ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第172話「一夏の幼馴染み『たち』」

IS学園、アリーナまでの廊下にて。

中学時代を思い出すのか、最近は四人で行動することが多くなった一夏、諒兵、弾、そして数馬。

彼らが談笑しながら廊下を歩く姿を見ると男子校のようである。

だが、まだ学園内に残っている女子にはわりと好評だったりする。

 

よく見るとさー、普通に全員イケメンよねー?

プリンス、ワイルド、カジュアル、インテリってとこ?

そうね。方向性が違うだけって感じ。

ヤバ、男子校入学したくなった。

何その、エロゲにもオトメゲにもなりそうな展開。

 

どうやら、正統派の一夏がプリンス。

不良っぽい諒兵がワイルド。

少々軽薄そうな弾がカジュアル。

マジメで頭のいい数馬がインテリらしい。

珍獣扱いよりはマシとはいえ、注目を集めるのはなかなかどうして気疲れしてしまう。

だが、目下のところ、一番気疲れしているというか、気苦労が耐えないのは、今日になっていきなりストーカーに尾行され始めた一夏だった。

「何かしたんかよ?」

「覚えがないんだよなあ」

諒兵の問いかけに対し、ひたすら首を傾げる一夏である。

そんな一夏とストーカーをちらりと見ながら、弾が懐かしそうに数馬に問いかけた。

「でもまー、久しぶりに見たよなアレ?」

「確かに中学のころにもいたな」

「マジでっ?!」

自分が気づかないところで尾行されていた事実を知り、一夏は驚愕してしまう。

そんな、自分の知らぬ過去に驚いていた一夏だが、一番問題なのは、今現在、後ろから見つめてくる視線の主だ。

『見事につかず離れず。イチカも大変ですね』

『う~ん、この距離がなんだかびみょーなんだよねえ』

『たぶん逃げられるギリギリの距離』

『獣か、あの娘は?』

レオ、白虎、エル、そしてアゼルもそんな会話を交わす。

そんな噂の主は、ポニーの尻尾を揺らしながら、こそこそと微妙な距離で一夏を見つめている。

箒である。

実は箒の今日の行動は筒抜けだった。

そもそも相談した相手が悪い。

ラウラが、自分に起きたことを諒兵に伝えないはずがないのだ。

「まあ、内容までは聞いてねえけどよ」

「ラウラに何か言われて、今、俺を尾行してるのか……」

「恨むなよ?」

聞き方によってはラウラのせいとも言えるので、すかさず諒兵はフォローする。

基本的に諒兵は身内を大事にする性格だった。

もっとも一夏に対しては無用な心配である。

「いや、ラウラってストレートだけど間違ったことは言わないだろ。恨みはしないよ」

「実際、いい子だもんな。諒兵、ちゃんと一緒の墓に入ってやれよ?」

「人の人生、勝手に終わらすなドアホ」

結婚は人生の墓場という言葉もあるので、微妙に間違っていないかもしれない。

もっとも、ラウラがいい子で間違ったことを言わないということに関しては否定しない。

問題は。

「それをどう捉えたかということか」

そう話す数馬に対し、一夏は肯いた。

「ラウラが何を言ったかはともかく、言われたことで何か考えてるんだと思うんだ。だから尾行されても俺は逃げはしないけど……」

「まー、ちょっと鬱陶しいわな」という弾の言葉に一夏は苦笑いしてしまう。

実は箒は相当に目立つ。

顔もスタイルも十分以上に美少女の類だからだ。

そのため、けっこう存在感がある。

尾行されているということがバレバレになってしまうのだ。

本来、尾行とは気配を消して行うものだ。

当然、見た目なども地味である必要がある。

対象に気づかれては意味がないからだ。

つまり、箒は尾行に向いていないのである。

そんな箒がさっきからつかず離れずの距離でくっついてくるのだから、鬱陶しさを感じずにはいられない。

邪険にしたくはないが、かといって歓迎もできないという非常に困った状態だった。

 

 

そのように思われている当の本人は。

(……どっか行ってくれないだろうか)

