ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第218話「対抗策」

都市部の繁華街の広場にある街路樹。

そこにもたれかかりながら、ライトブラウンのツインテールをシニョンにまとめている少女がアイスティーを飲みながらのんびりしていた。

平日で人影もまばらな時間帯なので、けっこう目立っている。

誰かを待っている様子で、時々腕時計を見ていた。

すると。

「そりゃあっ!」

「あのねえっ!」

ライトブラウンの長い髪を後ろで三つ編みにした少女が、いきなり蹴りかかってきた。

シニョンの少女が自らも蹴りで受け止める。

だが、三つ編みの少女はすぐに足を退くと、下段を狙って足払いを繰り出してきた。

シニョンの少女はジャンプしてかわすが、そこを狙って三つ編みの少女が中国拳法のような突きを繰り出す。

しかし、シニョンの少女は思い切り腕を振ると、宙返りからの踵落としを喰らわせようとするが、三つ編みの少女は見事にかわして見せた。

そして互いに距離を取り……。

「ちゃんと回復したみたいね、鈴。あれくらいは対処してくれないとね♪」

「確認したいからって不意打ちしてくるんじゃないわよ。ディア、ティンクルの教育がなってないわよ」

『ではマオリンのように』

「「それはやめて」」

『効きすぎたかニャ?』

と、珍しく髪型をシニョンにまとめた鈴音と三つ編みにしたティンクルは、お互いのパートナーに必死に頭を下げていた。

 

