ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第229話「激突」

人形たちに襲われた翌日。

鈴音は刀奈に声をかけていた。

「訓練の誘い?」

「んー、ちょっと確かめたいことがあるだけなんですけど、人目に付くのもアレなんで」

そう言って、二人で最近ではもっぱら訓練用となっているアリーナに向かう。

そこで鈴音は如意棒を取り出した。

ただし。

「へえ、部分展開できるようになってたのね」

刀奈が言った通り、猫鈴の手甲のみを展開して発現していた。

その状態で如意棒を発現している。

それどころか、あっさりと娥眉月にも切り替えてみせた。

「私、マオが甲龍だったころからできてましたから、このくらいは軽いもんです」

事実である。

もともと鈴音は猫鈴がISの甲龍だったころから部分展開できるだけの技術は身に着けていた。

もっとも才能だけでできるようになったわけではない。

『もともとは国家代表に負けるのがイヤで、丸二日徹夜で特訓してたのニャ』

「ま~お~」

もう少しカッコつけさせてくれてもいいのにと思うが、刀奈としてはむしろ猫鈴の言葉に感心したらしい。

「ホントにがむしゃらなのね、凰さん」

「それしか取り柄がないから」

それこそが恐ろしい才能なのだと刀奈は思うが、口には出さなかった。

あまり褒めてしまうとアシュラの時のような無茶をしかねない危うさが鈴音にはあるからだ。

それはともかく。

「刀奈さんはできます?」

「こんな感じ?」と、あっさりと刀奈は自分の鎧を腕のみ展開してみせる。

さらに、専用の武装として作り出した祢々切丸もしっかり発現できていた。

「さすがですね」

「まあ、このくらいはねって言いたいところだけど……」

「だけど?」

「最初は撫子にお願いしたのよ。あの子がやる気ださないと私の機体も完全に思い通りってわけには行かないし」

一度部分展開すれば、あとは自分だけでできるように訓練するだけだったという。

なので最初の一回が大変だったと刀奈は苦笑する。

「刀奈さん、撫子と話すときって……」

「簪ちゃんを挟まなくても話をするくらいはできるわ。まあ、私とは年中一緒ってわけじゃないけど」

刀奈のほうから『しつこく』声をかけることで何とか話はできるという。

刀奈の機体は大和撫子のオプションなので多少なりとつながりはあるらしい。

「てことは、部分展開を覚えるときは刀奈さんのほうから話しかけたってことですよね」

「そうよ?」

鈴音の言いたいことが掴みかねるのか、刀奈は少々訝しげな表情を見せる。

とはいえ、鈴音としては刀奈には話を通しておかないと厄介なことになるとわかっているので、意を決して話を切り出した。

「簪ちゃんが?」

「私、たぶん部分展開はできないと思います」

「簪ちゃんは才能あるし努力も十分してるわよ」

「怒らないで聞いてほしいんですけど、マオたちと一緒に戦うとき、一番大事なのはそこじゃないです」

私が言うのもアレですけど、と続けて鈴音は簪が部分展開できないと思う理由を打ち明けた。

理由は単純なものだ。

簪は大和撫子とのコミュニケーションが取り切れていないのではないかということである。

「昨日、箒と訓練してるところを見て、ちょっと聞いて回ったんですけど、更識さんアリーナ使って撫子を展開して訓練すること少ないみたいなんですよね」

「それは、そうね……」

「苦手なタイプなんだとは思うけど、そろそろそれじゃマズいんじゃないかって」

「どういうこと?」

「これはエルの話を聞いての推測なんですけど、撫子は自力で操縦者を引き剥がせる可能性があると思うんです」

さすがにこの言葉には刀奈も目を見張る。

