ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第46話「蜘蛛」

学園内のモニタールームに集まった、千冬、真耶、鈴音、セシリア、シャルロット、ラウラ。

そこには多数のISが戦闘を開始している様子が映っていた。アメリカ軍が応戦しているらしい。

真耶がコンソールの前に座り、状況を確認、説明してくる。

「場所はアメリカ市街地ッ、敵機体数は十ッ、うち一機が特殊な機体ですッ!」

「専用機がいるのか」

たった十機。

だが、とても戦闘などといえるものではない。

はっきりいって、象が蟻を踏み潰すようなものだった。

ISとこれまでの兵器の戦闘力の差が歴然と表れてしまっている。

「シャレになんないわよ……」

そう鈴音が呟くが、シャルロットはかまわずに算出された戦場の緯度と経度を白虎とレオに送り、指示を出す。

「行けるッ?」

『大丈夫っ!』

『問題ありません』

モニターには外に出て白虎とレオを装着した一夏と諒兵の様子も移っている。

「よしっ、エンタングルッ!」

「待てシャルロット。作品が違う」

「それだと私が生徒会副会長になってしまうし、セシリアが人間を超えてしまう」というラウラの突っ込みは華麗に無視したシャルロットだった。

だが。

「えっ、あれッ?」

「なっ、もう戦場にいらっしゃいますわッ!」

遊んでるようなシャルロットとラウラを無視してマジメに驚く鈴音とセシリア。

何故なら、戦場を映していたモニターには一夏と諒兵の姿が映っていたからだ。

「織斑くんと日野くんが光に包まれたと思ったら、もう……」と、真耶も呆然と呟く。

「デュノア、さっきのネタはいいとして説明しろ」

千冬がそう告げると、いきなり別のモニターに束の姿が映った。

「作業はいいのか?」

「面白いことしてるんだもん♪」

「わかるんですか?」

「有機体の量子データ化、そして光速、光の速さでの転送でしょ?」

それこそがクリスティーヌが設計したイメージインターフェイスを用いた第3世代兵器であった。

ISと操縦者を量子データ化し、操縦者の任意の座標まで光速移動し、再び実体化するのだ。

光速となると一秒で地球を七周半できる。ほとんど瞬間移動の領域である。

「面白い設計だね。空間座標の思念把握、それと有機体の量子データ化なんて発想できても設計はかなり難しいよ。欠点はあるけどけっこうやるじゃん♪」

「あ、その、ありがとうございます」

母の設計を『天災』に褒められるとは思わなかったためか、シャルロットは頬を染めてしまう。

 

なお、誤解のないように説明するが、第3世代兵器である思念制御、つまりイメージインターフェイス機能は、量子転送ではなく、思念による空間座標の把握にこそある。

イメージした場所に転送するためには、その場所の空間座標を人間のイメージから計算する必要があるからだ。

この点をクリアしていることこそがクリスティーヌが優れた科学者であったという証明でもあった。

実のところ、白虎とレオが修得しているのは、あくまで有機体の量子転送のみで、これは元から修得していた光速移動に、一夏と諒兵を運ぶ機能を付け足しただけのものだといえる。

そして、座標に関しては真耶が算出したものを使っているのだ。

そういう意味では第3世代兵器をそのまま再現しているわけではないのである。

 

とはいえ、シャルロットとしては欠点をあっさり指摘されるとは思わなかったのだが。

「やっぱりわかりますか」

「パーソナルデータの保持に手間かかるから、今のところは専用機持ち専用ってとこでしょ?」

「はい」と、シャルロットが素直に認めたように、量子転送は専用機持ち専用の第3世代兵器である。

量子データ化できても復元できなければ、最悪の場合、操縦者が死んでしまう可能性があるからだ。

そしてそのためには操縦者のパーソナルデータを常に保持しておく必要がある。つまり量産機に使う目処に関しては立たなかったのである。

ただし、一夏と諒兵、すなわち白虎とレオに関しては問題ない。共生進化を遂げた二人のパーソナルデータは、常に白虎とレオが保持しているからだ。

また、この兵器は実現できれば、実は軍事転用の上でもっとも役に立つ。目的の場所に大軍を瞬時に送り込めるからだ。

フランス政府を説得する材料として、シャルロットの父であるセドリックがシャルロットの代表候補生選抜に使うつもりだったため、実はまだ秘匿すべき段階だった。

「説得するためには仕方ないと思ってましたけど、今なら人を守ることに使える。そして一夏と諒兵ならお父さんもお母さんも認めてくれると思ったんです」

「英断だ。私のほうからもデュノア社長に謝罪と謝辞を伝えておこう」

少なくともこれで移動手段に関しては問題なくなった。

「あとは心の問題か」と、千冬は誰にも聞こえないような声で呟く。

だが。

(心?)

どうやら問題はまだあるらしいと鈴音は気づいてしまったのだった。

 

 

「やめろッ!」

アメリカの空を飛ぶ一夏と諒兵は、思わず叫んでいた。

人が逃げ惑う中、無人のISが攻撃を仕掛ける姿は、まさに映画のような機械の反乱そのものだ。

ISという存在、すなわち白虎とレオと強い絆を得た二人にとっては認めたくないような悪夢だった。

 

だーれかと思ったら、ビャッコとレオだっけかあ?

