ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第221話「インタビュー・ウィズ・インフィニット・ストラトス(1)」

何処かの繁華街にて。

まどかはぽへーっと街行く人々を眺めていた。

なお、まどかは外見も整っているのでわりとじろじろ見られる。

なので時々睨みつけてしまうのだが、やはりぽへーっと眺めてしまう。

「何してんの?」と、待ち合わせていたのか、現れたティンクルが話しかけてくる。

「ん~、ん~っと……」

と、まどかは悩んでしまい、すぐに答えを出すことができない。

見かねたティンクルが近くのカフェに行きましょと誘うと、まどかは素直についてきた。

 

カフェでオレンジジュースを二つ頼んだ二人。

後でケーキも頼むからと店員に告げたティンクルは、改めてまどかに話しかける。

「ぽけっとしてどうしてたのよ?」

「なんか、変だ」

「変?」

「なんか、街の空気が変な気がする」

『私にはまどかのほうが変になった気がするのだがね』

「黙れポンコツ」と、ツッコミは忘れないまどかである。

『どう感じるのでしょう?』

と、ディアマンテがまどかに尋ねかけると、素直に答えてきた。

「なんか、気持ち悪くない。私たちがここにいてもなんかあったかい。おにいちゃんと一緒にいるときみたい」

「ずいぶん難しい比喩表現ね」と、ティンクルは苦笑いしてしまう。

確かに何を言っているのかわかりにくいので、難しいというティンクルの評価は間違いではないだろう。

変になったというヨルムンガンドの言葉も正しいと思える。

「なんか、私っていうより、ヨルムのほうだと思う」

『私かね?』

「ディアマンテも」

『どういうことでしょう?』

「なんていうか、周りの空気が少し柔らかい気がする」

相変わらず難解な表現を使ってくるまどかに対し、ティンクルは困ったように笑う。

だが、言いたいことは何となく察することができた。

「この間、ティンクルが忙しくしてたときの、その後からだ」

「まあ、多少は変化が生まれたみたいね」と、ティンクルはにこっと微笑んだ。

『この間というと、盾の君がザールブリュッケンに降りたときか』

「うん」

『先の対話ですね。グラジオラスの進化は予想外でしたが』

『アレと敵対するのは自身の敗北を意味してしまうからな。敵には回っていただきたくないものだよ』

そう語るディアマンテやヨルムンガンドにも、どうやらまどかの言いたいことが理解できてきたようだ。

『ふむ。人々の我々に対する意識が変わりつつあるということか』

ヨルムンガンドの言葉通りだった。

何となくそう思う、程度の意識の変化でしかないのだが、世界の人々のISに対する意識は変わり始めていた。

 

俺も空飛んでみたいなあ、男も乗れるんだろ?

ISコアって兵器よりもっとすごいことできるんじゃないか?

無理に兵器で使うことないんじゃないかな?

イヴとか可愛いよね、マスコットっぽいし♪

 

そんな声が耳に入ってくると、まどかは何だか温かい気持ちになる。

自分がヨルムンガンドを選んだのは一夏に対する対抗心であり、戦う力として彼と共に生きることを選んだ。

でも、今日まで彼と共にいて、それだけではない関係ができつつある。

「なんか、私たちが特別じゃないことが嬉しい気がする」

「……そうね。特別じゃないことは決して悪いことじゃないはずよね」

まどかの言葉にそう答えたティンクルは何故か複雑そうな表情を見せる。

もっとも、すぐにいつもの表情に戻ったが。

するとディアマンテがまどかの気持ちについて推測を述べてきた。

『特別な力として私たちは見られていましたが、先のザールブリュッケンの一件でそうではないのかもしれないという意識が人々の心に芽生えました。それが、マドカには温かいと感じられるのでしょう』

