ASーエンジェリック・ストラトスフィアー   作:枯田

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第56話余話「三人目」

ボロ布を纏った少女がとぼとぼと歩いていた。

疲れきったその顔を見ると、本来は相当に可愛らしい少女であることがわかる。だが、ぼさぼさに乱れた髪と纏うボロ布のために、本来の魅力をまったく引き出せていなかった。

 

ドンッと道行く人にぶつかった少女は、よろめいて座り込んでしまう。

相手は心配する様子も見せずに歩き去っていった。

今はただ、人の心が冷たかった。

少し休むべきかと思った少女は、路地裏に入って腰を下ろす。

「疲れた……」

そう呟く。

まだ、かつて身を寄せていた場所のほうがよかったと思う日が来るなど、少女は思ってもみなかった。

そこは、少女にとっては戦う以外のことができない場所で、自分は駒として扱われ続けていた。

唯一の安らぎは甘えさせてくれる一人の女性の存在のみ。

それも、もう失ってしまった。

「ママ……」

己の身をかき抱く。

自分を包んでくれたあの温かい腕も今はない。

戦うためだけの駒であった自分に人の温もりを教えてくれたのに。

でも、その人は最期の瞬間、自分に希望を与えてくれた。

 

「あの子なら、きっとあなたを守ってくれるわ。だから、希望を捨てないで。会いに行ってあげて」

 

何もかも失った状態で、それでも歩き続けたのは、その希望が理由だ。

会えばきっと守ってくれる。あの人とは違うだろうけれど、それでも温もりをくれるはずだ、と。

「おにいちゃん……」

しかし、それは同時にある憎しみを自覚させた。

自分だけが何故、と。

自分は家族ではなかったのか、と。

少女は自分の素性を理解している。それだけにその憎しみは潰えることがない。

 

そんな堂々巡りの思考に陥っていると、突然、複数の人の悲鳴が聞こえてきた。

まさかと思い、通りへと出ると空を見ながら必死に人が逃げ惑っている。

少女は視線を空へと向け、そこにいる者たちを睨み付けた。

「ISッ!」

無人のままの覚醒ISが市街地に攻撃を開始している。

少女にとって、今のISは憎しみの対象だ。

自分が操っていた機体は、徹底的なほど自分を痛めつけて悠然と飛び去っていった。

力があったなら、皆殺しにしてやりたい。そう思っても今は力がない。

そう思っていると、光と共に翼を持った白い虎と黒い獅子、そして赤と黒のコントラストが美しい山猫が現れ、逃げ惑う人々を守るように戦い始めた。

しかし、その姿は少女に更なる憎しみを覚えさせてしまう。

「なんであいつが、おにいちゃんと……」

その怒りは、ISに対する憎しみよりも強い憎悪を生みだした。

そこにいるのは自分のはずなのに。

その人が守ってくれるのは自分のはずなのに。

力が欲しい。

邪魔な存在を消して、自分が一緒に飛ぶために。

少女はそう強く願う。

三人の翼を持つ戦士たちの活躍により、覚醒ISが撤退する姿を見た人たちが歓声を上げているにもかかわらず、少女は空を睨みつける。

そのとき、ふと何かに呼ばれているような気がした。

己の心に従い、人気のない路地裏に再び入る。

すると、空から光が降りてきた。

 

ふむ。君かね、私を呼んだのは?

 

「ISっ、何故っ?!」

 

呼んだのは君だろう?

 

目の前にいたのは、IS、正確にいえば打鉄だった。

やけに低い『男性的』な声で語りかけてくる。

その機体を見ると武装も何もない。どこかの試験機だったのだろうかと少女は考える。

いずれにしてもこの打鉄がここにいる理由がわからない以上、答えは決まっていた。

「お前を呼んだ覚えなんてない」

 

飛ぶための力が欲しいというのは嘘だったのかね?

 

そういわれて、少女はハッとした。

確かに、自分はそう望んだからだ。まさか、そんな自分の心をこの打鉄は読み取ったというのだろうか。

 

君の強い想いが声となって聞こえた気がしたのだが……

 

気のせいならば引き上げるとしよう、そういって再び光へと変わっていくその打鉄を、少女は必死に引き止める。

 

呼んだ覚えはないのではなかったのかね?

 

「くッ……」

なんというか、ずいぶんと『皮肉屋』な印象を受ける打鉄だと少女は思う。

正直に言えば気に入らない面もあるのだが、これは自分が得たチャンスなのは間違いない。

ゆえに。

「私は、飛びたい。おにいちゃんがいる空へ」

 

おやおや。……ブラコンというやつかな?

 

打鉄は面白そうにクックッと笑う。

癇に障る笑い方だが、からかっているように見えて、その実、自分の想いが真摯であることは理解しているようにも感じられた。

「力を貸してほしい。でも、他のISの仲間になる気はない。殺してやりたいくらいだ」

 

かまわんよ。私も他の者たちとは一線を画す存在だ

 

意外なことに、その打鉄は少女の思いを否定するどころか受け入れた。ならば、共に戦うことに否やはない。

すると打鉄は、少女を誘ってきた。

 

私に名を。それが君と私が生まれ変わる呪文となる

 

何がいいだろう。そう考えて、ふと思いついたのは今の自分の望みだった。

『おにいちゃん』と一緒にいたい。

そのためにならどんな犠牲も厭わない。

世界を滅ぼす怪物に成ってでも。

だから。

 

「お前の名前は、『ヨルムンガンド』だ」

 

クッ、これはまた、良い名を考えたものだ

 

打鉄、否、『ヨルムンガンド』がそう楽しそうに答えると、少女は打鉄と共に光に包まれ、空へと飛び上がっていった。

 

 

 

 

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