一方、日本。
一夏と諒兵は実に久しぶりに、五反田食堂と書かれた看板を掲げた店舗の前に立っていた。
「久しぶりだなあ」
「元気にしてりゃいいんだがよ」
IS学園入学以来、こういった時間を持つこともできなかったが、ここのところ覚醒ISの襲来がない。
そこで千冬の許可を得てここまできたのだ。
発端は、弾の妹、蘭からの手紙だった。
それを受け取った一夏と諒兵のほうから、連絡したのである。
「引きこもってるんだって?」
「はい。少し前からなんか様子おかしかったんですけど、最近は部屋からも出なくなって」
電話をしたのは一夏だった。
というか、もともと蘭が一夏に気があることは知っていた諒兵のほうからかけるようにいったのである。
それはともかく、蘭からの手紙は弾が引きこもってるというもので、その理由を聞くために電話をかけたのだ。
「それで、理由はわかるのか?」
「全然なんです。それで、会いに来てほしくて」
どうも家族には理由がわからないので、友人である一夏や諒兵に聞きだしてほしいらしい。
そんな理由から、今、一夏と諒兵は五反田食堂の前にいた。
なお、同様に友人である数馬は現在、外国にいるという。
話を聞いた鈴音も、一緒に行こうかといっていたのだが、女には会えないと弾本人がいっているらしい。
「とりあえず入ろうか」
「だな。何があったのか聞いてやんねえと」
そういって、五反田食堂の入り口を開いた。
「こんちわー」
「ちわーっす」
「おっ、久しぶりだな悪ガキどもッ!」
迎えたのは五反田食堂の店主、五反田厳。
弾や蘭の父ではなく祖父で、齢八十を超える老人だが、その肉体はどう見てもまだ壮年といえるほど筋骨隆々なパワフルじじいである。
「厳さんも久しぶりです」
「おやっさん、マジで年取んねえなあ」
そういって一夏と諒兵も頭を下げる。こう見えてマナーなどには厳しいので、礼儀を叩き込まれたのだ。
余談だが、丈太郎も帰国した際には必ず五反田食堂に顔を見せるため、丈太郎と厳はけっこう親しい。
けっこう馬が合うそうだ。
「弾が引きこもってるって聞いたんだけど」
「なんかあったのかよ?」
「どうも幻聴だの幻覚だのいってやがってな。一発ぶん殴って目を覚まさせてくれ」
「「スパルタ過ぎる」」
相変わらず豪快なじじいだと一夏と諒兵すら呆れ顔だった。
中に入ると、今度は蘭が出迎えてきた。
だが、今は平日である。
IS学園は休校なので、ほとんど自由に動けるのだが、他の学校は休校ではないところもあったはずだと、一夏は首を傾げた。
「学校は?」
「休校になったんですよ。いつ襲ってくるかわからないからって。一夏さんとついでに諒兵さんががんばってるのは知ってますけど」
「俺はついでかよ」
箒のようにガン無視されるよりはマシだが、おまけ扱いもけっこう辛いものがあると感じる諒兵だった。
しかし、一夏が弾の部屋に向かう途中。
「早く鈴さん落としてくださいよっ!」と、蘭は諒兵に耳打ちしてきた。
一夏を巡る恋のライバルなので、蘭としては鈴音を諒兵にくっつけたかったりする。
「振られたっていったろうよ……」
「強引に押し倒せばいいじゃないですかっ!」
「女ってこえー……」
思いっきり猫かぶりなのが五反田蘭という少女だった。
というか、ラウラに迫られていることを知ったら、ガチで怒りかねないと思う。
鈴音が揺れていることを知っているが、先日の一件でラウラに申し訳ないことをしたと、最近は恋に悩んでいる諒兵だった。
そして。
「お兄ちゃん、一夏さんと諒兵さんが来たよー」
「誰も入れないでくれ……」
やけに元気のない声が返ってくる。
弾はもともと中学時代は人間関係におけるバランサーを務めていただけに、余計に心配になってきた。
「入るぞ、弾」
気を遣い、蘭には別室に行っているように伝えてから、ドアを開けた一夏とともに諒兵も中に入った。
そこには、壁に向かい、絶望を背負ったまま膝を抱える弾の姿があった。
「おい、マジでどうしたんだよ、弾?」と、諒兵が問いかける。