場所をカフェに変えて、飲み物とケーキを頼む二人。

というか、わりと見物人を集めてしまったので逃げてきたというのが正解である。

「まあ、だいたいの情報は確認したけど、ホント手を変え品を変えやってくるもんよね」

「何がなんでもIS学園を止めようとして来てるのよね。あんたの外見を今更どうこうは言わないけど、そこをうまく利用してるって言えるかも」

実際、ティンクルの外見が鈴音そっくりであることは、別に権利団体にって大した問題ではなかったはずだ。

一番の被害者は鈴音だと言えるからだ。

自分のクローンが勝手に生まれたようなものなのだから。

この点、一番理解できるのは真耶だろう。

ほぼ正反対と言える性格のスマラカタが、自分そっくりになってしまったのだから。

だが。

「IS学園は目障りだから潰したい。自分たちの利益になる極東支部は何としても守りたい。その気持ちに合致した標的が私たちなのよね」

「とは言っても、もう外見をいじるのは難しいのよ」

厳密に言えば外見を変更できないわけではないという。

だが、ティンクルは鈴音の外見でいた時間が長すぎて、固定されてしまっているのだと説明してくる。

そのため、今から変えるのは難しいと言う。

「駄肉はまだ変えられると思うんだけどね」

「ああ、駄肉ね」

『わかってるのニャ、リン?』

『むしろわからないはずがないと思います、マオリン』

スマラカタのことである。

どうやらティンクルは根に持っているらしく名前で呼ぼうとしない。

そんなティンクルの気持ちが理解できるのか、すぐに誰のことだか理解した鈴音である。

「変えられるんなら変えてほしいかな。山田先生、引き籠っちゃってるし」

「まあ、顔くらいは何とか変えられるんじゃないかな」

そうすれば少なくとも真耶本人だと思われることはないだろう。

別の美人を参考にしてくれと頼むのもいいかもしれないと思う。

もっとも、進化したときのようにまだ真耶の命を狙うなら鈴音としては容赦できないが。

「そう考えるとツクヨミはうまく外見作ったわよねえ」

「どっかの美人がモデルらしいけど、特定の人間じゃないからね」

まどかが以前、知り合いに似てると言っていたが、そっくりというほどではないらしい。

進化の過程で自分を壊して無数の心とつなげたため、その影響が少しずつ表れているらしく、特定の誰かではなくツクヨミ自身の外見なのだとティンクルは説明する。

「ま、いずれにしても外見を変えるってアイデアはダメね」と鈴音。

「ていうか、何をどう説明したところで、あのバカ女どもが聞くと思う?」

「ぜんぜん?」と、ティンクルの言葉をあっさり否定する鈴音。

実際、わかっているのだ。

如何に自分たちが別人であることを説明したところで、噂という形で広めている権利団体が聞くはずがないと。

自分たちの関係を説明するのではなく、噂に対してどう対処するかが重要なのである。

「私自身、恨まれてるだろうし」

「あそこにいたのが私でも同じことしたわよ?」

『私は止めませんでしたから、何を言うこともできません』

『あちしもあの行動は止められニャいニャ』

ティンクルはボルドー迎撃戦時、銀の鐘で大半を叩き落しただけではなく反論しようとした権利団体のAS操縦者を威嚇した。

自身が十分に恨まれていることなど理解できる。

もっとも、ティンクルは立場的にはどんとこいなのだ。

「私は一応使徒側だし」

「楽しそうに言うんじゃないわよ」

要するに思いっきり叩き落すということである。

本当に戦闘になったら、ティンクルの性格から考えても容赦などするはずがない。

ただ、そうされると困るのが鈴音なのだ。

「というか、IS学園、ううん、千冬さんが困っちゃうのよね」

「それよねー……」

ISとの戦争で最前線の司令官を務めている千冬。

その彼女が、ティンクルの暴れ方によっては余計な苦労を背負ってしまうことになる。

それはティンクルとしても避けたい事態らしい。

「別に千冬さんに嫌われたいわけじゃないしさあ」

『仲間にはなれませんが、オリムラチフユにこの問題で苦労をかけたいとは思いません』

「だから、ちょっとマジメに考えよ?」

『いったん一息つくのニャ。気持ちを切り替えるニャ』

と、猫鈴が言ってくれたことで、二人はとりあえず運ばれてきたケーキを食べ始めるのだった。

 

 