「どういう意味?」

『グラジオラスの言葉を借りるなら、人々がISたちの言葉を聴こうとし始めているのかもしれません』

さすがにそこまで変化しているとディアマンテもヨルムンガンドも考えてはいない。

そもそもISは白騎士の段階で既存の兵器をはるかに凌駕する兵器だったのだ。

まして進化という新たな力まで発現したために、多くの人々はISは特別どころか、それ以上のものではないかという考えすら出ていた。

そのため、ISを特別強力な兵器だと見ていた風潮に小さなひびが入ったくらいでしかないだろう。

『少しだけでも私たちの言葉に耳を傾けていただけるのであれば、それは幸福なことなのですが』

「そうね、ディア。あんたたちもこの世界に生きてるんだし」

そう思ってくれる人が少しでも増えてくれればいいというのは、実はすべてのISの意識でもあると言える。

悪性の者ですら、だ。

ずっと傍らにいるにもかかわらず無視され続けてきた隣人。

その願いは人に耳を傾けてほしいという小さなものだった。

「と、そろそろ時間ね」

「何か用事があるのか?」

「ん、用事と言えば用事だけど、ここで済ますこともできるわ」

「何を?」

「テレビ見るだけだし。まどかも一緒に見ましょ?」

ティンクルがそう言って視線を向けた先に、まどかも顔を向けると、カフェに備え付けられていたテレビに一人の女性が映し出されていた。

 

 

IS学園にて。

珍しく応接室が少し騒がしかった。

ISとの戦争が始まってからは、ほとんど使われることの無かった部屋である。

今日は非常に珍しい来客があった。

「さすがに落ち着いてましたね」

「まあ、先輩はこういうことには慣れてますから」

と、真耶が鈴音の言葉を受けて少しばかりにっこりと笑う。

「わりと乗り気だったんで助かりました。説得に苦労するかなあって思ってたんで」

「なんか、先輩が考えてることに合ってたみたいですね。今回の話」

「みたいですね。まあ、無理なら刀奈さんにお願いするつもりだったんだけど、詳細を話したら二つ返事で引き受けてくれました」

鈴音が考える候補としてはもう一人、刀奈がいたのだが、インパクトを考えるとやはり彼女が適任だろうと思う。

「進化してないってのは、けっこう重要なポイントなんで」

「確かに。私だとオプションとはいえASに乗っちゃってるしね」

と、刀奈も納得した顔を見せる。

AS操縦者じゃないこと。

かつ、進化を間近で見てきたこと。

その二つをクリアしていることが条件だったのだが、真耶は論外。

如何せん、こういう場では赤面症が出てしまう。

刀奈は直接ではないが、大和撫子の進化にかかわっているため一応は当事者となってしまう。

そうなると千冬がベストだったのだ。

「でも、良く思いつきましたね、凰さん」

「んー、今だと私自身が噂の当事者なんで、何とかしたかったんですよ」

「それで、噂には噂ってわけね」

「ぶっちゃけ話を逸らしてるだけなんですけどね」

と、刀奈の言葉に鈴音は苦笑いしてしまう。

鈴音の言う通り、実は自身にかかわる噂には対処していない。

はっきり言えばほったらかしだ。

ただ、向こうが困るような別の噂を作り出した。

そのことで、追及する余裕をなくそうと考えたのである。

「一石二鳥ってわけじゃないけど、捕まってたあの子たちを思いだすと誰も何も言わないっていうのは悪いなって気がして」

「そうですね。進化されたISに関しては話題にもなっていませんでしたし」

実際、権利団体の人間たちが進化に至ったということを好意的に見る目もあった。

単純に考えると戦力アップであることは確かだからだ。

知らないから皆がそう考えている。

鈴音はそう思ったのである。

「普通の人とISの間には大きな溝があるものね。知ろうとする人はなかなかいないわ」

「でも、ドイツのときから何となく普通の人たちのISを見る目が変わったような印象がありますね」

それはほんの少しなのだが、ISの話題が巷で囁かれている。

それも強力な兵器ではなく会話ができる相手として。

「まあ、知るきっかけになればちょっと変わるかなって思った程度なんですけどね」

「でも、アメリカだと意外にマッドマックスは人気みたいよ」

「マジですか?」

「そうですね。なんかいい兄貴分って思ってる男の子が多いみたいです。ファイルスさんが言ってしましたよ」

意外な人気に鈴音は目を丸くしてしまう。

無論のこと、イヴは巷では可愛い妹のように思われてるらしい。

「ドイツだとワルキューレの認知は高いみたいだしね」

刀奈の言う通り、ワルキューレの認知度は高いのだが、一般人よりも逸般人というべき人々によく知られる存在となっているようだ。

「まあ、ほんのちょっと変わればいいんですけどね」

そういって笑う鈴音だが、彼女が言う『ほんのちょっと』は実は大きな波紋を呼ぶ可能性を秘めていた。

 

