ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第211話「一人じゃないから」

IS学園に戻ってきた、一夏と諒兵を除いた一同が見たものは。

 

「はい、はい、すみません。今後二度と無茶はしません」

「かニャらず(必ず)あちしに相談するニャっ!」

「はい。行動に危険性を感じたら必ずマオに相談します」

「みんニャを心配させるようなことはしてはダメニャっ!」

「はい、心配させません。困ったときにはみんなにも力を借ります」

「次に無茶したら全力で金箍児を絞めるニャっ!」

「そ、それだけはご勘弁をっ、絶対もう無茶しませんからっ!」

 

正座し、項垂れながら異常なほどに素直に謝る鈴音と、厳しくお説教する猫鈴の姿だった。

鈴音の頭には何故か金色の輪が嵌められている。

傍らでは一夏と諒兵や、弾、数馬といったIS学園に残っていた者たちが苦笑いしていた。

「ああ、帰ってきたかお前たち」

そう言って迎えてくれたのは千冬だった。

一同を代表してセシリアとシャルロットが返事をする。

「はい、ただいま帰投いたしました」

直接の戦闘はなかったとはいえ、出撃した以上はメンテナンスを受けなければならない。

だが、目の前の光景が面白すぎるので、飛燕ことシロが言っていた、鈴音が起きるまで口止めされていた話というのを聞くことを一同は選択した。

「一夏と諒兵はもう聞いたの?」

「ああ。猫鈴が怒るのも無理ないなと思ったよ」

「ホントに無茶しやがる」

そう答えた二人はこれからメンテナンスだと言う。

もっとも整備担当の本音は今は自室でぐっすり眠っている。

さすがにまる三日間の治療は体力と精神を相当に疲労させたらしい。

今日のメンテナンスは整備スタッフがやってくれるという。

ちなみに女性である。

如何せんASは着たままメンテナンスするので、特に女子生徒だと男性スタッフには抵抗感があるためだ。

 

それはともかく。

一同はブリーフィングルームで話を聞くことにした。

「さっきの話は本当なんですか?」と、刀奈が尋ねる。

当然のこと、捕まったISコアの居場所の件だ。

「正確には心だな。コア・ネットワーク上のある場所に捕らえられている」

「解放は?」

「今の段階では難しいらしい。とりあえず捕まっている者たちのケアを束が担当して行っている」

付け加えると、その場所に捕まっているISコアは人数が増えたという。

そうなるとサーヴァントだった者たちが新たに捕まったことと符合する。

つまり、基本的には捕らえられたISコアは皆が其処にいることになる。

「その場所って?」

「一言で言うと『データの墓場』だそうだ」

「えっ?」と、言ったのは誰だっただろうか。

ずいぶんと物騒なワードが出てきたことと、それがコア・ネットワーク上にあるということに驚かされる。

「正直、これに関しては私もよくわからん。そういう場所がコア・ネットワーク上にあるそうだ」

「それをどうやって見つけたんですか?」

「鈴音が治療の際、自分の人格データをコア・ネットワーク上で動けるようにしていたんだ」

「じゃあ、鈴音が見つけたんですか?」と、箒。

「そうだ。下手をすれば人格データを破壊されるところだったらしい。猫鈴が説教するのも当然だな」

「良く助かりましたね」と、簪。

「ギリギリで逃げ延びたそうだ。そこに天狼とヴェノムが駆け付けてな」

「えっ?」と、今度はティナが疑問の声を上げる。

『わりーな。これも口留めされてたんだよ』

天狼は確かに鈴音を助けるために駆け付けたとのことだが、ヴェノムはたまたま居合わせただけだと打ち明ける。

「危険な場所なのですね……」と、セシリア。

「少し違う。更識、鈴音はその場所でタテナシに襲われたそうだ」

「本当ですかッ?」と刀奈は思わず声を上げた。

「そうだ。状況から推測してタテナシはノワール側に着いているのだろう。今後は完全破壊を視野に入れて戦うことになるぞ」

刀奈はぐっと拳を握り締める。

それは簪も同じだった。

更識の家を縛る因習そのものであったタテナシがISコアを捕らえているノワールの味方であるというのなら、自分たちにとっては敵と言っていい。

「望むところです。自分でとは言いませんけど」

刀奈の瞳が決意の色を帯びる。

倒すべき敵として存在しているのなら誰であっても倒す覚悟がある刀奈だが、それがタテナシなら願ってもないと言えた。

 