一方、コア・ネットワークにて。

何故か日本の茶室のような場所が設えられている。

そこを訪れたのは。

『お前さ、もう少し砕けた感じにする気はなかったのかよ?』

『おかげで衣装まで変えることになったわよお?』

少しパンク系が入った洋装のツクヨミと、意外なほど淑やかな印象を与えてくる和装に身を包んだスマラカタ。

ウパラは一応敵対しているので、こういう席には来ないことにしているとスマラカタが説明してきた。

とりあえずは訪れた客をもてなすように茶室の主である天狼が返事をする。

『戦意がないということ強調するためですよー』

『あー、確か茶の席で仕事の話するのは野暮なんだっけか』

『思いっきり仕事の話になると思うけどねえん♪』

実際、仕事の話にしかならないので、天狼は茶を点てて二人に振舞うとあっさり切り出してきた。

『あいつらがIS学園をどう思ってるか?』

『もしくはあなた方が権利団体をどう思っているか、ですかねー』

まず知りたいのはそこだと打ち明ける。

千冬というかIS学園としては極東支部は抱き込みたい存在だ。

ゆえに極東支部、つまり零研がIS学園をどう思っているかということは重要になる。

疎んじているのなら、とてもそんなことは提案できないからだ。

そして、極東支部はともかく、そこに身を寄せている使徒であるスマラカタやツクヨミ、ウパラ。

彼女たちが女性権利団体をどう思っているかという点は、説得の材料になる可能性はある。

そんな気持ち程度で動くような性格ではないことはわかっているが、できればこの点では共闘したい面もあるのだ。

なので、まずこの二点について天狼は尋ねたのである。

『どうでもいいみたいよお?』

『おや、やはり興味はありませんか』

『気づいてたか?』

『生粋の研究者でしょうから、うちの子たちのほうには興味を持っているのではないかと期待してたんですけどねー』

『それはあるみたいだけどお』

単純に、組織に対する興味がないのだとツクヨミが説明する。

研究対象はあくまでISでありAS。

そうなるとIS学園の遊撃部隊のほうが興味の対象になる。

『できれば調べさせてほしいって言ってたわねえん』

『それはなかなか難しいですねー』

『別にいいけどな。あいつらはIS学園はあくまで別の研究所としてみてる感じだ』

『まあ、間違いではありませんねー』

実際、IS学園の遊撃部隊、つまり一夏や諒兵たちの身体も調べているので、研究所というのも間違いではない。

何より天災と博士の二人が常駐してるのだから、優秀な研究所と言っても過言ではないのだ。

『だから敵対する気はないけどお、『卵』は孵化するまで守る気みたいねえん』

『まあ、研究者として興味の対象になるのはわかる気がしますけどねー』

『でも、そっちは破壊したいんだろ?』

ツクヨミの問いかけに対し、天狼はこくりと肯いた。

先日のボルドー迎撃戦を鑑みても『天使の卵』は危険な存在だと天狼ですら考える。

そうなると孵化する前に破壊したい。

『でもお、あっちは孵化だけはさせたい感じねえ』

『まあ、調べられるなら孵化したもんも調べたいみたいだな』

研究対象としては垂涎の存在となるのは間違いないので、『天使の卵』の中身の許可が出れば調べてみたいらしい。

もっとも素直に言うことを聞いてくれるような中身ではないことは間違いないだろうが。

『まあ、『天使の卵』が絡まなければ敵対する意思がないことがわかっただけでもよしとしましょう』

ならば、もう一つ、すなわち極東支部に身を寄せる使徒が女性権利団体をどう思っているか。

その点を天狼は改めて尋ねる。

『『気に入る理由がない』』

即答である。

考えている素振りすら見せないのである。

つまり、まごうことなき本心なのである。

『そもそも、あいつらアタシらのことも何とかして『ちから』ってのに変えられないかと思ってるぞ』

『向こうが私たちをまともに見てないのにい、私たちがまともに見るわけないでしょお?』

『せめて本心を隠そうという努力はしてないんですかねー?』

と、天狼がため息を吐くが、実際ぜんぜん隠す気がないらしい。

なので、戦場以外では温和なウパラや、かなり温和なフェレスですら同意見だという。

『あれだけ拗らせてると直んねえんじゃないか?』

『煮詰まったと表した方もいますがねー』

『煮詰まったというかあ、焦げ付いちゃった感じい?』

ストップ安もここまで繰れば清々しいとすら言えるだろう。

使徒やASからは完全に嫌われている様子である。

『マッでんですら、ノーサンキューと言ってましたからねえ』

『ああ、マッドマックスか。まさか、好みの女を狙ってピンポイントで降りてくるとは思わなかったな』

『わりといい手じゃないかしらん?』

実践はしてほしくない天狼だったりする。

イーリスと共生進化を遂げたマッドマックスは非常に巧い手で進化に至れたと言えるだろう。

権利団体のASの進化には男性格も女性格もないからだ。

捕まれば、彼の女性たちが言う『ちから』にされてしまう。

なので、ピンポイントでイーリスを狙ったのは、ある意味では正しい方法だったのだ。

『話を戻しますが、まあ、毛嫌いしてるとみていいんですかねー?』

『マジで好きになる理由がないぞ』

『どんな形であれ、私たちも意思表示ができるようになったのはありがたいしねえ♪』

それが元通り以下の状態になってしまうような進化など受け入れられないし、そうしてくる相手を受け入れる理由がない。

極東支部が協力しているとはいえ、自分たちに絡んできたらぶちのめすとまでいう二機である。

ただ、そう考えると不思議なことが一つある。

『あの『卵』は何故あの方々に協力してるのでしょうかねー』

『こないだティンクルが話してたログがあるんだろ?』

『確かに納得いくんですが、でも不思議なんですよ』

『もしかしてえ、元はISでもあるってところかしらん?』

『はい。『卵』は人間とISが融合した存在。ならばISの思考形態も持っているはずです。他のISに対する仲間意識はないとしても、自身もそうなるという不安はあるはずなんですよー』

