時系列は完全に無視してます。
読んでくださっている方々、今年一年ありがとうございました。
来年は完結するといいなあと思いつつ書き続けていきます。
よろしくお願いします。
それでは、良いお年を。
12月31日。
一般に大晦日といわれる日。
何故か、普段は死地に赴くはずのAS操縦者たちは、総出で指令室と整備室、ブリーフィングルームの大掃除していた。
指令室では。
「お嬢様、そちらとこちらとあちらのスイッチはいじらないように、一つ一つ丁寧にお願い致します」
「もう虚がやったほうが早いんじゃないのっ?!」
「私は普段からやっておりますので」
刀奈が虚に命令されながら、半泣きでコンソール類の埃取りをしていた。
更識家と布仏家の関係がわかった今でも、二人の力関係は変化しないらしい。
また、無数のモニターを数馬とシャルロットが磨いている。
「こうして見ると汚れが溜まっているな」
「細かいところまでは掃除できないしね」
普段は簡単な掃き掃除くらいしかしていないと虚が説明したことを考えると、実際このあたりまでは手が回っていないのだろう。
だが、こういったことは気分転換になるとシャルロットは思う。
「何故だ?」
「いつもの景色を違った角度から見られるんだよ。それってけっこう面白い発見があるよ?」
『行動の変更による視点の変更か。なるほど興味深い』
そうアゼルが言ったように、視点を変える訓練と考えても一理あるのだ。
例えば、自分の部屋での行動などそうは変わらない。
しかし、模様替えや大掃除によって思わぬ発見がある。
それを生かしているということだ。
「それにきれいになるの気持ちいいしね」
『シャルロットはお掃除好きだものね』
そうブリーズが言うと、照れ笑いを浮かべるシャルロット。
普段と違い、ニコニコと本当に嬉しそうに鼻歌を歌いながらモニターを磨くシャルロットを見て、数馬は微笑んでいた。
その近くの足元では。
「うあー、めんどくさー」
『日本にゃー変な風習があるよなー』
指令室に設えられた無数のコンソール類、その下の床をティナが拭き掃除している。
虚の拘りなのか、わざわざ雑巾を使ってなので、床に這い蹲るという姿で。
「こんなのてきとーでいーのにー……」
「喋ってないで手を動かしてください」
「はいーっ!」
『ケケっ、ごくろーさん♪』
ティナが必死に拭き掃除する姿を、ヴェノムはふよふよと浮かびながら眺めていた。
一方、整備室。
「まにゅぴれーたーの先端はいじらないでね~。精密機械は私がやるから~」
「わかった」
「おう」
本音の指示に、簪、そして弾がそう答える。
簪は慣れたもので、精密機械はいじらないようにしつつ、アームの部分などできるところを拭き掃除していく。
意外と弾も慣れた様子で、床を掃いていた。
「ちょっと意外だった」
「あー、店の掃除なんかは、いっつも俺がやらされてたからな」
『ゲンがゲンコツつきで命令してた』
弾とエルの説明に「あはは~」と、笑う本音と共に、簪も苦笑してしまう。
その様子が手に取るようにわかるからだ。
複雑な家で育った簪と本音からすると、そんな当たり前の一般家庭のほうが羨ましい。
(お店が終わったら一緒に掃除かあ……)と、簪。
(袖まくらないとおぼん落としちゃうかな~)と、本音。
一瞬、『夫婦』二人で切り盛りする定食屋をイメージして、思わずブンブンと頭を振る二人の少女たち。
「私もいるんですのよ?」
『介入はやめておくべきです、セシリア様。古来より人の恋路を邪魔するものは、ペガサスに足蹴にされるといいます』
「微妙に違いますわっ!」
地道にコンソール類の掃除をしていたセシリアと、的確にアドバイスしていたブルー・フェザーが、ピンク色になりつつある空間を見て呆れつつ、漫才をしていた。
