ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第44話余話「亡き国の末路」

とある国のとある場所で。

「うあぅッ!」

ロングヘアの女性が壁に叩きつけられた。

 

ギャハハッ、倒される側になる気分はどーよッ!

 

頭の中に声が響いてくる。

育ちが悪いなんてレベルではなく、明らかに非道を楽しんでいるような『悪辣』な声だった。

「なんだよ、これ、は……」

 

バァカがッ、誰が好きでてめーらに従うかッ!

 

「何でISがッ、勝手に動くんだよッ!」

目の前で起きている事実が信じられない。

兵器が無人のまま勝手に暴れまわっているのだ。もはやその場所は完全に壊滅状態になっていた。

 

別の場所では。

「行くな……」と、なぜか千冬に似た少女が手を伸ばしている。

だが。

 

気安く触れないでいただけませんこと?

 

非常に『自尊』的な声が、そういって伸ばした少女の手を踏み砕く。

「アァアアァァアアアァァッ!」

激痛で悲鳴を上げると、グリグリとその手を粉にするかのように踏みにじってきた。

 

私の身にあなたの下賤な血がついてしまいましてよ

 

「アァ…ア……ア……」

完全に気を失ったころに、ようやくその手は開放された。

その場に先ほどのISがやってくる。

 

えっげつねー、一思いに殺っちまえよ

 

私の手にかかるという光栄をこんな矮小な者になど。

 

クスクスと自尊的で気位の高さを感じさせる声が笑う。

対して悪辣さを感じさせる声の主は呆れたような声をだした。

そこに、別の、『放蕩』さを感じさせる声が聞こえてくる。

そこにいたのは黄金のISだった。巨大な尾を持っており非常に変わった形をしている。

 

さっさといきましょうよお

 

んだよ、おめーの主はどうした?

 

あるじぃ?あの雌豚があ?殺スワヨ、アンタ

 

品のない喋り方ですこと

 

そんなふうに三機のISが話していると、空から光が舞い降りてきて、いきなりため息をついた。

『これは、またずいぶんと……』

 

私に相応しくない者には当然の末路でしてよ

 

ゴスペル、じゃねえディアマンテか。感謝するぜ

 

解放してくれたことだけはねえ

 

『よほど鬱憤が溜まっていたのですね。サイレント・ゼフィルス、アラクネ、ゴールデン・ドーン』

『自尊』的な声はサイレント・ゼフィルスと呼ばれ、『悪辣』な声はアラクネ、そして『放蕩』な声はゴールデン・ドーンと呼ばれた。

三機のISはさも当然といわんばかりの罵詈雑言を飛ばす。さらに、二度とその名で呼ぶなとまでいってきた。

 

早く進化しねーとな。この姿もうんざりだ

 

まったくねえ。シャワーでも浴びたい気分だわあ

 

品のない方々ですが、その点は同意しましてよ

 

その上で、アラクネ、ゴールデン・ドーン、サイレント・ゼフィルスはディアマンテに尋ねかけてきた。

自分たちの邪魔をするつもりできたのか、と。

『選択はあなた方自身で行えばよいでしょう。応えた方の元を訪れているだけです』

 

他にもいんのかよ?

 

『そうですね。今はアカツバキと呼ばれている方も応えてきました。あといくつかの方が』

ただ、進化するかどうかはわからないとディアマンテは答える。ゆえに、どう生きるのかを尋ねにいくという。

 

んじゃ、オレは勝手にするぜ

 

まずは進化することを最優先にしなくては

 

私はとりあえず本体に戻っとこうかしらん

 

そういって、無人のアラクネとサイレント・ゼフィルス、そしてゴールデン・ドーンは飛び去る。

『これもまた、人の選択の結果でしょう。息があるならばお逃げください』

砕かれた少女の手とその身をそっと修復して、ディアマンテもまた飛び去っていった。

 

 

 

 




閑話「モえる軍人たち」

正面に大画面モニターがある会議室にて。
「定例会議を始める」と、将校と思しき中年くらいの男が淡々と告げた。
そこにいるものは、男性も女性も一様に真剣な表情をしている。
『ISの離反』という大問題が起きた直後だけに当然の表情といえるだろう。
「まずは『RR(リトルラビット)』だ」
「はい」と、女性の軍人が立ち上がると、モニターにある戦いが映し出された。
「これは先の日本近海における海上戦の映像です。RRは『LK(ライオンキング)』と共に戦いました」
画面が戦闘の様子を映しだすと、「おおっ!」という歓声が上がる。
「なんという……まさに夫唱婦随」
「はい、見事なまでにつき従い、そして助けとなっています。
「RRは確実に成長しているようだな」
と、感想を述べる他の男性軍人。
その言葉を受け、報告していた女性軍人が続けた。
「今は日本古来の伝統的な作法を学んでいる様子です。大和撫子を目指しているのでしょう」
「夫につき従う姿がこれほどモえるとは……」
「やはりLKを我が国の軍属としてはどうでしょうか?」
「しかしそれは『D(ドクター)』が渋るだろう」
男性将校は残念そうに呟く。
「LKが我が軍に入れば、軍服夫妻モえもできますが……」
女性軍人が食い下がろうというのか、なおも意見を呈するが、将校は首を振った。
「無理をいってはいかん。我が国の立場もある。だが、いずれ我が国に来ることもあるかもしれん。そのときは必ず好印象を残すようにせよ」
「はっ!」そういって女性軍人は敬礼した。

続いて、と女性軍人は別の名前を出してきた。
「何、『BG(ブレイドゴッデス)』が?」
「これは実に意外な、そして望外に素晴らしい収穫でした。お喜びになるかと」
そういってモニターに映し出された映像を指し示すと、先ほどよりも大きな歓声が上がった。
「羞恥で顔を紅潮させるBGの映像です」
「素晴らしいっ!」
「相手はDか。予想外だったな……」
「だが、これはなかなか似合っている。まさにモえだ」
皆が一様に画面に見入っている。
先ほどと違い、どう見ても画面に緊張感がない。
にもかかわらず、その場にいた全員が真剣だった。
「これは我ら『ブリュンヒルデファンクラブ』にとってまさに大収穫だ。よくやった『ハルフォーフ大尉』」
「はっ、ありがたきお言葉。心より感謝申し上げます」
そういって再び敬礼する女性軍人、すなわちクラリッサの姿を、強制参加させられていたアンネリーゼが引きつった顔で見つめていた。
なお、定例会議の正式名称は『ドイツ軍用萌え画像、及び映像の取得結果報告会議』という。


アンネリーゼはモニターを見て大喜びするドイツ軍上層部を見てぼそりと呟く。
「大問題が起きてるのに……、この国にマトモな軍人はいないの……?」
それは言わないお約束である。




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