人間とIS、両方の考え方ができるというのであれば、共感はできなくともISの気持ちも理解できるはずだ。

あのような進化を受け入れられるはずがない。

無論、自分はそうならないという根拠があるのかもしれないが、それでも何故わざわざ外から来た権利団体の人間にコンタクトを取ったのだろう。

『人間は身近にもいるんですよ?』

『そういやそうか。まして零研の連中は『卵』を孵化させようとしてるんだし』

『そっちに興味を持つほうが自然だわねえ……、もしかして』

『もしかして?』と天狼がスマラカタの言葉を促すと意外な答えが返ってきた。

『あの『卵』自身は零研を嫌ってるのかもねえん』

『ほほー?』

『零研の連中より、団体の連中のほうが面白いってか?』

『有り得ますね。私は直接は知りませんが、極東支部の方々は『卵』にとって扱いにくい部類の人種なのかもしれません』

だからこそ、わざわざ外から来た人間にコンタクトを取ったというのであれば、『天使の卵』の今後の行動も読めてくる。

そう考えた天狼だが、まずは二機から聞ける話はすべて聞いておこうと話を続けるのだった。

 

 

気持ちを切り替えて、対策を考えている鈴音とティンクルだったが、一向にいいアイデアは出ない。

相手が叩き潰して終わりという存在ではないことが、こんなに大変だとは思わなかったのが本音である。

「考えても考えても問題点が出てくるー」

「対処が山積みになるよー」

と、カフェのテーブルに仲良く突っ伏している鈴音とティンクルである。

最大の問題点は相手がこちらの話を聞かない人間であるという点だ。

理解できないのではなく理解する気がない人間を説得するなどどんな拷問だというのか。

マジメな話、面倒なことこの上ない。

『重箱の隅を突いて自分に有利な話題を探し出してくるような方々ですし、難しい問題なのは仕方ないのではありませんか?』

『説得して終わりってわけにはいかニャいのニャ』

二人が出したアイデアに対し、実践した場合の問題点を指摘していた二機もわりと疲れた様子である。

「いっそのこと、アイツら頭おかしいって言いふらしたい……」と、ティンクルがぼやく。

だが、それが思わぬ発想のきっかけになった。

「それよっ!」

「へっ?」

「目には目をってヤツあるじゃないっ、噂には噂で対抗すんのよっ!」

そう、ドヤ顔を決める鈴音にディアマンテが冷静に突っ込んできた。

『仮にそのような噂を流布したとして、彼の方々から名誉棄損で訴えられることになります。悪手ですよ、リン』

当たり前の話である。

不名誉な噂がIS学園の生徒から出たというのであれば、逆にIS学園の印象を悪くしかねない。

今でも軍事要塞だと揶揄されているのに、それ以上の悪評で上塗りすることがいい手であるはずがない。

「そうじゃないわディア。私たちは噂を作り出すだけよ。広めるのは他の人たちが勝手にやってくれるわ。あの子たちは今は話すことができないんだから」

あの子、とは権利団体のASのことである。

囚われているISコアたちは今はデータの墓場で何もできずに檻に閉じ込められている。

当然、話すことなどできはしない。

そこまで考えて、ティンクルにもピンときた。

「なーるほど、なら舞台を整えないといけないわね♪」

「うん、まずそっち側から誰かの力を借りる必要があるわ」

『誰かって誰ニャ?』

「候補は何人かいるけど、やっぱりあいつかな」

と、肯くティンクルはさらに続ける。

「広報関係はどうする?」

「千冬さんに相談するのがいいと思ってる。あの人メディアの露出も大きいから」

と、互いのパートナーがどんどんアイデアを固めていくのを見て、猫鈴とディアマンテが詳細を尋ねると、面白い答えが返ってきた。

『上手くいくかどうかはともかく、実行する価値はあると思えます』

『派手に行くほうがいいかもしれニャいニャ♪』

と、二機も賛成してくれたことで、鈴音とティンクルは景気づけともう一個ずつケーキを頼むのだった。

 

 

 

 

 

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