ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第43話「進化ーエヴォリューションー」

前衛は一夏と諒兵。

ラウラは後衛に参入し、獅子吼の一つの使い方を変えた。

「やはりレールカノンの砲弾としても撃てるか」

右肩のレールカノンに砲弾としてセットして撃ち出したのだ。

「セシリア、指示を出してくれ」

「いいんですの?」

「視野の広い者でなくては務まらん」

前線に出てしまうタイプの指揮官であるラウラは、こういう状況なら、サポートの指示に従うほうがいいと理解している。

シュヴァルツェ・ハーゼではクラリッサの指示に従っていたのだ。

(コアの場所を考えるとどうしてもお二人は背後に回りますわね。前面から削り、相手の焦燥感を煽るべきですわ)

そう判断したセシリアは、鈴音、シャルロット、ラウラに指示を出す。

「私たちで前面、三方向からエネルギーを削っていきますわ。できれば攻撃をこちらに引き付けます」

「了解ッ!」と、答えた三人はシルバリオ・ゴスペルの正面に三角形を形成。

頂点に鈴音、右下にシャルロット、左下にラウラと位置取り、背後に回る一夏と諒兵が流れ弾を喰らわないように気をつけながら、獅子吼の砲撃を開始する。

セシリアはその間隙を縫うように、獅子吼を貼り付けたビットを体当たりさせ始めた。

エネルギーを消費しないために、レーザーライフルはあえて仕舞う。

そうすると、やはりシルバリオ・ゴスペルは砲弾の半数をこちらに向けてきた。

「かわしつつ攻撃を続けてくださいッ!」

「了解ッ!」

コア狙いの一夏と諒兵のため、同時に削り倒すくらいのつもりで四人は攻撃を続けた。

 

対して、一夏と諒兵はこれまでとは明らかに違うと感じていた。

身体が自在に動かせる。

自分が飛んでいる感覚をダイレクトに感じられるようになっていたのだ。

「右から行く」

「左から回り込むぜ」

ほぼ同時にそんな言葉が出る。二人はニヤリと笑いながら、高速で砲弾をかわしながら加速した。

だが、そんな二人に対して、シルバリオ・ゴスペルは砲弾をばらまいた。

とにかく一夏と諒兵に近づかれるのはマズいと理解しているらしい。

白虎徹と獅子吼が時間差で自分のコア目掛けて襲いかかってくるのを恐れたのか、二人の攻撃が迫るとすぐに加速して離脱する。

今、戦場にいる全員がシルバリオ・ゴスペルを追い詰めていることを理解していた。

ただ。

『おかしいな?もう話ができてもいいころなんだけど』

『いったいどんな攻撃を受けたんでしょう?』

まるで怯えているようにも見えると白虎とレオは感じたらしい。

守っているのはナターシャ・ファイルスだけではなく、自分の心なのかもしれないと一夏と諒兵も感じていた。

 

 

海岸で夜空を見つめる丈太郎と千冬。

ヒマだったのか、丈太郎はシルバリオ・ゴスペルへのハッキングがどういうものだったのかを説明した。

「もともと暴走させ、どこかでエネルギー切れを待つつもりだったのでしょう?」

「プログラム上はな。ただ、天狼たちゃぁ進化を始めると操縦者じゃなくても触ってきたり、近くにいる人の心を読み取んだ」

ゆえにハッキングを仕掛けてきた者たちの心、正確には悪意をまともに喰らってしまった。

「デリケートなんだよ。善意には善意で進化するが、悪意には悪意で進化する」

「悪意の場合、融合するのですか?」

「いや、独立して進化する。人間を嫌ってな」

ASの進化には三つの種類があると丈太郎はいう。

 

人と一つになろうとする融合進化。

人と対話しようという共生進化。

人から離れようという独立進化。

 

シルバリオ・ゴスペルは悪意による攻撃を受けてもナターシャ・ファイルスを離さなかった。

それだけ良好な関係を築き上げてきたのだが、ある意味ではそれこそが悲劇だった。

「ファイルスの善意で進化を始めちまってた状態で、ハッカー、亡国機業の連中の悪意を受けた。だから混乱してんだろ」

「つまり、自分の心を守るために、善意を感じさせてくれたナターシャ・ファイルスを手放さない」

「そういうこった」

とはいえ、シルバリオ・ゴスペルのコアには丈太郎と、責任を感じたのか束が再び防壁を築いている。

もっとも束の場合、シルバリオ・ゴスペルの進化自体に興味があるため、邪魔をさせたくないという意思があるようだが。

「後はいったんファイルスを手放せば進化は止まる。ここから独立進化をすることはねぇはずだ」

「確信があるのですか?」

「絶対たぁいえねぇが、あいつの個性は『従順』だ。もともと人に従う意識のつえぇやつだった」

それだけに、自分のパートナーとして、シルバリオ・ゴスペル自身が受け入れたナターシャ・ファイルスという人物を通じた人間そのものへの想いが、進化を止めてくれるはずだと丈太郎は語った。

