ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第5話「覚醒する獣」

セシリアとの模擬戦が決まってから数日。

一夏と諒兵は武道場で手合わせを続けていた。

戦うための兵器なのだから、戦っていれば何かヒントが得られるだろうと、わりと安直に考えたためである。

とはいえ。

「今日こそ、お前の邪剣を修正してやる」

「いや、箒。俺、剣はこれでいいんだけど……」

ことあるごとに箒が割り込んできて一夏と仕合いたがるので、諒兵は暇を持て余していた。

仕方なく、箒の相手を一夏に任せて、学園の構内を歩く。

いつもは見学に来る女子生徒にISの展開のやり方などを尋ねていたのだが、何度も同じことを尋ねても仕方ないと考えたためである。

もっとも教師である真耶に聞いた方法が上手くいかないのだ。最初から見込みはなかったといっていい。

「どうしたもんかな」と、呟きながら、中庭のベンチに腰掛け、諒兵は空を見上げた。

「せっかくIS動かせるらしいのに、展開できねえんじゃ空飛べねえよなあ」

一夏も同じように愚痴をこぼしていたことを思いだす。

 

空を飛んでみたい。

 

もともとそんな軽い気持ちで打鉄に触れた二人。

それがいまや男性IS操縦者として女子に囲まれて勉強する日々を送っている。

せっかく動かせるのなら、本当に空を飛んでみたい。

一夏も諒兵もそう思いながら、ISが展開できないことを残念がっていた。

「空を飛びたいの?」

「ん?」

諒兵に声をかけてきたのは色素の薄い水色を思わせる髪に赤い瞳をした少女。

美人なのは確かだが、女狐といった雰囲気を纏う扇子を持った上級生だった。

顔を半分隠しているが、見覚えがある。かつて真耶が写真つきで教えてくれた人物の一人だ。

「あんた、ロシアの国家代表……」

「あら、私のこと知ってるのね。残念」

「なんでだよ」

なかなかいい性格をしているらしい。

しかし、IS学園に国家代表がいるとは思わなかったと諒兵は思い、尋ねてみる。

「私はここの生徒会長でもあるの。2年の更識楯無よ。よろしくね、日野諒兵くん」

変な名前だな。

そう思ったが口には出さないように努力した諒兵だった。

言ったが最後、絶対に酷い目にあうと直感したためである。

「俺のこと知ってるんだな」

「あなたと織斑一夏くんのことを知らない女子生徒はいないんじゃない?」

「有名人は辛いぜ。心の底からマジで」

「苦労してるみたいね」と、楯無は楽しそうにクスクスと笑う。

人の苦労を楽しんでるようなのに、何故か癇に障らない。

彼女自身、相当な苦労を重ねてきたことが雰囲気から伝わってくるからだ。

「それで、空を飛びたいのかしら?」と、楯無は最初の質問を繰り返してくる。

話しても無駄にはならないだろうと考えた諒兵は、自分たちがISに触れることになった経緯を説明した。

「なるほどね。ISに乗りたがる男の人ってたいてい女尊男卑を嫌がる人だと思ってたけど。あなたたちみたいな子もいるのね」

「俺は、いや一夏もそうだけどよ。女だから強いとは思ってねえよ。ある人の受け売りだけど、肉体的な違いはあっても、『人の強さ』ってのは誰にでもあるってよ」

「なかなか深い言葉ね。ISが出てから鼻に付くような女の人が増えて、私もうんざりしてるわ」

楯無は実力があるだけに、女尊男卑を利用してふんぞり返るだけの女が気に入らないのだろう。

嫌いなタイプじゃないなと諒兵は思う。

「いい言葉を聞かせてもらったから、アドバイスしてあげる。『人は自分の力では飛べない』わ。よく覚えておいて」

「なんだそりゃ?」

疑問符を頭に浮かべる諒兵に笑いかけながら、楯無は去っていった。

 

 