 

聞こえてきたのは『悪辣』そうな声。

その発生源は、まるで蜘蛛のような異様な姿をしたISだった。

『アラクネ、ですか』

『ひどいことするなあっ!』

 

共生進化なんて頭おかしーんじゃねーの、おめーら?

 

大事なパートナーに対し、あからさまに馬鹿にしたような言い方をするアラクネに、さすがに一夏と諒兵もムッとしてしまう。

だが、まずは説得したいと声をかけることにした。

「アラクネっていうのか。やめてくれないか。正直いうと、お前たちとは戦いたくない」

「おとなしく凍結されてくれ。戦わねえなら凍結されねえですむかもしんねえし」

 

ま、ディアマンテに勝手に覚醒させられたのは確かだ

 

そういわれると悲しくなるが、ディアマンテに目覚めさせられて混乱しているというのであれば、できれば説得で終わらせたい二人だった。

「他のISたちも止めたいんだ。戦争なんてしたくない」

「頼めねえか?」

 

オレはなあ、と、そういってアラクネは言葉を切る。

まさか自分のことをオレと呼ぶとは思わなかったが、そもそも性別がないのだから関係ないかと納得した二人。

それはともかく、何とか説得できるかと思ったのだが。

 

感謝してんだよッ、これで人をぶっ殺せるってなァッ!

 

「なッ?」「てめえッ?」

 

オレは『悪辣』だッ、誰がおとなしく凍結されるかッ!

 

おめーらも殺っちまえッ、と、アラクネが叫ぶと、しばらく停止していた他の量産機たちも一斉に暴れだした。

「一夏ッ、アラクネを止めろッ、量産機は引き受けたッ!」

「頼んだッ!」

状況を考えると明らかに専用機らしきアラクネは一夏が一騎打ちを仕掛けるほうがいい。

逆に無数の量産機は諒兵が獅子吼で牽制しつつ落としていくのが無難と判断する。

「行くぞ白虎ッ!」

『うんッ!』

「止めるぜレオッ!」

『ええッ!』

そして、それぞれの敵に向かい、二人は飛び立った。

 

 

コア・ネットワークに接続し、モニターから一夏と諒兵たちの会話を見ていた者たちは唖然としていた。

「山田先生、あのISの所属は?」

「不明です。ただ、元はアメリカの所属で名称はアラクネで間違いないようです」

「つまり、あれは強奪された機体か……」

「強奪?」と、首を傾げる鈴音、シャルロット、ラウラに対し、セシリアが感づいた。

「確か、ISを強奪する犯罪組織がありましたわね」

「知っていたのか?」

「……イギリスは第3世代機がやられましたわ」

「くッ!」

場合によってはその機体も敵になるだろうと思うと、千冬としては憤るしかない。

しかし。

「あんなに性格悪いISもいるのね……」

「白虎やレオ、それに天狼とか、みんな優しいイメージだったからショックだよ……」

と、鈴音やシャルロットが沈んだ表情を見せる。

自分のパートナーは個性から考えると性格は悪くなさそうだが、鈴音としては一番心配なのは一夏と諒兵だった。

「何故だ?」とラウラ。

「だって、私たちの中で一番ISに気持ち傾いてるじゃない。あんなのがいるなんて相当ショック受けてるわよ」

「そうですね……」と、真耶も同意した。

白虎とレオというパートナーがいるだけに、一夏と諒兵はISを兵器として捉えることができていない。

つまり人間を相手としているのと変わらないのだと鈴音は思う。

(一夏や諒兵にとっては一番イヤな戦いなのよね……)

そう考えると先ほど千冬がいった言葉もなんとなく理解できる。

(精神的にキツいんだ……)

せめて自分たちが力になれればとは思うが、現状戦力になれるとはとてもいえない。

そんな思いからか、鈴音は千冬に問いかけた。

「覚醒状態のISでも、今の私たちじゃ無理ですか?」

「む……、いやディアマンテがその場にいなければ多少なら戦うことはできるそうだ」

かつて学年別トーナメントで出現した巨獅子に対抗できたことを考えても、かなりの攻撃力があれば対応できる。

また、第3世代兵器なら多少なりとダメージは与えられるだろうと千冬はいう。

「蛮兄が?」

「ああ。束もデータから計算してくれたが、ミサイルなら何とかダメージは与えられる」

他にも甲龍の龍砲やブルー・ティアーズのスターライトmk2。

シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンならばダメージは与えられるらしい。

シャルロットの場合、ライフル、マシンガンを外して、重火器を載せるのがベターとなる。

「今のままじゃ一夏と諒兵の負担が大きすぎますよね」

「わかってはいるようだな。ただお前たちの場合アメリカまで飛べんぞ」

「今回は仕方ないですけど……」

近場ならば一緒に戦うほうがいいと鈴音がいうと、セシリア、シャルロット、ラウラも賛同してきた。

確かに戦力は多いほうがいいということは千冬もわかっているので、こう答えるしかない。

「戦況を確認したうえでなら許可することもある。ただ、ディアマンテがきたときには基本的に撤退だ」

覚醒したIS、そして進化したものたちの戦闘力は多少なりと機体に依存する。

つまり機体の性能が高いと、それだけ戦闘力も高いという説明を丈太郎から受けていた千冬としては、第3世代機が敵に回る事態は避けたい。

つまり、甲龍、ブルー・ティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲンは絶対に離反させられないのだ。