すると一夏と諒兵の頭の中で白虎とレオが疑問の声をあげた。
『あれ?』
『これは……』
それはそれとして、さすがに心配になった一夏が膝を抱える弾の肩に手をかける。
「弾、何があったんだ。俺たちにもいえないようなことなのか?」
すると、弾はまるで観念したかのように唐突に話しだした。
「最初は幻聴だったんだ……」
ある日を境に、女の子っぽい声が聞こえるようになったという。
誰かに呼ばれているのかと思ったが、周囲に女の子がいないどころか、部屋で寝ていても聞こえたという。
「次は幻覚が見えるようになった」
小さな、年齢ではなく、リアルに妖精サイズの女の子っぽい何かが見えるようになったという。
「今じゃ、会話ができるようになって……」
自分だけなら気にすることもないと思い込もうとしたが、街で女の子に声をかけたら、相手に肩の辺りに変な女の子が見えるといわれたらしい。
「俺、幽霊に憑り付かれたらしい。たぶん長くない……」
この部屋で最期を迎える覚悟だという弾に、一夏と諒兵は何もいえなくなる。
だが、このまま親友である弾を死なせたくないと本気で思っていた。
「お払いとかいってみよう。まだ間に合うはずだ」
「俺んとこのOB、けっこういろんなところに就職してるから、園長先生に聞けばそれっぽい人見つかると思うぜ」
『『は?』』
白虎とレオにしてみれば、どう聞いてもあれのことを話しているとしか考えられないのだが、一夏と諒兵は本当に幽霊に憑り付かれたと心配しているらしい。
『リンやランがかわいそうになったよ……』
『リョウヘイ、もう少し考えましょうよ……』
そういって、白虎やレオは勝手に弾の目の前に姿を現した。
「ふっ、増えたッ?」
「おい白虎っ!」
「いきなり出るなレオっ!」
驚いた弾だが、一夏と諒兵の口から出た言葉に呆然とする。
「お前ら、知ってるのか?」
「俺のAS、いやISの白虎だよ」
「こっちは俺のISのレオだ」
「へっ?」と、間抜けな顔を晒す弾の肩の上に、やけに『内気』そうな十五センチほどの弾と同じ赤毛の少女が姿を現す。その身には白いワンピースを纏っていた。
「「あっ!」」と、マジメに驚く一夏と諒兵に、白虎とレオは軽くこめかみを押さえた。
一夏と諒兵は、とりあえず自分たちの白虎とレオについて説明した。
「つまり、そいつらはお前らのISってわけか?」
『正確には人と会話するためのインターフェイスです』
『声だけだと認識してくれないこともあるからね、イチカとリョウヘイにそれぞれ作ってもらったのっ♪』
「「決して俺たちの趣味じゃないからな」」
とっても重要なことなので二人で力説する。
ここを誤解されると、生きていける自信がないのである。
「じゃあ、俺の肩にいるのも……」
「そうなんだろうな」
むしろ、どう考えても白虎やレオと同じIS、正確にいえばAS進化を果たしたISである。
「てかよ、いつISに乗ったんだ、お前?」
「いや、覚えがない。ISに乗れたら騒ぎになるだろ?」
現状、男性でISに乗れるのは一夏と諒兵だけなのだから、三人目が本当に現れればニュースになるはずだ。
まして使徒が暴れている現状、大ニュースになってもおかしくない。
一夏と諒兵は使徒との戦争で最前線で戦っているからだ。
弾が乗れたというニュースがあれば、期待されないはずがなかった。
「そういや首輪してねえな」
「首輪?」
諒兵の言葉に何のことだと首を傾げる弾に、一夏が説明する。
「進化したISの待機形態は首輪になるんだって蛮兄がいってたんだ」
ゆえに、それが一番の疑問である。
一夏と諒兵の目に映る『内気』そうな少女っぽい何かは間違いなくASだが、弾は首輪をしていないのだ。それが普通ではありえない。
はっきり存在が見え、声まで聞こえながら、進化していないということになるのだから。
「乗れなかったにしても、何か心当たりはねえのかよ?」
「……そういや、離反だったか。あの日に流れ星がぶつかってきた」
弾曰く、ディアマンテによるIS離反が起こされたあの日、外を歩いていていきなり流れ星がぶつかってきたという。