自分が一夏の何を知らないのか。

今の一夏を知るためにどうすればいいのかと考えて観察しているのに、さっきから一緒にいる他の三人が邪魔でしょうがなかった。

まだまだ理解が足りない箒である。

一夏の親友たちというポジションにいる諒兵、弾、数馬は、織斑一夏という人間を形作る上で、とても重要な存在だ。

だから、一緒にいるところこそ、そしてその話の内容こそが大事な情報となるのだが、箒にはまだ邪魔者としか思えない。

理解が足りない証拠である。

(もうちょっと近づいたほうがいいだろうか?)

会話の内容が途切れ途切れにしか聞こえないため、何を話しているのかわからない。

できれば、会話も聞いておきたい箒としては、もう少し近づきたい。

だが、近づく勇気がない。

しかしこのままでは埒が明かない。

そんな風に悩んでいると、前方の四人組に近づく女生徒がいた。

 

 

声をかけてきたのは、一人はほぼフリーというか、一夏や諒兵たちと上手く距離を取っているセシリア。

そして、最近数馬と話すことが多いシャルロットだった。

「どうしたの、四人揃って?」

「もともとはFEDの訓練に付き合ってもらっていたんだ」

そう数馬が答えるとシャルロットは納得した様子を見せる。

実際、それが一段落着いたので、少し休もうと考えてラウンジに向かっているところだったのだ。

「お前らは?」と、諒兵が尋ねるとセシリアが口を開く。

「ようやく本音さんから戦闘の許可が下りたのですわ」

『ただ、全力戦闘はまだ無理とのことでした。そのため、シャルロット様やブリーズに依頼して今の状態での戦術構築を行っているのです』

『私たちこういうことは得意だもの』

さらにブルー・フェザーやブリーズが補足してくる。

セシリアが飛べるようになったということを聞き、その場にいた男たちは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「良かったなあ」

「ま、まだ無理はすんなよ。俺らも何とかするからよ」

一夏や諒兵に対し、セシリアは品よく微笑み返す。

対して。

「せっかくまた飛べるようになったんだし、まずは空の散歩でもしてみたらいいんじゃねーかな」

そんな弾の意見に少し驚くセシリアに、数馬やシャルロットが補足してくる。

「ああ。今後のことを考えての戦術構築は大事だが、まずは緊張をほぐすことも大事だろう」

「あっ、そうかも。セシリア、まだ飛んでないでしょ?」

「それもそうですわね。今は襲撃もないし、気ままに気楽に飛ぶだけというのも楽しそうですわ」

『おっしゃるとおりです、セシリア様』

まずは飛べるようになったことを喜び、その上で空を守るために戦うすべを考える。

何のために戦うのか、ということを思い返すことは大事なことだ。

戦うだけの存在になってしまわないためにも。

「故郷の空を守ることが私の始まりでしたもの」

『はい。久しぶりにミス・チェルシーやミスター・バーナードと話すのも大事かもしれません』

「そうですわね。シャルロットさん、まず通信してみたいのですけど、かまいません?」

「止める理由がないじゃない」

と、シャルロットが笑うと、その様子を見た一夏、諒兵、弾、数馬も笑っていた。

 

 

そんな和やかな雰囲気の彼らを、物陰から尾行する箒は羨ましそうに見つめてしまう。

(いいなあ、何であんなふうに話せるんだろう?)

単に一歩踏み出せばいいだけなのだが、箒にはなかなかその勇気が生み出せない。

だから羨ましいと思うことしかできない。

だが、箒にとってはそれはとても大きな問題なのだ。

前に進めばいいなどと簡単にいってくれるが、そもそも友だち作りが上手くない箒は一歩を踏み出すことが怖い。

一番怖いのは、相手がどう反応するかわからないというところなのである。

そして、それを無視することができないということなのである。

想像力がないというよりも、想像しすぎてしまって自分をがんじがらめにしてしまうのが、箒のような人間の欠点であり、また長所でもある。

相手の気持ちを考えて話していると思い込んでいる者の多くは、黙って聞いている者を説得できていると思っているだけで、実際には我慢を強いていることに気づかないからだ。

そして、そういった者は最後には離れて行く。

逆もまた然りで、何も言わない者に対する他者の評価はたいていが何を考えているかわからないというものだ。

主張しないほうが悪いとも言われる。

結果として、コミュニティが分かれ、それぞれが無関係になってしまいやすい。

それが人間関係の難しいところなのである。

(誰かいてくれたら……)

