ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第23話「飛ぶ者、墜ちる者」

学年別トーナメント、二日目。

A、Bブロック三回戦も終わり、いよいよ次はブロック決勝。

Aブロックは下馬評どおりに鈴音、セシリア組が勝ち上がり、対するは箒、簪組となっている。

Bブロックでは、一夏とシャルロットは三回戦も無難に勝利して決勝へ。

そして諒兵とラウラも無事に勝ち上がり、決勝へと駒を進めた。

「腕が鳴るよ。諒兵とのまともな試合は初めてだからな」

「そうなの?」

「訓練で手合わせはしてるけど、公式では初めてなんだ。楽しみだ」

と、一夏とシャルロットが話しながら会場となる第1アリーナに向かっている。

ブロック決勝はどちらも第1アリーナで行う。

空いたアリーナで2年生の試合が始まるためだ。

さらに総合優勝を決める決勝も第1アリーナで行われる。

Aブロック決勝の試合は見ておこうと思い、二人は比較的早足で会場に向かっていた。

すると。

 

「何のつもりだッ、日野ッ!」

 

いきなりラウラの声が聞こえてきた。

内容からして、諒兵も一緒にいるらしいと思い、二人は声の方向に向かう。

見るとラウラが諒兵に掴みかかっていた。

止めようとするシャルロットを「少し様子を見よう」と一夏が制してくる。

 

 

三回戦。

諒兵とラウラの相手はさすがにここまで勝ち上がってきただけあって見事な連携を見せてきた。

一人が囮となって正面に回って引き付けると、もう一人が背後から銃撃。

距離を保ちつつ、決して一つところに固まらない。

そして、それを交互に行うため、AICで止めるにしても、武装で攻撃するにしても狙いを定めにくいのだ。

見事な役割分担と連携をしているなと諒兵も感心したほどだ。

にもかかわらず、一人で突撃し、戦おうとするラウラはかなりのダメージを負ってしまう。

そこで諒兵は囮役に獅子吼をビットとして撃ち放って牽制、背後の攻撃役にダメージを与えると。

「そっちを落とせボーデヴィッヒッ!」

と、指示を出してきた。

ラウラは思わずいうとおりにAICで対戦相手を停止させ、レールカノンとプラズマブレードの連撃で囮役を落とし、さらに諒兵を助けようとワイヤーブレードを使って、反撃しようとする攻撃役の武器を弾き飛ばす。

そこに諒兵が更なる一撃を放って勝利したのだ。

そのとき、勝ったことを喜んだラウラだが、すぐにハッと気づいた。

自分は今、諒兵の指示に従い、あまつさえ助けてしまったということを。

 

 

いまだ顔を紅潮させたまま、ラウラは諒兵の胸倉を掴む。

「お前の力など借りなくても勝てたんだッ!」

「相手を舐めんなよ。苦戦してたじゃねえか」

と、諒兵は少し呆れたような表情で返す。

実際、勝てた可能性はあるが、決して楽に戦える相手ではなかった。

IS学園の生徒のレベルは決して低くはない。

もともとエリート校である。

学んだことを即座に活かせるだけの応用力は誰でも持っている。

三回戦の対戦相手は、例え訓練機でも優秀な戦闘ができるだけの実力者であったことに間違いはないのだ。

そもそも専用機は、よほどの才能か実力がない限り与えられない。

専用機を持たないことが、弱いこととイコールではないのである。

「多少の油断で負けたりはしないッ!」

「油断は禁物だろ。そもそも油断してるようには見えなかったぜ」

図星であった。

確かに対戦当初こそ油断はあったかもしれないが、戦っているうちに舐められる相手ではないことは理解できていた。

それでも。

「お前の、助けなど、いら……」

最後は消え入りそうな声になりながら、ラウラは走り去っていった。

 