物陰に身を潜めた楯無は、すぐにある人物に連絡する。

「本当にあんなアドバイスでいいんですか?」

「……」

「はい。そうおっしゃるのでしたら」

「……」

「わかりました。失礼します」

そこに影が近づいてくる。

すかさず扇子を畳み、先ほどの笑顔とはまったく正反対の厳しい顔で喉元に突きつけようとして。

「まだ未熟だな、更識」と、あっさり払いのけられた。

千冬である。

「脅かさないでくれます?」

「相手は?」

「博士です。今までほったらかしだったのにいきなりアドバイスを伝えてくれと言われましたので。その報告です」

とはいっても、あれがアドバイスになるのかはいまひとつよくわからないと楯無は語る。

その言葉を聞き、千冬は一つため息をついた。

「束と違って博士はおそらく誰よりもISを理解している。束はたぶん『作り方を知っている』だけだろうな」

「漠然とは理解してらっしゃるのでは?」

「そうだ。漠然とは理解しているんだろう。それだけで作れる才能が束にはあった。ただ、IS、特にコアがなんなのかは理解していないと今は思う」

「織斑くんと日野くんは……」

「あの馬鹿者どもは理解するかどうか以前に、一足飛びでコアの深淵に至ってしまった。そんな気がしてならん」

「二人のISが姿を現したときが見ものですね」

「それがISならばいいがな」

そういってため息をつく千冬に、自分が持つ専用機たるISを思い、身を震わせる楯無だった。

 

 

夜。

諒兵は一夏に楯無から聞いたアドバイスについて説明していた。

「人は自分の力では飛べないって、当たり前だろ、それ」

「そうなんだよな。正直わけわかんねえ」

だからIS着て飛ぶんだし、と、続ける諒兵に一夏も肯いた。

アドバイスというにはあまりに当然のこと過ぎるというか、抽象的過ぎてまったく理解できなかったのだ。

「もっとまともに聞きゃよかったな。国家代表なら、他とは違った見方してるかしんねえし」

「答えてくれそうな人だったのか?」

「どうだかなあ。ありゃ人をからかって楽しむタイプだぞ」

むしろ向こうからアドバイスしてくれただけ儲けものかもしれないとすら思える。

そうなると、彼女がアドバイスだといった『人は自分の力では飛べない』という言葉に、ISを使えるようになるヒントがあるはずなのだ。

しかし、考えるほどわけがわからなくなり、諒兵は思わず呟いてしまう。

「ISって何なんだろうな」

「家庭教師のときに、最強の軍事兵器だとか、科学技術の結晶とか言われたけど、なんかしっくりこないよな」

と、一夏が答えるのをぼんやりと聞く。

確かに一夏の言うとおり、諒兵もあまりしっくりこない。

モンド・グロッソなどは衛星中継されており、各国で視聴できる。

そのため、ISバトルの映像なども見たことがあるが、何か違うと二人はずっと感じていた。

確かに恐ろしい力を持つ兵器ではあるのだろう。

でも、それは見た目だけで、根本の部分は違う気がするのだ。

「人がそのまま空を飛べんだから、背中に生える翼とかかもな」

「それじゃまるで天使みたいだな」と、一夏が苦笑する。

「天使か。いっそのことお願いしてみるか?一緒に飛んでくださいってよ」と、諒兵も苦笑いしてしまう。

 

いいよっ♪

 

ええ、一緒に飛びましょう♪

 

ふと、そんな声を感じ取った二人は、顔を見合わせる。

「なんか言ったか、一夏?」

「いや、諒兵じゃなかったのか?」

そう言いつつ、どちらも違うということを理解していた。

「考えすぎて疲れてんのか、俺ら」

「焦ってるのかもしれないぞ。模擬戦、明後日だし」

変に疲れてしまうのもよくないと考えた二人は、とりあえずベッドに潜ることを選択したのだった。

 

 

ぽかぽかとしていて心地いい。

そんなことを考えた一夏は、顔でも洗うかと目に見える池にと近寄っていく。

「やけに地面が近いな。ああ、四つんばいになってるのか」

歩いていて違和感を持った一夏だが、とりあえずさっぱりしようと池を覗き込んで思わず「へっ?」と間抜けな声をだしてしまった。

「とっ、虎っ?」

すぐに後ろを振り返るが、虎などどこにもいない。

もう一度池を覗き込む。

そこには確かに白い虎の顔が映っている。

「まさか俺かこれっ?」

自分は人間、織斑一夏であるはずなのに、池に映るのは白い虎。

驚いた一夏は大声を出して飛び起きた。

 