ふと、同室の簪を想像してしまうが、すぐにぶんぶんと頭を振った。

誠吾に言われたことを思い出したからだ。

せっかくラウラに聞いて、今、こうしていると言うのに、簪に助けを求めたら意味がない。

一夏のことを知る。

より正確に言えば、自分が今の一夏の何を知らないのかを理解する。

それを自分の力で成し遂げたとき、何か変わるような気がする箒だった。

 

 

その瞬間。

誰もが何かを感じ取った。

だが、それが何なのかを理解できたのはわずかな者たちだろう。

「これは、随分と豪快だな……」

「ここまで強烈なのは初めてだ」

数馬の言葉に一夏がそう返す。

一度、薄く広がった気配が、瞬間的に強烈に固まって強い威圧を発した。

『こんなやり方をする者がいるとは思わなかったぞ』

『命を懸けてといった感じね』

アゼルとブリーズがそう会話を交わす。

この場ではなく、空の何処かで起きた、あまりに強烈な威圧を発する進化。

その主が誰なのかを知る者はここにはいない。

だが、その近くに誰かがいたことに気づいた者はいた。

「行くぜレオ」

「諒兵?」と、シャルロットが声をかけるより早く、諒兵は一人で歩き出していた。

「確認だけしてくる。千冬さんに言っといてくれ」

「大丈夫か?」

「無理はしねえ。これだけの威圧だ。情報だけ拾ってくる」

「威力偵察ですと、諒兵さんが一番無難ですわね」

そうセシリアも同意する。

戦闘が避けられない状態での情報収集となると、シャルロットやセシリアが適任だが、セシリアはまだ全力戦闘ができない。

シャルロットは情報収集能力は高いが、それ以上に分析能力が高いため、すぐに分析できるように待っているほうがいい。

そうなると、実は戦闘中に相手を観察し、相手に合わせて変化できる諒兵が意外にも適任なのだ。

「こっちは頼んだぜ」

「ああ」

そう答えた一夏に肯くと、諒兵は建物を出る。

そして。

「世話が焼けるぜ」

『でも、行くんでしょう?』

「放っとけねえよ。まどかは当然としても、ティンクルも気になるしな」

『八方美人なんですから。ハーレムでも作りたいんですか?』

「違うっての」

レオのヤキモチにそう答える諒兵は、翼を広げて飛び立った。

 

 

学園に残った一夏たちは。

「とりあえず織斑先生に報告してきますわ」

「僕は今の威圧について調べるよ。この時期に独力で進化する可能性があるとすると専用機だし」

セシリア、シャルロットが真剣な表情でそう告げるのを見て、一夏たちも顔つきが変わる。

「とりあえず整備室行ってくる」

「俺はシャルを手伝おう。専用機といっても数はかなりあるはずだ」

弾はさすがに調べものに関しては、そこまで能力は高くないので、諒兵が戻ってきたときのことを考えて整備室に向かう旨を告げる。

対して数馬はシャルロットのサポートを買って出た。

そうなると。

「俺は待機になるか」

「そうだな。諒兵が下手こくとは思わねーけど」

「武道場で待機してる。身体動かさないのも落ち着かないし」

『やりすぎないよう見張ってるから安心して』

白虎の言葉に苦笑する一夏だったが、一夏は集中するとやりすぎてしまうので当然の意見といえるだろう。

その場にいた者たちも苦笑しつつ、安心したように息をつく。

そして、それぞれ思い思いに行動を開始した。

 

 