ため息をついた諒兵が口を開く。

「おい、出歯亀コンビ」

「失礼だな」

「覗くつもりはなかったんだよ」

どうやら気づいていたらしいと一夏とシャルロットは素直に歩み寄った。

「三回戦、ヤバかったのか?」

「ま、ビット使えば俺一人でも何とかできた。ただ下手すりゃボーデヴィッヒは落とされたな」

その評価にシャルロットは驚く。

ラウラが弱いとは思っていないからだ。

「いや、さすが千冬さんの教え子だけあって力はあるぜ。学園でもトップクラスだ。ただ……」

その力を示そうと真正面から叩き潰そうとするのだ。

結果として搦め手に対しては弱く、後手に回って攻撃を受けてしまうのである。

「千冬さんはそれでも叩き潰せる強さがあるけどな。必死に真似ようとしてんだろうよ」

どんだけ好きなんだか、と諒兵は呆れたような表情を見せる。

とはいえ、諒兵としてはそんな形で負けたくはないので、今回ラウラを助け、指示を出したのだ。

こっそりとフォローするのではなく、はっきりとパートナーとして指示を出されたことが気に入らなかったのだろうと諒兵は語る。

「つっても、実力は確かだ。連携できれば負けねえぜ」

「なら、俺たちが勝つ。シャルとの連携にも慣れてきたからな」

「いいやがったな」

「いわせてもらうさ」

そういって笑う二人の男の姿をシャルロットは微笑ましく思う。

それだけに、ラウラも諒兵と素直に手を組んでほしいと願うのだった。

 

 

第1アリーナ。

Aブロック決勝戦。

観客席に来た一夏と諒兵、シャルロットは「こっち~」という本音の声に従い、空いている席に座った。

「次はBブロック決勝だね~」

「ま、いいもの見せてやるぜ」

「ああ。でもまずはこの試合を見ておかないと」

そういってみんなアリーナへと目を向ける。

そこには打鉄を纏った鈴音と、ラファール・リヴァイブを纏ったセシリア。

そして二人とも打鉄を纏う箒と簪の姿があった。

 

 

二機の打鉄を見つめながら鈴音が口を開く。

「更識簪は基本に忠実な優等生タイプね」

「ええ。もっとも恐ろしい相手ですわ。でも、近接では箒さんはなかなかの実力者と見るべきでしょう」

そういって注意を促すセシリアに、鈴音は不敵な笑みを返す。

「確かにまともな剣術なら箒のほうが上手だけど、これ、ISバトルでしょ」

「そうですわね」と、セシリアも微笑む。

実際、鈴音は近接だけではなく、中距離の銃撃戦でも高い実力を誇る。

剣だけではなく銃火器の扱いにも自信はあった。

当然、近接用のブレード二振りだけではなく、アサルトライフル、RPG、手榴弾まで積んである。

対してセシリアはスナイパーライフル二丁、ミサイルランチャー、アサルトライフル、ハンドガン二丁、近接用のブレードとほとんど銃火器のオンパレードだ。

「バカ正直な斬り合いはしないわ。箒には悪いけど、搦め手も得意だしね」

「少し同情してしまいますわね」

鈴音が誰から搦め手を学んだかを知っているセシリアは、堅物の箒は相当苦戦するなと本気で同情してしまっていた。

 

そして、箒と簪は。

「凰鈴音は近・中距離型」

「ああ、わかってる」

斬り合いならば自信があるが、近づかせない可能性のほうが高い。

今、鈴音が手にしているのは二本の近接用ブレードだが、片方を銃火器に持ち替えることは十分考えられる。

「私はセシリア・オルコットを」

「頼む」

完全な遠距離型のセシリアに対しては、よほど上手い手段で接近しない限り、箒には手が出せない。

簪に任せたほうが無難だと箒は理解『は』している。

ただ。

(あの二人を倒せたなら、きっと一夏に手が届く)

箒は鈴音とセシリアの向こうに一夏の姿を見ていた。

そんな箒が、簪は心配でならなかった。

 

そして試合開始のブザーが鳴った直後。

「なっ?」

「遅いわよ」

ドンッという轟音と共に鈴音は箒の眼前に迫っていた。

(これがマキシマム・イグニッション・ブーストかッ!)

圧倒的なスピードで一気に間合いを詰めてきたのだ。

そして右手のブレードを下段から振り抜こうとする。

「くッ、せりゃあッ!」

箒は自分の間合いなのだとすぐに気を持ち直す。

そして上段から一気に振り下ろそうとするが、鈴音は身体を捻ると即座に背後に回りこんで左手のブレードを一閃した。

シールドエネルギーが削られる。

だが、それ以上に腹立たしいのは、隙を見て死角に回り込むこの剣は……。

「一夏の剣……、なぜお前がッ!」

「そりゃ参考にするわよ。一夏の剣はISバトルじゃかなり有効だもの」

当たり前でしょ、という鈴音に箒は苛立つ。

鈴音が一夏の剣を使うことが我慢ならなかったのだ。

すぐに連撃をもって鈴音に斬りかかる。

(うわぁ、怒っちゃった。一夏の剣を参考にした剣術はマズかったかな)