ブリーフィングルームでは。
一夏と諒兵が床を拭き掃除し、鈴音が窓を磨き、ラウラがホワイトボードを拭いていた。
「何で最新技術のある学園でこんなアナログな掃除してんだ……」
『たまにはいいんじゃないですか?』
手を動かしている諒兵に比べ、見てるだけのレオは気楽なものである。
「文句言っても始まらないぞ。とっとと終わらせよう」
『そーそー、早く終わらせて遊びに行こうよっ!せっかくチフユがお休みにしてくれたんだし♪』
一夏も表情は不満そうだが、手はマジメに動かしている。
対して、白虎は千冬が大掃除が終わった後は自由行動だと言ってくれたことが嬉しかったらしい。
外にも出ていいので、行きたいところがあるようだ。
「だが、掃除はいいものだぞ、だんなさま。身が引き締まるというか」
『心身を律する上で、自分が普段使っている場所を掃除するというのはいい訓練になるからな』
ラウラやオーステルンの言うとおり、実際、自分の持ち物や居場所を大事にするということは、自分の心身を律する上で効果がある。
格好がきれいでも部屋が汚い人間に好感を持つ人間はいないだろう。
心身のだらしなさは格好や周囲の空間に現れてしまうからだ。
そう考えるとラウラの言うとおり、掃除をするという行動は正しいのである。
「ラウラの言うとおりよ。やっぱり部屋がきれいになると空気もきれいになった気がするし」
『精神衛生上から考えてもいいことニャのニャ』
実際は換気しないと埃が舞うので空気はむしろ汚くなるのだが、きれいな部屋に嫌悪感を持つ人間はいないだろう。
精神面から考えても良い効果を生むものなのだ。
「二人ともしっかりしてるよなあ」
「お前らいい嫁さんになれそうだな」
諒兵がうっかり漏らした一言は、二人の少女に衝撃を与えてしまう。
「だんなさまっ、すぐに挙式だっ!」
「なっななななななななななななっ、なに言ってんのYO!」
顔を真っ赤にした二人の少女のおかげで掃除が凄い勢いで進んだことをここに記しておこう。
んで。
除夜の鐘がなり始めたころ。
IS学園ご一行様は近所にあるお寺まで参拝に来ていた。
珍しく顔を出した少女に、鈴音が声をかける。
「箒も来てくれたんだ?」
「更識に引っ張り出された……」
一応部屋の掃除をかなり徹底的にやっていたらしい箒だが、外に出る気はなかったという。
だが、簪にとにかく来てくれと懇願されたらしい。
みんなで行くほうが楽しいから、と。
「まあ、初詣はしたいと思っていたし、ちょうどよかった」
「あんたってこういうイベントはわりと好きよね?」
「日本人だからな」
そう答えた箒ににっこりと笑いかけた鈴音はごーん、ごーんと鳴る鐘の音を聞きながら新しい年に思いを馳せる。
(いい年になりますように)
そう思いながら手を合わせる鈴音を見て、一同も手を合わせるのだった。
閑話「花嫁(希望)修行」
千冬は自室で悪戦苦闘していた。
「ほら先輩っ、もっと手際よくっ!」
「わ、わかったっ!」
何故か、真耶が仁王立ちで千冬に指示を出している。
現在、千冬は自室を掃除しているのだが、家では一夏に任せっきりだったこともあり、わりと大雑把だ。
そこで真耶に指導を願い、掃除を行っているのである。
何故指導を願ったかと言えば。
「先輩から言ってきたんですからねっ、嫁に行くために女子力上げたいってっ!」
「わっ、わかってるっ、だから素直にいうこと聞いてるだろうっ!」
ぶっちゃけ花嫁修業の一環であった。
織斑千冬。
適齢期真っ只中なのである。
わりとマジメに嫁き遅れを心配していたりもする。
「……今のチャンスを逃せませんからね」
「……ここは本来、男が少ないからな……」
出会いが少ない職場で働く二十代。
千冬も真耶もチャンスを逃したくないと真剣に思っていた。