ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第216話「情報交換」

亡国機業極東支部、すなわち零研にて。

戻ってこれたスコールは、ようやく息を吐くことができた。

『大丈夫でしたか、スコールさん。ウパラさんとツクヨミさんに様子を見に行っていただいたのですが』

「ありがとうフェレス。おかげで助かったわ」

そう言ってスコールは、ティンクルに尾行された件を説明する。

そして、ツクヨミが交戦中であるはずだと。

「ウパラには会わなかったのだけど……」

さすがに路地裏とはいえ街中だったのだ。

ウパラが来たら騒ぎになってしまうというのはわかる。

ツクヨミは進化のせいか、人間に近い姿になっているので降りてきたのだろう。

逆にウパラは上空で待機していたのだろうかとスコールは考える。

「ウパラは近くの上空で待機していた日野まどかと交戦中だ」

そう言ってきたのはデイライトだった。

なるほど、最近ティンクルはまどかと行動することが多かった。

ツクヨミと別行動を取り、まどかを抑えることにしたのかもしれない。

「大丈夫かしら?」

「一対一なら、そうそう遅れは取らんと思うぞ。ツクヨミはともかく、ウパラは彼女の好みを反映させた改装を行っているからな」

『間違いなく最強の移動砲台だものねえん♪』

そう補足してきたのはスマラカタだった。

こちらは零研でのんびりしていたらしい。

まあ、性格から考えても人間を助けるような使徒ではないのでスコールも気にはしないが。

「人の心配をしても仕方ないわ。それより今後は外に出るときには注意していかないと」

「そのあたり、うちで一番適しているのはお前になるからな。スマンとは思うのだが」

ティンクルと遭遇しててしまった以上、IS学園にも自分の情報は行ってしまうだろう。

彼女は厳密にはIS学園とは関係がないが、『天使の卵』を敵視しているのだから、この件に関してはIS学園と協力してくるはずだ。

尾行に関しては今後より一層の注意が必要となる。

「今までもそれが任務だったのだから、やることは変わらないわ。意識を少し改めていくだけよ」

『本当にすみません。私たちに協力できることでしたら、いくらでもお力になりますので』

「気にしないでいいわよ」

それがフェレスの個性だと理解はしているのだが、それでも権利団体の人間よりは遥かに信頼できる相手だとスコールは微笑む。

すると。

零研の奥のほうにある整備室、ただし元々はフェレス専用で今はウパラやツクヨミ、スマラカタも使っている整備室が騒がしくなった。

「戻ってきたか」

「助けてもらったし、お礼は言っておかないと」

そうそう負けることはないと思い、わりと気楽にそこに行ってみると、けっこうなダメージを受けているウパラと、そのウパラに肩を借りているツクヨミの姿があった。

『整備室を開放してくださいっ!』

「もちろんだっ、すぐに修理に入るぞっ!」

慌てたようなフェレスの声に所員の一人がそう答える。

二機を専用の整備台に横たえ、すぐに整備を開始した。

幸い、使徒の整備はコアに大きなダメージが行っているか、余程身体を破壊されない限りはそうそう難しいものではない。

自己修復能力で直せるところまで修理すると、いったん報告しておきたいということでウパラとツクヨミのほうから整備を担当した所員に休憩してくれと言ってきた。

『ダインスレイブね?』と、珍しく真剣な様子のスマラカタが問いかける。

『やっぱりあの剣は厄介ね。もっとも砲門を全部落とさせはしなかったわ』

『大丈夫だったのですか?』

『痛み分けってところよ。向こうにもビーム砲をたらふくお見舞いさせたし』

ウパラの砲門はツクヨミの弓張月と打ち合えるほどの強度を誇る。

ゆえに普通のプラズマソードであれば、簡単には落とせない。

