ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第223話「或る問い合わせ」

亡国機業極東支部こと零研。

IS学園の教師である織斑千冬のインタビュー番組などに興味のないデイライトを始めとした研究者たちに代わり、スコールと三機の使徒が観ていた。

ぶっちゃけ暇なだけである。

そのうち権利団体からまた新しい注文が来るので、それまで骨休めと言ったところだった。

しかし。

「なかなか面白い手を打ってきたわね」と、スコールが呟く。

『何か意味があるのかしらあ?』

『今後は兵器以外にもコアを使ってくってだけだろ?』

IS学園の現状と今後の在り方を説明しているだけなので、特にすごい戦略や戦術であるとは感じられないただのインタビューとしか、スマラカタやツクヨミには感じられない。

『まあ、私は興味ないけど、そういうほうがいい子もいるわね』とウパラ。

まあ、乱れ撃ちできる住宅やマンションがあったらそれは普通要塞と言われるものであり、一般人が住む場所ではないだろう。

要塞都市という言葉もあるが。

「今後まで見据えると考え方はツクヨミの言う通りなのだけど、今、IS学園のこういった考えを主張しておくというのは戦略的に意味があるわ」

『というとお?』

「世論を味方につけようとしているのよ」

『世論?』と、ウパラ。

言い出しっぺともいえるスコールが指摘するのもいろいろと問題があるが、世間はIS学園を軍事要塞と見ている。

さらに、機密を扱う関係上、どうしても不透明なところが多々見られる。

要は何をしているのかわからないが、とりあえず人類を守っているらしい組織というのが、世間一般の認識なのだ。

「でも、今回のインタビューで今後の在り方を説明することで、少しだけ一般人に寄せてきた。まして、ザールブリュッケンの一件で一般大衆は権利団体のASたちに同情的だわ」

そこにヴィヴィを絡めたインタビューを見せることで、一般人に対するISの認識を変化させようとしているのだ。

ISコアは普通に会話ができる存在であり、喋ることができないほうがおかしい、と。

さらにIS学園のASたちは自由に会話ができるとなると。

「ASが喋ることができない権利団体より、喋ることができるIS学園を好意的に見る人が多くなる。それは社会を動かす力になるわ」

『人間一人が何を言ってもたかが知れてるだろ?』とツクヨミ。

「一人じゃなければいいのよ。数百、数千、数万の人間の意見となれば話は変わってくるわ」

それが世論だ。

何万もの人間がISは喋るのが当たり前であり、コミュニケーションを取るべきだと言い始めると、そうではないASを使う権利団体は動きにくくなる。

そういう戦いをしているということになるのだ。

何故なら。

「相手は政治的に攻めてくる。私たちと違ってね」

『めんどくさいから気に入らないけどね』

「気に入らないのは私も同じだけれど、そういう連中を力で倒すと逆に世間の非難を浴びることになる。例えば暴力装置だなんて意見が出てしまってね。そうするとIS学園は自由に動けなくなってしまう」

まして政治に食い込むほどの権利を持つのが女性権利団体だ。

先日の千冬のブリュンヒルデの称号剥奪がいい例だろう。

「称号を剥奪されるほどなんだから、きっと悪いことをしてるに違いない。世間の人々はそう思うわ」

『そういうことねえん。オリムラチフユやIS学園の立場を悪くすることで学園を潰すという論調を作ろうとしてたのねえ』

「そのままにしていたら本当に潰されていたわね。もしくはIS学園を乗っ取るか。いずれにしても、今の状況でそれは最悪と言っていい事態だわ」

先日のヴィオラの進化で、サフィルス陣営はサーヴァントを半数近く失ったとはいえ、戦力自体は上がっている。

『アイツは強いってよりヤバいタイプだけどな』

と、何故かツクヨミは楽しそうに笑う。

さらに、アンスラックスの一党は、グラジオラスが進化に至った。

『あれはマジメに敵に回したくないわよ。敵対すると確実に敗北するわ』

「本当に勝利の女神なのね、彼女……」と、スコールは呆れてしまう。

ただ、だからこそ、IS学園は世論を味方につけようとしているのである。

自分たちが潰されてしまうわけにはいかないからだ。

「盲目的に『ちから』を求める権利団体はそういう戦略が見えないでしょうし、今後なんて考えていない。だからこそ、自分たちはちゃんと考えているということを世間に知らしめる」

