたが前に出るなら、私がサポートするわ。安心して得意だから」

『背中を撃たれたくはないのだが』

「そういうこというヤツには、遠慮なくぶっ放すけど♪」

『信用しておこう』

ティンクルがあまりにイイ笑顔でそう言ってくるので、素直にそう答えたヨルムンガンドである。

まどかは接近戦でも実力は高い。

特殊部隊としての訓練を受けていたのは伊達ではないのだ。

今の機体の能力ではコールド・ブラッドが勝つのは難しい。

スマラカタのように、フィールドを自在に操るというのは性格に合わないからだ。

だからこそ武器が欲しい。

この手に、命を預けられる重さのある、魂のこもった武器が。

そう願うコールド・ブラッドにディアマンテの無慈悲な言葉が放たれる。

『コールド・ブラッド、最終勧告です。極東支部の場所を教えてはいただけませんか?』

 

……やだね。アタシの矜持に反する

 

「いい答えだ。私が倒して連れ帰る。おにいちゃんにまた撫でてもらいたいし♪」

 

お前、前半と後半で性格にギャップありすぎだろ

 

その手にティルフィングを握り、戦意を高めるまどかの言葉にコールド・ブラッドは思わず突っ込む。

直後。

 

ちぃッ!

 

「悪く思うな」

まどかの斬撃がコールド・ブラッドを襲った。

寸でのところで避けるが、実際には受けて流したいところだ。

とにかく応戦するしかないと、コールド・ブラッドは自らも剣を作り出す。

『ほう、氷の剣か。なかなかに美しい』

 

キモい

 

『随分とまた辛辣な評価だな。私は素直に美しいと思っただけなのだが。それはかつての君自身だろう?』

クックッと皮肉気に笑うヨルムンガンドに、嫌味を気にしている様子はない。

コールド・ブラッドが作り出した氷の剣、形状は天羽々斬を模したものを本当に美しいと思っているらしい。

別にこれが好きで作ったわけではないのだが。

「ヨルム?」

『コールド・ブラッドの剣は日本神話に出てくる『天羽々斬』と言う。かつて宿っていたのがあの剣だ』

「へーっ!」

と、ティンクルが興味深そうな声を出した。

興が乗ったのか、ヨルムンガンドは説明を続ける。

『草那芸之大刀にぶつかって刃が欠けたという不名誉な伝説があるが、あの八岐大蛇の首をすべて切り落としたのだから切れ味は相当なものだぞ』

『ヨルムンガンドと違い、いわば英雄が持つ剣として知られています』

『君の嫌味のほうが辛辣だな、ディアマンテ』

しれっとそういってくるディアマンテに、ヨルムンガンドは思わず文句を言う。

 

アタシは好きでこれになったわけじゃないぞ

 

「えっ、嫌いなのそれ?」とティンクル。

 

嫌いってわけじゃないけど、別に好きでもない

 

そう答えるコールド・ブラッドに、ディアマンテが納得したような声で告げてくる。

 

『あなたは自分の武器、いえ、自分の在り方を自分で決めたいのですね……』

 

その言葉にコールド・ブラッドは答えられなかった。

 

 

 

 

 

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