ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第227話「対『人形』対策会議inファミレス」

何処かの繁華街にて、ティンクルはまどかにグラジオラスの対話の件を伝えた。

「行くっ!」

即答だった。

ヨルムンガンドが止める間もなかった。

諒兵が来るということだけで行動を決めてしまうまどかに、ティンクルはそこはかとなく不安を覚えてしまう。

『彼の女神には興味がなかったのではないかね?』

「ない。でもおにいちゃんが来るんなら私も行く」

迷いのない返答が気持ちがいい。

少しは迷ったほうがいいのではないかとティンクルとディアマンテは思うのだが。

「当日いきなりケンカしたら諒兵が起こると思うからおとなしくしてなさいね?」

「わかった」

実に素直なことである。

普段からこのくらい素直であれば、非常に扱いやすいだろう。

だが、普段のまどかはわりとめんどくさい性格をしていた。

「あいつら、私に絡んできたらコロすけど」

『私としては非常に止めにくいのですが、ヒノリョウヘイはそれを望まないでしょう』

「なんで?」

『あなたに悪い子になってほしくないと思っていると考えられます』

「諒兵はあんたにとって一番カッコいい兄貴でいたいって言ってたでしょ。なら、あんたも諒兵の自慢の妹でいなきゃね」

ディアマンテとティンクルにそう言われ、確かにそうだとまどかも納得する。

まどかはまともに対応するのが面倒なので殺すと言っているだけで、別に絡みたくはないのだ。

相手が来ないなら、こちらから行くこともないのである。

「ま、まだ日はあるし当日までIS学園とも連絡を取るわ。バカ女どもが絡んでくるし、この話を通しておきたいから」

『間違いないと思うのかね?』

「グラジオラスのことを逆恨みしてるのは間違いないわ。まして、今は連中が動きにくい風潮になりつつある」

『ならば、その空気を壊したいと思うでしょう』

「アイツも?」

「……そうね。アイツは間違いなく壊したがってると思うわ」

アイツとは『天使の卵』の中身らしき存在であるノワールのことだ。

どうも搦め手も使ってくるらしいノワールは、対話を最悪の形でぶち壊す可能性が高い。

「アイツは必ず止めるわよ。正直気に入らないからね」

「わかった」

厳しい声音でそう言ったティンクルにまどかも少年兵時代の冷徹な声で答える。

そこに。

『ティンクル、マオリンから緊急連絡が入りました』

「えっ?」

『私たちと別れた後にリンとマオリンが謎の人形に襲われて交戦中だそうです』

座標も送られているので、すぐに量子転移が可能だとディアマンテは報告してくる。

「ゴメン、まどか。用事ができたから今日はこれで」

『我々も同行しよう』

「えっ?」と、まどかが驚くのも無理はない。

まどかとヨルムンガンドと別れて現場に行くつもりだったティンクルに、ヨルムンガンドがいきなり同行すると言ってきたからだ。

まどかの意思を無視してこうした意見を出してくることは、意外と少ないヨルムンガンドだけに珍しい。

『交戦中なら救援は多いほうがよかろう。そうだろうマドカ?』

「別に予定ないからいいけど……」

すっきりとはしないものの、言っていることは間違いではないので、まどかは反対までする気はない。

『こちらは私たちだけでもかまいませんが』

と、ディアマンテが暗に断ってくるが、ヨルムンガンドに譲る気はないらしい。

『交戦中なのはIS学園の者なのだろう?』

「まあ、そだけど……」

『ヒノリョウヘイの学友ならば助けておくべきだろう。マドカとしても兄の助けになれる』

「行くっ!」

さすがにヨルムンガンドはまどかの扱い方を心得ている。

こう言われては止めたとしても無理やり付いてくるだろう。

ティンクルは一つため息を吐く

「わかったわ。まどか、お願いね」

「わかった」

と、そう言って二人と二機は人気のない場所に向かい、すぐに量子転移の準備を始めるのだった。

 

 