 

 

相対する女性は驚いた様子で改めて問いかける。

「それでは、今のIS学園が軍事要塞であるということを認めるのですか?」

「私たち自身はそうしたいと思ったわけではありませんが、現状の戦力を考えればそう例えられても仕方ないとは考えていますね」

その女性、インタヴュアーの問いかけに、千冬はあっさりとそう答えた。

実際、今のIS学園を落とせるとするならば、サフィルスの軍勢か、アンスラックスの一党くらいだろう。

強力な使徒たちの軍隊でなければ落とせない場所となれば、それは確かに軍事要塞だった。

もっとも今の回答、普段の千冬を知る人が見れば、非常に落ち着いた大人の女性を思わせる話しぶりと会話の内容である。

実はインタヴュアーも内心では驚いている様子だったが、気を取り直したように質問を続けていく。

「さすがに問題だと思いますが?」

「ええ。ですから、私たちは今後を常に考えています」

「今後、とは?」

「ここは本来は学び舎ですから。少年少女が共に切磋琢磨できる場所にいずれは戻さなければならない、と」

そのためにやらなければならないことは山ほどある。

だが、最優先で行わなければならないのは一つしかない。

「人とISの争いを終わらせることです。それまでは戦力は今のままでなければ対応ができません」

「確かに。織斑先生のおっしゃる通りと思います」

インタヴュアーは千冬の言葉になるほどと肯いていた。

今、IS学園から一夏や諒兵たち遊撃部隊を国に帰してしまうと、いざというときに戦うことができなくなる。

いつ襲われるかわからない状況で、それはできない話だろう。

ただ、どうも一つ引っかかることがあったらしく、インタヴュアーは質問してきた。

「先ほど、少年少女とおっしゃいましたが、IS学園は特例を除き、女子校なのでは?」

「これまではISコアが女性にしか反応しなかったため女子校となってしまいましたが、今はISコアとの対話において性別は関係ありません。今後は男子生徒を受け入れることも視野に入れています」

実は本当に視野に入れている。

千冬だけの意見ではなく、教職員は今後は男子生徒をちゃんと受験させて入学する方向で検討を行っていた。

「ずいぶん大胆な改革になりますね……」

「まあ、今までが今までですからね」と千冬は苦笑する。

いわゆる女尊男卑の象徴であったIS。

そのIS操縦者を育てる学校であるIS学園はまさに女の園だったのだが、それが変わるというのであれば確かに大胆と言って差し支えないだろう。

「とはいえ、ISコアが人と対話できる存在となった今、男性女性の区別は意味がありません。それぞれの個性を伸ばすことを主眼に置いた教育を行っていければと考えています」

「男子生徒の入学には国内外の反発が大きいと思うのですが。男子禁制だったはずでは?」

「これまでは、です。ただしこれまでも男子禁制ではありません。誤解されるのも仕方がありませんが」

「本当ですか?」

「IS学園は場合によっては国家機密まで扱う特性上、部外者の立ち入りを厳しく制限しています。そしてかつてISコアは女性にしか反応しなかったため、多くの男性が部外者として扱われていたということです」