一夏と白虎の白虎徹が相手でも止めることができるだろう。

一夏が単一仕様能力を発現すれば別になるが。

だが、まどかとヨルムンガンドのダインスレイブは異なる。

そもそもがIS殺しの剣。

驚くことに一撃で砲身を歪ませてきたのだ。

『これは私たちの『質』の問題なのよね』

『相手は男性格のASですから……』と、フェレス。

『でも、どうにかしたいわ』

このままというのはウパラとしても腹立たしい。

相手が男性格だから負けてしまうなんて考えたくない。

すると。

「今回受けたダメージを分析中だ。対応策をそこから考えられるのではないかと思う」

『そうしてくれるの?』と、デイライトの言葉にウパラはいささか驚いた様子で問いかける。

「我々にとっては大事な研究課題だぞ。特にダインスレイブは同種の武器が現時点では存在していないからな」

黒く光る剣という一見すると矛盾した武器だ。

そして一撃でISの身体に修復不可能なダメージを与えてくる。

そんな面白い研究課題を放っておくような所員はここにはいないとデイライトはニヤリと笑う。

「ならば、知りたいと思うのは当然だろう?」

「楽しそうね、まったく」と、苦笑いするスコール。

『まあ、それでも何とか対応できるようになるならありがたいわ。今回手に入れた情報は好きに使って』

「感謝しよう」

『ありがとうございます、ウパラさん』

そう言って頭を下げる主従は、今度はツクヨミのほうへと顔を向ける。

「こちらはかなりのダメージだな……」

全身傷だらけの上、蝙蝠を模した装甲も破壊の跡が見られる。

ツクヨミと戦ったのはティンクルとディアマンテ。

ここまでのダメージを受けるとは正直思っていなかったというのが本音だ。

今まで眠っていたのか、気怠そうに目を開ける。

『ツクヨミさん、大丈夫ですか?』

『フェレスかよ。てえことはここは零研か。ティンクルと相討ちになったところまでは覚えてんだけどな……』

『相討ちい?』

『あんにゃろう、猫被ってやがった。後方メインの遊撃と思ったらがっつり近・中じゃねえかよ……』

『近接でツクヨミさんと互角だったんですかっ?』

と、フェレスのみならず、その場にいた一同が驚いてしまう。

零研にいる使徒の中でも、ツクヨミは接近戦では間違いなく最強クラス。

相性次第ではあるが全使徒の中でも高位に入る。

近接戦闘でツクヨミと互角ということは、かなりの強さを誇るということになる。

『基本は一撃離脱だ。とにかく迅え。時々だがこっちの反応超えやがった。マキシマム・イグニッション・ブーストを上手く利用してやがる』

言うなればスピードスター。

一気に近づいて攻撃し、すぐに離脱する。

だからと言って近接戦闘ができないわけではなく、こちらが距離を詰めて打ち合うとちゃんと応じるという。

『近接だと手刀の二刀流でしのぐんだ。ありゃあファンリンインの動きに似てたな』

『それで、離脱して距離を取ってから突撃って感じい?』

『ああ、少し距離があれば長柄の中国の剣、冷艶鋸を使ってくる。いい距離感持ってやがる』

『何だか楽しそうに話してるような気がするのですが……』

話しながらだんだんと笑みを浮かべてきたツクヨミにフェレスは冷や汗を垂らす。

実際、本当に楽しそうなのだ。

『あいつなかなかおもしれえぞ。今度はあいつがいる戦場に飛び込んでもいいかもな』

「か、身体を壊さない程度にね……」と、スコール。

「修理は任せろ」と、デイライト。

いや、そうじゃないだろうと思わず突っ込みたくなった一同だが、肝心のツクヨミが嬉しそうに笑う。

『上等。次が楽しみだぜ』

『まあ、連中ここを嗅ぎつけようとしてるしい、戦闘は避けられないものねえん♪』

仕方がないとはいえ、毎回ボロボロになるような戦闘はしてほしくないウパラやスコール、そしてフェレスであった。

 

 