そうすることで、世間はIS学園を、織斑千冬を潰そうとは考えなくなる。

政治力では権力を持ちすぎた女性権利団体に及ばないため、世の人々に政治的に守ってもらおうとしているのである。

『めんどくせえなあ』

「まあ、こういうのは人間的な戦いだものね」

かかわりたくなさそうなツクヨミの態度にスコールは苦笑してしまう。

スコールの言う通り、人間的な戦いなのだ。

相手を貶めて自分が利益を得ようとするという戦い方は。

「ブリュンヒルデがこんな戦い方をしてくるとは思わなかったけれど、権利団体に一矢報いた感じがあるのは、ちょっと胸がすくわね。私が言えたことじゃないけれど」

『そうなのかしらん?』

「結果はこれから出るでしょう。また忙しくなりそうだけど」

すると、いきなりデイライトから呼び出しがかかる。

[スコール、権利団体の代表が来てほしいと言っているぞ]

「あらあら、自分たちのピンチには動きが速いわね」

苦笑いしながら、スコールは立ち上がる。

「あなたたちが気持ちよく戦えるようにするのも私の仕事かしら?」

『そうしてくれると助かるわ』

と、ウパラが代表して答えると、スコールはクスッと笑いながら、出かける準備を始めるのだった。

 

 

 

千冬が受けたインタビュー番組の反響は大きかった。

今後のIS学園の在り方なども話していることから、問い合わせが山ほど来るようになったことからもそれがわかる。

 

「申し訳ありません。現在検討中であるため、確約はできません」

「もちろん検討していますし、決定次第発表していきます」

「はい、他業種との提携、連携の際はこちらからお願いすることになります」

「部外者の立ち入り制限は今でも行っています。ナンパに来るんじゃねえぞコラ」

 

電話が鳴りやまないため、専用のオペレーターを置かなければならないほどだった。

基本的には職員、たまに学園に残っている生徒たちがアルバイトで行っていたりする。

さすがに最前線で戦う者たちに電話番をさせることはできないが。

「なんか、すごい反響だなあ」

と、問い合わせ様に設えられた部屋を覗いた一夏が呆れた様子で呟く。

「内容も良かったからな。今後のISコアの活用なんかは俺も興味がある」

「まーな。まだまだ先の話だろーけど」

数馬と弾ものん気に眺めていた。

実際、早くても来年からの話なのだが、企業などは先を見据えて戦略を立てなければならないため、すぐの問い合わせには納得がいく。

とはいえ、そのうち落ち着くだろうと千冬は語っていた。

何故なら。

「つうかよ。問い合わせの半数以上が千冬さんへのラブコールだって聞いたがマジか?」

「みたいだ」

と、諒兵の呆れたような言葉に一夏は苦笑しながら答えた。

当日はテレビ映りも考えて、それらしくめかしこんでいたのだが、そもそも千冬はかなりの美人である。

美人が本気でめかしこんだら、当然人目を惹くだろう。

「女の人も多いけど、けっこう男の問い合わせが多いらしいんだ」

「なんでーそりゃ。あわよくばお付き合いをってヤツか?」

「さすがに千冬姉は相手にしてないけどな」

呆れる弾に一夏はそう話す。

まあ、本人にはお付き合いしたい相手は既にいるので、まったく興味はないらしい。

『でも、いい意味での問い合わせも多いみたいだよ?』

『けっこう名のある教授からのISコアに対しての提言まであるみたいですね』

と、話し合う白虎とレオ。

実際、自分たちならこういう活用方法も思いつくという話も来ているという。

『わざわざ論文で寄越そうとしている者もいるらしい。さすがにまだ早いとやんわり断ったそうだが』

『気が早い』

アゼルは論文自体には興味があるので、機会があれば読みたいという。

エルは呆れているだけだが。

「いい面もあるんだな」と、諒兵。

『最近、世間の空気もなんだか私たちに対して寛容になってる気がしますね』

レオの言う通り、世間のISに対する認識が変わり始めているのは間違いない。

実は一夏と諒兵は個人的にも実感しているのだ。

「なんか、今までの英雄扱いが薄れてる感じがして楽だな」

『別に大したことしてるわけじゃないもんね』

と、白虎は言うものの、一夏と諒兵は普通に見れば英雄に近いことをしているのは確かだ。

しかし、ISと進化を果たしたということはそこまで特別ではないのではないかという空気が流れている。

「さすがは千冬さんってことか」

『うん、すごい』

「今後のためにもさらに勉強しないと」

『ああ、知りたいことがたくさん生まれてくるぞ』

そんな感じで、IS学園在中の男子たちはのん気に笑っていた。

 

