ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第217話「フェレス」

会議は続いていた。

次の議題として挙げられたのは、IS学園にはまだ名前しか情報が来てないAS。

「フェレスの?」と、鈴音が疑問の声を上げる。

「今回、極東支部のASであるフェレスとの交戦記録も譲ってもらったのでな」

戦いが避けられない以上、こちらでも対策を立てることが重要だと言って千冬は映像を出してくる。

その姿を見た一同から疑問の声が上がる。

「使徒じゃないんですか?」とシャルロット。

実際、ヤギを模した鎧を纏った薄紫色の人形は、これまで見てきた使徒とほぼ同じ姿だ。

頭上に天使の輪がない以外は使徒そのままと言っていい。

「驚くことにフェレスはASだそうだ。そうだな天狼」

『私そんなに暇でもないんですけどねー』

そういうわりには千冬の声にあっさり姿を現す天狼である。

『これはおそらくアバターですねー』

「「あばたー?」」と、イマイチ残念な頭を持つ一夏と諒兵が首を傾げる。

『そういうことなのね。ずいぶん変わったことをするけれど』

と、どうやらブリーズを始めとして、ASたちは理解できているらしい。

『本体は極東支部の誰かと共にあります。ただ、戦闘するための身体をレッすん自身が別に作ったんでしょうねー』

そもそも戦闘というより、研究や生活のサポートのために作られたものかもしれないと天狼は続ける。

共生進化当初は戦闘など考えていなかったのだろう、と。

「ある意味、理想的な関係かも」と、簪が呟く。

彼女の言う通り、戦闘するために共生進化するよりも、仕事や生活のサポートのために進化するほうが今後の関係性を考える上では理想的だ。

空を飛んでみたいが理由であった一夏と白虎、諒兵とレオはともかくとして、他のAS操縦者たちはISとの戦争のために進化したと言えないこともない。

それは決していい関係性とは言えないだろう。

「それは確かに今後重要だが、このフェレスは極東支部を守るためなら戦ってくる。まあ、できれば倒したくない相手ではあるがな」

本音を漏らしつつも、千冬はそう言って主題を戻す。

敵として出てくる以上は、対策を考えることがまず重要だからだ。

改めて一同が映像に集中すると、今度は別の意味で驚かされてしまう。

「い、いったいいくつ第3世代の武装があるんだっ?」と、ラウラ。

「十個近く出してきたわよっ?」と、刀奈も驚く。

一度に、ではないがティンクルとディアマンテの交戦記録を見る限り、確実に二桁近くの第3世代武装を持っている。

「それに持ってる武装に合わせて戦い方を変えてるな」

「ずいぶん器用だな」

一夏と諒兵は冷静にフェレスの戦闘を分析する。

戦う相手としても面白いと感じているのだろう。

『レッすん自身は戦いを忌避するタイプなんでしょうけどねー』

「天狼?」と一夏が先を促す。

『あの子はあくまで極東支部を守るために戦っているだけです。本人は戦いが好きではないはずですねー』

「人間のためってことか?」と諒兵が問いかける。

『調べてみたんですが、あの子の個性基盤は『恭倹』でした。パートナーに対して常に一歩引いて付き従う性格をしてるんです』

おそらくは自分の意志で大事な居場所である極東支部を守っているのだと説明してくる。