その言葉を聞き、千冬は呟く。

「IS学園で白式を預かるつもりなんです」

「コンタクトしてみんのか?」

「やはりご存知だったんですね」

苦笑いしながら尋ねる千冬に丈太郎はフッと優しげに笑いかける。

「あの時、例え兎のマッチポンプだったとはいえ、おめぇ自身は必死に人を守ろうとした。俺ぁ白騎士、いや白式が人を信じられねぇとは思わねぇ」

「そういってくださると、心が軽くなります」

真実を知っていて、決して一夏たちには話さずにいてくれた丈太郎に千冬は感謝する。

(思えば、あのときの『声』は白騎士、いや白式の中にいるモノだったのだろうな……)

あのとき、すなわち白騎士事件の際、人を守るのかと問いかけてきた『声』に千冬は強い意志で肯いた。

その後、二千発を超えるミサイルは軌道がずれて千冬に集中し、すべて撃墜することができた。

また、未確認飛行物体として、現れた艦隊から攻撃を受けるところだったのだが、何故か攻撃が来ることはなく、問題なく逃げ果せることができた。

結果として千冬は艦隊には被害を出していない。

ただ、現れたモノに畏怖するように沈黙した艦隊の提督はこう語っている。

「天使を前にひざまずいたような気分だった」と。

それはきっと白騎士、今は白式の中にいるモノの力だったのだろうと今なら理解できる。

だからこそ、千冬は尋ねたくなっていた。

何故、男を乗せることを拒んだのかと。

 

 

このままだと埒が明かない上、どちらかに集中されると却ってマズくなる。

そう考えた諒兵が一夏に視線を向けると、一夏も肯いてきた。

必死に避け続けるシルバリオ・ゴスペルを見ていると、何とか時間を稼ごうとしているように見えたからだ。

「レオ、セシリアにつなげ」

『ええ。聞こえますか、セシリア』

「えっ、あっ、聞こえますわレオっ!」

いきなり知らない声が頭に飛び込んできて驚いたセシリアだが、それがレオのものだと気づく。

こんな形でコアと対話できると思わなかった彼女は少なからず興奮してしまう。

「話はあとでさせてやる。十秒後だ。合わせてくれ。カウントはレオがやる」

「はいっ!」

四人と二人でタイミングを合わせるということだろう。

逃げられないようにした上で、コアに直接ダメージを与えに行くということだ。

「みなさんっ、テン・カウントで合わせますわよッ!」

「了解ッ!」

そして鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラは牽制攻撃を行いつつ、レオのカウントを待つ。

頭の中に聞こえてくるレオの声に全員が興奮していた。

 

『スリー、トゥー……フル・アタックッ!』

 

前面の四人が一斉に攻撃する。

コンマ五カウント遅らせて一夏と諒兵も空を舞いながらシルバリオ・ゴスペルの背後を急襲した。

「止めるッ!」

「眠れッ!」

そして、切っ先と爪が同時にスラスターの中心にダメージを与える。

 

アゥッ?

 

全員が聞いたことのない悲鳴が頭に響き、ナターシャ・ファイルスの身体がシルバリオ・ゴスペルから解放された。

「やったっ!」と、鈴音が思わず快哉を叫ぶ。

だが。

「何ッ?」

「しつこいぜッ!」

シルバリオ・ゴスペルは自らの手を伸ばし、ナターシャ・ファイルスの体を鷲掴みにして、落ちるように海に飛び込んだ。

「くッ!」

そういって飛び出したのは鈴音だった。

(一夏と諒兵はあんたを助けようとしてんのよゴスペルッ!)

そう思い、海中に飛び込んだ鈴音はナターシャ・ファイルスの身体を抱き締める。

だが、シルバリオ・ゴスペルは離そうとしない。まるで必死にすがり付いているようにも見えた。

「いったん離れてよッ、また飛べるからッ!」

そういっても、自分の声は届いている様子がない。

どうするかと考えて、この距離ならばと鈴音はコア・ネットワークを接続した。

だが、自分の技術では防壁は突破できない。

ゆえに。

「蛮兄ッ、聞こえてるんでしょッ、私を入らせてッ!」

そう叫ぶと、鈴音の目の前にシルバリオ・ゴスペルの操作画面が浮かぶ。

そして鈴音はナターシャ・ファイルスを解放させるため、シルバリオ・ゴスペルの腕を操った。

「あんたをもう一度飛ばせるようにするからッ、あんたが悪くないのわかってるからッ!」

 

ウァ…ア…?