次の議題として。

「それで、ISコアがどういう状態なのか、わかったんでしょうか?」

と、シャルロットが尋ねた。

「解析はまだほとんど進んでいない。ISコアの心、つまり個性基盤を捕らえた状態で、その力を別に存在させているらしい。アバターではないかというのが博士の意見だ」

「アバター?」と、ティナ。

「ISコアの力だけを連中の鎧として具現化しているのではないかということだ」

「そうか。ISの装甲や武装を媒介に力だけ発現させてるのか……」

「いや、これは束の意見だが、武装は載っていないようだ。お前の言い方に沿うなら装甲だけを媒介にしているのかもしれん」

その説明の矛盾に気づいたのは、シャルロットだった。

「覚醒したISって武装使ってますよね?」

「うむ。お前たちのISがそうだったな。当然武装もまとめて進化している」

「そうなると、あの人たちのASは……」

「白虎やレオと同じ状態だ。もともとの武装はなく、プラズマエネルギーを物質化して武装としている」

もっとも、ISは自身の意思で武装や装甲まで捨てることができる。

数馬のパートナーであるアゼルがそうだ。

だが、捕まったISに武装を捨てる意思があったとは思えない。

そうなると。

「あれは最低限の進化ということでしょうか?」と、セシリア。

「おそらくな。ノワールはそこまでしか進化させられないのだろう」

仮に第三世代機が捕まった場合でも、これまでのASのように強化して搭載することはできない。

あくまで装甲のみが進化している状態なのだ。

「言うならば、ISコアの心を捕らえていることのデメリットなのだろう。つまり機体としてはお前たちのものよりスペックが低いんだ」

無論のこと、だからと言って弱いわけではないことは、一夏と白虎、諒兵とレオが証明している。

ただし、女性権利団体のAS操縦者たちは覚悟と経験が足りなすぎる。

「ボルドーの戦闘を見る限り、まだ前線に出せるレベルではない。今後はその点を突いて連中を抑えるようにしていく」

一夏と諒兵は覚悟する以前に他に戦える者がいなかったから、最初から前線に出していたが、現在ではそこまで戦力が足らない状況にはなっていない。

人命を損なうよな戦闘をさせるわけにはいかないということで、各国首脳部の意見を取りまとめているという。

「これは学園長に依頼しているがな。さすがにすぐには変えられん」

「このままだと、僕たちもまともに戦えなくなります。どうにかならないんですか?」

そう評したのはシャルロットである。

実際、IS委員会が提出したという一夏と諒兵の活動制限は、IS学園にとっては最大のウィークポイントになりかねない。

対『使徒』戦の主戦力と言える二人が、前線に出てこれなくなってしまうのだから。

「今の状況だと、IS側が攻めることは考えにくいが、いきなり例外があったからな」と、箒も意見を言ってくる。

特にサフィルス陣営は今後も攻めてくる可能性が高いと言えるだろう。

サフィルスは敗北を喫したままで済ますような性格ではないからだ。

「何とかしたいのはやまやまだが……」

「今回の件を見る限り、女性権利団体はノワールによって操られているとも考えられますけど」

「ああ。だがノワールを認識しているのは現状では連中とお前たちだけだ。記録もティンクルが譲ってくれた会話ログのみでは根拠としての力が低い」

そして、女性権利団体はノワールの存在について、こちらに明かしたりはしないだろう。

むしろ必死になって隠してくる可能性のほうが高い。

「なら、今回の戦績を利用したらどーなの?」と、ティナ。

「完全敗北なら抑えられたろうが、戦果を挙げているからな……」

サーヴァントを七機も捕らえたことは傍目に見れば十分すぎる戦果なのだと千冬は説明する。

何もできずに敗走したわけではなく、命がけで戦果を挙げたとなると、その戦績を否定することはできないのだ。

「今回の戦闘を完全否定することはできん。少しずつ抑えられるポイントを指摘していくしかない」

「……気が遠くなるような話ですね」と、簪が疲れたような顔を見せた。

 