それを聞くと特に一夏と諒兵は微妙な表情になってしまう。

ディアマンテ並みに戦いづらい相手だということだからだ。

『そこから考えるとー』

「とー?」と、鈴音が先を促すと、意外な答えが返ってきた。

『おそらく武装の積み替えができるんではないかとー』

「ええっ?」と驚く一同に天狼は推測を述べてくる。

『レッすんは最初は武装がなかったと思いますよ』

方法は不明だが、いくつもの武装を積み替えて戦っているというほうが、フェレスの性格には合っているという。

つまり、慣れない戦闘に対して、間に合わせの武装を積んで頑張ってるのがフェレスなのだ、と。

「めっちゃいい子じゃない」と鈴音が呆れてしまう。

『マジメに戦いにくい相手ニャのニャ……』

「でも、能力としてはかなり珍しいね」と、技術方面で感心してしまうシャルロット。

『はい、珍しい能力です。そしてあの子のバックにいるのは極東支部。武装はいくらでも作れますねー』

極東支部の人間たちの協力によって、ある意味では無限の武装を持つASということができると天狼は説明する。

そして、だからこそフェレスの性格まで説明したのだ、と。

「それっておかしいよね、一夏や諒兵の性格を考えたらフェレスとはまともに戦えなくなるよ?」

そうシャルロットが見抜いた通り、既に一夏や諒兵の精神状態ではフェレスとはまともに戦えない。

それでは大きな戦力ダウンになる。

知らないほうがよかったのではないかと普通は考える。

『できれば倒してほしくないんですよ』

「えっ?」

「どういうことだ天狼?」

『レッすんとそのパートナーの関係はカンカンが言った通り理想的な関係です』

「もうちょっとまともなあだ名にしてお願いだから」

と、刀奈が簪のあまりのあだ名を修正してほしいと懇願するが天狼は華麗にスルー。

『ですから、その関係は今後の私たちとあなた方の共存社会を築くうえで必要になってくるはずです』

「確かにな」と千冬が肯いた。

『他は倒していいとは言いませんが、レッすんの場合、撃退するにしてもある程度の加減と説得をしていただきたいんです』

「そうか、説得するなら一夏と諒兵が一番かもしれない」

と、シャルロットは納得がいったような表情を見せた。

共に生きるという関係を築いていくなら、白虎、そしてレオと共生進化した一夏と諒兵が一番理想的なのだ。

その上で、フェレスとそのパートナーのように日常で協力し合える関係を築いた者たちは、今後の社会構築の上で重要となる。

『私たちをただの力と思わない関係性、それがレッすんとそのパートナーにはあるんです。ですから説得していただきたいんですよー』

「わかった。まずは話し合ってみよう」

「いいぜ。何だか萎えちまってたし」

戦うのであれば相手も戦意の高い者がいい。

そうでないのならば話し合いで終わらせるほうが気分がいいと、一夏と諒兵も納得するのだった。

 

 

スマラカタに関しては、現状でIS学園での戦闘しか資料がないため、改めての確認という形になった。

極東支部を探し出すことは、今では急務となっている。

『天使の卵』の中身と思しきノワールが女性権利団体のASを生み出すことに関与していることが明らかだからだ。

何としても止めなければならないということで会議は終了した。

 

