ドゥラメトリー家。
フランスでも指折りの名家であり、資産家でもあるこの家は、二十年ほど前、上り調子であったデュノア社と縁故関係を結ぶべく、社長夫人として娘を送りだした。
それがカサンドラ・ドゥラメトリーである。
当時、デュノア社を立ち上げたセドリックには、特定の恋人も許婚もいなかったため、ある意味では良縁になるはずだった。
恋をして結婚に至るばかりが夫婦ではない。
結婚を決めてから恋をするのも一つの夫婦関係だろう。
セドリックはそう考えていたし、実のところカサンドラもそう考えていた。
気の強さゆえに恋人など出来なかったという理由もあるのだが。
とはいえ、名家の娘と上り調子の会社を運営する社長という関係は、ある意味対等であり、セドリック以上にカサンドラのほうが意外と良縁になるだろうと楽観視していた。
自分が『石女』であったことを知るまでは。
立ち上がった勢いでバンッとテーブルを叩く音に、皆が怯む中、一人だけカサンドラを睨みつけてくる者がいた。
カサンドラはテーブルに手を付いたまま、その者に対し、大声で問いただす。
「お父様ッ、本気で言っているんですかッ!」
「お前に意見を許した覚えはない」
「あの娘をこの家に引き入れるなどッ!」
「これは既に決定していることだ。シャルロットをどこぞの馬の骨に獲られれば、デュノアとの関係も崩れかねん」
カサンドラの父、すなわちドゥラメトリー家当主。
彼の決定とはシャルロットをドゥラメトリー家の嫁として迎え入れるというものであった。
シャルロットはセドリックとクリスティーヌの娘。
ドゥラメトリー家とは何のつながりもない。
しかし、今、シャルロットはフランス国家代表であり、セドリックのデュノア社は対『使徒』用兵器の開発により、ヨーロッパでの発言力が以前より遥かに増している。
ドゥラメトリー家との関係を切っても、実は痛くもかゆくもない。
それどころか、切られたドゥラメトリー家のほうが立場がなくなりかねないのだ。
「いいじゃないか、叔母様。見た目も悪くないし」
と、ずいぶんと優男といった風情の青年が笑いながら意見する。
ストレートのダークブラウンの髪に、優しげな面立ちと、黙っていれば相当な美少年といえるだろう。
キッとカサンドラが睨みつけると、さすがに身を震わせていたが。
「あんな泥棒猫の娘をこの家の嫁にするなど正気の沙汰ではありませんッ!」
「黙れ」と、低い声で当主が呟くと、今度はカサンドラが怯んだ。
「お前がセドリックとの間に子を生していれば何の問題もなかったのだ。身の程を弁えろ」
ギリッと歯軋りするカサンドラだが、言葉が出てこず、俯いてしまう。
「せめて捨てられぬよう努力でもしていろ。お前が泥棒猫と呼ぶあの女は既に死んでいるのだからな」
生きていれば捨てられただろうと暗にいわれ、カサンドラは怒りに身を震わせる。
皆が席を立ち、一人になったカサンドラの手の上に水滴が一つ落ちていた。
シャルロットがフランスに帰郷する一週間前の話である。
目が覚めたとき、ずいぶん懐かしいものが目に入った。
テディベアと呼ばれるぬいぐるみだ。
そんなことを考えたシャルロットは、自分が寝ている場所について思いだす。
(そうだ。昨日帰ってきたんだっけ……)
フランスはブルゴーニュ、ディジョンの一角に母クリスティーヌと暮らした自分の家があった。
驚いたことにセドリックが維持していたらしく、たまにハウスクリーニングまで呼んでいたらしい。
それならば、と、セドリックにわがままをいって、昨晩はこの家に泊まったのだ。
開発が正念場となっているセドリックはさすがに本社に戻ったが。
「これだけは、欲しいってわがままいっちゃったんだよね」と、そのテディベアを手に取る。
そのわがままの代賞として、母はこのぬいぐるみに『セディ』と名づけるようにといってきた。
当時はわからなかったが、今はわかる。
セドリックの愛称だ。
ここにはいなくても、父は愛してくれているのだとシャルロットに思ってほしかったのだろう。
要はセドリックの代わりとして与えたつもりだったのだ。
「あのときは全然譲らなかったもんね。お母さん」
思い返せば、意外と気が強かったのがクリスティーヌであったとシャルロットは思う。
叱るときは厳しかったし、女手一つでシャルロットをしっかりと育てていた。
弱い女ではなかったのは確かだ。
(あれ?)
