ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第29話余話「ドイツ軍の愉快な仲間たち」

ラウラが目覚める数日前の昼休み。

千冬はのんびりと昼食を食べていた。

ここ最近、忙しそうにしていたため、千冬が胃痛を起こすのではないかと心配し、一夏がわざわざお腹に優しいお弁当を作ってくれたのだ。

弟の気遣いにほろりとしてしまう。

「どうしたんですか?」

「ああ、いや、久しぶりにのんびり食べることができると思ったんだ」

「確かに。ボーデヴィッヒさんも謹慎、再教育処分で済みましたし、トーナメントも終わって、ようやく私たち教職員も一安心ですね」

声をかけてきた真耶がそういって微笑む。

ここ数日はVTシステム事件の処理で奔走していたので、まともにお弁当を食べる暇もなかった。

栄養ゼリーで腹を満たしていたときは、自分の女子力が豪快に下がっている気がして割りと焦ったものだ。

千冬とて適齢期の女性なのである。

それはともかく。

「でも、本当に良かったですね。ボーデヴィッヒさん」

「む?」

「アラスカ条約違反の片棒を担がされると思ってました」

実際、ラウラは実行犯として最悪処刑されるところだった。

化け物へと変貌したことで、他国からドイツにおけるIS部隊の解散とISコアの没収まで訴えられたほどだ。

実際、コアの割り振りは減り、ドイツ軍では現時点でシュヴァルツェ・ハーゼが所有する分のみ。

そのうちの一つであるラウラのシュヴァルツェア・レーゲンはIS学園が没収している。

つまりIS学園が生徒となるラウラに貸与するというかたちになるのだ。

そんな状況になったにもかかわらず、ラウラがほとんど無罪に近い軽い罪で済んだのは……。

「意外だがドイツ軍の上層部が奔走したらしい」

「えっ?」

「正直、私も信じたくないのだが、こんなことをいっていたんだ」

 

 

事件直後。

千冬はほとんど恫喝する勢いでドイツ軍上層部に通信をつないだ。

「つまりきさ、いやドイツ軍上層部は今回の事件にはまったく関与していないと?」

「無論だ。開発局の一部の者が勝手にやったのだ」

答えるはドイツ軍でも上級の将校だった。

曰く、その者たちの処分は既に済ませているという。

尻尾切りかと歯軋りする千冬だが、何をいっても返事は同じだろうと文句を腹に収める。

「ドイツにおける私の権限を最大限使ってでもラウラだけは処分を軽減する。この点に関しては、了承しない限り、世界中のIS操縦者を敵にまわすと思え」

ラウラを苦しめた者たちを許す気などないが、八つ当たりよりも教え子の救済のほうが大事だと思い、千冬はそう告げた。

「誤解しないでもらおうブリュンヒルデ。ボーデヴィッヒ少佐に関してはIS学園での謹慎、再教育処分を検討している」

「何?」

それはむしろ望むところであった。しばらくは自分の元で落ち着かせようと思っていたからだ。

だが、まさかこれほど軽いとは思わなかった。

聞くとこの件に関してはラウラは完全に被害者であり、首謀者に騙されたと押し通したという。

「そもそもわれわれが開発局に命じたのはVTシステムの搭載などではない。監視カメラだ」

「何だとッ!」

要はラウラの行動をISを通じて監視しようとしていたのかと再び憤る。

だが、通信機の向こうからとんでもないことを将校は叫んできた。

「わが軍の天使ッ、ボーデヴィッヒ嬢の学園生活ッ、その密着取材のためにッ!」

「……は?」

「それをあの馬鹿どもはッ、何を勘違いしたか知らんがVTシステムなど載せおってッ!」

「えっと……」

「戸惑いながらも平穏な日常を送る萌えるボーデヴィッヒ嬢の素顔ッ、そして久々に女神と絡む姿が一枚も撮れとらんッ!」

「わかった。処分はそれでいい。失礼する……」

憤るドイツ軍将校の話を聞いていると頭が痛くなりそうだったので、千冬はそっと通信を切った。

 

 

真耶が呆れ顔で問いかけてくる。

「なんですか、それ……」

「私がいたころは、もう少しまともだと思っていたんだが……」

思いだすと再び頭が痛くなってくる千冬だった。

 

ブリュンヒルデこと織斑千冬。

彼女は知らない。

ドイツ軍本部の施設には女神に拝謁する礼拝堂があることを。

そこに自分の写真がデカデカと貼られていることを。

一番人気は訓練に疲れたラウラに膝枕する千冬の優しい顔を撮った写真だということを。

つまり、千冬とともに写っていることで、ラウラは女神とともにいる天使扱いされているのである。

ラウラの処分が軽減されたのは千冬のおかげかもしれない。

断言するにはいささか問題がある気がするが。

 

 

 

 


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