がらんとした会議室で千冬は資料をまとめ直す。

形はどうあれ、会議で多少生徒たちを前向きにできたことはよかったと安堵する。

「すまんな、天狼」

『いえいえ、私としてもレッすんの件は言っておきたかったので』

会議の前に千冬は交戦記録を全て確認した。

さらにフェレスに関しての情報も天狼から受け取って吟味した。

性格等を考えてもフェレスとそのパートナーに対しては、共闘は無理でも敵対はやめておきたい。

『天使の卵』があるため、そう簡単にいかないことは理解しているが。

それでも今後のためにもできれば共存していきたいのだ。

『今後、ですか……』

「私が考えるようなことではないかもしれんがな。それでも私の生徒たちのためになる以上、考えないわけにはいかない」

今後とはこれからのISとの戦争や極東支部との戦いではない。

『戦後』だ。

「人とISが共存できる世界にならなければ、一夏たちがどうなるかわからん。教師としても、姉としても、一夏だけではなく生徒全員を守らなければならんからな」

『だから、あなたは共生進化しないんですか?』

無言で肯く千冬。

千冬は才能を考えても、経験を考えても、新しいISとの共生進化が可能だ。

しかし、当初はともかく、千冬は今はそうすべきではないと考えていた。

千冬が一夏や諒兵たちと同じ立場に立ってしまうと、後々の世界で本当の意味での味方になれないからだ。

同類を守っているにすぎないと揶揄される可能性のほうが高い。

だから、千冬はあくまで人間として生徒たちを守ると誓っているのだ。

同じ人間が進化した者たちを守る。

それが少しでも普通の人間たちの心を変えていくと信じて。

「暮桜のことを考えていないと言うと嘘になってしまうが」

『それだけ想われているならクレザクラも嬉しいでしょうね』

「今も昔も私がパートナーに選ぶなら、やはり暮桜になるからな」

そう言って千冬は寂しそうに笑う。

ザクロこと暮桜とヘリオドールことファング・クエイクは、単一仕様能力のぶつかり合いによって『死』んだ。

実はすぐにはISコアに憑依することはできないと天狼は語る。

今はエンジェル・ハイロゥで永い眠りについているだろう、と。

「弔いなどというつもりはないが、道を違えた以上、私はこの道でよい未来を創っていくしかない。そのためには今後を考えて戦っていかなければ」

『そうですねー、そうしますと?』

「権利団体の暴走を止めなくてはならん。アレは私たちが望む未来とは真逆を行っている」

『私もあのような進化を認めることはできません。あれではISを隷属させているようなものですし』

「それだけではない。連中の動きは速いからな」

『速い、とは?』

「一夏と諒兵の活動制限の件だ。当初は危険人物として抑えようとしていたが、各国の反対多数で否決された」

『あの子たちが戦ってきた結果ですねー♪』

「だが、今度はIS学園で保護すべきと言ってきた。戦場に出すべきではない、とな」

『いろいろ考えますねー』と天狼は呆れ顔になる。

要は危険人物として抑えられないなら、保護対象として活動を制限させようということである。

実はけっこう賛同があるらしいと千冬は説明する。

「正確には反対しにくいらしい。男だから前線に出すということで一種の差別だという者までいるんだ」

『どれだけイチカとリョウヘイが邪魔なんでしょうねー』

「力を何とかして自分たちだけのものにしたいのだろうな。似た理由で、生徒たちを前線に出すべきではないという者も出てきた」

そうなるとIS学園で戦える者がいなくなってしまう。

そうすることでIS学園自体を潰すか乗っ取る算段なのだろうと千冬はため息を吐く。

「クラリッサやファイルス、コーリングたち大人のAS操縦者が反対してくれているから、可決まではいっていないのが今のところ唯一の救いだな」

『あの子たちから学ぼうという意志はないんですかねー?』

「そのためには一度、権利団体のASを解放しなければならんだろうな。これに関しては束が頑張ってくれてるが、如何せん権利団体のASのデータがない」

『データ、ですか』

「ああ。権利団体は間違いなく極東支部で整備を行っている。彼らを抱き込むことができればと思うんだが……」

実はそのためにもフェレスとそのパートナーを倒したくないのだ。

さすがにそんな理由を生徒たちには明かせないので、天狼にひと芝居打ってもらったのだが。

「極東支部、零研とやらがIS学園をどう思っているか、せめてそれだけでもわかればな……」

『ふむ。コア・ネットワークからカーたんたちに接触してみましょうか?無理はしませんが、極東支部の人間にも接触を試みますけど』

「頼めるか?」

『私としても彼らの考えを知っておきたいんですよー、特にカーたんとつっきーは』

「何故その二機なんだ?」

『ティンクル以外で外見が人間に近くなってますからねー、今後の社会で最も問題視される可能性が高いんです』

ISが進化したら人間、それも実在の人物に化けたということは実はかなり大きな問題だ。

鈴音はともかく真耶は引き籠ってしまっている。

自分の姿を奪われるなどという事態は普通に考えても悪夢だろう。

今までとは別の意味で戦争が起きかねないのだ。

「なるほど。ならば頼みたい」

『はいはいー♪』

そう言ってネットワークにダイブする天狼を千冬は見送る。

考えることは山ほどある。

今はまず、生徒たちが自由に空を飛び続けられるように、そう願いながら千冬は作業を続けるのだった。

 

 