そんなことを思い出して、違和感を持った。
なぜ、意外と気が強かったクリスティーヌは身を引いたのだろう?
シャルロットの中の母のイメージなら、セドリックを奪いとってもおかしくない。
会社に縛り付けられているセドリックを連れだし、二人で会社を興すくらいのバイタリティを持っていたはずだ。
自分だけがそう思っていたわけではない。
かつて束がクリスティーヌの設計図を見たとき。
「思いきりいいね。下手すれば一発で人が死ぬよ、これ」
「そうですよね」
「相当、気が強い人だったんじゃない?」
「まあ、怒るときは怖かったです」
そんな話をしたことがある。
実際、量子転送は一つ間違えれば復元できずに死ぬ可能性があるのだから束の感想は間違いではない。
そんな設計図を書けるような人が、叱るときは厳しく、しっかり者でシャルロットをちゃんと育てられるような女が、なぜ、セドリックに関しては身を引いたのか。
嫌いになったからということはありえない。
それなら誰か別の人と結婚しただろうし、そもそもシャルロットを生んだはずがない。
それにテディ・ベアにつけたのは夫になってほしかった人の愛称だ。
「どういうことなんだろう……」
そう呟くシャルロットは、生まれて始めて母の行動に対して疑問を感じたのだった。
カートを引き、デュノア社兵器開発部と書かれた建築物の前に立つ。
久々の帰郷からか、感傷もあって昨晩は自宅に泊まったが、本来はここに泊まるはずだった。
今はのんびりしていられる状況ではない。
試作機が完成すれば、テストはシャルロットがやることになっていた。
もともとがデュノア社のテストパイロットなのだから、適任といえば適任である。
久々に手にするデュノア社のIDカードを提示して、玄関を通り、いったん内部の宿泊施設に荷物と、自宅から持ってきたテディベアを置くと、そのまま開発部の研究棟へと足を向けた。
開発機材が立ち並ぶ一角を抜けると、テニスコートがすっぽり入る大きさの広いテストスペースが見えてくる。
そこは熱気に溢れていた。
「試射五秒前、四、三、二……発射ッ!」
ズギュゥンッ、という轟音とともに光が迸る。
放たれた光の槍は、標的を貫くどころか蒸発させてしまった。
「すごい威力だ……」
「これでも連中にとっちゃぁ銃弾レベルだぞ」
呟いたシャルロットに答えたのは、臨海学校以来久々に聞く人の声だった。
「博士」
「受け取りはおめぇだって織斑に聞いてな。昨日はどうだった?」
と、丈太郎はニッと笑いながら問いかけてくる。
なるほど、父が自分と共に母の墓参りに行ったのは丈太郎の進言だったのだろうとシャルロットは気づく。
「母も喜んだと思います」
「そんならいい」
そういって笑う丈太郎を見ると、気を遣ってもらったことが申し訳なくも感じてしまう。
そこでふと、尋ねてみたいことに気づいた。
「あぁ、あの設計か」
「博士から見て、危険性は感じなかったんですか?」
いや、と、言葉を濁すところを見ると、丈太郎もやはり危険性はあると感じたらしい。
量子転送はBT兵器や龍砲、AICに比べて危険性がかなり高いのだ。
今でこそ重宝しているが、実際に組み込み、実験するとなったらそれこそ命懸けになる。
「責任とって、最初の実験は自分がやるっつってたな」
「そうだったんですかっ?」
「作ったからにゃぁ、責任を持つってな。肝の据わった女だと思ったなぁ」
そう感心した様子で語る丈太郎を見ると、やはり母は強い女だとシャルロットは感じた。
「どうかしたか?」
「いえ、お母さんは強かったんだなあって」
「だなぁ。てぇした女だ」
そんなことを話していると、丈太郎に声をかけてくるものがいた。
「蛮兄、データが取れたぞ」
「おぅ、すまねぇな」
声をかけてきたのはだいぶ若い、というよりシャルロットと変わらないくらいの日本人の男子だった。
見覚えがないので、丈太郎が連れてきたのだろうとは思うが、それにしても若すぎる。
それに丈太郎のことを博士ではなく蛮兄と呼ぶなら、かなり親しい関係のはずだとシャルロットは思った。
「おめぇは初めて会うな。俺のアシスタントをしてもらってる数馬だ」
「御手洗数馬だ。よろしく」
「あっ、シャルロット・デュノアです。よろしくお願いします」
そういって頭を下げるシャルロットを数馬と呼ばれた男子はじっと見つめてくる。