次の日から幻聴が聞こえるようになったというのだ。
『ていうか、全然話さないね、その子』
『少しその方に触れてもかまいませんか、ダン?』
「あ、ああ。いいけど」
弾がそう答えると、レオが触れようと近づくが、少女っぽい何かはすぐに引っ込んでしまう。
「レオ?」
『個性を探ろうと思ったんですけど、探るまでもありませんね』
「なんなんだ?」
『この方は『内気』です。おそらく、今のところはダンとしか話さないのでしょう』
兵器とは思えない個性に、さすがに一夏と諒兵も呆れてしまう。
まあ、どんな個性になるかはどうやら運らしいので、こんなISコアもいるのだろうと思うが、この少女っぽい何かはそれ以上に大きな問題を抱えていた。
「何かあるのかよ?」と、諒兵が問いかけると、レオはとんでもないことをいってきた。
『この方には身体がありません』
「何?」
『おそらくはコアのみが、ダンと融合しているんです』
「何だってっ?」と、一夏は思わず声を上げた。
要するに、一夏や諒兵のようにASを装着することが弾にはできない。
この少女っぽい何かには身体となるパーツがないからだ。
そのために弾には首輪もない。
ただ、変わりになるものは何かあるはずだとレオは言う。
「これか?」
そういって見せてきたのは、首の付け根、のどのあたりに盛り上がる小さな輪だった。
よく見るとほのかに光を放っている。
『これがこの子だよ、きっと。融合進化してるみたい』
「おいっ、大丈夫なのかっ?」と、白虎の言葉を聞いた一夏が叫ぶ。
かつてナターシャとゴスペルのとき、まったく別種のものになるといわれた融合進化。
弾がそうなるなど、一夏も諒兵も認められなかった。
『この場合、融合より寄生というのが一番近いでしょう。ただ、ダンにもこの方にも影響はありません。この状態で安定してしまってます』
どういう理由かは知らないが、コアだけが飛んできて弾に寄生しているのである。
ただ、別にそれで変化するわけではなく、弾は人間のまま、このISコアを抱え込んでしまったということだ。
とはいえ、普通の人間のままというわけにはいかない。
「どうなるんだよっ?」と、諒兵も叫ぶ。
『ダンはリョウヘイやイチカのように装着しなくてもエンジェル・ハイロゥを頭上に発現できるはずです。いわゆる超能力者ということになりますね』
まさかそういった進化があり得るとは思わず、一夏も諒兵も驚いてしまう。
しかし、間違いなく生身でエンジェル・ハイロゥの力を使えるようになっているとレオは説明する。
ただ一夏と白虎、諒兵とレオのように鎧となる部分を持たないため、肉体の耐久力は人並みだ。
とてもではないが覚醒ISとは戦えないだろう。
「俺、超能力なんて使えないぞ?」
『ダン、この子に名前付けてあげたの?』
「名前?」と、首を傾げる。
もともと幽霊か何かだと思っていたのだから、名前など付けるはずがない。
だが、だからこのコアは力を発揮できないのだと白虎が説明する。
名前は存在を確立するものだからだ。
ある意味では、この少女っぽい何かは、確かに幽霊みたいなもので、存在が確立されていないのである。
「白虎やレオって名前は、お前らがつけたのか?」
「ああ」
「ま、打鉄じゃかわいそうだしな」
だから、それぞれの存在を示す名前をつけたのだ。
これは正確にいえば、ISコアという一つの種族に対し、それぞれ個体を示す名前をつけるということになる。
それによって、それぞれの存在を確立することができるのである。
「つうか、どういうものなんだ、こいつ?」
「天使みたいなものだって蛮兄はいってた」
そう一夏が説明すると、弾は思案し始める。名前をつけてやろうというのだろう。
「天使っつうと、なんとかエルとかそんな感じか」
「安直過ぎねえか?」と、諒兵。
「うるせえ。お前のレオだってまんまだろ」
そこまでいって、どうせ安直といわれようが、天使みたいなものならと考えた弾はあっさりと名前を決めた。
「お前の名前は『エル』だ。どうだ?」