数日後。

鈴音とラウラは共に千冬に呼び出された。

先日の会議の続きかと思っていた二人だが、その内容は予想とまったく違っていた。

「なるほど、ただの妄言かと思っていましたが……」

「実際、ドイツの権利団体から息のかかった女性議員を通じて提出されていたんだ」

「マジで拘束する気だったんだ……」と呆れ顔の鈴音。

ラウラの問題とは、先日のボルドー迎撃戦のときに権利団体の人間が言っていたVTシステム事件のことだ。

IS学園外での行動を禁止するというもので、要はラウラの活動制限である。

ラウラの故郷であるドイツが通れば、諸外国は素通りすると言っても過言ではないので、本気で提出していたらしい。

「これに関しては連邦大統領まで動いたそうだ。結果として退けられている」

「特に気にはしていませんでしたが、私のために骨を折っていただいたことには感謝します」

「私からも謝辞を伝えたが、あとでクラリッサを通じて礼を言っておくといい」

「はい」

『私としても助かるな。ワルキューレに礼を言っておくか』と、オーステルンも同意した。

ただし、如何せんVTシステムの使用禁止は現在でもアラスカ条約で定められている。

活動制限とまではいかないが、諸外国での活動には注意が必要になるという。

「どういうことでしょうか?」

「流れ弾が当たっても連中は騒ぎだす可能性が高い。戦闘行動においては周囲の被害を最優先に考える必要があるということだ」

「了解いたしました。今後より一層注意いたします」

ピッと敬礼するラウラに千冬は肯く。

相手に着け入れられる隙を作らないようにしなくてはならないということは、思わぬ縛りを自身に与えることになる。

それで墜とされる様なラウラではないが、それでも注意するに越したことはないと千冬は締め括った。

「そうなると問題は私?」

と、鈴音が問いかけると千冬は一つため息を吐いた。

「今の行動はIS学園としても助かっているのだが、如何せん、外見の問題がな……」

「あーそういうことね。あの子を何とかしたいんだ」

こないだ恨み買ってたし、と鈴音もため息を吐く。

千冬の説明によると、ティンクルは凰鈴音と同一人物であるという噂が広まっているという。

使徒と茶番を演じるために、猫鈴とディアマンテをかわるがわる装備して動き回っているのだ、と。

「共生進化は一人につき一体、そう考えれば有り得んことだとわかるはずなんだが……」

「クローンでも作ったとか言ってたりして」

と、苦笑する鈴音に千冬は困ったような顔を見せる。

「マジですか?」

「マジだ。何とかしてティンクルを抑え込みたいらしい。とにかく流言飛語が凄まじい状況だ。意図的に流布しているのだろう。」

そのため、鈴音そっくりの外見を利用してティンクルもIS学園の関係者だということにしたいらしい。

これまでの戦闘のみならず、ディアマンテはISとの戦争の火付け役であることも大きな問題なのである。

「お前が戦争の原因だという意見も出ているんだ。ティンクルを抑え込みつつIS学園も抑えられるから、こちらは相当に力を入れているぞ」

「めーわくー」と、鈴音は机に突っ伏した。

「そこまでして鈴音とティンクルを抑える理由は何ですか?」

と、ラウラが疑問の声を上げると、鈴音が推測を述べてきた。

「ていうか、あの子も極東支部探してるから、うっとうしいんですかね?」

「それもあるだろうな。女性権利団体にとって極東支部は宝の山だ。見つけられたくないんだろう」

既に兵器の購入で頼っているため、公にはしていないものの女性権利団体が極東支部とつながっていることは周知されている。

そこをIS学園に抑えられてしまうと、女性権利団体は一気に力を失ってしまう。

せっかく手に入れた力を失うなど、彼の女性たちには耐えられないだろう。

『とはいっても、向こうの動きを止められるとこちらが厄介にニャるのニャ』

「ああ、極東支部の捜索では連携してくれているから、ティンクルを止められるとこちらが困る」

そして鈴音はようやく前線に復帰できたにもかかわらず、最悪隔離される可能性まで生まれているのだという。

「あの子に会いに行ってくるかー」

「本気か?」とラウラ。

「個人的にも連携するつもりだったし、全然かまわないわよ」

「そうしてくれると助かる。現状について調べた資料を渡しておくから、一度ティンクルと話し合ってきてくれ」

千冬に手渡されたぶ厚い資料を見て鈴音は顔を引きつらせる。

さすがに持ち歩きたくないので、猫鈴がスキャンしてくれたのだが。

それはともかく、そんな理由から鈴音はティンクルに会いに行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

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