一方、何処かのカフェにて。

「うぁー、カッコつけて相討ちとか恥ずい~……」

「もう砲身は見たくないよ~……」

と、ティンクルとまどかが二人してテーブルに突っ伏していた。

それぞれツクヨミ、ウパラと激戦を繰り広げた二人。

何とか撃退したもののこちらのダメージもけっこう大きかったので休んでいるのである。

もっとも、ティンクルは気合いを入れて戦ったにもかかわらず相討ち。

まどかはトラウマになるレベルで砲撃を喰らいまくった。

戦闘内容は決して良かったとはいえないレベルだった。

『先の戦闘はツクヨミの強さを称えるべきでしょう。あの方は恐ろしい進化を遂げました』

『ウパラは趣味に走りすぎだな。正直、二度と相手にはしたくない気分だよ』

と、ディアマンテとヨルムンガンドも感想を述べる。

実際、極東支部側に行ったスマラカタ、ヘル・ハウンドことウパラ、コールド・ブラッドことツクヨミは恐ろしい進化を遂げている。

『天使の卵』に到達するためには、フェレスを加えた四機を退けなければならない。

難敵の登場に頭を悩ませてしまう。

「とりあえず、交戦記録をIS学園に送らないと」

「えっ?」

「この件に関しては向こうと協力するから、こういった敵のデータを渡しておくことは大事なのよ」

今後、極東支部に攻め入ることになった際、前もって知識があるということは非常に大きなアドバンテージとなる。

特にウパラは表に出てきたのが今回が初めてだ。

まどかの交戦記録はIS学園にとって喉から手が出るほど欲しいものだろう。

『私としては情報を簡単に渡したくはないのだがね』

「なら、ウパラはあんた担当ってことで♪」

『好きに使うといい』

あっさり情報を渡すことにするヨルムンガンドである。

さすがに最強の移動砲台を相手にするのは今回限りにしたいらしい。

まどかとしてもまたアレと戦うと思うとげんなりしてくるので反対はしなかった。

「ウパラは相性を考えると、私かセシリアが一番向いてるわ。最低限セシリアには受け取っておいてもらいたいのよ」

『おそらく各砲台を狙って抑えるのが一番隙を作りやすいでしょう。そうなれば近接に強い者が近づいて戦うことができます』

『なるほど、そうなるとIS学園では聖剣の君が妥当だな。あとは君か、ディアマンテ』

『はい、銀の鐘を用いれば各砲台にロックオンできますので』

他にはラウラとオーステルンのAICならウパラの動きを止めることは可能だ。

だが、ビームカノンを乱れ撃ちされると止めるどころの話ではないので、むしろ対ウパラ戦の場合は前衛を務めるほうがいいだろう。

実際、ティンクルとディアマンテ、セシリアとブルー・フェザーがウパラの乱れ撃ちを止められるかどうかが攻略のカギとなる。

「ツクヨミは?」

「あいつめっちゃ戦いづらいのよねえ……、戦えなくはないけどさ。あとは鈴と諒兵かな」

「おにいちゃん?」

「諒兵は戦い方がトリッキーだからツクヨミの動きにもついていけるわ。鈴は基本的には私と同じ。一夏はちょっと厳しいかな。ああ見えてちゃんと剣術を学んでるし」

以前も語ったが、その点で言うとまどかも難しいのだ。

少年兵として訓練を積んできているので、戦い方自体は真っ当なものなのである。

『いずれにしても、今回の交戦記録をIS学園に渡しておけば、向こうでも戦術を考えるでしょう』

『我々だけで対処するべきではないのは確かだ』

そう二機のASも同意したことで、ティンクルはIS学園に通信をつなぎ、交戦記録を渡したのだった。

 

 