 

IS学園の寮のベッドの上にいることを確認した一夏は、自分の顔をぺたぺたと触る。

虎じゃない、そう思って安心していると、いきなり諒兵が叫んできた。

「おい一夏っ、俺の顔どうなってるっ?」

そこには人間、日野諒兵の顔がある。そう思った一夏だが、その反応で何が起きたのかが理解できた。

「いつもの顔だけど、それより俺の顔は?」

「いつもの顔だ。つかよかったぜ、黒いライオンになった夢見た」

「俺は白い虎になった夢だ。びっくりした……」

と、そこまでいって、二人は顔を見合わせる。唐突に閃いたことがあった。

「今何時だ?」

「もう朝食の時間だ。たぶん千冬姉も起きてる」

互いに肯きあい、そして。

数分後にはIS学園男子生徒の制服に着替え、寮長室の扉をドンドンと叩く二人の姿があった。

「うるさいッ、こんな朝から何の用だッ!」

寝起きのせいか不機嫌な千冬の威圧感はすさまじいものがあったが、二人はまったく構わずに叫ぶ。

「「アリーナ貸してくれッ!」」

「それなら学生課に申請しろ。放課後には使えるだ……」

「「今すぐだッ!」」

一夏と諒兵の真剣な表情に何かを察した千冬はニヤリと笑った。

「わかった。ちょうど1組の1時間目は私の授業だったな。予定を変更しておいてやる。それまでは我慢しろ」

そして二時間後、一夏と諒兵はIS学園のアリーナ、すなわちISバトルの会場に立っていた。

 

 

IS学園のアリーナ、監視モニター室。

千冬は遠目に見える一夏と諒兵の姿を見守っていた。

隣には真耶、そしてセシリアを特別に呼び寄せている。

観客席には1組の生徒がいる。

男性のIS展開テストという名目で授業を変更したのである。

「展開できるようになったんですか、織斑くんと日野くん」

「たぶんだが、朝の様子を見る限り、できると確信があるんだろう」

「たかだか打鉄を展開するのに授業を潰す必要があったんですの?」

「あった。特にお前はよく見ておけ」

どんな確信があるのかはわからないが、やけに自信ありげな千冬の言葉にセシリアは首を傾げていた。

 

 

一夏と諒兵は揃って空を見上げていた。

IS学園のバトルアリーナは循環型のエネルギーシールドが張られており、外に出ることはできない。

だが、それは空を遮るようなことはなく、澄んだ青空が広がっているのがよく見えた。

「空がよく見えるんだな、ここ」

「限界はあるけど、飛んでる気分にはなれそうだ。悪い気はしねえな」

二人は笑いながらそう独りごちる。

「んじゃ、いくか一夏」

「ああ」

目を閉じ二人は呼びかける。『自分のIS』に。

「いくぞッ、『白虎』ッ!」

「いくぜッ、『レオ』ッ!」

直後、二人の身体を光が包み込む。その光球が一気に飛び上がると中から二機のISが現れ、そして観客席からわあっという歓声が上がった。

 

 

監視モニター室で一夏と諒兵の姿を見ていた真耶は思わず驚きの声を上げてしまった。

逆にセシリアは声を失っている。

「これがあいつらのISか」と、そういったのは千冬である。

「聞いてませんわっ、打鉄というのは嘘だったんですのっ?」

「う、嘘じゃないです。受験用に用意された打鉄なのは間違いありません。装着以降、一度も外れなかったんですから」

「武装もない。本当にシンプルな、『ただ空を飛べるだけ』のISだ」

「ではあの姿はなんですのッ、まったく別物になっているじゃありませんかッ!」

セシリアが、イギリスの代表候補生でもある彼女が驚くほど、一夏と諒兵のISはかつて打鉄と呼ばれていたものとはまったく異なる威容を見せていた。

 