「あの……」
「いや、失礼をしてすまない。一夏や諒兵、それに鈴も君に世話になってるって聞いた。礼をいう」
「えっ?」
「こいつぁ、あいつらと同じ中学のダチだ。頭の出来ぁ鈴並みにいいんだがよ」
そうだったのか、と、シャルロットはさすがに驚いてしまった。
確かに一夏と諒兵からは中学時代に親しかった友だちの名を聞いている。
その中に『数馬』という名前があったことを思いだした。
「でも、なんでここに?」
「今、一夏や諒兵が対『使徒』戦の最前線にいる。友人として力になりたいと思ったんだ」
だが、数馬はISには乗れない。
しかし、もともとISという優れた機械に興味を持っていた数馬は、そちらの道を専攻するつもりだった。
ただ、基本的に男はIS学園に入学できないので、理系の進学校に進んでいたのだ。
「今、俺にできることで助けになれることはないかと思ったとき、蛮兄から声をかけられた」
そこで、わざわざ渡仏して対『使徒』用の兵器開発のアシスタントをしているのだ。
「君も戦いに出るんだろう?」
「いずれはそうしたいと思ってるよ」
「なら、そのバックアップをするのは俺たちだ。安心しろとはいわないが、できる限りのことはしよう」
そういわれ、シャルロットは素直に「ありがとう」と頭を下げる。
こんなところで一夏や諒兵、そして鈴音の友人に会えるとは思わなかったが、人のつながりが助け合う力になるということを数馬の存在に感じて、シャルロットは嬉しくなってしまった。
数馬は軽く会釈すると、丈太郎に向き直り、報告する。
「蛮兄、砲身の耐久力は……」
「許容範囲だな。あとちぃっと収束させりゃぁ、威力も上がるが……」
シャルロットは今のところ、兵器開発に意見できるほどではないので、そこからスッと離れる。
気づいた丈太郎が声をかけてきた。
「まだ完成たぁ言い切れねぇ。のんびり待っててくんな」
「それじゃ」
「はい」と、そう答えたシャルロットに肯くと、丈太郎は数馬を連れて、試射を終えた兵器のチェックに向かう。
この後、ISを使ってのテストは自分がやるのだと考えたシャルロットは、訓練しようと思い、訓練場に向かった。
その途上。
「マドモアゼル・シャルロット」
(げ)と、内心思ってしまったが、すぐに笑顔を作って応対する。
無駄に爽やかな笑顔で声をかけてきたのは、線が細く、かなり中性的な美青年で、自分にとっては従兄弟になる男性だが、正直いって会いたくない相手でもあった。
シャルロットは、実のところ線の細いなよっとした男が好きではないからだ。
この青年、従兄弟といっても戸籍上だけで血のつながりはない。
つまり、シャルロットの義理の母の兄、シャルロットから見ると伯父に当たる人物の次男坊である。
名は『ジョスラン・ドゥラメトリー』
シャルロットは、母方の実家ドゥラメトリー家から無視や陰湿ないじめなどもされており、この男もそういう点では同類なのだが、それだけに笑顔が気持ち悪かった。
「何か?」
「戻ってきていたと聞いてね。せっかくだから食事でもどうかと思うんだけど?」
(いきなり何さ)と、そんな本音を笑顔で隠す。
「兵器のテストが近いので訓練しようと思ってるんです。今は大変な時期ですから」
「では見学させてもらえるかな?」
(絶対やだ)と、思いつつも仕方ないかとため息をつく。
「面白くないかもしれませんけど」
「決してそんなことはないよ」
こんなことなら開発部で丈太郎や数馬にくっついていたほうがよかったなと思いつつ、シャルロットは訓練場に向かうのだった。
ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡを展開し、武装展開の訓練を中心に射撃などを行っていたシャルロットだが、集中できずにいた。
(ああもう、やだなあ……)
どうもねっとりとした視線をジョスランから感じるのだ。
とっとと帰ってほしいのだが、さっきからずっと自分を見ている。
(一夏や諒兵とか、博士や数馬みたいにできないのかなあ……)
思った相手が、全員、日本人であることに苦笑いしてしまう。
無論、父セドリックや、旧知の友人の中には付き合いやすく好意を持てるような男性もいる。
ただ、自分に近づいてくるのがああいった男だと、ため息が出てしまう。