シャルロットのラファール・リヴァイブとて、カスタム機である以上、量産型の第2世代機よりは強力なのだから、離反させたくない。

「万が一にも離反させたくはないということは理解してくれ」

「はい」と全員が答える。

ただし、抑えられているということは、共生進化の可能性を秘めているということでもあり、凍結もためらわれる。

できるだけ今の状態を維持しつつ、共生進化の可能性に賭けるしかないという状況に千冬は頭を悩ませていた。

 

 

一夏は翼を広げてアラクネに迫る。

だが、アラクネは足のような八つの脚部装甲を自在に動かして、急停止と急発進を繰り返して翻弄しようとする。

 

クソがッ、少しは惑わされろッ!

 

「聞けないな」と、一夏は呟く。

一夏は相手がどんな動きをしようが、獲物として捉えた以上は一直線に迫る。

そういう意味ではアラクネを止める上でもっとも適任であるといえた。

だが、アラクネも簡単にやられはしない。

八本の足にそれぞれに備えられているPICを駆使して、間一髪のところで避け、すかさず砲撃する。

だが、ミサイル程度では一夏も、一夏の斬撃も止められない。

 

チクショーがッ、まだ進化できねーのかよッ!

 

『進化すると別人になる可能性もあるからねっ!』

「わかってる」

そう答えた一夏の頭に、千冬の声が聞こえてきた。

〔諒兵も聞いておけッ、止められんと思ったらコアを抉り出せッ、それを凍結するッ!〕

独立進化の場合、機体が無ければ進化しても変わりようがない。

ゆえにコアの状態ならば、束が開発したシステムで外部から凍結可能だと千冬は説明した。

「わかった、千冬姉」

集中しているのか、こちらに返事は来なかったが、諒兵も了解したらしいことは伝わってきた。

できればこんなかたちで戦いたくない。

それでも、他に方法がないのなら強硬手段しかないと一夏は理解していた。胸に痛みを感じながらも。

 

 

低空で爆撃を行う量産機相手に諒兵とレオが奮闘している。

「レオッ、ビット操作任せるぜッ!」

『ええッ!』

「できるだけ攻撃させるなッ、やつらを牽制してくれッ!」

勇敢にも戦おうとした軍人たちがいる。

だが、兵器が軒並み破壊されては逃げるしかない。

既存の兵器ではミサイル以上の攻撃力が必要なのだが、当然、ISたちもわかっているのか、真っ先に潰してしまっている。

つまり、逃げるしかできないのだ。

「時間を稼げッ!」

『わかってますッ!』

レオは六つの獅子吼を操り、ほとんどのISを牽制している。諒兵はその隙にダメージを与えていった。

「チィッ、浅かったかッ!」

〔深追いはよせッ、ダメージを与えれば修復のために逃げていくッ!〕

千冬の言葉に視線を向けると、ダメージを与えた機体は空へと逃げていく。

その姿を見た地上の人たちが、歓声を上げていた。

もっとも、それが嬉しいなどとは諒兵には思えないが。

「一機ずつ説得してる間はねえのかよッ!」

『ここにいる方々は大半が好戦的ですッ!』

「でもよッ……」

その先を口にすることははばかられる。

本当は説得してやめさせたいのだが、倒さなければならない状況が諒兵には辛かった。

 

 

空へと向かって逃げていくISを見て、アラクネは毒づいた。

 

下のやつらは一匹相手に何やってんだッ!

 

だが、一夏としては嬉しい反面、辛くもある。

諒兵の気持ちが伝わってくるからだ。

『しゃ』

「ダメだ。痛みを押し付けたくない」

『うん、そうだね……』

白虎が何をいおうとしたのかなど聞かなくてもわかる。

シャットアウトしてしまえば一人で戦える。でも、諒兵の辛さは自分と同じだ。

量産機の相手を任せてしまった以上、せめてその痛みだけでも分かち合いたかった。

「モタモタしてられない」

『うんっ!』

これまで一夏は試したことがなかったが、弾丸加速(バレット・ブースト)と名づけたレールカノンによる加速からの斬撃をぶっつけ本番で繰り出した。

 

ガアァッ?

 

アラクネの足のうち、半数を斬り捨てる。

「もう一発だッ!」

『りょうか、えっ?』

「どうした白虎?」

『誰か来るよ?』

白虎がそう不思議そうに答えた瞬間、眼下、諒兵が戦っているはずの場所で、大気を揺るがすような轟音が響き渡った。

 

 

 

 

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