この話をしていても仕方がないと、今度は千冬から一同に問いかけてくる。

「ノワールの印象ですか?」と、箒。

「うむ。今の段階だとティンクルが譲ってくれた会話ログしか情報がない。如何せん、映像や音声の記録が残せていないからな」

だからこそ、一同が感じた印象から推測していくしかないと千冬は説明する。

ティンクルは会話の中でノワールの印象を語っているため省略。

一夏と諒兵は既に報告していた。

なので、一人ずつ印象を語っていく。

 

「正直、私は不気味な少女という印象だな」

「捉えどころがない感じだったわね」

「何となく、こっちを馬鹿にしてる感じかなー?」

「声の響きが撫子たちとは違ったかな。抑揚がないっていうか」

「言葉に感情が感じられませんでしたわね」

「でも、知性はかなり高いんじゃないかな。頭はいいけど根本的な部分が『壊れて』る感じ」

 

箒、刀奈、ティナ、簪、セシリア、そしてシャルロットの順である。

一つにまとめれば、気味が悪く、言葉に感情がなく、頭はいいが『壊れて』いるというノワール。

そこで、千冬は一つ突っ込んで聞いてみることにした。

「ノワールとやらは『楽しそう』だったか?」

「えっと……」と、言葉を探しつつも、その質問に対する答えは一同同じだった。

「ティンクルと話してるとき、一瞬イラついたような印象があったけど、まあ、全体的には楽しそーだったかな」

「そうね」と、ティナの言葉を刀奈が肯定する。

「あと、一夏と諒兵や白虎とレオ、そしてティンクル、あとあの時は気づかなかったけど、鈴のことに対して『気持チ悪イ』って表現を使ってましたね」

そうシャルロットが補足する。

「自身が理解しにくいもの、自身に都合が悪いものに対してそう評しているのかもしれませんわ」

ふむ、と千冬は沈思する。

一同の答えは鈴音が推測した通りだと言えるだろう。

 

壊すこと、壊れることが楽しい

 