そもそもなぜ近づいてきたのかわからない。
たいていは性格の悪さを感じさせるような陰湿な嫌味を吐かれるか、せこいいじめ目的なのだ。
食事に誘われるなんて一度もなかった。
(ある意味いじめだよね。あんなのと食事なんて……)
料理の味なんてわかる気がしないだろう、うっとうしくて、と、内心では毒を吐きまくるシャルロットだった。
まとわり着くような視線を洗い流すつもりで、入念にシャワーを浴びるシャルロット。
一部、鈴音やラウラが見ると嫉妬するような部位があるが、別に育てたつもりはない。勝手に育ったのだ。
そんなことをいえば、血の涙を流して責めてくる気がするが。
そんな友人たちのことを思いだすと、だいぶ気は楽になった。
と、そこでふと気づく。
(見られたくないなあ……)
絶対に待っているだろうあの従兄弟に、湯上り姿など見られたいとは思わない。
入念に髪の毛などを乾かしても、不安が残る。
(あっ、そうだ♪)
着替えの中にかつてIS学園で男性のふりをするために購入しておいた男性用の私服があったはずだとシャルロットは思いだす。
一部はどうしようもないが、パンツルックなら多少は気持ち悪さも軽くなるだろうと、持ってきた着替えを漁った。
「先ほどの服は良く似合っていたけど、気分を変えたのかな?」
「動きやすい服にしたいと思ったんです」
(あからさまに落胆したね、こんにゃろお)
どんどんやさぐれていくシャルロットだった。
先ほどはミニというほどではないがスカート姿だった。
素足をじろじろ見られていたのかと思うと、本当に気持ち悪くなる。
「時間ができたのなら……」
「いえ、父に会わないと。まだ挨拶をすませていませんでした」
「あ、そ、そうなんだね……」
(ざまあみろ♪)と、普段の彼女を知る友人が聞いたら驚くような毒を吐きまくる。
セドリックと和解していないころはけっこう内心で毒を吐きつつ、笑顔を作り続けていた。
でも、IS学園で父と和解でき、友人もできた。
心の底から笑える場所ができた。
それが彼女の心を救っていたのだ。
さすがにセドリックの元には同行する気がないらしく、ジョスランは退散していく。
ようやく一息ついたシャルロットは、社長への面会を申し出るのだった。
セドリックはどうやら政府高官と電話会談していたらしい。
対『使徒』用兵器は、フランスとしてもデュノア社としても無償提供するというわけにはいかない。
各国にある程度は負担してもらうことになる。
その金額を決めるための会談だったようだ。
十分ほど待たされたシャルロットはセドリックの許可を得て、社長室に入った。
「邪魔しちゃってごめんなさい」
「かまわんさ。ここでこうして話せるのが嬉しいからね」
本社は懐かしいと感じていても、かつては父と娘ではなく、社長とテストパイロットとしてしか接することができなかった。
シャルロットにとって、ここは辛い場所でもあった。
まともに挨拶を交わした記憶もない。
それが今は笑顔で話すことかできる。
それはシャルロットにとっても本当に嬉しいことだった。
「博士にはもう会ったのか?」
「うん、開発の様子が気になっちゃって」
実際、今一番兵器を必要としているのシャルロットだ。
専用機が第2世代機であるシャルロットにとって、その戦力増強は急務なのである。
丈太郎の元に先に向かったのは当然ともいえた。
「完成するのはあれと同じなんでしょ?」
「うむ。開発コードはB001。コードネーム『ブリューナク』、威力だけでいうなら第4世代兵器になる」
「そんなにっ?」
「分類でいえば収束荷電粒子砲。ただの荷電粒子砲とは威力が違う」
だが、とセドリックは言葉を続けた。
それでも丈太郎が先ほどいったとおり、使徒相手には銃弾レベル。
基本的には破壊するのではなく、撃退するための兵器だという。
また、第4世代ISは構想上、とはいっても束が実現してしまったが、その特徴は自己進化能力。
ISコアが戦闘経験を重ねることにより、自力でより強力に進化していく能力だ。
展開装甲はそのついでといえる。
当然、機体とコアとの親和性がこれまで以上に求められるのだが、今の状況で兵器にコアは載せられない。
威力だけというのはそういう意味でもあった。
要は、進化してより強力になる本来の第4世代機とは違い、撃つたびに砲身などは劣化していってしまうということだ。