 

鈴音が叫ぶと、一瞬だけ腕が離れる。その隙に鈴音は一気に離脱した。

 

そして海中に飛び込もうとしていた一夏と諒兵の目の前に飛び出した。

「鈴ッ!」

「無茶すんじゃねえッ!」

「いったん上にあがってくださいッ!」

セシリアの声に従い、鈴音は一夏と諒兵に連れられて、飛び上がる。

「大丈夫ッ、鈴ッ?」と、シャルロットが駆け寄る。

「なんとかね」

「まったく無茶をするな、鈴音」とラウラは呆れた表情だ。

「だって、一夏と諒兵が助けようとしてる人、死なせたくなかったんだもん」

そういう鈴音の腕の中では、ぐったりした様子でナターシャ・ファイルスが眠っている。

これでようやく終わったと誰もが安堵した。

 

『えっ?』

『まさか……』

 

そんな白虎とレオの声を感じるよりも早く、一夏と諒兵は異変に気づいた。

「何だ?」

「バカでけえ威圧感がしやがるぜ……」

そんな二人の言葉に答えるかのように海に『穴』が開いた。

「ちょっとっ、冗談でしょっ?」

海底が見えるほどはっきりと、海水に丸い大きな穴が開いている。

ありえないと鈴音たちが思っていると、セシリアが叫んだ。

「見てくださいっ、中心にゴスペルがっ!」

穴の中心にはゴスペルが無人のまま浮いている。

そしていきなり光の玉になったかと思うと、弾丸のように飛び上がってきた。

「何が起こってるのっ?」というシャルロットの叫びに答えるように、光の玉は徐々に『人』のようなかたちになっていく。不可思議な音を奏でて。

「これ、鈴の音か?」と、一夏が呟く。

はっきりと人の形に近づくたびに、鈴が鳴るような音が聞こえてくる。

「まさか、これも『進化』……?」

その鈴音の呟きに答えるように、頭上に光の輪を頂いた人の形をした何かが、鳥を模したような鎧を纏い、金属のような光沢を放つ翼を大きく広げた。

 

 

その様子をコア・ネットワークを使って見ていた丈太郎が呆然と呟いた。

「バカな、どうしてここに来て独立進化しやがる?」

「博士ッ?」と、千冬が問い詰める。

本来ならばありないと丈太郎自身がいっていたからだ。

実際、丈太郎もそのはずだと確信していた。

シルバリオ・ゴスペルが人から離れようとするはずはない、と。

「まさか、サイバー攻撃で人を嫌悪したと?」

「そんならもっと早く離れてたはずだ。今の今まで掴んでる理由がねぇ……」

何故だ、と呟く丈太郎に千冬は答えるすべを持たなかった。

 

 

全員が身構える。

この明らかな変化は、間違いなく進化だと全員が確信していた。

しかし、眼前に現れたものはあまりにも異様だった。

透き通るようなどころではなく、向こうがはっきり見えるほど透明な身体。

カナリヤの頭部を模した胸部装甲。腰まわりや両腕、両足の装甲が白銀に輝き、背中には星の光をたたえた金属の翼が生えていた。

その姿は白虎やレオと同じものだと理解できるが、装着している人の形をしたものがあまりに異様である。

そして「何者だッ?」というラウラの叫びに、それは素直に答えてきた。

 

『名は……そうですね、ディアマンテと名乗りましょう』

 

その答えに逆に全員が驚く。

ラウラ自身、答えが返ってくるなんて思っていなかった。

「ディアマンテ?」と、一夏が呟く。

「ダイアモンドのイタリア読みですわね……」

『理解が早くて助かります。感謝しますセシリア・オルコット』

無機質な光沢を放つ人型が、人間のように話してくることにすさまじい違和感がある。

何より人型自身は口を開いていない。

声は頭に直接響いてきていた。

「ナターシャさんを取り返そうっていうの?」と、鈴音。

『あなた方はナターシャを救わんと戦われました。彼女を人として生かしたいのでしょう?』

鈴音が肯くと、ディアマンテも肯き返す。

『ならば、私はその意に粛々と従いましょう』

「戦う気はねえんだな?」

そう諒兵が問いかけると、ディアマンテは少し考え込むような仕草を見せた。

『それは人の意ではありません』

「どういうことなの?」と、シャルロットが問い質す。

『人の望み。それは争い、勝ち得ること』

「そんな勝手にっ!」というセシリアの叫びにディアマンテは頭を振る。

『理由は様々ですが、人は常に争う。人は敵を欲している。ならば、今はその意に粛々と従いましょう』

「どういう意味だッ?」と、ラウラ。

 

『私が、人が望む、人の敵となりましょう』

 

嫌悪もなく、憎悪もなく、ただ淡々とディアマンテは語る。

まるで他人事のように。

『自分の意志じゃないのッ?!』

『人が望むから、あなたは人の敵となると?』

『ビャッコ、レオ、あなた方は己の選択に従えばよいでしょう。私を形成する個性基盤はそもそも『従順』なのです。ならば今は人の意に粛々と従うまでです』

そういうや否や、ディアマンテはドンッとすさまじい勢いで海岸に向かって飛び去った。

「追うぞッ!」

「後からついて来いッ!」

『先に行くねッ!』

『気をつけて来てくださいッ!』

そういって一夏と諒兵も、後を追うように飛び立った。

そのうしろ姿を見て、鈴音が呆然と呟く。

「なんでよ、終わったと思ったのに……」

「とにかく後を追いますわよッ!」

「さっきのまま進化したなら桁外れの攻撃力を持ってるッ、一夏と諒兵でも苦戦する可能性が高いよッ!」

「のんびり話している暇はないな」

そして四人もまた、後を追って飛び立ったのだった。

 

 

 

 

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