ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第177話「決戦の火蓋」

その日。

IS学園は一気に慌しくなった。

「オルコットッ、デュノアッ、ラウラッ、ハミルトンッ、ワシントンに飛べッ!ファイルスと連携してサフィルス陣営を撃退ッ!」

「「「「了解ッ!」」」」

「一夏ッ、スペインのマドリードだッ、アシュラを迎え撃てッ!」

「わかったッ!」

「諒兵ッ、ハワイのタテナシを止めてくれッ!」

「上等ッ!」

一通りの指示を終えた千冬は、一度深呼吸すると学園に残っている簪と刀奈に指示を出す。

「更識簪、更識刀奈、アンスラックスを迎撃」

「「了解」」

IS学園のシールドの上空に浮かぶ真紅の使徒アンスラックス。

彼の使徒が現れると同時に、ワシントンにサフィルス、マドリードにアシュラ、そしてハワイにタテナシが現れた。

明らかに戦力を分散させるための四ヶ所同時攻撃。

何処が本命かなど考えるまでもない。

一週間前にアンスラックスはいった。

もう一度、IS学園に来ると。

つまり、このIS学園こそが本命で、そこにはたった一機で現れたのだ。

だが、そうだとしても戦力を分散させないわけにはいかない。

使徒のほぼ全戦力が一斉に出てきたといえるのだから。

正直に言えば、一夏と諒兵にはサフィルス戦に参加させたかった。

既にサーヴァントが二機、進化を果たしており、その戦力は上がっている。

シアノスとアサギは、決して他の使徒に引けを取らない戦闘力を持つからだ。

それでも、アシュラやタテナシは放っておけない。

そしてこの二機の使徒には、IS学園でも最強といえる戦力をぶつけない限り、敗走では済まないのだ。

落とされる可能性が少ないのは、一夏と諒兵しかいないのである。

ゆえにこの布陣なのだが、逆に疑問を感じる者もいた。

「一夏と諒兵、逆じゃないんですか?」

鈴音である。

一夏はタテナシと、そして諒兵はアシュラと戦ったことがある。

ならば、逆のほうが良いのではないかと思うのは当然だろう。

だが。

「いや、少しでも勝機を掴みたい。ならば、まともに戦ったことがない相手のほうがいい」

「それは、織斑君や日野君も同じでは?」

「そうだ。だが、情報を正しく扱える使徒は知らない相手には反応が遅れる可能性があるからな」

『わずかニャ反応の遅れが勝負を決するニャら、イチカとリョウヘイ以外は当てられニャいのニャ』

逆に言えば、使徒は慣れた相手だと予測しやすいため攻撃に対する反応が早い。

そうなると、こちらが落とされかねないのだ。

「ベストとは思っていない。だが、最低限ベターを選んでいかなければならんからな」

「そういうことなんですね」

と、現在は指令室で待機している誠吾が肯く。

アンスラックスの意図はわからないが、今回の戦闘では白式が何らかの動きを見せる可能性が高い。

ゆえに、出撃するのは簪と刀奈の二人だけと決めていた。

無謀であることはわかっているが、それでも蟠りを解消した更識の姉妹は決して弱くない。

今は二人を信じるだけだった。

 

 

アメリカ、ワシントンD.C.