そのために最も利用しやすかったのが、女性権利団体の人間だったのだろう。

壊しやすい玩具として認識しているのかもしれない。

だとすればノワールにとって『気持チ悪イ』相手とは、壊しにくい存在ということではないだろうか。

そう、千冬は考える。

「そうか、白虎とレオは影響が大きいと言っていたな」

「あ、それどういう意味なんでしょう?」と、シャルロット。

「これは以前天狼が語っている。あの二機は無垢だとな。つまり以前器物に宿っていたことがない」

「つまり、最初からISコアだった……」

「そうだ。そのため共生進化のパートナーである一夏と諒兵の影響を受けて成長している」

『そしてISコア自体が人の影響が強いのじゃ』

いきなり傍観していたらしい飛燕ことシロが口を挟む。

「シロ?」と、千冬が先を促すと、シロは説明してくる。

『かつて妾たちが憑依していた器物は、物によっては凄まじい力を持つものもあった。じゃが使い手とそこまで強いつながりがあったわけではない』

聖剣や魔剣といった武器などは、一時的に使い手とシロたちの心が一つになることで凄まじい力を発揮したという。

「それってもしかして『機獣同化』のこと?」と再びシャルロット。

『そうじゃ。一時的に心が一つに同化することで、妾たちの力を人が使っておったと言えるじゃろう』

だが、ISコアは異なる。

人とかかわることで進化できるモノであるISコアは、器物に宿っていたシロたちの心を人と強くつなげることができる。

そんなISコアが白虎とレオにとっては初めて宿った器物であるというのであれば。

『ビャッコとレオはその心が人に近くなっておるのじゃ。じゃから妾たちには見えなかったノワールが見えたのじゃろう』

ノワールは人間の脳だけに信号を送り込んでいたことは間違いない。

ただ、姿を見て、話を聞いていたのは、脳だけの話ではなかったのではないかとシロは語る。

『イチカとリョウヘイが心で感じたものをビャッコとレオも心で感じたのじゃろう』

実際、ティンクルはノワールが見えていたが、ディアマンテはまったく認識できていなかった。

ディアマンテは以前ホープ・ダイヤモンドだとヨルムンガンドが語ったように『前世』がある。

ゆえに認識できなかった。

人間に近くなった心を持つ白虎とレオ。

それが、人間にしか見えなかったはずのノワールを見る力となっているのであれば。

「それこそが、『気持チ悪イ』のかもしれんな……」

と、千冬は呟く。

強い心のつながりこそ、ノワールが忌避するものなのかもしれない。

しかし。

「まだ推測の段階ではあるが、ノワールが人とISの心のつながりを忌避するというのであれば、私たちが勝利するために守るべきはそこになる。各自、今の話を覚えておくように」

「はい」と、一同は千冬の言葉に真剣な表情で返事をするのだった。

 

 

で。

「鈴、ホントに無茶しすぎだぞ」

「ネットワークでもじっとしてられねえのか、お前……」

女子一同がメンテナンスに入ると同時にメンテナンスを終わらせた一夏と諒兵が、改めて鈴音を窘めていた。

さすがにたった一人でタテナシと一騎討ちは褒められた行動ではないからだ。

『ヒエンから聞いたときはびっくりしたんだからねっ!』

『囚われたISコアたちを見つけたことは評価しますが、マオリンが怒るのも当然ですよ』

と、白虎とレオまで窘めてくるので、いまだに正座したままの鈴音はわりとヘコんでしまう。

「何もできないの、イヤだったんだもん……」

そう呟く鈴音に困った顔を見せる二人と二機。

だが、猫鈴が教え諭すように鈴音に声をかける。

『リンがニャに(何)もしてニャいニャんて誰も思ってニャいのニャ』

「マオ~」

『あの時は身体をニャお(治)すのが、リンの役目だったのニャ。やるべきことをみうしニャ(見失)っちゃダメニャ』

「猫鈴、いいこと言うなあ。その通りだぞ、鈴。俺だってそんなこと思ってないよ」

「ホント、パートナーや俺たちを心配させるなよ、鈴」

優しい言葉が、ちくっと鈴の胸に刺さる。

その場その場でやるべきことは変わる。

鈴音にとってやるべきだったのは治療に専念することだったのだが、鈴音自身はそれだけではダメだと思ってしまったのだ。

無論のこと、鈴音がコア・ネットワークを探し回ること自体は、結果から見ても間違いではない。

でも、一人でやることではなかったということができる。

まして、猫鈴は治療のために動けなかったのだから。

怪しい場所を見つけたなら、いったん報告に戻り、仲間を頼って確認してもよかったのだ。

猫鈴が、そして一夏や諒兵に白虎やレオがそう諭してくれたことが、鈴音の心に響く。

「……ごめん、なさい……」

猫鈴に厳しく説教された時よりも、ずっと素直にそんな言葉が口から出る。

ようやく戦線に復帰できる今、仲間と一緒に戦わなければと鈴音の心に決意が生まれる。

(私は一人じゃない……。一人じゃないから戦える……。そう信じて戦わなきゃ……)

ほんの少しだけ前に進めたような、そんな気がした鈴音だった。

 

 

 

 

 




閑話「DOGEZA」

翌日。
突然襲来してきたティンクルは鈴音を呼び出し、上空で対峙する。
そしていきなり。
「「どうもすみませんでしたぁっ!」」
ホログラフィの猫鈴に対して鈴音と共に見事な空中土下座を披露したことをここに記しておこう。
『付き合わされるほうはたまったものではありませんね……』
『ケジメはしっかりつけておくものニャ♪』
二機のASは実に対照的な感じであったと、呆れ顔で見物していた生徒一同は後に語っている。





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