天空にて。

鈴音は、人形たちの攻撃を凌ぎ続けていた。

隙を見て叩き落そうとしているのだが、この短時間で鈴音の動きを読み始めてきており、なかなか墜とせなくなっている。

「こいつに入ってるの、相当いい才能持ってるわね」

『学習能力の高さを見ても、間違いなくトップクラスの個性ニャ』

ISコアに入っている電気エネルギー体は個性の違いはあっても能力の違いはそこまで大きくない。

仏像や女神像に入っていた者が強いのは長く人の想いを受け止めているからであって個性自体の問題ではないし、スペックの違いは制作されたISのスペックが違うからである。

ならば、本来ならこの人形たちを動かしている個性はそこまで強くはないはずだ。

しかし、その個性が特出したものであるならば話は違ってくる。

それが個性による才能の違いということができるだろう。

何となくピンとくるものがあった鈴音だが、敢えてそこを追求するのはやめた。

問題はおそらくこの人形を動かしている個性ではなく、別のところにあると思うからだ。

「とにかく、こいつらを叩いて離脱するわ」

『追ってくる可能性が高いのニャ』

「そのためにティンクルを呼んだのよ」

人形すべてを一時的に叩き落としてから、量子転移で離脱するのが一番いい方法だろう。

もちろん、頑張れば倒せる可能性はある。

しかし、敵の背後がわからないまま倒してしまうと、その先も敵を待つだけになってしまう。

ならば襲ってきた人形たちを破壊せず、何度でも使わせるというのも一つの方法である。

だが、それを口にはしなかった。

「とにかく叩き落して逃げる。まともに相手するなら、最低でも五人くらいは欲しいし」

『……ニャるほど、了解ニャ』

鈴音が伝えてこなかった理由を理解したのか、少し考えたのち猫鈴はそう返事をしてくれた。

すると。

「チィッ、勘づくのッ?」

「ちっこいせいかすばしっこいッ!」

ディアマンテを纏ったティンクル、そしてヨルムンガンドを纏ったまどかが人形に攻撃するが、あっさりとかわされていた。

「待ってたわよって言いたいトコだけど、まどかまで来たの?」

「まあ、戦力としては十分でしょ?」

「そだけど……」

まどかやヨルムンガンドには自分を助けに来る理由がないだけに、何となくもやもやしたものを感じてしまう。

だが。

「私も助けに来たってこと、ちゃんとおにいちゃんに伝えろ」

「あ、りょーかい」

とりあえずそれでまどかが来た理由は理解できた鈴音は、クスッと笑ってしまっていた。

 

 

 