とはいえ、自分も近接でそうは遅れをとらないと、二刀をもって箒の剣を捌いていた。

 

ある意味、上手い挑発だと簪は感心する。

それ以上に、ある一点において箒の沸点が低すぎるのだが。

だが、向こうから分かれてくれるのならば、十分に倒せる。

どうやって鈴音とセシリアを分断するかとずっと悩んでいただけに、むしろありがたい。

自分が徹底したサポートを行えば、あとは箒の剣の攻撃力で何とかなるだろう。

そう思い、アサルトライフルを構えた自分の装甲にいきなり衝撃があった。

ハッとして銃弾が来た方向を見ると、立ち位置こそまったく変わらないが、セシリアがスナイパーライフルで自分を狙っていた。

「くぅっ!」

すぐにそこから離脱するが、ギリギリでなければかわせない。

(あんなに遠くからっ、これがスナイピング・クィーン!)

ギリギリでしかかわせない、恐ろしいほど正確な射撃に簪は箒と鈴音から離れてしまうことを余儀なくされていた。

 

しかし、セシリアも感心していた。

(ギリギリでかわされるとは、私もまだまだ未熟ですわね)

真耶の『セブン・カラーズ』を喰らった身としては、一発漏らさずがベストなのだが、なかなかどうして簪はやはり優秀な代表候補生だと感心する。

さらに多角的な移動で自分に狙いを定めさせようとしない。

しかし。

「鴨撃ちは得意ですわよ」

そう呟いたセシリアが放った弾丸は、すぐに簪に命中した。

簪は、箒をサポートして鈴音を落とすよりも先に、自分がセシリアに撃ち落とされると危惧したらしい。

武器を近接用のブレードとアサルトライフルに持ち替えてセシリアに迫る。

「作戦成功、ですわね」

ニヤリと笑うセシリアを苦虫を噛み潰したような顔で見つめながら。

 

 

特別観覧席の真耶と千冬は鈴音とセシリアの連携に感心していた。

「上手い分断工作ですね」

「凰が囮になって更識の注意を引き、オルコットが狙撃。この状況では更識としてはオルコットを先に倒すしかないからな」

無論、代表候補生としての実力自体なら、簪は決して弱くない。

それどころか、鈴音やセシリアと同格といえるだろう。

「それだけに一騎打ちでオルコットが更識に勝つのは難しい。もっとも恐ろしいタイプだと理解しているはずだ」

「更識さんは万能型の優等生タイプですからね」

「しかし、互角だけに時間は稼げる」

その間に、鈴音が箒を落とすということになる。

今、アリーナの空で戦っている中で最も実力が低いのは箒だからだ。

「更識の援護がない状態では、凰には勝てんな……」

「でしょうね。近接だけならともかく、総合力では凰さんに軍配が上がりますから」

これまでの勝利の大半は、簪の見えざる援護によるものだ。

それがない状態で戦ったとしたら、箒の実力では鈴音にはまず勝てない。

まったく同じISである以上、何をしても埋めようがないほどに地力が違いすぎるのだ。

「それ自体は別にいい」

「えっ?」

「ただ、これまでの勝利を自分の実力だと考えていると無様な負けを喫することになる。それが心配だな」

そう答えた千冬に対し、真耶は何もいえなかった。

 

 

少しばかり冷静になったのか、箒は鈴音の二刀流に十分対処できていた。

単純に剣術の修行期間の長さが違うのだ。

ならばこのまま近接で押し切れる。

しかし。

鈴音は一刀流、しかも片手持ちに変えてきた。

この状況なら銃撃か、と、後ろに回した左手に注意しつつ、箒は更なる連撃を繰りだす。

だが、鈴音の左手から出てきたのは。

「手榴弾ッ?こんなものッ!」

即座に真下に下降し、その場から離脱する鈴音の姿を見る。

放り投げられただけの手榴弾など、破裂する前に叩き落せばいいだけだ。

しかも、ここから手榴弾を叩き落せば爆発を喰らうのは鈴音になる。

そう思い、自業自得だと剣で叩き落そうとした瞬間。

「なッ?」

いきなり手榴弾が破裂して、箒はまともに爆発を喰らってしまった。

「ごめんねー、諒兵の騙し討ち、けっこう効くのよー」

と、てへぺろ♪とでもいいたげに舌を出してくる。

本来、手榴弾は破裂するまでにタイムラグがある。

しかし、鈴音は手の中でピンを抜き、即座に投げずに時間を計測していたのだ。

箒が叩き落すよりも早く破裂するように。

「卑怯だぞッ、というかどっちかにしろッ!」

「いいじゃない、別にー」

一夏と諒兵、両方の戦い方を参考にしている鈴音に、箒は再び腹を立てていた。

 