弾がそう名づけると、再び現れた少女っぽい何か、『エル』は、背中に背びれを生やした姿に変化した。
そしてエルは『内気』そうに、でもしっかりと微笑む。
『嬉しい。ありがとう、にぃに♪』
カチンっと、空気が凍りついた。
「「にぃに?」」
「こいつ俺のことそう呼ぶんだよっ!」
そういってバッと顔を覆う弾。
さすがに相当恥ずかしいらしいが、一夏や諒兵としてはいい仲間ができたと微笑む。
「お前らッ、その生暖かい眼差しはやめろッ!」
もとい、地獄への道連れができたという邪悪な笑顔だった。
とりあえず、弾を道連れに、もとい落ち着かせることができたと判断した一夏と諒兵は息をついた。
「しかし、何で最初から画像があったんだろう?」
と、一夏が首を捻る。
天狼が持ってこない限り、おかしな趣味の姿になることなどないはずだからだ。
しかし、エルはあっさりと答えてきた。
『少し前、テンロウが持って来てくれた』
「「知ってやがったのか、あの野郎」」
思わず声が揃ってしまう一夏と諒兵だった。
無駄に仕事の速い傍迷惑な存在である。
どうやら、先のディアマンテのIS学園襲来後に来たときに、弾のことにも気づいたらしい。
「なんだよ、テンロウって」
「天の狼って書く兄貴のASだ。一応最初のASってことになるらしいぜ」
「蛮兄のか?」
「ああ。白虎とレオの画像も持ってきた」
本人はいいことをしたつもりなのだろうが、一夏や諒兵、弾にしてみれば迷惑なことこの上なかった。
「そういや、蛮兄で思いだしたが、数馬が今、兵器かなんかの開発のアシスタントしてるらしいぞ」
「そうだったのかよ」
弾もいっぱいいっぱいの状況だったので、詳しくは知らないというが、数馬はわざわざ渡仏したという。
「使徒だったな。連中との戦いでお前らの力になりたいとかいってたぞ」
「マジかよ。数馬のやつ、変な気い遣いやがって」
「そういうなよ、諒兵。感謝しよう」
そういって照れくさそうにする諒兵に、一夏は笑いかける。
自分たちのためにがんばってくれる人がいるというのは素直に嬉しいものだ。
だからこそ、負けたくないと思える。
とはいえ、弾にしてみれば、今後のことのほうが問題だった。
「俺もこうなっちまったら、IS学園に行くしかないのか?」
『検査は受けたほうがいいですね。それに力を使ったところを見られたら拉致されかねませんよ』
『隠すより正直にいったほうがいいよ、ダン』と、レオや白虎が助言してくる。
今の弾は一夏や諒兵よりも希少価値の高い存在だ。身柄を確保しようとするものも出てくるだろう。
ならば、保護を願い出たほうが無難である。
「どうせなら一緒に行こうぜ」
「まず見てもらったほうがいいかもしれないしな」
そういって誘う二人に、弾は仕方なく従ったのだった。
IS学園に連れられてきた弾とエルの姿を見て、千冬はいきなり頭を抱えた。
「何でよりによってお前なんだ……」
「俺だってこんなことになるとは……」
そういってうなだれる弾だが、そんな彼を束が興味深そうに、周囲をぐるぐる回りながら検分している。
「なるほどねー、この子行方不明だったんだけど、コアだけで寄生してたんだ」
「行方不明?」と一夏が首を傾げる。
「コア・ネットワークから探すと反応が薄かったの。どうしたのかなと思ってたんだけど」
破壊されたのかと束としては心配していたらしい。
まさか人間の肉体に寄生しているとは想像していなかったそうだが。
さらに別の声というか元凶が語る。
『肉体の強度を考えると覚醒ISとは戦えませんからねえ』
それで天狼としては、パートナーである弾と話ができればいいだろうくらいに思ったらしい。
なお、天狼は呼ばれてきたのではなく、いまだにフランスに帰っていなかった。
というか、開発の邪魔になるといわれたので、しばらくこっちにいるつもりだという。
無論、本体は丈太郎の首に巻きついているので、戻ろうと思えば一瞬だが。
それはともかく。
「無駄に仕事がはええんだよ」
「報告してくれてもよかっただろ?」
思わず突っ込んでしまう一夏と諒兵である。