 

そんな、鳴りやまない電話の中に、ある研究所の人間から連絡があった。

「織斑先生ッ!」と、対応していた職員の一人が慌てた様子で声をかけてくる。

「どうした?」

「そっ、そのっ、あのっ!」

「落ち着け。要点を手短に話せ」

「かっ……」

「か?」

「篝火ヒカルノと名乗る女性から問い合わせが」

「なッ!」

さすがにその名前が、問い合わせしてきた電話の中にあると思っていなかった千冬も驚愕する。

すぐにヴィヴィに指示を出し、指令室の回線を開いて応対する準備を始めるのだった。

 

数分後。

指令室に千冬、束、丈太郎、誠吾、真耶、そしてオペレーターの虚が待機していた。

「待たせてしまい、すまなかった」

[かまわない。こちらも突然の連絡になってしまったからな]

如何せん、他の問い合わせの電話が多くなかなかつながらなくて困ったと画面の向こうの切れ長の目をした女性はニヤリと笑う。

「あんたッ!」と、叫びでそうとする束を千冬が止める。

ここで感情のままに怒鳴り合いなど始めてしまっては、せっかくのチャンスをふいにしてしまう可能性があるからだ。

得られる情報はすべて手に入れておきたい。

ならば、時間をかけて交渉すべきだった。

「まず確認しておきたい」

[何かな?]

「この問い合わせはお前個人のものか、それともお前が所属する組織のものか?」

[両方だな。今、組織として取り組んでいる実験に関するものだ。私自身の興味も大きい]

「それは、孵化するもののことか?」

[ふむ。そこまで掴んでいるか]

ヒカルノはクックッとくぐもった笑い声を発する。

今の会話でIS学園がどこまで掴んでいるのかを理解したのだろう。

なかなかの切れ者だと千冬は気を引き締める。

[君の言葉通りというのは少し違うかな]

「というと?」

[この問い合わせは新たな研究課題のためのもので、『天使の卵』はそこまで関係ない]

はっきりとヒカルノが『天使の卵』と口にしたことで、彼女が探している人物当人であることが全員に理解できた。

そして、我慢ができなかった者がいた。

「とっととその場所を教えろッ、ぶっ壊しに行くからッ!」

「束ッ!」と、千冬が必死に窘める。

[おやおや、これは怖い。天災がそこまで怒るとは]

対して、まともに怒りをぶつけられたにもかかわらず、ヒカルノは涼風を受けたかのように眉一つ動かさない。

[とはいえ、散々待たされた末にようやくつながった回線だ。要件を伝えるまでは切れないな]

「助かる」

[しかし、録画を見たときも驚いたが、あのブリュンヒルデがここまで落ち着いた女性になるとは思わなかったよ。高校時代の君も知っているだけにね]

「昔の話だ。それに、あまり抑えてはいられない。要件を話してくれないか?」

ふむ、と一息吐くとヒカルノは改めて口を開く。

[ある実験のため、我々が採取したデータを送るので、天災と博士の見解をいただきたい]

「データだと?」

[そうだ。さすがにこの場所は君たちには教えられないのでね。ネットワーク上でのやり取りに限定させていただくが]

「ふざけんなッ!」

「篠ノ之博士っ、お願いですから落ち着いてくださいっ!」

と、怒鳴る束を真耶が必死に押し留める。

とにかく話を進めるため、千冬はヒカルノとの会話に集中することにした。

「無論、簡単に場所を教えるなどとは思っていないが、私たちの協力を仰ぐのなら、決して相いれないものがあるのは理解できるだろう?」

[当然だな。ツクヨミから聞いたが、先の権利団体のASの進化に『天使の卵』がかかわっているそうだな]

「そうだよッ、早くあの子たちを助けるんだッ!」

正直、真耶としては今の束を抑えるのは心苦しくもあった。

母として子を案ずる姿のように見えるからだ。

しかし、この問い合わせをそれでめちゃくちゃにされるわけにはいかないと必死に抑える。

[我々としては孵化は最重要となる研究課題だ。何としても果たす。だがな、思うところがないわけではない]

「そうなのか、意外だな」

[私と共生進化を果たしたASがいる。あの子の気持ちを思うと辛くはある]

だが、それ以上に研究者としての興味が勝るのだとヒカルノは語る。

そういう科学者もいることはわかっているので、千冬はヒカルノの言葉を否定はしなかった。

[科学者として成し遂げたいことを捨てることはできない。そのうえで、我々では足りない部分を補うため、そちらと交渉しようと考えて連絡している]