一方、コア・ネットワーク内のある場所にて。

『これが最初の見解のまとめになりますねー』

『御協力感謝いたします』

天狼がフェレスにデータを渡していた。

束と丈太郎が、極東支部から送ってもらったデータを見て何が必要か、どうしていくかの見解を纏めたものである。

やると答えたからにはやるのが天才博士たちだった。

なお、フェレスの姿は以前スコールと共に権利団体を訪れたときの姿になっている。

極東支部の所員の一人が一生懸命に作ってくれたので気に入っているとは本人の弁。

それはそれとして。

『しかし、そちらの基幹サーバーに入れてくれないとはイケズですねー』

『あなたを機密の山の中に入れられるわけがないじゃないですか』

何を盗られるかわかりませんし、とわりと辛辣な評価をするフェレスである。

データの受け渡しに関してはネットワーク上に指定されたポイントでということになっていた。

極東支部から来たのはフェレスであった。

こういった仕事こそがフェレス本来の仕事ともいえるので当然の人選ではあろう。

『まあ、あまり今まで話すことがありませんでしたが、レッすんは極東支部を気に入ってるんですねー』

『荒唐無稽な人たちですが、一緒にいて心地よくはあります』

ときどき、無茶なことも言いだしますけど、とフェレスは苦笑する。

極東支部やパートナーを気に入っているというのであれば、フェレスが裏切ることはあり得ないだろう。

そうなると聞くことは決まっている。

『あなたは『卵』についてはどう思ってるんですかねー?』

『先ごろ、件の進化に関わっていると聞いて、いささか嫌悪を感じますね』

同じようにウパラも嫌っている様子だという。

やはり同胞にあのような進化を強いているとなれば、同胞とは思えない。

人間と融合したことであのようになったのかというと、少し違うのだろうが。

『もともと『破滅志向』ですから素質はあったんでしょうねー』

『なら、進化しなくてもいずれはあのような行為に及んでいたと?』

『推測にすぎませんがねー。おそらく人間と融合したことで箍が外れてしまったんだと思いますよ』

いずれは同胞も人間も巻き込んで破滅に向かっていく、そういう個性だったのだろうと天狼は推測を述べる。

それが融合進化を選んだことで、最悪の道を平気で選べるようになってしまったのだろう、と。

『進化について追及したいというそちらの方々の気持ちはわかりますが、私たちはできるだけ早く見つけて壊しますよ』

『ヒカルノ博士の願いを、私は守ります』

『それでかまいませんよ。私たちは人と共に生きることを守りたい。それはどちらも同じです』

ただ、人間たちの『天使の卵』に対する考え方が、対立の構造を生み出しているに過ぎない。

今はどうなるかはわからないが、お互いの未来は決して悪いものではないと天狼は語る。

『彼の『卵』が孵化したときは、協力することも視野に入れておいてほしいんです。おそらく極東支部を潰しますよ、アレは』

『それは推測ですか?』と、さすがに極東支部を潰すという言葉には眉を顰めるフェレス。

『はい。ですが確信に近いものがあります。『卵』は玩具が欲しいだけなのでしょう。ですが極東支部の方々は『卵』の玩具にはなれません』

『玩具になりたいということはないでしょうが、何故なのですか?』

『そちらの方々も強い意志をお持ちです。覚悟と言い換えてもいいでしょう。そういう方々は壊せません』

『なるほど。『卵』が欲しがっているのは『壊れる』玩具ということですか』

と、フェレスも納得した。

何しろ趣味のために生きるような研究者である。

壊れないというより、最初からぶっ壊れているのだ。

壊れている玩具をさらに壊したところで面白くなどないだろう。

『わかりました。皆さんに伝えておきます。もっとも私たち零研は『卵』の中身などに簡単に潰されるような場所ではありませんが』

『おやおや、これは頼もしいですねー、いざというときは共に止めましょう』

にっこり笑って手を差し出す天狼に対し、フェレスは少しばかり苦笑しながら握手を交わすのだった。

 

 

 

再び天空にて。

鈴音は救援に来たティンクル、まどかと共に空を舞っていた。

ティンクルは冷艶鋸を発現して戦っているが、まどかはティルヴィングで戦っている。

さすがにダインスレイブを使うほどの敵ではないと見たようだ。

三人となって落ち着いてみれば、対応できるほどの動きはまだ取れていない。

戦力的には十分だろう。

「マオッ、面撃ちッ!」

『了解ニャッ!』

人形を一ヶ所に集めるため、鈴音は龍砲を撃ち放つ。

さすがに面の制圧に抗うほどの力はないのか、うまく逃げおおせた一機以外は纏めることができた。

そこを。

「ロックッ!」

『銀の鐘、起動します』

ティンクルが銀の鐘を鳴らし、人形それぞれを狙い撃つ。

光弾をまともに喰らった人形はあっさりと落ちていった。

残る一機は。

「せりゃぁあッ!」

まどかの連撃を受けきれず、あっさりと落ちる。

それを確認した鈴音が叫ぶ。

「転移よっ、ここから離れるわっ!」

「「了解っ!」」

当初の予定通り、量子転移を使って一気に離脱した。

 