ところ変わってIS学園。

ティンクルたちから送られてきた交戦記録をもとに、千冬が生徒たちを集め、戦術構築のための会議が開いていた。

今後の戦闘を考えてのことだ。

「何だよアレ……」

『まさに移動砲台というか……。空中戦艦ですね、あそこまで行くと』

「俺、近付ける気がしないんだけど……」

『というか近づきたくないんだけど……』

ウパラとまどかの交戦記録を見た二人の男性AS操縦者と、そのパートナーたちが冷や汗を垂らしている。

他のメンバーは目が点になっていた。

「あのヨルムンガンドだったか?ヤツが言っているトリガー・ハッピーとは何だ?」

「簡単に言うと、拳銃や機関銃を撃ちまくるのが楽しくてしょうがない人、かな……」

箒の疑問に答えたのはシャルロットだった。

そんなシャルロットもかなり呆れたというか、呆然と映像を見つめている。

『ヨルムンガンドも上手いこと言ったものね……』

『マジで笑ってたな、アイツ……』と、ブリーズ、ヴェノムですら呆れ顔だ。

「いや、まあ、楽しいって気持ちがわからなくはないんだけどさー」と、ティナ。

「全十四門のビームカノンに、ビームカノンを載せた二機のBT兵器。どれだけ乱射好きなの……」

「あれはちょっとない……」

と、刀奈や簪も呆れている。

実は一応同学年の生徒の機体だったヘル・ハウンドが進化したのがウパラだけに、気持ちは複雑だったりする。

「ま、まあ、性格はそこまで非道ではないし、撃退するだけでよかろう。それよりも……」

「ウパラを相手にするときは私たちがキーになるということですわね?」

『私たちの責任は重大です、セシリア様』

わりとマジメに大問題なので、セシリアは真剣に答える。

ブルー・フェザーの言う通り、責任重大なポジションに立ってしまったからだ。

ティンクルの考え通り、セシリアとブルー・フェザーが羽を駆使して砲身を抑えないと、誰もまともに近づくことができない。

まどかが砲身を落とすことができたのは、自身もかなり被弾したうえでの特攻だったのだ。

相討ち覚悟の特攻は戦術とはとても言えない。

「実際、あの砲門の数はそれだけで脅威だ。それぞれに対応していく必要があるが、砲門一つに一人なんて戦術はとてもとれん」

「ビットもあるしな」と、千冬の言葉を補足する諒兵。

「仮にティンクルたちと共闘するのであれば、『銀の鐘』で抑えてくれるだろうが、同じタイミングで戦闘に入れるとは限らん」

「そうなると、セシリアがビットで応戦するしかないわけね」と、鈴音。

『砲門の角度を変えてくれれば、接近できそうニャのニャ』

「それが一番ベターな戦術か」

『ベターというか、ベタだな……』

ラウラとオーステルンも呆れ顔になりながらも、そう納得する。

というか、それしか戦術が立てられないのだと千冬は説明する。

「無理に砲門を落とすべきではないからな。如何せん、あのダインスレイブを受けたのに、一撃では砲身が歪むだけだった。相当硬いぞアレは」

『妾の紅鬼丸でも簡単には斬れん。白虎徹でも難しかろうのう』

飛燕ことシロの言葉通り、剣で切り落とすには相当に硬いのがウパラの砲身だ。

それよりも本体を狙ったほうがいいと全員が納得していた。

続いてはツクヨミ。

「わけがわからん……」

「まあ、あんたはそう思うわよね」

呆れたような顔で呟く箒に対し、鈴音は苦笑いしてしまう。

如何せん、映像を見ても倒すとっかかりが掴みにくいのがツクヨミだった。

戦っているのは間違いないのだが、敵を倒そうとしているのかと思うような動きが多いのだ。

「アイツは巧く近づいて攻撃してるけどな」と、諒兵。

「確かに巧い。一撃離脱が一番効率がいいかもな」

諒兵の言葉に一夏も納得したような声を出す。

「一撃離脱を基本として考えるならば、一番向いているのは鈴音、お前になるな」

「そうですね。今回のあの子の戦い方と同じになります」

千冬の言葉に、そうあっさり納得する鈴音。

実際、一撃離脱を基本として戦っていくなら鈴音が一番向いているのだ。

単純に近づいて斬るということであれは、一夏でも可能だ。

だが。

「あの反応速度は厄介かなあ」

『まるで野生の勘でも持ってるみたいに見えるね』

と、一夏と白虎が少しばかり困ったような顔をする。

実のところ、使徒に野生の勘というものはない。

そもそもが情報の集合体なので、正確に言えばAIと考えるほうが正しいだろう。

そうなると基本的には情報を得て予測しているのである。

ならば、何故ツクヨミは勘で動いているように見えるのだろうか。

『こればかりはツクヨミ自身に確認しないとわからんな』と、オーステルン。

推測を立てたところで意味はなく、また戦闘において厄介であることに変わりはない。

そうなると論じるべきは誰が相対するか、だ。

「以前も考えたが、接近戦だと諒兵になるか」と、千冬。

「何とかなるんじゃねえかな」

『直感で戦うのであればリョウヘイと私でしょうね』

諒兵は直感的な戦闘も得意とするので、ツクヨミの超反応にも対応できるだろう。

ただ、一騎討ちだと決して楽な戦闘にはならない。

そうすると重要なのはサポートになってくる。

「諒兵がメインで戦うとなると、ラウラか鈴音、どちらかがサポートに入るほうが勝率は上がるな」

「「はい」」と、千冬の言葉に素直に答える二人。

ウパラにしても、ツクヨミにしても一騎討ちは決してするべきではない。

まして、殺しにくい相手だ。

撃退することを念頭に置くとなれば、こちらの戦力が確実に上回るようにするしかない。

まして本命が後ろに控えている状況だ。

ゆえに、常にタッグ以上の人数で戦うことが大事だと千冬は語った。

ただ。

(見れば見るほど鈴音みたいな戦い方をするんだな……)

箒はティンクルとツクヨミの戦闘映像を見ながら、そんな印象を抱いていた。

 

 

 

 

 

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