ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第226話「天空の会戦」

日本国内、某所。

モニターの向こうで笑う少女に一人の女性が報告していた。

「あなたの言う通りにパーツを集めて組み上げたわ」

[凄イネ、オ姉チャンッ♪]

「でも、あんなもの何の役に立つの、ただの人形でしょう?」

[ソノ人形ヲ使エバ、チョットシタ助ケニナルンダヨ♪]

モチロン、オ姉チャンタチニハ敵ワナイケド、と画面の向こうのノワールは続ける。

すると、別の者が慌てた様子で報告に来る。

「あの人形が勝手に動き出して、飛んで行きましたッ!」

「えッ?」

[モウ来タンダネ。サッスガア♪]

「知ってるのノワール?」

[チョット気持チ悪イ人ガイルカラ吃驚サセルノ]

「へえ」

そう呟いた女性は薄く笑いを浮かべていた。

 

 

遥か空の上で。

「じゃ、帰るわね」

『また会うとしよう』

『当日はよろしくお願いいたします』

アンスラックスとグラジオラスに別れを告げた鈴音は、一緒に降りると言ってきたティンクルと共に上がってきたポイントまで戻る。

実のところ、念には念を入れての移動だった。

「少しでも情報を残したくないからね」とティンクル。

「まあ、アンスラックスとグラジオラスがいるところなんて空の上でも知られたくないわね」

ここまで来る人間がそうそういるとは思えないが、それでも特にグラジオラスの居場所は今は知られるわけにはいかないのだ。

なお、アシュラは天空にいるときはわりとのんびり瞑想しているので、実は一つ所に滞空していない。

ゆったりと移動しているのだという。

「アンスラックスが依頼するときや、他の依頼を受けたとき以外は一人でいることが多いみたい」

「まあ、あいつ無口だし」と鈴音は苦笑いしてしまう。

「依頼するときは回線をつないで依頼するみたいね。話をするときは探さなきゃならないんだって」

「わりと自由ね、あいつ……」

諒兵が聞いたら羨ましがるだろうなと思う鈴音である。

とはいえ、ここまで来たことはいい経験になったと思う。

「私が来ることってそうはないと思うけど、場所を知ってるってのは強みになるわ」

「ま、ね。考え事するときなんか邪魔がほとんど入らないし」

「サフィルスは?」

「あいつ、ここでは戦わないのよ。停戦協定でも結んでるみたいに」

「何それ」と、鈴音はおかしそうに笑う。

停戦協定を結んではいないだろうが、ここはISコアにとっては故郷と言うべき場所である。

さらに言えば、本体というより母体というほうが合っているだろう。

「ここから生まれたってこと?」

『まあ、そう言ってもいいかニャ』

『魂の故郷とでも言いましょうか』

と、猫鈴とディアマンテは答える。

実際、この二機にとってもここは争う場所ではなく、安らぎを得られる場所なのかもしれない。

「ザクロとヘリオドールは今はここで眠ってるのよね?」

「みたいね。こっちの呼びかけには反応しないし、けっこう長く眠ってるんじゃないかしら」

『コアを砕かれるというのは器物から離れるのとは違うのです』

『生物的ニャ死ではニャいけど、存在をうしニャ(失)うことと言えるニャ』

無に帰すような死ではなく、魂の解放というのが一番近いかもしれないと猫鈴が説明する。

そして、再び同じ存在としてISコアに憑依することはないだろう、とも。

『基盤となる個性は同じであっても、憑依後は別の性格になっていくでしょう。一種の転生といってもいいかもしれません』

『おニャ(同)じ人間でも環境が異ニャれば別人に育っていくものニャ。『一本気』の個性を持っていてもザクロにはニャらニャいニャ』

「そうなんだ……、ちょっと寂しいわね」

「それでも戦い果てることを選んだ。その気持ちは尊重しないとね」

少ししんみりとしてしまった二人と二機。

それでも、その命は戦うべき相手として選ばれた一夏と諒兵がちゃんと背負っている。

だから、自分たちが寂しいと感じるのは失礼だろう。

前を向いていかなければ。

そう、一同が考えているとポイントが見えてきた。

ティンクルが鈴音に別れを告げてくる。

「そろそろね。私もまどかのところに行かなきゃならないからここでお別れよ。ここから高度八八四八メートルまで降りれば、あとは量子転送で降りられるわ」

「何その細かい数字?」と鈴音。

『星の手が届く位置がその高さなのです』

『最も高い大地がその高さニャのニャ』

「あ、チョモランマ?」

ディアマンテや猫鈴の説明で鈴音にも理解できた。

世界最高峰の山脈ヒマラヤ、その中にある最も高い山の名がチョモランマ、すなわちエベレストである。

星の手が届く位置というのはなかなか巧い表現であろう。

要は地に足がつく場所の中で最も高い場所だということだ。

「そこから転移できるってのは?」

『星の座標を得るためには大地が届く場所でなければなりません』

『自由に空を飛んでるわけでもニャいのニャ。あちしらはあくまで星が生み出した光の環が本体ニャんだから』

「何気に重要な話してくれたわね、マオ……」

空の果て、空の向こうまで飛んでいく力を与えてくれる猫鈴やディアマンテたちISコア。

それを生み出したのが自分たちが踏みしめる大地というのも面白い話ではある。

だが、そもそも地球という星は宇宙を飛んでいると言っても、そこまでおかしな話ではない。

飛ぶ力は大地にこそあるのだとディアマンテが説明を補足した。

「私も知らなかったわよ?」

『話す必要があることでもありませんでしたから』

「いい性格してるわね、ディア」とティンクルもジト目になる。

二機のASは、わりとパートナーの扱いがぞんざいな気がする鈴音とティンクルだった。

 

 