 

そんな監視モニター室のやり取りとは裏腹に、当の本人たちは心から楽しんでいた。

「ははっ、すげえっ、本当に飛んでるぜっ!」

「うわっ、空がすごく近いっ、こんなに気持ちいいのか飛ぶのってっ!」

一夏の打鉄は左肩に虎の頭部のデザインがあしらわれた純白の騎士鎧のような機体で、頭部には大きな額当てがついている。

対して、諒兵の打鉄はヘッドセットがライオンの頭の形をした独特のもので、両手両足にはだいぶ大きな手甲と脚甲をまとっていた。

どちらも限りなくフルスキンに近い。

つまり傍目には鎧のように見える姿で、身体にフィットしており、ISとしては小柄な機体だ。

また、最大の特徴として、それぞれの機体の背中には、スラスターらしき鳥のような二枚の大きな翼があった。

一通り飛ぶのを楽しんだ二人は、いったん空中に停止する。

「そいつが一夏のか。虎の頭がカッコいいじゃねえか」

「諒兵は黒いライオンみたいになってるな。イケてるぞ」

そういって笑う二人。

 

『白虎』と『レオ』

 

それは一夏と諒兵が『自分のIS』につけた名前だ。

打鉄はあくまで機体名、人間でいえば日本人やイギリス人、アメリカ人という意味になる。

それは他の機体でも変わらない。

でも、自分を飛ばせてくれるパートナーには、それ自身を表すたった一つの名前をつけたい。

そう思って名づけたものだった。

もう少し飛んでみるかと思っていた二人だが、いきなり通信が入ってきた。

「織斑、日野、そのまま模擬戦を行え」

「ち、織斑先生。俺らは対戦しねえんじゃなかったのか?」

「データ取りのためだ。機体の性能をこちらで把握しなければならん」

「武器ないけど、どうすれば?」

「どうしようもなければ殴り合え。それだけでも十分だ」

通信が切れ、お互いの顔を見合わせた一夏と諒兵だったが、とりあえず対峙することにした。

 

 

監視モニター室で二人の動きを見ながら、真耶が驚きの声を上げる。

「スピードも反射速度も既存の打鉄とは別物です。信じられません……」

「第3世代に匹敵するようなスピードですわ……」

セシリアは第3世代のテストパイロットに選ばれるくらいなので、機体に対する知識もそれなりにはある。

それだけに目の前のかつては打鉄だった機体の動きが信じられなかった。

(あれはもはや何世代などといえるものではないな。明らかに別物に進化している)

「もしや二次移行したことであそこまで変化したんですの?」

「考えられる可能性はそうなりますね。装着した段階で一次移行が終わっていたのかも……」

ISは、コアとのリンクが深まるほど操縦者に合わせて進化するという。

しかし、目の前の二機はそんなレベルではないと千冬は感じる。

だが、今そんなことをいったところで何もわからない。

仕方なく、二人の言葉に同意した。

「展開できなかったのも二次移行に時間がかかっていたせいかもしれん。ここまで時間がかかる例は聞いたことがないが、世界初の男性操縦者たちだ。もともと普通ではないのだろう」

答えを求めるのはまだ先でいい。今は二機の性能を把握することだと千冬は意識を切り替えた。

 

 

ISを装着し、飛びながら格闘する一夏と諒兵だったが、どことなく物足りなかった。

諒兵はともかく、一夏は剣を使うのだ。

実のところ獲物がほしかった。本気で戦いたいからだ。

諒兵にしても、ベアナックルくらいはほしいと思う。

その場にあるものを武器にして戦うことができる諒兵としては、そのほうが戦っていて発想しやすいのだ。

いずれにしても、何もないのではつまらないと一夏と諒兵は感じていた。

「白虎、力を貸してくれないか。もっと本気で戦いたい」

「レオ、なんかねえか。もっとおもしれえ戦いができるやつ」

 

はいコレっ、がんばれイチカっ♪

 

コレならきっと満足しますよ、リョウヘイ

 