簪の銃撃を寸でのところでかわすセシリア。

やはり優秀だと感じさせる以上に、自分や鈴音とも違う万能型のIS操縦者であると感じる。

(シャルロットさんに近いんですのね)

彼女も優秀な万能型であることを一夏と連携する姿で、セシリアは理解していた。

「くッ!」と、思わず声を漏らしつつ、斬撃をかわす。

わずかな隙を突き、瞬時加速で接近してきた簪がブレードを振り抜いてきたのだ。

自らもブレードとハンドガンに持ち替えて応戦する。

しかし、ブレードの扱いには簪に一日の長があった。セシリアの技量ではいなしきれないのだ。

(ならばッ!)

ブレードをさらにもう一丁のハンドガンに持ち替え、セシリアは振り下ろされようとするブレードを弾いた。

「くぅッ?」

「あなたの得意な武器に合わせるほど、お人好しではありませんわ」

攻撃力は、ISの前ではほとんどゼロに近いハンドガンだが、零距離で撃たれれば話は別だ。

何より、セシリアにとってはブレードより取り回しやすい。

そして銃口や切っ先を逸らすには十分な威力がある。

セシリアは徐々に自分の戦闘スタイルを確立しつつあった。

 

 

「ガンスリンガー」と、シャルロットが呟くのを一夏と諒兵と本音は不思議そうに聞く。

「銃器に熟練した人を指す言葉なんだ。銃器全般を指すんだけど、どちらかというと短銃使いのイメージだね」

ただ、今のセシリアには合った言葉だとシャルロットは説明する。

「戦い方としては、銃口や切っ先をずらすことに重点を置いてるんだな」

「ブレードより扱いやすいみてえだ。ブルー・ティアーズにもハンドガン積んどきゃいいのにな」

ブルー・ティアーズはBT機の試験機として開発された第1号機なので、実のところ主武装といえるビット以外は、レーザーライフルとショートブレードしか武装がない。

こういってはなんだが、ブルー・ティアーズはセシリアの足を引っ張っているという印象もある。

「もともとBT機のテストパイロットとして代表に選ばれたっぽいからね~」

「もったいねえな」

「このトーナメントの結果次第ではブルー・ティアーズは改良されると思うよ」

イギリスでは既に国家代表を狙える代表候補生として、セシリアは認知されているらしい。

今後はモンド・グロッソ出場を睨んでISが改良、もしくは乗り換えもあるとシャルロットは語る。

「気に入ってるみてえだけどな」

「思い入れあるだろうしなあ」

自分たちがそうなだけに、一夏と諒兵の二人はセシリアはなんとなくブルー・ティアーズからは降りないだろうと感じていた。

 