その状況をもっとも歓迎していたのはストーカー、もとい、箒である。

ふと何かを感じたあと、話をしていた一夏たちはいきなり別行動を取った。

今、一夏は一人で武道場に向かって歩いている。

好都合といえる状況になっているのだ。

(付いて行こう)

もとより、それ以外の選択肢を選ぶ気のない箒だった。

 

そして。

『素振りは十本まで。たっぷり時間をかけて、一本一本相手の何処を狙うかをイメージして』

「わかったわかった」

まるで専属トレーナーのような態度で指示してくる白虎に可愛らしさを感じつつも一夏は苦笑する。

『相手はやっぱりシアノス?』

「そうだな。驚くほどきれいな剣だった」

『英雄の剣は伊達じゃなかったよね』

「だからこそ勝ちたい」

『うんっ!』

一夏の決意の表情を見て、白虎はにこっと笑う。

パートナーは伊達ではない。

一夏に何が必要か、どうすることが一番いいのかということをしっかりと考えているのは、やはり白虎だろう。

ゆえに、白虎の言葉に従い、一夏は眼前で剣を構えるシアノスをイメージする。

そして一本目、何処を狙うかを考え始めた。

 

そんな一夏の姿を見ている箒は。

(やはり実戦型だな……)

白虎の指示で素振りを始めた一夏の剣を見て、箒はそんな感想を持つ。

武道をやるための剣ではなく、実際に敵を倒すための剣だった。

まあ、そんなことよりも一夏のパートナーとして指示していた白虎に猛烈に嫉妬を感じてしまうのだが。

(私ならもっと的確な指示を出せるのに……)

そう考えてしまうことは決して悪くはないのだが、白虎は対抗意識を持つべき相手ではない。

白虎ははっきり言って物理的に押し退けられる相手ではないからだ。

一夏にとっては、もはやもう一人の自分みたいなものだろう。

何せこの状態で風呂にも入るのだから。

(……不謹慎なっ!)

そんなことを考えられてもどうしようもないことである。

改めて、一夏の剣を見ていた箒は一夏の剣はあくまで戦場において合理的に練られているということを理解する。

だから、箒にもおぼろげながら、一夏が具体的な対戦相手を想定した上で剣を振っていることが分かる。

見る限り、相手も剣士のようだが、日本的ではない。

だが、フェンシングとも違う。

斬るというよりは叩くといった印象を受けた。

それもまた剣ではあるのだが、箒としてはモヤモヤしてしまう。

できれば、本来の剣術を正しく学んでほしいと思う。

無論、無理を言える状況ではないことは理解している。

理解しているのだが、できればという思いは拭えない。

実際、一夏は真っ当な剣を使わせてもかなり高レベルに扱えるはずだ。

それでも戦えるのではないかと思うのだ。

今の剣が合理的であることは理解できるのだが。

其処まで考えて、ラウラが言っていたことを思い出す。

(そうか、一夏が今の剣を使うようになるまでのことを、私は知らないのか……)

剣に限った話ではないが、昔、篠ノ之の道場に通っていたころの一夏の剣が、今の一夏の剣になるまでの変化の流れを箒は知らない。

その結果、一夏が別人になってしまったように箒には思えるのだ。

変化は唐突に起こることではない。

少しずつ環境に合わせていくことで起こる。

空白の六年間。

それを埋める方法を、箒は見つけられていないのである。

そうなると、六年間の間のことを自分と入れ替わるように一夏の傍にいた人間に聞くしかない。

一夏本人に聞くことは禁止されているのだから。

そして、その条件に合致するのは、誠吾が聞いてもいいと名前を出した存在。

ちょうど入れ替わるように転校してきて、中学三年になるまでは一夏と共にいた。

一年間の空白があったとはいえ、それでもよく知っているだろう。

一年ぶりでも、驚くほどあっさり馴染んでしまっていた。

(あいつには聞きたくない……でも……)

それでも自分が知らないことを一番知っているのは彼女だと箒は理解している。

鈴音に、自分が知らない一夏の六年間を聞くしかないのかと箒は苦悩していた。

 

 

 

 

 

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