サフィルスがそれはもう嬉しそうな高笑いを上げていた。

『ホォ~ッホッホッホッ♪アレほど殊勝な態度を取られては、聞き取らぬわけにもいかなくてよっ♪』

余程、アンスラックスが頭を下げたのが嬉しいらしい。

力は明らかにアンスラックスが上である以上、傍目に見ると滑稽かと思ったがそうでもない。

むしろ。

「けっこー可愛いのかも」

『まー、わかりやすいしなー♪』

ティナとヴェノムが言うとおり、むしろ高飛車なお嬢様っぽくて妙な可愛らしさを感じてしまう一同である。

「戦いになるのかしら?」

『のんびりいけばいいの♪』

初の実戦であるため、気合いを入れたいナターシャだが、対してイヴはのんびりしていた。

「なんていうか、あそこまで嬉しそうだと戦うのも気が引けるなあ」

『見てるだけで楽しいのよね』

困った顔を見せるシャルロットに対し、ブリーズは少しばかりおかしそうに笑う。

「だんなさまはだいじょうぶだろうか。タテナシはかなり凶悪な敵だが……」

『目を背けたくなるのはわかるが、サフィルスを敵として認識してやれ』

『非情』のタテナシを相手にすることになった諒兵を想うラウラと、目の前に一応は敵がいることを諭すオーステルン。

「昔からあんな感じでしたの?」

『はい。昔からあのような性格でした』

呆れた様子で問いかけるセシリアに、少しばかりたそがれながらブルー・フェザーは答える。

性格というものはそう簡単には変わらないらしい。

変わらないといえば。

『逃げたい~……』

『無理でしょ。それに今回は足止め目的よ』

アサギは後ろに隠れたまま、シアノスは自分の剣を担いでのんびりしている。

さすがに一夏がいない状態では、剣の勝負というわけにはいかない。

やる気がないというわけではないのだろうが、さすがに残念なのだろう。

いずれにしても、あまり緊張感のない面々であった。

 

 

スペイン、マドリード上空にて。

一夏はアシュラに斬りかかっていた。

まずはこちらからアシュラの力を測ろうと連撃で襲いかかったのだが、今のところ二本の腕だけで弾かれている。

「やるな」

『今の回転数じゃ他の腕は使わないみたい』

一夏の連撃はそこまで回転数は上がらない。

一夏の戦い方は一撃必殺。

重い一撃を喰らわせるのが本来の戦い方になるので、手数を増やしてという戦い方をしないし、好まないのだ。

とはいえ、アシュラに腕を二本使わせているだけでも、相当なものなのだが。

『強力』

「そういわれると照れるな」

困った顔で笑いつつ、一夏はいったん距離を取る。

アシュラは向こうからはそれほど攻めてこない。

何故なのかなど理解できる。

本来の役目は、自分の足止めなのだ。

それでも、放置しておくことができないため、一夏はマドリードの空の上で戦うしかないのだが。

『イチカっ、腕ごとぶった斬ろうっ!』

「ああ。技の回転数を上げるのは俺の性分じゃないからなッ!」

そう叫ぶと同時に、一夏はアシュラに強力な斬撃をぶつける。

その斬撃を、二本の腕でアシュラは止めた。

それほどの重さがあった。

それは他の者に対してはほぼやることがなかったことであり、アシュラとしては喜びを感じることであるらしい。

『昂揚』

「まだだ。もっと重いのをぶつけるぞ」

『行くよアシュラッ!』

そう叫び、一夏と白虎は闘いの神に挑みかかった。

 

 