他方。

生徒会長、更識楯無は妹、簪の戦いを見守っていた。

隣には布仏虚が立っている。

「ねえ、虚」

「何でしょう?」

「これはあんまりだと思わない?」

楯無はパイプ椅子にぐるぐる巻きに縛りつけられていた。

要するに見守るしかできなかったのである。

「妥当な処置だと思いますが」

楯無が縛りつけられている椅子の後ろには大量の簪応援グッズがある。

『LOVEかんざし』などと書かれた横断幕まであったりする。

普段の調子はどこへいったのか、楯無はじたばたと喚く。

「簪ちゃんを応援したかったのにぃーっ!」

「こんなもので応援されたら、私なら引きこもります」

「仲直りするチャンスだったのにぃーっ!」

「仲直りどころか、確実に簪お嬢様に絶縁されます」

「徹夜で作ったのにぃーっ!」

「昨日の生徒会の仕事をサボったのはそのためですか」

更識楯無、典型的な姉バカであった。

虚は簪の名誉のために楯無を捕縛し、拘束したのである。

何気に有能なメイドであった。

「そもそも、凰鈴音やセシリア・オルコットに簪お嬢様が勝てると思いますか?」

「……一騎打ちなら」

「やはり、篠ノ之箒はハンディキャップだと見ていますか」

意外なほど、楯無はマジメに戦力を分析していた。

「凰さんはけっこう面白い戦い方するわね。あれは諒兵くんの影響ね」

「近接は織斑一夏に似ていますが」

「つまり、いいとこ取りしてるのよ。問題は、その程度では『無冠のヴァルキリー』なんて呼ばれないってことね」

「セシリア・オルコットは」

「火器の扱いに関してのあの子の成長力はすごいわ。イギリスがまじめに機体作ってたらもっと早く名が売れてたわね」

イギリスにとってセシリアはあくまでテストパイロットだったのだ。

その状況でここまで成長するのは、秘められていた実力がIS学園での生活で開花したということができる。

それは生徒会長として素直に嬉しいことだ。

「でも、簪ちゃんは強いわよ。基本に忠実に鍛えてきてるんだから」

「基本は万象に通ず、ですか?」

「そういうこと。つまり相手に合わせて常に一番有効な戦いかたができる。だから一騎打ちなら勝てる可能性はあるわ」

だが、箒をサポートしなければならない状況では、その強さをすべてサポートに回さなければならない。

何しろ箒の相手は、『無冠のヴァルキリー』とまで呼ばれる実力者なのだから。

自分の相手であるセシリアが戦闘中に急成長しても、対処できるだけの地力が簪にはあるのだが、意識の隅に箒の存在がある限り、実力のすべてを発揮することができないのだ。

「もし、篠ノ之さんが簪ちゃんのサポートに気づいていたなら、まだ可能性はあったんだけど」

「見る限り、そこまで気が回っていませんね」

「だから、ちょっと残念、かな」

そういって悲しい顔でアリーナを見つめる楯無は隠しナイフでロープを切ろうとして。

「甘いですよ」

「しくしくしく……」

虚にナイフを奪われて泣いていた。

 

 

鈴音がアサルトライフルで銃撃を放ってくる。

箒は数発被弾しながらも、一気に鈴音に迫りブレードを振り抜いた。

だが、あっさりとかわされてしまう。

被弾した分、突撃のスピードが遅れ、余裕を持って対処されたのだ。

だが、近づけばこちらのものだと連撃をもって迫る。

鈴音は再び二刀に持ち替えて応戦した。

鈴音が二刀流を使うのは、一刀流ではまともな剣士には対応できないからだ。

とにかく手数を増やして、攻撃のチャンスを伺っているということである。

だが、優秀な一刀流の使い手ならば、鈴音の二刀流は押されてしまう。

誰あろう、一夏がそうなのだ。

一夏の我流の一刀流の前に、鈴音は距離をとるしかできなかったのだから。

それなのに。

(くッ、剣は私のほうが上なのにすべて捌かれているッ!)

戦闘経験値の違いを箒はまざまざと感じていた。

それは剣ではなく、ISバトルの経験。

相手が剣で対抗してくる状況ではなく、何を使うかわからない状況での戦いの経験値の違いなのである。

「今までの相手は隙があったのにッ!」

と、苛立つ箒はつい声にだしてしまった。

連撃を続けていれば必ずどこかに隙が生まれるはずなのに、ここまで捌かれ続けるとは思わなかったのである。

「ああ。やっぱり気づいてなかったのね、あんた」

「何?」

「私の本気を見せてあげる。だから、この試合が終わったら更識簪に謝りなさいよね」

わかっている者が見れば、その表情が誰に似ているのかわかっただろう。

鈴音は一夏や諒兵が激怒したときに見せるものと同じ表情をしていた。

 

 

特別観覧席で、そして観客席で歓声が上がる。

それほどに目の前の光景はISバトルの極地といってもよかった。

「これは……」

「これが『流星(リュョウシン)』だな。喰らっただけ篠ノ之は幸福といえるだろう」

『無冠のヴァルキリー』が、その本領を発揮してみせたというのであれば、少なくとも無様な負けとは映らない。

そう語った千冬の目には、幾重もの流れ星に翻弄される箒の姿が映っている。

 

おお、こんなところで見られるとは。

やはり双牙天月の軽量化は必須だな。

映像を撮りそこなうなッ、対抗策を考えねばッ!