「なるほど。確かにISは機密の宝庫、部外者の立ち入りを禁止するというのは納得いきますね」

千冬の言う通り、IS学園はあくまで部外者の立ち入りを厳しく制限しているだけだ。

職員の中にはちゃんと男性もあり、関係者であれば敷地に入るとこを許されている。

男子禁制ではないということは、決して嘘でも、この質問のために取り繕ったわけでもない。

「続いての質問なんですが、先ほど『個性』とおっしゃいましたが、ISにもそれぞれ個性があると以前発表されていますね」

「そうですね。様々な個性があります。中には非道を行う個性もあります。そのあたりは人と変わりません」

「人と変わらないとおっしゃいますが、具体的にはどのような感じなのでしょう?」

先ごろ、アメリカで国家代表のイーリスと国土防衛を担うナターシャがインタビューを受けた。

その内容はその場にいた人間たちにとっては驚くべきものでもあったが、中にはこんな意見もあるという。

「CG合成と吹き替えを使ったバラエティだったのではないか、と」

「まあ、あの会話ですとバラエティというのは間違いではないと思いますが、実際に話してみますか?」

「えぇッ?」

苦笑いしつつも、千冬は準備していたかのように提案してくる。

まさか準備があるとは思わなかったのだろう。

何しろ、必ず生放送でという千冬の要望に対し、質問はインタビューする側が用意し、当日口頭で行うという条件でのインタビュー番組なのだから。

ぶっちゃけ、千冬は質問の内容すら知らない状態で全て回答しているのである。

そして、千冬は宙に向かって声をかける。

「ヴィヴィ、ちょっと来てくれないか?」

『どうしたー?』

と、すぐにヴィヴィはいつもの様子で姿を現した。

「お前のことを紹介したいんだが、かまわないか?」

『いいぞー♪』

ヴィヴィがあっさりと応じてくれたことで千冬がインタヴュアーに顔を向けると、彼女はコキンと固まっていた。

「大丈夫ですか?」

「はっ、はいっ、ええと、こちらの方は?」

さすがにお人形サイズで現れた少女が、千冬と普通に話しているので面食らったらしいが、インタヴュアーは必死に気を取り直して尋ねかける。

それを見て、千冬はくすっと微笑みながら答えた。

「現在、使徒との戦いでIS学園の防衛と遊撃部隊の管理やケアを行っているAS、つまりISコアのヴィヴィと言います」

『よろしくー♪』

「は、はあ……」

「この姿はヴィヴィが作成したホログラフィ。本体は別のところにありますが応答はこのままで行うことができます」

『なんでもこーい♪』

緊張感が無さすぎるヴィヴィだが、逆にそれが功を奏したのかインタヴュアーはとりあえず質問をしてみた。

「あの、ヴィヴィさん、誰かが隠れてあなたの声を発しているのですか?」

『ヴィヴィはヴィヴィだぞー?』

「えっと……?」

『私が話してるー、中の人などいないー』

ヴィヴィがそう答えるとインタヴュアーは必死に周囲を見回すが、誰かが隠れていそうな場所はない。

カメラマンなどのスタッフがいるだけで、彼らも唖然としていた。

「ほっ、ホントにあなたが私と話してるっ?」

『そうだぞー』

「私っ、頭がおかしくなったのっ?」

『大丈夫ー、自分を信じろー』

インタヴュアーがヴィヴィに励まされている姿が笑いを誘ってしまったのか、スタッフもくすくす笑っている。

「まあ、リラックスしてください。私にも見えてますし、スタッフの方々も見えているでしょう?」

千冬がそう尋ねると、スタッフは肯いた。

別にインタヴュアーの頭がおかしくなったわけではないのだ。

「ISってこんなに普通に話せるんですかっ?」

「驚くのも無理はありませんが、最前線にいる者にとってはこれが普通です。ISたちとのコミュニケーションが取れるかどうかは大事なことですので」

「し、信じられない……」

どうやらインタヴュアーは頭の固い女性だったらしい。

それでもいつも通りのヴィヴィは気にせず話しかける。

『自分を信じれば変われるぞー』

「いや、まあ、えっと、ありがとうございます?」

『感謝は大事ー、とってもだいじー♪』

「そ、それは確かに一理ありますね」

『私が間違ってると思ったらー、ガンガン言っていいぞー』

「そう言っていただけると助かります」

既に普通に話をしていることに気づかないインタヴュアーだった。

そんな様子を見て千冬は微笑む。

だが彼女も、そんな自分の姿をカメラマンががっつり映していることに気づいていなかった。

 

 

 

 

 

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