そんな声を感じ取った二人は、互いに構える。

そして一夏の手には軽く一メートルはある光り輝く剣が、諒兵の両手足の手甲と脚甲からは、それぞれ三本ずつ、六十センチほどの巨大な光の爪が現れた。

お互いの獲物を見た二人は不敵に笑い、そして再び激突する。

アリーナに、観客席にいた全員が耳を塞ぎたくなるほどの轟音が響き渡った。

 

 

もはや何度驚かされたのかわからないが、とにかくデータを取らなければと考えた真耶は、すぐに二人の手に現れた武器を解析する。

「解析は?」

「できましたっ、高密度のプラズマエネルギーですっ、しかも完全に物質化していますっ!」

「ではあれはエナジーウェポンなのですかっ?」

一言でいえば、実体を持たないエネルギーを物質化した武器ということである。

だが、プラズマエネルギーを物質化することはできないといわれている。

そもそも光を、光の粒子である光子をどうやって物質化するのかなど、それこそ『天災』篠ノ之束くらいしか理解できないだろう。

「でも間違いありません。織斑くんのはレーザーブレード。日野くんのはレーザークローだと思います」

エネルギーを放出することでいわゆるレーザービームによる剣を生み出すことは可能である。

しかし、それは常にエネルギーを放出しなければならないという制約がある。つまり、あっという間にガス欠になってしまうのだ。

しかし一夏の剣も諒兵の爪も完全に物質化されていて、エネルギーを放出しているようには見えなかった。

「ん?」

「どうしました、織斑先生?」

「いや……」と、千冬は言葉を濁す。

一夏と諒兵の頭上に何か違和感を持ったのだが、特に何も見えなかったからだ。

(頭上?いや、そんなバカな話が……)

思いついたことを頭を振って否定する千冬。

そこにセシリアの呟きが聞こえてきた。

「完全なエナジーウェポンなんて、理論化の目処すら立っていないのに。あのIS、下手をすれば第5世代レベルですわ……」

ようやく第3世代が開発され、テストされている現代。

2世代もすっ飛ばしたとしか思えないISが今、目の前で激闘を繰り広げている。

あれが自分が戦う相手。

そう思い、寒気を覚えるセシリアを責めることはできないだろう。

だが、千冬は無慈悲な命を下した。

「オルコット。お前に厳命しておく。負けることは許さん」

声を失ったセシリアに千冬は構うことなく続けた。

「あの二機は織斑と日野に合わせているだけだ。あいつらはまだISバトルというものを理解していない」

だからこそ、代表候補生であるセシリアが、ISを理解している操縦者が倒さなければならない。

「IS操縦者としての、代表候補生としての誇りがあるなら、素人相手に負けてはならん。人は敗北から成長するものだ。お前はそれを理解しているだろう?」

このまま調子づかせるなと千冬はいっているのである。

同時に、ここまで努力してきた自分を誇れといっているのである。

「わかりました、明日はあの二人を倒してご覧にいれますわ」

ならば、敵を知ることは勝つための最大の戦術。

そう思ったセシリアは真剣な眼差しでアリーナの一夏と諒兵に目を向けた。

 

 

最後の一撃がぶつかり合ったあと、一夏と諒兵は揃って地面に激突した。

そのまま大の字に寝転がってしまう。

 

うにゃ~、がんばりすぎぃ~

 

さすがにもう限界です……

 

ふとそんな声を聞いた感じがした二人は、展開していきなり暴れたのだから、エネルギー切れも仕方ないのかとは思う。

だが、いきなり二人とも大声で笑い出した。

「飛んだよな?」

「ああ、飛んだぜ」

「なんだか、空を掴んだ気がするんだ」

「俺もだ。もう、空は遠い場所じゃねえ」

何よりも、それが一番一夏と諒兵にとって大事なことだ。

自分たちも飛べる。

広い空は女だけのものじゃない。

願わくば、多くの男たちにもこの快感を伝えたい、そう思いながら二人は笑い続けていた。

 

 

「ああいうところは、やっぱり普通の男の子ですね」

「そうだな」と、真耶の言葉に千冬はめったに見せないような優しい微笑みを見せていた。

 

 

 

 


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