 

IS関係者たちからも歓声が上がる。

それも当然かと千冬は思う。

何しろ中国から、この技の映像が届かないのだ。

他国に知られるわけにはいかないと情報を押さえていたのだろう。

それほどに見事な技だったのである。

 

 

戦っていたはずのセシリアと簪も呆然とその姿を見つめていた。

あれほどの高速連続攻撃はまず見られない。

「もっと射撃の腕を上げなければなりませんわね……」

「強い。でも、負けたくない……」

本領を発揮した『無冠のヴァルキリー』の姿に二人の代表候補生は戦意を高めていた。

 

そして、まさに渦中に放り込まれた箒は。

 

「うあああああああああああああああああッ!」

 

悲鳴を上げることしかできなかった。

二刀を逆手に構え、鈴音は直径二十メートル以内の間合いで瞬時加速を繰り返す。

必ず、箒の身体を蹂躙しながら。

それはまるで何台ものF1カーに轢かれ続けるような衝撃だった。

そして、箒の打鉄のシールドエネルギーがゼロになったとたん、鈴音は停止する。

「今まで助けてくれてたことに感謝しときなさい。あんた一人でこのトーナメントを勝ってきたわけじゃないのよ」

「な、にを……?」

「そうすればあんた強くなるわ。私も少しは強くなれたんだから」

そういって見下ろすように空に立つ鈴音に箒は手を伸ばす。

だが、その手は届かず、彼女は地面に叩き落された。

 

(いちか、いちかに、とど、かない……)

 

一筋の涙が、箒の目から零れ落ちたのだった。

 

 

 

 




閑話「姉、二人」

いくつものモニターが浮かぶ研究室で、一人の女性がいきり立っていた。
その頭にはまるでウサギの耳のようなものがついている。
「何よぉーッ、いい気になっちゃってぇーッ!」
そのモニターには、現在、行われている学年別トーナメント試合の様子が映っていた。
「えっらそぉーにッ、私の箒ちゃんをボコボコにしてくれちゃったくせにぃーッ!」
どうやら箒の身内らしい。
ずいぶん変わった身内である。
「箒ちゃんにはさいっこーっのISがあるんだからねぇーっだッ!」
そう叫んだその女性の背後には、『紅(あか)』があった。


観客席の楯無くらいだろう。
笑みを浮かべて見ていたのは。
「すごいわね。あれはちょっと喰らいたくないかな♪」
「ちょっと、ですか……?」
虚は逆に愕然としていた。
鈴音がここまでの強さを持っているとは思わなかったのだ。
「一瞬の隙をついて跳ね飛ばした後、二十メートル以内の間合いで常に切り返して、跳ね飛ばし続ける。いわゆる連続反転瞬時加速。なかなか楽しそうな技じゃない♪」
使っている者も相当負担がかかるだろうけど、と楯無は続ける。
何しろ、跳ね飛ばした相手は一つところに留まらない。それをシールドエネルギーをゼロにするまで続けるとなれば、常に相手の位置を認識して瞬時加速を繰り返すことになる。
「あの速度の最中に、跳ね飛ばされて移動してしまう篠ノ之箒の位置をずっと認識していたということですか?」
「そ。そんなことをあのスピードでやり続けるのは、よほどの集中力と精神力が必要になるわ。体力以上に、神経を削る技よ、あれは」
実際、鈴音はかなり疲労しているのが見て取れたが、箒が破れたのを機に、簪は降参した。
もともと箒のために参加していたのだから、その箒が完全な戦意喪失をしていては戦う意味がないのだろう。
簪自身がそう考えたのなら、楯無には文句などなかった。
そして何より、鈴音が『無冠のヴァルキリー』とまで呼ばれる理由がよく理解できたことは、ロシア国家代表である楯無にとって収穫である。
「織斑くんの近接でも、諒兵くんの中距離でもなく、凰さんだけの必殺距離。それは一撃離脱だったわけね♪」
「正直、篠ノ之箒に同情しました」
「でも、大技喰らって負けたのなら、普通に負けるよりまだマシよ?」
と、そういった楯無に、虚は疑問の眼差しを向ける。
「だって、少なくとも強敵と認めなければ、必殺技なんてださないでしょ?」
「まあ、そうですね」
「もっとも、今まではあの大きな青龍刀を使ってたせいで封印されてたんだろうけど」
軽い打鉄の近接ブレードだからこそ、できる技ということだ。
それでもこれまでは一度も学園内では使わなかった。
トーナメントの中でも、だ。
「簪ちゃんの想いに気づいてほしかったんでしょうね。それは、姉として喜んであげるべき、かな」
友情のために組んでくれた簪のサポートに気づきもしなかったことが許せなかったのだろう。
実際、箒は勝っても一夏と一緒にいるほうが多かった。
パートナーをないがしろにしているように鈴音には思えたのだ。
「ショックは大きいだろうけど、バネにもなるわ。実際、簪ちゃんやオルコットさんは冷静に分析してたし」
箒もこれを機に、本気でISバトルに取り組んでほしい。
そんな鈴音の想いが通じていればいいと楯無は願っていた。



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