ティンクルと別れた鈴音は、まっすぐに高度八千メートルを目指して下降する。

「まあ、グラジオラスと話ができたのは収穫だったわね」

『予想通りの性格だったのニャ。今度の対話もしっかり警護するニャ』

『聡明』という個性らしく、聡明にして穏やかと性格に関しては申し分ない。

無論、今の段階ですべてを推測することは不可能だが、安易に人間の敵に回ることはないだろう。

今後の動きに注意する必要はあるが、即座に行動する必要はないと判断できる。

「確かにしっかりやらないとね。邪魔する連中は必ず出てくるわよ」

『それは否定できニャいニャ』

現状、騒ぐだけなら一喝すれば済む話だが、ASの力を使って暴れるとなるとこちらも力で対抗しなければならなくなる。

対話の場で本当はそんなことはしたくない。

少なくともグラジオラスの希望である『安全』にということができなくなってしまうからだ。

おとなしく対話することができないのなら、せめて来ないでほしいと思うのは間違いではないだろう。

「シアノスが来るかもしれないって話してたわよね」

『してたニャ』

「一応、千冬さんにも報告して、噂流してもらったほうがいいかな?」

『まあ、ボルドーのことは覚えてると思うのニャ。ある程度は抑止力にニャると思うニャ』

同時に、ヴィオラが来る気がないということは明かさないでおくことで、脅威が来るという噂を流しておけば気後れする可能性はある。

とはいえ。

「こういうのってめんどくさい」

『しょうがニャいのニャ。気持ちよくは戦えニャいものニャ』

鈴音みたいな直感的なタイプは、こういう政治的な戦い方は向かない。

ぶっちゃけると力を溜めて物理で殴るのが一番向いているのだ。

なのでこういう状況はストレスが溜まることこの上ない。

「まあ、とにかくノワールってのを見つけ出して叩くしかないのよね」

『ゴールはわかってるから、そこを忘れニャければいいのニャ』

シンプルイズベストというべきか、単純というべきかはわからないが、鈴音の言葉通りではある。

『天使の卵』を見つけ出すことは、鈴音には急務であるように思えた。

だが。

「ッ!」

『ニャッ!』

もうすぐ量子転移可能なところまでというところで、鈴音と猫鈴はいきなり襲ってきた砲弾を直感で避ける。

「誰よッ!」

その声に応える声はなかった。

ただ、空に佇む数体の人形がいるだけだった。

「FED……?」

見た目は学園防衛のために作られたFED(フェアリック・エナジー・ドールズ)に酷似しているが、細部が異なっている。

そして、持っている武器は権利団体の軍人たちが持っていた武器だ。

「IS学園の機体じゃないわね」

『識別コードに引っかからニャいニャ。おそらく極東支部のFSコアだニャ』

「あっちもFED作ってたの?」

作っていても不思議はないが、あまり興味の対象になるとは思えない。

彼らはISコアには興味を持っていても、FSコアはあくまで武器の部品として制作したと丈太郎や束も言っていたことを思い出す。

ならば誰が?

「マオ、誰が動かしてるかわかる?」

『というか誰か入ってるのニャ』

「一機ずつ?」

『違うニャ、全機に一人入ってるのニャ』

自分の思考を分割し、それぞれのFSコアに入って動かしているのだろうと猫鈴は説明する。

ずいぶん器用な真似をするなと鈴音は感心してしまう。

「それより問題は……」と、呟こうとした鈴音に向かい、数体の人形は砲撃を開始した。