ハワイ上空。

白い砂浜が見えるその空の下は、既に誰もいない。

現れたのがタテナシということで、避難命令も警告レベルで出されたらしい。

『観客がいないのは寂しいねえ』

「ドアホ、死にてえ観客がいてたまるか」

のんきなことを言うタテナシに、諒兵は思わず突っ込んでしまう。

なかなかいい漫才コンビになるかもしれないが、さすがに組みたいと思う相手ではない。

タテナシもどうもやる気がない様子だ。

『緊張感がありませんね』

『そうだね、ワシントン、マドリード、そしてここハワイの戦いには意味はまったくないからね』

「んあ?」

『本命はIS学園のアンスラックス。そしてアンスラックスの目的はビャクシキを完全に戦場に引きずり出すことですから』

レオが解説したとおりであろう。

この戦いは全てアンスラックスが白式を戦場に完全に引きずり出すために行われている。

つまり、他の三ヶ所の戦いは、IS学園の戦力を引きずり出して邪魔をさせないための足止めなのだ。

『まあ、お願いを無下にも出来なかったんだけどね』

「アンスラックスがお前にお願いするってのもレアだな」

『忸怩たる思いだったでしょう。心から同情します』

『けっこう容赦がないよね、君は』

タテナシはレオにそう声をかけるが、レオはまったく気にする様子がなかった。

もっとも、タテナシ自身、そう言われながらもどこか楽しそうなのだが。

漫才コンビではなく漫才トリオと言うべきか。

「ま、お前とはいっぺん殺り合ってみたかったかんな」

『へえ?なかなか物騒なことを言うんだね。意外だよ』

「昔は狂犬とかいわれてたんだぜ?」

そういいつつ、タテナシに殴りかかった諒兵の両手には、レーザークロー、獅子吼が一本だけくっついている。

残りの獅子吼は、諒兵の周囲をビットのように旋回していた。

『今までは足のモノだけだったと思ったけど?』

「練習してたんだよ。できるだけ多く操れるようにな」

『僕との殺し合いは実地演習というわけかい?』

「そんなとこだ」

『強くなるために命をベットするんだね。僕としては共感できる』

「命を賭けなきゃ本物にゃなれねえだろ?」

『同感だよ』

そういって薄く笑ったタテナシは、その両手に落下流水を手に、諒兵の攻撃を受け止めるのだった。

 

 

その様子を、空の上でティンクルトディアマンテ、そしてまどかとヨルムンガンドが見つめていた。

「行きたい」

『ダメだ』

「行きたい」

『ダメだ』

「行きたいっ、行きたいっ、いきたぁーいっ!」

『同じことを何度も言わせないでくれたまえ』

「アンタも苦労してるわねえ……」

眼下の戦場では諒兵が一人で戦っているということもあり、まどかは諒兵の元に行きたいとダダをこねていた。

そんなまどかを止め続けるヨルムンガンドの苦労が推して知れるとティンクルはさすがに同情してしまう。

「まあ、まどかが乱入していいとすれば、ワシントンね」

「何でだ?」

「ツクヨミはあそこに出てくる可能性が高いわ」

『サーヴァント、そしてシアノスとアサギと実力は決して低くありませんから、一番戦闘が激しくなる可能性があります』

嬉しそうなサフィルスはともかく、他の者たちは強く、そして一応はマジメだ。

戦闘が始まれば一番苛烈になる可能性があるので、そこにツクヨミが『遊び』に来る可能性は高い。

「他のところに来る可能性はゼロじゃないけど、一番ヤバいとこなのよ」

「ホントに?」

「……たぶん」

どうにもこうにもサフィルスが面白すぎるので自信がなくなるティンクルだった。

それはともかくして。

『ならば君が乱入してもいいのではないのかね?』

ヨルムンガンドがそういってくるが、ティンクルは首を振った。

「あそこは鈴の居場所だもの。私はまだ参加できないわ」

『感傷かね?』

「そうよ。私の姿は鈴を模してるし」

『クッ、私との話し方を覚えたようだな』

「いつまでもアンタの話術に引っかかるほど子どもじゃないわ」

素直に認めると、ヨルムンガンドは次の手を出せなくなる。

話術においてはかなり厄介な相手だけに、ヨルムンガンドの言葉を決して否定しないことが上手く会話を流すコツになるのだ。

(だから、行くとしたらあっちか。タイミングを計っておかないと)

『今回、シロキシが出てくるのは確実です。その際に』

頭の中でそう話し合いながら、ティンクルとディアマンテはIS学園へと視線を向けていた。

 

 