「人間に生成できる金属の限界だそうだ。それでも既存の兵器がかわいそうになるレベルだがね」
「……僕たちが戦っている相手がどれほど恐ろしいかよくわかるね」
「ああ。だが、天罰などといって甘んじてやられるわけにはいかん。人がすべて滅ぶべき愚者とは私は思わない」
実際、共生進化に至った者がいることを考えれば、共存も可能なはずだとセドリックはいう。
だからこそ、人類は負けないということをまず相手に示す。
その先に手を取り合う可能性を模索するという方法もあるはずだからだ。
「僕もがんばる」
「無理はするなシャルロット。私が一番願うのは、お前の幸せだよ」
優しい瞳でそういわれると、本当に嬉しくなる。
嘘がないことが痛いほど伝わってくるからだ。
さっきまで作っていた笑顔が崩れ、本当の笑顔になるのがよくわかった。
もっとも、そんなシャルロットの笑顔の意味に、セドリックは気づいたようだった。
「どうかしたのか?」
「ごめんなさい。いっちゃっていいのかわかんないけど、他に愚痴ることができなくて……」
そういって、シャルロットはジョスランが食事に誘ってきたことを打ち明ける。
何とか上手くかわすことができたので今はホッとしているところだ、と。
そう話すとセドリックは頭を抱えていた。
「突っぱねたんだが、諦めてなかったのか……」
「どうしたの?」
「驚かないで聞いてくれ」と、セドリックはそういったが、話の内容ははっきりいって驚愕ものであった。
「こんやくぅっ?」
「突然いいだしたんだが、シャルロットには自分で相手を決めさせると拒否したんだ」
現在、暫定的ではあるが、フランスの国家代表でもあるシャルロットは、本人はまだ理解してはいないが、かなりの発言力がある。
そしてデュノア社で、人類の敵となったISと戦うための、対『使徒』用兵器の開発にこぎつけたセドリックはいうまでもない。
妻の実家であるドゥラメトリー家が何をいいだそうが拒絶できる。
そこで終わったはずだったのだが、その相手として選ばれたジョスランは諦めていなかったらしい。
つまりは。
「僕、狙われてるの?」
「命ではないのだろうが……」
「命のほうがまだマシだよう……」
あんなのと結婚するくらいなら、死んだほうがマシだろうと、わりと本気でそう思うシャルロットだった。
閑話「親(バカ)の愛」
そういえば、とセドリックは訝しげな表情を見せる。
「どうかしたの?」
「いや、うちの社員でもないのになぜ社内にいたんだ?」
デュノア社は第2世代機でトップシェアを取ったIS開発企業だ。
国家機密に類するものを扱うだけに、当然セキュリティは超一流といってもいい。
例え社員の家族でも、個人でIDをとらなければ社内に入ることはできないのである。
産業スパイはどこにでもいるからだ。
気になったらしいセドリックは、秘書課につなげて通信する。
「社内に関係者でもないジョスラン・ドゥラメトリーがいたんだがセキュリティはどうなっている?」
「その方でしたら、もうすぐ社の重役になるからIDを発行してほしい、と……」
実家のほうからも通達されたため、IDを発行したらしい。
セドリックがそう報告を聞いていると、ブチッという音がした。
(ぶちっ?)と、耳慣れない音にシャルロットは首を傾げる。
「直ちに停止したまえ」
「何か問題がッ?」
もしかして産業スパイの可能性があるのかと、通信機の向こうの社員はかなり焦った様子で問いかける。
「大問題だ。うちの娘にコナかけおった」
ずるッ、と思わずシャルロットはコケてしまう。
セドリックはド真剣な表情でそういったのだ。
「社長っ、それはただの職権濫用ですっ!」
「かまわんッ、とっとと停止したまえッ、シャルロットに近づく悪い虫は許さぁーんッ!」
そういってセドリックはいきなり暴れだした。
「みんなっ、社長が『また』乱心したわよっ!」
通信機の向こうからそんな声が聞こえると、直後に、社長室に大量の社員がなだれ込み、必死にセドリックをなだめる。
聞いてみると、最近はシャルロットに色目を使う男の存在を知ると暴れだすらしい。
そんな父の様子を見ながらシャルロットはポツリと呟いた。
「うちの会社、大丈夫かな……」
親バカも大概にしてほしいと思いながら。