「わりと戦意満タンってとこかしらっ!」

そう叫び、鈴音はすぐに如意棒を発現して応戦を開始したのだった。

 

 

ところ変わってIS学園。

「なるほどな」

「こういう感じかあ。盲点だったなあ」

と、束と丈太郎が極東支部から送られてきた権利団体のASのデータを見て、感心していた。

『どういう感じなんですかねー?』

「アバターなのぁ間違いねぇな。問題ぁこのアバターだが……」

「単純に力を抜き出したってわけじゃないみたい」

囚われたISコアの心はコア・ネットワークのデータの墓場に存在する。

実はおかしな話でもあった。

完全に力の抜け殻であるのなら、わざわざ檻に閉じ込めておく理由はないからだ。

『確かにそうですねー、私も行きましたがアレは単純に硬いだけの檻ではありませんでした。何らかの意図はあるものと思います』

「それに対する答えの一つになるかも」

天狼の言葉に対し、束はそう答える。

だとするならば、権利団体のASをヒカルノの言う通りに分離するためには檻を破壊する必要があるのだろうか。

「檻の破壊は必要だね。ただ、破壊しても進化が解けるわけじゃない」

『それは、わりと絶望的な発言ですねー』

「そぅでもねぇ。破壊してそれぞれの身体に心が帰りゃぁ、連中ぁ動けなくなんだろな」

丈太郎の言葉に疑問符を浮かべる天狼は先を促す。

単純に言うと、装着している鎧が意思を持ってしまうため、操縦者の言う通りに動けなくなるということだ。

一夏や諒兵たち学園の生徒や、アメリカのナターシャやイーリス、ドイツのクラリッサが動けるのはISコア側も身体、つまり鎧を動かしているからだということができる。

だが、権利団体のASはそうはいかない。

そもそも納得の上で進化したわけではない以上、鎧のほうが反抗してしまうのだ。

そこまで聞いて天狼は気づいた。

『そういうことですか。ニッキーなんですね、バネっち』

「うん、更識って子たちと打鉄弐式、つまり大和撫子と同じ関係なんだよ」

簪と刀奈、そして大和撫子の進化は、実は共生進化とは少し違う。

姉妹二人の強い想いに打鉄弐式を巻き込んで進化したのだ。

そのため、今でも特に簪と大和撫子はパートナーには程遠い関係である。

意外と懐が広いのか、大和撫子は簪と刀奈の思い通りに鎧を動かしてくれているが、勝手に動くときもあるのだ。

もっとも。

「あいつぁ才能が有りすぎて、片手間でやっても問題ねぇんだろぉよ」

『確かに、ナデりんとなった今でも才能は我々より大きいですからねー』

本気ではなく、暇潰しで更識の姉妹を手伝っているだけらしい。

話が逸れた。

改めて権利団体のASは簪と刀奈と大和撫子の関係に近いのだが、大和撫子と違い、進化するためには邪魔なものがあった。

「自分の意思、つまり心だね」

個性基盤に情報が集まってできているのがISコアに宿る電気エネルギー体だ。

そのためその心、つまり基盤となる個性が外れてしまうと情報は霧散するので進化はできない。

だから檻に捕らえたのだ。

「あの子たちの心を閉じ込めることで打鉄弐式に近い万能器の状態にした。そこに人間が縋りついてできたのがあのASだよ」

『ニッキーのときはカッターナとカンカンのお互いへの強い想いがあったからニッキーの心を超えて進化できた。けれど、あの人々にはそういった強い想いがなかった。だからIS側の心が邪魔だったということですか』