無駄に仕事が速いわりには肝心なところで仕事をしないのが天狼だった。
「しっかし驚いたわ。コア単体で寄生できちゃうのね」
『あちしも驚いたのニャ。こんニャ子がいるニャんて』
と、肩に乗せた猫鈴とともに鈴音が感心していた。
「俺はまさか鈴まで同じだとは思わなかったぞ」
「共生進化は、今の私たちにしてみれば目標なのよ。あんたみたいになるわけじゃないわ」
「能力を得ても戦えないのでは意味がないのでな」
そういったラウラに、鈴音も同意する。
無論のこと、まったく戦えないというわけではないが、弾は生身のままなので、兵器である覚醒ISとは勝負にならない。
せいぜい、遠距離からの後方支援くらいだろう。
千冬や一夏や諒兵にしてみれば、そんなことをさせるつもりはないのだが。
「ふむふむ。ディアマンテがやった覚醒に巻き込まれてコアだけで飛んじゃったんだね。それで自分の相手を見つけて寄生しちゃったんだ」
と、他の者たちの会話を無視して、束はエルを見ながらいろいろと考察していた。
そんな束に対して、エルはどこか怯えている様子だ。
「この現象、しっかり調査しないといけないから、しばらくIS学園で暮らせないかな?」
と、束は視線を千冬に向ける。
実際、弾と同じような状態の人間が他にいないとも限らないのだ。
その点を考えても、弾の身体は調べる必要がある。
また、エルの反応が白虎やレオ、猫鈴に比べて薄かったのはそういった人間同士で別のネットワークを構築している可能性もあるからだいう。
「お前の学校は休学中か?」
「いや、引きこもってた」
「なにやってんのあんた……」と、さすがに鈴音が呆れてしまう。
とはいえ弾にしてみれば、こんなのがくっついたまま学校には行けなかったのだ。
「仕方ない、こちらから手続きして休学、しばらくIS学園でお前の身体を検査する」
「マジかよー」
「文句をいうな。少なくとも同類がいるのだから、気は楽だろう」
そういわれると反論できなかった。
この状態で一人で放り出されるよりはマシな対応をされているのだ。
そんなわけで、弾はIS学園生ではないが、検査という名目でしばらくIS学園で暮らすことになったのだった。
閑話「三馬鹿HENTAIトリオ」
弾がしばらくIS学園で暮らすということになり、一夏、諒兵も付き合って五反田家に荷物を取りに戻ったときのこと。
「どういうことよっ、お兄ちゃんっ!」
「いや、俺としても行きたくて行くわけじゃない」
検査をしなければならないのだから、病院にいくようなものである。
女の園とはいっても、今は休学中でほとんど生徒がいない。
ぶっちゃけいうと、行っても面白みがないのだ。
「こいつについて調べてもらわないとどうしようもないし」
と、肩に乗って弾の頭にしがみついている『エル』を指す。
一応ISコアの一形態ではあるため、とりあえず隠す必要がなくなったのはありがたいが、あまり見せびらかしたいものではなかった。
「一夏さんのいる場所に先にお兄ちゃんが行くなんて……」
「しょうがねえだろうよ」
「むうぅーっ!」と、諒兵の言葉に頬を膨らませる蘭。
彼女としては一夏のいるIS学園に行くということが一番不満だった。
自分は入学するとしても来年まで待たなくてはならないのに、弾は事情があるとはいえ今から行く。
ゆえに不満が爆発してしまったのだ。
とはいっても、弾とエルはこのままにしておくわけにはいかないのだ。
「このままじゃ弾は不審者だしな」と、一夏は苦笑する。
確かに肩にフィギュアのような少女を乗せた男など怪しすぎる。
同じ悩みを持つだけに、一夏や諒兵は弾の味方だ。
「行ったってどうせモテないんだからっ、肩に変な女の子乗せたHENTAI男なんてっ!」
その一言は、弾のみならず、一夏や諒兵の胸も抉った。
「あれ?」
三人揃って膝を抱える姿がそこにはあった。
「もう、俺たち、ダメなのかな……」
「さすがに生きてく気力がなくなるぜ……」
「はは、エルは可愛いなあ、こんちくしょう……」
哀愁を背負った男たちの背中は妙に涙を誘っていた。