その場を大きく離れた三人は、地上に降りて鎧を仕舞う。そうしてようやく一息ついた。

「助かったー、けっこうメンドくさいんだもん」

「大した力はなかったみたいだけど……」

「何ていうか、まだ慣れてない感じね」

鈴音のぼやきにまどか、そしてティンクルがそう呟く。

ティンクルが感じた通り、人形は動かし方にまだ慣れていないというのが一番正しい評価だろう。

とりあえずどっかで一息つこうと提案したティンクルに、鈴音とまどかは素直に肯いた。

そして近くにあったファミレスにて一行は飲み物とスイーツを注文すると一息吐く。

「何だったのあれ?」

「私が聞きたいわよ」

と、ティンクルの問いかけに鈴音はそう答える。

というか、そう答えることしかできなかったのだ。

いきなり襲われ、しかもろくに会話していないのだから。

ただ、わかることはある。

『基本的には一機の誰かが全機を操ってたのニャ』

「へっ?」と、ティンクルがちょっと間の抜けた顔になってしまう。

『アレすべてが一機だったのかね?』

『間違いニャいのニャ』

『そうなりますと、かなりの才能が有りますね。アレを操っていた方は』

と、ヨルムンガンドとディアマンテも感心したような声を出す。

「私が墜としたヤツ、けっこうまともに反応してたぞ?」

「そのうえで、私たちの攻撃にも対応しようとしてたわよ」

つまり、同時に複数の機体を自在に操っていたと言うことができる。

それはかなりの才能といっても過言ではないのだ。

「ノワールじゃないのは確かだと思う。ただ、誰なのかはまだピンと来ないわ」

個性から考えてもノワールができることではない。

権利団体のASはノワールの力でその心を抑えているが、操っているのはあくまで人間の操縦者たちだ。

そう考えるとノワールではないことは確かだろうが、複数の機体を自在に操る才能を持ったISコアが敵対していると考えると恐ろしいものを感じてしまう。

「機体を増やしてくる可能性もあるから、けっこう厄介なヤツよ」

「墜としただけで良かったのか?」

面倒な敵は完全に潰しておくべきだとまどかは主張するが、それだと次が困るのだ。

「おんなじことの繰り返しになるのよ」

「ああ、元を断つために手加減してたのね」

ティンクルは鈴音の言葉でそう納得した。

無理をして墜としたところで新しい機体で来られれば同じことなのである。

ならば、襲ってきた人形を操る本体を見つけ出さないといけない。

そのためには来るたびに全力で叩いていてはキリがないということだ。

戦闘を利用して上手く本体を探り当てる必要がある。

ただ。

『言わニャいのニャ?』

(まだ早いわ)

鈴音は襲ってきたのが誰なのか、何となく気づいていたが、今は明かすべきではないと考えていた。

確証も無しに疑うべきではないということと、自分では解決できないという直感があるためだった。

「いずれにしても、あの人形たちへの対策も必要になったわね」

と鈴音は少しばかり話を逸らす。

一瞬、ティンクルの目が細まったのだが、ウィンクを返した。

「ま、そうね。対話の時にあいつらが来たら混乱するし」

「混乱?」

『アレは小さいものの一見すると無人機のISにも見える。グラジオラスが嘘を吐いたと思わせることも可能だ』

『また、喋ることができないISとして見せれば、権利団体としては自分たちの正当性を訴える手段にもなるでしょう』

ヨルムンガンドとディアマンテの言う通りである。

人形たちが対話の場に来るだけで、そういった混乱が予想できるとなれば敵としては使わない手はないだろう。

「だから対策を立てておくのよ。いろいろと手はあるだろうし。私たちだけじゃ無理だから、アンスラックスやグラジオラス、そしてアシュラにも協力をお願いしたいわね」

千冬に依頼された広範囲の脳干渉に対するシャットダウンだけでは、足りなくなったということだ。

特にアンスラックスはこういったことも対処可能なスペックを持っているのだから協力は欠かせない。

「伝えておくわ。ま、対話に対して乗り気だし、全力で止めてくれるでしょ」

「頼むわね。私は学園に戻って千冬さんに伝えておくから。あと、まどか」

「何だ?」

「諒兵にはきちんと「まどかに助けてもらった」って伝えておくからね♪」

「ぜったいだぞっ!」

何だか自分から見ても可愛い妹のようなまどかに、鈴音もティンクルも微笑んでいた。

 

 

 

 

 

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