苦労して進化したというのに引き剥がされてしまったら、簪は戦えなくなってしまうからだ。

無論、刀奈もそうなるはずなのだが猫鈴が否定してきた。

『ニャデシコ(撫子)は、おそらくカタニャ(刀奈)の機体はそのまま力を貸すニャ』

「そうなの?」

『わざわざ引き剥がすまでもニャいと考えてると思うニャ』

片手間で力を貸しても余裕な大和撫子なら、別に刀奈まで引き剥がす理由はないだろうという。

ただ、簪だと一緒にいることがそれほど楽しくないと感じている可能性はあると猫鈴は続けた。

戦闘では煽ったり、啖呵を切ったりして何とか大和撫子を動かしている簪だが、それが通じなくなったときが一番の問題なのだ。

「つまり、部分展開だけの問題じゃないのね?」

「はい。更識さんは撫子と信頼し合えてない面があって、それが大きくなる可能性があるってことなんです」

今後を考えても、簪は大和撫子と信頼し合えるようにならなければならない。

戦闘だけの付き合いではいずれ切られるからだ。

この関係は他のAS操縦者とは異なる。

一番近いのはティナとヴェノムの関係だろう。

ヴェノムはティナが戦闘で自分をうまく使っている限りは文句を言わない。

ただし、普段は常に一緒にいるわけではなく、ヴェノムはけっこう自由にコア・ネットワークやIS学園をブラブラしている。

つまり信頼関係で一緒にいるわけではないのだ。

そして、おそらくだがヴェノムはティナから離れることもできるはずだ。

「共生進化したわけじゃないですからね」

「確かにね」

ヴェノムはあくまでティナが纏うことを許可しただけなのだ。

それは共生進化とは大きく異なり、自力で離れることは可能だろう。

もっとも、ティナはそのことを理解したうえでヴェノムと共に戦っているので、こちらは心配はない。

しかし。

「簪ちゃんと撫子はそうじゃない。一応進化のきっかけは私たちだしね」

「はい。何て言えばいいかな……」

『カンザシとニャデシコ(撫子)は中途半端なままで進化しきれてニャいのニャ』

なるほど、と鈴音と刀奈は猫鈴の言葉に納得する。

要は簪と大和撫子は共生進化まで至れていないということなのだ。

実際、そういう進化ではなかったことは確かなので納得できる説明である。

「つーか、中途半端であんだけ戦えるって、マジでとんでもない才能ね」

「凄い子なのね、撫子……」

鈴音と刀奈は感心してしまう。

とはいえ、感心している場合ではない。

簪と大和撫子の関係が悪化していくと、最悪本当に引き剥がされる。

「どうする気?」

「ケンカ売ります」

「ぶっちゃけたわね……」

鈴音は、暫定的なライバルとして簪と戦うことを考えていた。

撫子が片手間では捌けないくらいに本気で。

なので、どうしても刀奈には理解してもらいたかったのである。

簪が立ち向かわなければならないのに刀奈や仲間の力を借りていては意味がないからだ。

単に強くなるのではなく大和撫子との関係をよい方向に持っていくためには。

「前に井波さんが箒にやったみたいなことですね」と、鈴音は苦笑する。

『ニャので、カタニャ(刀奈)には耐えててほしいニャ』

「わかったわ。でも、何でそこまでするの?」

「……まだ推測なんでちょっと言えないです。千冬さんは私の話で勘付いたみたいだけど」

「了解、織斑先生に聞いてみるわ」

「すみません」

いろいろと似ている妹コンビへの対処に、刀奈は仕方なさそうにため息を吐いていた。

 

 

で。

刀奈との話が終わった後、鈴音は簪に声をかけていた。

今日は珍しく箒が一緒にいない。

聞いてみると、セシリアやシャルロットたちから声をかけられたので、今日は飛燕を展開しての訓練をするらしい。

簪も誘われたのだが、何となく断ったのだという。

(何となく、ね……)