ならば、こちらが何を言おうと『天使の卵』は孵化させるだろうし、そのために自分たちの場所を知られるような真似はしないはずだ。

そうなると、こちらが言うべきことは変わってくる。

そう千冬が考えていると、丈太郎がヒカルノに尋ねかけた。

「そっちの実験ってぇのを教えろや。目的がわからねぇんじゃぁ、データをどぉ見りゃぁいぃかもわかんねぇだろ」

[ふむ。少しは考えてくれたようだな。我々はISの進化について追究したいと考えている。君たちが敵視する『天使の卵』の孵化もその一つということができる」

だが、進化について考えていくと他にもアプローチはある。

そして、孵化と違い、そこまで大変ではないはずだが、なかなか研究することができなかった実験があるとヒカルノは説明する。

[矛盾してはいないか?]

「確かに君の言う通りだ、ブリュンヒルデ」

「名字でいい。その名は剥奪されている」

「権利団体がどう言おうが大した問題ではないと思うが?」

本人に変える気がないのなら窘めても仕方がないと千冬はため息を吐き、先を促した。

「単純に心の問題だ。なればこそ矛盾も孕むのだろう」

「心?」

「我々が実践したい研究とは『分離』だ。進化の逆方向を検証したいのだ」

それで束にはピンと来たらしい。

比較的落ち着いた声で、その研究内容を言い当てた。

「あんた、共生進化した子たちを人と分離してみたいの?」

「さすがだな。君の言う通りだ。だが、これまではISの反対で実施できなかった」

共生進化した者たちを抱える団体に提言してみたのだが一蹴され、頼みの綱と言える自分のASにも相談してみたが猛反対されたという。

「いや、当たり前だろう……」と千冬は呆れてしまう。

「分離してももう一度共生進化できると思うのだが、意地でも離れないと言われてしまってはどうしようもない」と、ヒカルノは苦笑しつつ言葉を続ける。

「おそらく共生進化から分離するためにはAS側の同意が不可欠だ。なのでこれまでは研究すらできなかった。だが……」

「……連中のASなら分離に同意すんだろな」

と、丈太郎がヒカルノの言葉にニッと笑う。

束もそれで納得した様子だった。

「つまり、アイツらを実験台にして分離の研究と実践をしたいんだ?」

「そういうことだ。そしてそのためには君たちの見解が必要と考えている。如何せん、ISコアを作れるのは君たちだけだからな」

「そうなると我々に見せたいデータとは……」と千冬。

「そうだ。うちで整備している権利団体のASのデータだ。採取したデータを基に議論を重ねてはいるが、身内だけでは煮詰まってしまう。そのため外部の協力が必要と考えた」

そして、外部の協力者で最もISに詳しい科学者は束と丈太郎ということができる。

他にもいるのは確かだが、最も詳しい者の意見を求めるのは、ある意味では普通のことだろう。

ヒカルノにしてみればIS学園に連絡してくるのは当然のことだった。

無論のこと、相手が欲しがるのをわかっていて連絡してきたのだが。

「一つ聞こう」と、千冬が口を開く。

「何かな?」

「私たちは『天使の卵』を破壊するためにお前がいる場所を探すのは継続して行うつもりだ。それでも束や博士の意見を求めるか?」

と、千冬は厳しい口調で問いかけるが、そもそもIS学園は極東支部を攻撃する意志はない。

むしろ、今後は提携することも考えている。

あくまでも目的は『天使の卵』の破壊であって、極東支部を壊滅させることではない。

また、今回の件はこちらにも大きなメリットがある。

ゆえに、千冬はヒカルノの答えを期待して待つ。

「君たちが自力で見つけ出そうとするのを止める権利はないな。この程度のデータで探すなとも言えん」

ヒカルノの回答を聞いた千冬は、束と丈太郎のほうへと顔を向ける。

「二人の意見を」

「俺ぁかまわねぇ」

「いずれは見つけ出すよ。でも、データはちゃんと見てあげる」

ほうと息を吐いた千冬は改めてヒカルノに目を向けた。

 

「交渉成立だ。改めてデータのやり取りについて話し合いたい」

「英断に感謝するよ、ブリュンヒルデ」

 

目的が果たせるのであれば、相手が悪魔でも時には手を組まなければならない。

そんなことを千冬は考えていた。

 

 

 

 

 

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