そして。

IS学園上空では、簪と刀奈がアンスラックスと対峙していた。

『我の相手はそなたらか』

「あなたの考え自体は、間違ってないと思う。だけど……」

「そのために学園を戦場にするわけにはいかないのよ」

白式、シロを引きずり出す。

それ自体は、IS学園側でも歓迎したいのだ。

シロは束のために行動しているらしいので、敵になる可能性が少ない。

強力な味方を得られるチャンスなのである。

でも、だからといってIS学園を戦場にするわけにはいかない。

アンスラックスは、軽く暴れただけでも、一都市を壊滅させられる力がある。

IS学園が無事である保証などない。

それほどの存在に好きにさせることはできない。

『ゆえ、此処は護ると?』

「奇跡を信じるだけじゃ、戦っていけないもの」

「あなたの言葉は信じられないものじゃない。でも、あなたは強すぎるから」

『良い。その意志は賞賛に値する』

むしろ、簪や刀奈の言葉はアンスラックスとしては信用にあたいする人間の言葉らしい。

無理に押し通ろうとはせず、ただ白と黒の刃を持つ二本の刀を顕現させる。

「弓、じゃない?」

『かつて雨月、空裂と呼ばれていた我の本来の武装である剣だ。我の進化に巻き込まれて変化した』

「そういえば公開されたスペックにあったわね」

『雨月は刺突の際にレーザーを撃つことができる。空裂はエネルギーを剣圧として放てる』

「正直すぎる」

まさか説明してくれるとは思わず、簪は呆れてしまう。

だが、その意味を刀奈は理解した。

「変化してるっていってたわね。今の能力だけじゃないのね?」

『是だ。それは秘しておこう』

そうなると未知の武装といっても差し支えない。

以前、ザクロの剣術を使えるといっていたことを考えると、剣においても強敵だ。

気を引き締めつつ、緊張をほぐすため、刀奈は気楽な様子で尋ねる。

「それは雨月と空裂でいいの?」

『ふむ。変化した以上は変えておくべきか。ならば白は『童子切月丸(どうじぎりつきまる)』、黒は『大包平空也(おおかねひらくうや)』としておこう』

「日本刀にはぴったりの名前ね」

それぞれ国宝級の名刀の名と、もともとの雨月、空裂を組み合わせて作ったのだろう。

わりと本当にセンスがいいと刀奈は思う。

もっとも、感心している場合ではないのだが。

『征くぞ』

「撫子っ、やる気出してッ!」

『あぁー、うざったぁーい……』

「何でこんな時に……」

まったくやる気の感じられない大和撫子の声に、マジメに泣きたくなった更識の姉妹であった。

 

 

指令室では、各地の戦況を見つつ、どんな指示を出すか、千冬が悩んでいた。

というか。

「ワシントンは基本お任せでいいだろうか?」

「それなら、一夏君と諒兵君では?」

「まあ、乱入者がない限りは大丈夫だろうが。それ以上にサフィルスが……」

むしろ上手くおだてていれば、無駄な戦闘自体必要ないのではないかと思えてしまう。

だが、さすがにそれはないだろうと束が話してきた。

「シロが動くかもしれないし、あの子もまったく戦闘しないはずはないよ。フェザーの言うとおりなら、『懐疑』の子を進化させたいはずだし」

「それは、そうだな……」

「それに、極東支部に行っちゃった子はともかく、他のところから乱入してくる子はいると思うよ」

「む?」

「まーちゃん」

「確かに、乱入してきてもおかしくないな」

何処に現れるかはともかく、これだけの戦闘となると、まどかは性格的に参戦してきてもおかしくない。

それに極東支部にいるだろうツクヨミは乱入する可能性が高い。

戦うことが『遊び』になっているツクヨミが、戦場にはいってこないはずがないからだ。

「そう考えると、ワシントンが一番可能性があるよ」

「そうだな……。まどかがこちら側で戦ってくれるといいんだが」

「それは、大丈夫なんじゃない?いっくんのところに来ると心配だけど」

「其処だな。まどかが何処に現れるかは常に監視しておこう」

まどかはまだ中立といえる立場だ。

中立といっても心のままに戦うという意味になる。

ワシントンに現れた場合、サフィルスと戦ってくれるだろう。

マドリードに現れた場合、一夏と決闘しかねない。

ハワイに現れた場合……。

「りょうくんに甘えちゃって戦闘にならないかも」

「それはそれで困るな。それで、ここに来た場合は?」

「来ないと思う。アンスラックスやあの姉妹と戦う理由がないし」

「確かに」

はっきり言えば、まどかは縁がある、もしくは関わりがあるところに現れる可能性が高いのだ。

そうでない場所となっているIS学園には来る理由がない。

IS学園を守ろうという意識がないからだ。

「ならば、ツクヨミとまどかの乱入を気にしつつ、一番考えなければならないのは此処か」

「うん。確実に他は足止め。メインは此処だよ」

他を疎かにしてはならないが、この場所こそが重要だと千冬は気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

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