理由が朧気に見えている鈴音としてはため息を吐きたくなるところだが、この状況は都合がいい。

できれば二人きりで話をしたいと思っていたからだ。

「凰さんは一緒じゃなかったの?」

「今日は武道場に行こうと思って。付き合ってくれる?」

「別に、いいけど」

言質は取ったので逃げたりはしないだろう。

自分と簪ではかなりタイプが違うので一緒にいることはほとんどないが、訓練という名目ならそこまで避けたりはしないはずだ。

なので二人で武道場に向かう。

そこで。

「棍は持たないの?」

「持つわよ?」

そう言って、鈴音は手甲のみ部分展開をして如意棒を発現する。

できるだろうと思っていたのか、簪の驚きは少なかったが、それでも少しは驚いてくれたらしい。

「打ち合ってくれると助かるんだけど」

「う、うん」

そう答えて簪も薙刀である石切丸を出そうとするのだが、うっすらと手甲を発現しそうになりながらも形にならなかった。

「ご、ゴメンなさい。今日は調子悪いのかも」

「それじゃあ仕方ないか」

と、あっさり受け入れたように見せつつ、鈴音は言い放つ。

 

「撫子も大したことないのね」

 

その言葉が出たとたん、いきなり簪の両腕に手甲が発現した。

「えぇっ?」

いきなりの変化に簪は戸惑ってしまうが、発現させた当人にとってはそんなことは関係ないらしい。

『あんた、あたいにケンカ売ってるぅー?』

「売ってる。私とマオを舐めないでよ?」

『じょぉっとぉーッ!』

「きゃぁぁッ!」

石切丸を発現した大和撫子は、簪の腕を引っ張るようにして斬りかかってきた。

だが、踏ん張りが効いていない斬撃など恐れるに足りないと鈴音は鮮やかに受け流す。

「ふぁんさんッ?」

「言っとくけど、私がケンカ売ってるのは更識さんと撫子の『二人』よ。ついてこれないなら仕方ないから、そんときは素直に叩きのめされてくれる?」

「冗談じゃないッ!」

その言葉で簪もスイッチが入ったのか、勝手に動く撫子を制御し始める。

先ほどとは違い、決して馬鹿にできない威力の斬撃を繰り出してきた。

だが、鈴音と猫鈴が作り出した如意棒はかなりの硬さを誇る。

そう簡単に斬れはしない。

ガァンッという轟音を響かせつつも、しっかり受け止めた。

「何でこんなことするのか知らないけど、バカにされて黙ってるほど私は臆病じゃない」

「いい顔するじゃない♪」

真剣な表情の簪に対し、鈴音はニッと笑いつつも棍を振り回して距離を取る。

そこから。

「行くわよッ!」

槍衾にも見えるような無数の刺突を繰り出した。

しかし簪は大きく距離を取って避けると、そこから鈴音の頭上を飛び越えて背後に回り、横薙ぎの斬撃を繰り出した。

それを鈴音はふわりと羽が舞うようにかわしてみせる。

ここで打ち合ってもいいのだが、せっかく簪と大和撫子がやる気になってくれるのなら、場所は変えたい。

「ここじゃ本気出せないわね。マオ、空いてるアリーナある?」

『第3アリーナが空いてるニャ』

「ヴィヴィ、第3アリーナのシールド開けて。こっから飛び込むから」

『らじゃー』

猫鈴とヴィヴィの答えを聞いた鈴音は、簪を武道場から押し出すように突撃する。

そして簪と共に武道場の外に出た鈴音はすぐに猫鈴を展開した。

「ついてきなさいッ!」

『逃がすかぁーッ!』

「少し頭を冷やしてもらうからッ!」

即座に大和撫子を展開した簪と共に、鈴音は3番アリーナへと飛び込むのだった。

 

 

 