そして、心がないため共感ができなかったISコアが進化した人間の獣性を反映していないので、素のままの鎧になってしまったということだ。

結果として武装を取り込むこともできていない。

手に持っていた武装でも、IS側が受け入れればまとめて進化できるのだから。

「共生進化はISコアと人、お互いの想いが一つになることでできるんだ。勝手な欲求だけじゃ、あそこまでが精いっぱいなんだろうね」

「力への欲求だけで進化できるほど、お前たちゃぁ甘かぁねぇやな」

そう言って苦笑する丈太郎に対し、束はいささか嘲るような様子だ。

まあ、下手をすれば殺しに行きかねない勢いで怒っていたのだから当然だろう。

『で、ピッカリンでしたか。あの方の言う『分離』への道筋は見えましたか?』

「まずは檻の破壊だね。これは天狼無しじゃ無理っぽい」

「ああ、まずISコアたちの心を解放しねぇと『拒絶』ができねぇ」

『その手のお仕事なら頑張りますよー♪』

天狼自身、同胞といえる者たちがあの状態であることには怒りを覚えているので、むしろ珍しくやる気満々である。

「檻の破壊はこっちでやる。心が必要であることをまずあいつに伝えないとだね」

「物理的に分離していくためには、大掛かりな施設か、かなり多いASか使徒が必要にならぁな。向こうの連中が協力すっかどうかの確認も必要だ」

『では、最初の見解をまとめていきしまょー』

天才博士二人は、本気で極東支部の研究に協力する気になっていた。

わりと彼らも興味深い題材があるとどハマりするマッドな方々である。

 

 

鈴音は空の上で舞い続けていた。

現れた人形は思った以上に動きがよく、またしっかり連携も取れている。

「適当に動かしてるわけじゃないのねっ!」

『ニャんか試してる感じニャっ!』

まだ人形を動かすことに慣れていないのか、自分たちを動かすことを鈴音と猫鈴相手に試しているという感じなのだろう。

つまりいい加減にやってもこれだけ動けるうえに連携まで取れるということだ。

これが慣れてきたらかなり厄介な敵になる可能性がある。

ならば。

「ここで叩くッ!」

と、鈴音は如意棒を振り回して一機の人形を叩き落した。

さすがにダメージが大きかったのか、人形はそのまま落下していく。

だが。

「チィッ!」

脇腹を掠めてきた槍にダメージを受けてしまう。

「マオッ?」

『本体からの供給で槍を作ったみたいニャッ!』

本来、武器は持たなければならないFEDと同じ人形であるはずが、プラズマエネルギーを用いて槍を作ってきた。

カノン砲しか攻撃手段がなかった人形たちだが、こうなると単純に撃つだけではなくなってくる。

槍ばかりではなく剣を持つ人形も出てきたからだ。

「前衛までいるとなると厄介ね」

『戦力バランスも考えてきてるみたいニャ』

まとめて龍砲でぶっ飛ばそうと思っていた鈴音だが、人形たちは一筋縄ではいかないようだ。

そうなると、数の差が徐々に戦況に現れてくるだろう。

ここで負けたくないと鈴音は如意棒を握り締める。

そこで大事な約束を思い出した。

「マオ、現在の状況と座標をティンクルに伝えて」

『リン?』

「たぶん、まだ近いところにいるはずだから」

無理はしない。

必要なときは助けを呼ぶ。

そんな小さな、でも大事な約束を守って、この状況を凌ぐのだと決意を改めるのだった。

 

 

 

 

 

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