第1アリーナにて。

ブリーズを纏ったシャルロットが放ってきた銃撃を箒は紅鬼丸で捌く。

「くッ!」

だが、全てを捌くことができず、何発か被弾してしまっていた。

シャルロットがサテリットを使って放つ銃撃は本来は楽に三桁に届く程の弾数なので捌けなくても仕方がないとは言えるのだが。

『避けつつ捌くようにするのじゃ、ホウキ』

「そうか、剣だけで捌こうとすると数に負けるんだな」

飛燕ことシロのアドバイスに、納得した表情を見せる箒。

今日のシロは箒の訓練に付き合ってくれていた。

シロは権利団体のASの進化の解決について奔走している身ではあるが、今日はアンスラックスや天狼に任せているという。

シロにとっては箒のパートナーの飛燕であるということも大事なことなのだ。

いずれにしても、箒としては飛燕を乗りこなすということも重要な訓練の一つなのでありがたい。

如何せん、操縦時間が短いからだ。

なので。

「まあ、避けきれない弾数を想定して撃ってるからね」

「箒さんは剣を振ることを意識してしまいますものね」

と、シャルロット、そしてセシリアが声をかけてくる。

箒が訓練に参加することになったため、シャルロットとセシリアは彼女が一番訓練に時間を使えるようにしてくれていた。

『剣を振りながら移動するというのは意外と難しいものですから、仕方ない面はあります』

『まあ、それは妾もわかるがの』

『でも、ISバトルだと回避は重要なポイントよ。被弾が多いとシールドエネルギーが削られるし』

ブルー・フェザー、シロ、そしてブリーズもいろいろと相談し合っている。

箒に合った戦い方は何かと考えてくれているのだ。

「相手によって剣の型を変えていくほうがいいだろうか?」

「それがいいかも。近接主体の敵なら連撃、中距離なら一撃って感じかな」

「相手が砲撃特化なら近づいて連撃というのも有効ですわね」

いろいろと参考になるアドバイスに、箒は感謝する。

今まで遠い存在だったセシリアやシャルロットが普通に話しかけてくることにはいまだに少し慣れないのだが。

それでも、仲間として自分を受け入れてくれているということは理解できる。

それが飛燕ことシロが自分のことを気にかけてくれているおかげだということを、箒は常に意識するようにしていた。

自分だけで今の場所を手に入れたわけではないのだ、と。

IS自体はいまだに好きとは言えないし、紅椿であったアンスラックスには隔意もあるが、全部を嫌うのはやめようと意識しているのである。

 

「「「ッ!」」」

 

ドガァンッと、いきなり響いた凄まじい轟音に三人は目を見張る。

「襲撃ッ?」

「違いますわッ、第3アリーナですッ!」

セシリアの声に従うように、シャルロットと箒が目を向けると二機のASが轟音を立てて激突していた。

「なっ、更識と鈴音っ?」

箒の言葉通り、第3アリーナでぶつかっているのは鈴音と簪だった。

その迫力は本気の殺し合いのレベルだと言ってもいい。

かなり珍しいことに大和撫子がやる気を出しているように見えた。

「あれじゃ手合わせなんてレベルじゃないよっ!」

「止めなくてはっ!」

『待ってー』

慌てるセシリア、シャルロット、そして箒に声をかけてきたのは、ずいぶんとのんびりした様子のヴィヴィだった。

『チフユー』と、ヴィヴィが千冬の名を呼ぶと、彼女の声が聞こえてくる。

[とりあえず、現状では止めなくていい]

「ですがっ?」と、セシリア。

[鈴音からの申し出でな。大和撫子に本気を出させなければならないんだ。一騎討ち、それも近接戦闘でそれができるのは更識刀奈か鈴音くらいなのでな]

なお、一夏と諒兵は男性なので除外されている。

簪や大和撫子はともかく一夏と諒兵は女の子と本気のケンカをする性格ではないからだ。

「それじゃ、ケンカしてるわけじゃないんですか?」

[一応な。まあ大和撫子に本気を出させるために鈴音がかなり煽ったんだろうが]

「何故ですの?」

[グラジオラスとの対話までに問題はできる限り解消しておきたいんだ。これは鈴音も言っていたが、私としてもそうしたい]

現状、IS学園においては、簪と大和撫子の関係が一番問題があるため、今やっておかねばならないということだと千冬は説明する。

[だからだ。止めなくていい。ただしよく見ておけ。トップクラスの近距離戦だ。そうそう見られるものじゃないぞ]

そう言われ、セシリア、シャルロット、箒の三人は半ば呆然としながら、幾度となく轟音を響かせる第3アリーナを見つめていた。

 

 

 

 

 

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